私は逃げます

恵葉

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これからの事…その始まり

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公爵様から話があると、アルと私が言われたのは、間もなくの事でした。
「スチュアート家が引き下がった今、アルとマリーナ嬢の婚約を推し進める事は可能と言えば可能になったのだが…問題は今回の事件の事だ…。」
公爵様が言った。
どうやら今回の事件について、何故か思った以上の詳細が貴族社会に出回っているようでした。
私が脱出した際に、ボロボロだった事も知れ渡っているらしい。
ボロボロと言っても、露出したのは背中の一部と脚くらいなんだけどね…。
まあ…背中はハッキリ言って、そのくらいの露出度のドレスは、もう少し大人になれば、普通にあるわけですが。
脚がね…何が不思議って、脚はあまり露出しないのよね…。
それでもやっぱり貴族令嬢が攫われ、脱出した際にはボロボロだったというのは、十分、醜聞になるわけなのです。
だってね、“ボロボロ”って、色々想像出来ちゃうじゃないですか。
当然、身体も色々傷つけられちゃったの?という想像も出来てしまうわけです。

世知辛いですね~被害者なのに更に醜聞に晒されるわけですよ。
あ、でもあれですね、前世のネットとかのセカンドレ※プみたいなものですね。
まあでも私としては、これによって私の価値観は下がったわけです。
婚約話は激減するはず!…そう思っていました。

しかし…。
「マリーナ嬢、世の中そう簡単にはいかないよ…。
マスターソン家としては、醜聞のある君とアルフレッドを現時点で婚約させるわけにはいかなくなったわけだが…、君の実家はどうだろうね…。
醜聞のある君でも良いという家に嫁がせようと考えるかもしれない。
そうなった場合、そういう家は…あまり…良い条件の家とは言えなくなると思うよ…。」
…公爵様の発言に、私は固まりました…言われてみればその通りだ…。
「何とかならないのですか?!父上!」
「アルフレッド…お前についても問題はある。
お前が今回の事件をレイモンド君と一緒に解決したことも貴族社会には知れ渡っているのだが、お前たちがマリーナ嬢と懇意だった事も知れ渡っている…。
醜聞のある令嬢と懇意だったと知れ渡ってしまっているんだ…。
事実はマリーナ嬢やレイモンド君は被害者であり、お前たちは加害者を捕まえたわけで、非難される筋合いはないのだが、我が家を追い落とそうと考えるものたちは、自分たちに都合の良いように話は流すわけだ。」
あぁ…ホント嫌だねぇ…貴族社会。
前世の世界も、必ずしも良い世界だったのかと言われると、分からないけど、でもこの世界もね…。

「そこで考えたのだが…アルフレッド…お前は隣国へ留学しないか?
この国では、専門的な学校があるのみで、貴族の大半は家庭教師から学ぶ。
しかし隣国は学校制度が確立されていて、6歳から11歳で初等教育、12歳以上は中等教育を3年間、15歳から専門教育となる。
初等教育は平民も貴族も義務だが、中等教育は義務ではなく。
ただし専門教育へ進むには、中等教育の終了証が必要である。
留学生の場合、学力試験を受け、編入となる。」
「中等教育終了とみなされた場合、俺は専門教育は…何の専門教育となるのでしょう?」
「それはこれから早急にお前の希望も聞いた上で考えよう…。」

「そしてマリーナ嬢だが…確かに君の能力はそのまま埋もれさせてしまうには勿体ない。
君の父上に相談した上でとなるが…君もアルフレッドとともに留学してはどうだろう。
可能であれば隣国の侯爵家へ嫁いでいる私の妹の家の養女になれればと思っているのだが…。
まあそれには色々対処しなければならない事もあるので、動く前に君の意志を確認しようかと。」
「隣国への留学は、出来ればそれこそありがたいです。
養子の話は…相手の方にお会いしてみない事には何とも…。」
「心配しているのは何かな?」
「私は…私の意志を聞いてはくれない家で育ちました。
貴族というのは、家のためにという事は分かっています。
特に嫡男以外は、所詮は手駒というのも分かっています。
分かっていますが…私は完全に家の言うなりになるのは嫌なのです…。
なので公爵様の仰る家の方々が、少しでも私の気持ちとか聞いてくださる方々なのであれば、喜んでお受けしたいと思うのですが…。」
「少なくとも…いや、確実に君の実家よりは良いと思うよ…。」
ここで受けて、それが叶えば、実家からは逃げられることになる…実家からの縛りは無くなるから。
でも!完全に自由になれるわけではない。
実家の手駒から隣国の侯爵家の手駒になるだけではある。
ただし、隣国の侯爵家は、背後にマスターソン公爵家もいる。
少なくともアルフレッドや、現当主の公爵様は、私の実家のように私を利用しようとしたりはしない…今のところは。
「一つお聞きして宜しいですか?」
「何だね?」
「どうしてそこまでしてくださるのですか?」
「…一つには、君の能力を買っているからだね…。
その能力の高さ故に、良い関係を築きたいと思っている。同時に敵に回したくはない。
まあ…それに加えて情だろうね…我が家には娘は居ないのだが、アルフレッドが君を連れてきた。
この別邸に滞在してもらう事になり、私はこの別邸で暮らしては居なくても、毎週、報告は受けていたんだよ。
君の色々な話を聞いているうちに、まるで娘のように思い始めてね。
本当は妻は、君を本邸に呼び寄せたがっていたんだ…娘が欲しかったからね。
アルフレッドに叱られて、出来なかったけど。
まあだから君がこの先、どんな風になっていくのか、きっと活躍するだろうという期待もあり、そんな君の姿を少しでも近くで見たいというのも大きな理由だね…。」
それが本当なのであれば、私の実の家族よりも、余程家族っぽいかもしれない。
今の私では、私だけの力で自由になる事は難しい。
だったら、公爵様を信じてみても良いかもしれない…。

「わかりました…是非、お願いしたいところです。」
「まあ留学はかなり何とか出来ると思うが、養女については、君の実家次第にもなるので、何とも言えないが。
では留学と養女の話は進めて良いね?」
「はい。宜しくお願い致します。」
「マリーナ嬢、君は色々決まるまでは、このままこの別邸に滞在しなさい。
しかしアルフレッド、お前はこのままここに滞在するわけにはいかない。
レイモンド君が去ってしまった以上、そうはいっても未婚の男女が同じ邸に住んでいるのは外聞が悪い。
アルフレッドが会いに来るのは良いが、基本、夜は本邸に戻りなさい。」
「バーバラ先生には、今後、マリーナ嬢の教育は、留学を踏まえる様に伝えておくよ。」
取り敢えず今後の方向については、相談が出来た。

先ずはバーバラ先生に、留学に必要な基礎的な事を教えてもらおう…。

翌日から私は、再びバーバラ先生の授業に時間を費やすようになりました。
「マリーナさん、大変だったみたいね?」
「ホント、大変でした…。でもバーバラ先生の教えがかなり役に立ちました!
まわし蹴りは有効でした!」
「そうでしょ?!回転を加える事によって、ただ蹴るよりも、力が加わるから、小柄なあなたには有効なのよ。
欠点はまわっている間、隙が出来る事ね。
だから能力の高い相手にはお勧めしないわ!」
「先生の教え通り、飛び蹴りは封印していましたが、飛び蹴りがダメな理由は何ですか?」
「隙が出来る上に、その蹴りを避けられたり、最悪、そのまま足を掴まれた場合、寧ろこちらにとって不味い状況になるからね。」
「あ!それに先生に教わっていた狙うべきところも参考になりました!
そうそう!薬とか盛られていた場合に見破るのも媚薬を盛られた時に、参考になりました!」
「教えておいて良かったわ!でも今回は、留学のための勉強よね?」
私は先生のチェックにより、初等教育課程の勉強は不要という事で、中等教育課程を学ぶことになりました。
初等教育は、読み書きと、簡単な算数…前世で言うところの足し算引き算でした。
あぁ…読み書きは普通に出来る…そして算数は…得意だわ…。
年齢的に、来年、12歳になるので、そのタイミングで中等教育課程へ留学するのが一番です。
でも勉強をという事は、場合によっては途中の学年に編入になるのだろうか?
まあとにかく私が今、出来ることは勉強することだけ…頑張ろう。


二週間近く過ぎようという頃、公爵様がいらっしゃいました。
この別邸からは、レイが去るのと一緒に、スチュアート家から来ていた侍女や使用人の皆様も、スチュアート家へ引き上げていったので、随分静かになっていました。
「現状報告をしておこうと思う。
まず、君の父親…伯爵は君の留学および養女の件、承諾したよ。
ただ…このタイミングで王宮から君宛に茶会の招待状が届いた…。」
「え?!何故に王宮?!」
「まず、君たちを留学させるためには、貴族の場合は国へ届け出なくてはならない。
君を養女にという件については、君の父上には口留めしてるし、それは留学してから進めようと思っている。
その方が邪魔が入り辛いのでね。
しかしその留学の件で、何かを探りたいのかもしれない…。
一応、アルフレッドを同行できるように、掛けあっておいた。」
「…宜しくお願い致します…。
それにしても父がよく、すんなりと留学や養女の件を承諾の方向へ向きましたね。」
「あぁ…金だよ…君には正直に言っても問題ないと思うので、話しておくが。」
そう言って公爵様は話してくださいました。
私の実家へは、アンジェリカ様による加害という事で、スチュアート家から多額の賠償金が支払われるが、ミシェリーナとその兄のレッドウィング侯爵家からは恐らくほぼ支払われない。
家は断絶の上に、人身売買の被害者への賠償金もある。
その前に攫われて心身ともに傷つけられてしまった方々の治療費もある。
結果、私の実家に支払われるのはスチュアート家からの賠償金のみ。
それでもスチュアート家は、誠意をもって支払ったらしい。
とはいえ、私を助けたのもスチュアート家の令息二人、更にアルフレッド様と、公爵家の騎士たちなわけであり、私の実家は本来、公爵家へ謝礼を支払わなくてはならない。
公爵様は、その代わりに私を養女にというのと、その前段階の留学を承諾させたそうです。
しかも留学費用も公爵家で持ってくださると条件を出してくださったらしい。
あぁ…我が家は本当に私よりもお金なのだなと思い知ったけど…。

「君は隣国の侯爵家の養女になれば、傷物という事をある程度誤魔化せるようになる。
そして留学で更なる力と、そして実績を作れば、あの程度の傷は消せる。」
「私にとって、留学も養女も、大きなチャンスですね…。」
「そうだ…後は王宮から横やりが入らないように何とかしなくては。
王宮の茶会では、くれぐれも気を付けるように…。」

あぁ…また王宮へ行かなくてはいけないのか…傷物令嬢なんて呼んでどうするよ?
今回、洋服や準備は、全て公爵家でなさってくださるようなので、私がやる事は何もない。
当日までは頭を切り替えて、勉強しよう…。
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