私は逃げます

恵葉

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対決 中編

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最初に意識が戻ったのは、荷馬車か何かの中でした。土で汚れているっぽい木の床に寝かされ、それがガタガタ揺れて、その衝撃で朦朧としながらも意識が戻りました。
しかし後ろ手に縛られ、猿ぐつわを噛まされ、更にむしろか何かを被せられ、周囲は見えない状態でした。
何とか周囲の様子が見えないか、少し動いたのが運悪く、見付かってしまったようで、誰かが近付いてくるけはいがし、一瞬目の前が明るくなり、むしろが捲られたと思ったら、再び直ぐに何かを染みこませた布で口元を覆われ、意識が飛んでしまいました。
ただ、その瞬間、少しは抵抗したのですが、思うほど動けませんでした。

次に気が付いたのは、どこかの部屋の様でした。
ベッドに寝かされていました。
腹立たしい事に、スカートに仕込んでおいたレイピアと、髪に挿してあった一本軸の簪は、金属のは全部、無くなっていました。
ベストも脱がされておりました…気に入っていたのに!!!
残っていたのは木の一本軸の櫛が一本のみ、残っていました。
残っていたというよりも、それ一本だけ放り投げたように落ちていました。
「あぁ…凄く頑張って作ったんだけどなぁ…簪…。それに気に入っていたのに…。
でも…甘いよね…。」
私は簪の飾りのついた所を力を加えて回しました。
そしてスっと抜くと、簪の挿す方はまるで人形の刀の鞘のように中からやはりまるで人形の刀のような細いナイフが出てきました。
「まずは一本!う~ん…後は…服を脱がないとなのよね…。夜まで待つしかないかな…。」
一本だけ手にした武器は、長い髪をお団子のようにして、それを止めるために鞘に戻して挿しました。
武器を手に入れたので、次はこの場所を更に探る事にしました。
庶民の邸なのか、床は傷んだ板で剥きだし、壁とかも非常に飾り気のない粗末な壁でした。
ここが貴族や裕福な方が住む邸ではない?まあ使用人部屋の可能性はある。
部屋にはベッドと小さなテーブルと椅子があるだけ。
部屋には扉が二つあり、部屋の扉が何の扉か確認するために、そっとドアノブを回してみました。
すると、扉か外から強く蹴られ、「大人しくしてろ!殺すぞ!」と怒鳴られました。
うん、ここが出口だね…しかも今回は見張り付きですか…。
懲りずにそっともう一つの扉のドアノブを回してみました。
今度は怒鳴られなかったので、そっと開けると、もう一つはトイレでした。
テーブルには水差しとコップが置いてあり、部屋に窓はあるけど、雨戸が閉められ、打ち付けられているのか、開かず、外の様子も、ここがどこなのかも分かりません。
「この水って飲めるのかな…。」
水差しの水を少しだけコップに注ぎ、舐めてみました。
「無味無臭だね…。どうしようかな…。」
無味無臭…の媚薬は存在する。
毒薬は…無くはないとは思うけど、即効性のものであるだろうか…。
取り敢えず今の舐めたので様子を見て、暫くしたらまた様子を見ようかな…。

さて、食事は出てくるのかな?と言っても下手の食べるのもね…。
どうしたものだろう?
それに今回は簡単に逃げ出すわけにいかないんだよね…。
私を監禁している現行犯で捕まえてもらわなくてはいけないから。
取り敢えず何も出来ないし…「暇だな…。」…。
暇すぎて、登れるところに端から登ってみることにしました。
別に筋トレじゃないですよ。
おさるさんを目指しているわけでもありません。
ちょっと天井を突いて、開くところがないかなと探っているだけです。
先ずはベッドの上に椅子を置き…ベッドの上、マットレスではなくて、せんべい布団なので、布団をどけて、椅子を載せました。
ベッドの下に靴を脱ぎ、静かにそっとベッドの上に立ち、更に落ちないようにそっと椅子の上に乗りました。
そっと静かに立ち上がり、手を伸ばして天井を触ってみました。
「動かないかぁ…。」
更に椅子をずらして、また椅子の上に立ち、天井を触ってみた。
少しずつ移動しなら試し、最後の最後、ヒットしました!
部屋の端になるところ、天井も隅…天井の板が動いた!
そうだよね、前世の時代劇も、だいたい天井は隅が動くか、若しくは殿様が寝ている場所の真上だもんね…。
まあ良いや、後で天井から少しこの邸を散策してみよう…。

ベッドに寝転がって、ボーっとしているうちに、つい、眠ってしまいました。

外が賑やかになってきて、目が覚めました。
ベッドから身を起こし、ボーっとしていると、扉の外で、鎖をじゃらじゃらする音や、鍵を開ける音が聞こえてきました。
扉を見つめていると、ドアノブが周り、扉が開いた。
「気が付いたようだな…。」
「…え!?誰???…。」
どこかで見た事があるけど…誰だっけ?分からない男が入ってきた。
「ミシェリーナは失敗したみたいだけどな、俺はそう甘くはないからな…。」
「あ!ミシェリーナ様のお兄様?!」
「思い出したようだな…お前、俺の妹の邪魔をよくもやってくれたな!」
「仰っていることが良く分からないんですけど…。」
「はぁ!?お前、ふざけんなよ!妹が言ったんだよ!あの子の恋人をお前が奪ったってな!」
言っている意味が全然!分からない…。
何を言っているのか?っていうか恋人って誰よ?!あんなバカ女の恋人なんて、こちらからお断り何ですけど。
「さて、お前にはどんな仕置きをしようかな…。もうすぐ妹が来るから、来てから考えるかな…。
お前みたいなガキを喜ぶオヤジでも集めて、可愛がってもらうか?
それともいっそ、本当に売り飛ばすか?!遠くの国へ売り払えば、二度と帰ってこられなくなるしな。」
うわぁ!マジでヤバいです…。
妹の事が大好きだからって、妹と同じ歳の6つも年下の女の子を、オヤジどもに回させるとか、いっそ売り払うとか言っちゃうわけだ…。
有り得ないよね…それ、自分の妹が同じ目にあったら、どうするの?!
あ…でも前世でも居た!居たよ!そういえば!

まさしく6つ年上のお兄さんが居る、凄い我儘な子が近所に居て、その子がある日、突然私を呼びつけてきて。
しつこいから渋々行って「何?」って聞いたら、「今何しているの?」っていうから、「おままごと」って答えたら、その道具を全部持って来いと。
盗られるのも嫌だったし、一緒に遊ぶのも嫌だったから、是とも否とも答えずに、黙って帰ったんだよね。
そしたら数分後、お兄さんを連れて、私の家の庭…庭でおままごとをしていたので…まで乗り込んできて、何と!金属バットで小突かれたわ、私。
まだ6歳かそこらの時。
それで「一緒に遊ぶって言っておいて、何で来ねえんだ!」と。
いや私、一緒に遊ぶなんて約束していないし…。
そもそも一緒に遊ぼうって誘われてもいないし。
金属バットで小突かれた時、本当に怖かったなぁ…。
あの時と同じだ…いや、あの時より悪いよ…。
あの時はまだ本当に小さかったから、めちゃくちゃ怖かったけど、今はそれよりも多少はものが分かる歳になったし何なら中身だけなら23歳だけど、でも!今回は!貞操の危機どころの騒ぎじゃないわ!
レイと二人でだったら、最悪の場合でも相手はレイだから、良いけど…良いのか?…まあそれは置いといて、今回は!見知らぬ変態オヤジたちだよ!
マジで無理!無理!無理!!!仮に私が23歳でも無理だわ!

さて…どうするかな…ミシェリーナ様のお兄様は、俯いて何も言わない私に、出て行ってくれたから、取り敢えずミシェリーナ様が来るまでは大丈夫…多分…。
どうする?!私…。

出て行ったあと、更に武器が無いとダメだわって思いまして、ワンピースの襟開きの所の紐を解き、上半身を脱ぎ、コルセットを露にしました…まあまだ発展途上の胸も露になったけど。
コルセット、普通は背中がレースアップになっているのですが、私は前中心に来るようにしてあり、しかもそこにも少ししなるような金属の細いナイフが二本、仕込んであるのです。
それを取り出しました。
そしてすぐにまた服を着て、襟の所の紐を今度はキツク結わえました。
これで武器は3本…。
でも刺すための武器しかない。
3本では投げるわけにもいかない。
まあそれはともかく、どうする?!私…。
レイとアル、早く来てくれないかな?!
場所がまだ分からないのかな?!

取り敢えず時間稼ぎをした方が良いかな?!どこかへ隠れる?…ベッドの下?
それとも屋根裏?どうする???

そんな事を考えているうちに、再び外が騒がしくなってきました。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!もう来たの?!
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