33 / 55
追跡 後編
しおりを挟む
その日、私は、大姉さまの邸を訪ねました。
「マリーナ、久しぶり!今、公爵家別邸でお世話になっているのでしょ?
どうなの?婚約相手は決まった?」
「大姉さま…ご無沙汰しております。お時間を頂き、ありがとうございます。
婚約相手は…只今、調整中といったところでしょうか…。
所で大姉さま、ご相談したいことがありまして。」
「どうしたの?婚約相手の悩みかしら?」
「そう…ですね…というか、アルフレッド様かレイモンド様となってから、私の周囲であまり宜しくない事が起きておりまして…先日、私、攫われたのです…。」
「え?!大丈夫だったの?!攫われて、何事も無かったの?!すぐに助け出されたのかしら?」
大姉さまは、目を見開いて驚かれました。
うん、大姉さまは関わっていないという事ね…。
この人、やましいことがあったり、嘘をつくと、目を逸らすから…。
ここまで驚くのは本当に驚いているという顔ね…。
「自力で脱出はしたのですが、その後、帰るまでに時間が掛かりまして、探しに来てくれたアルフレッド様に見付けて頂きましたが。」
「あぁ…あなた小さい頃からおサルさんみたいだったものね…。
うちの子も大事にするだけではなくて、いざという時のために、少しは鍛えておいた方が良いのかしら…。
でもおサルさんになっても困るのよね…。」
大姉さまは私の事はそっちのけでブツブツ言い始めました…おサルさん…可愛くて良いじゃないですかって突っ込みたいけど止めておきました、今はその話じゃない。
「大姉さま…アルフレッド様とレイモンド様はその事をご存じでして、そしてその二人は関与していないと言えるのですが、でも二人のどちらかに関する人という可能性はありまして。
例えばアルフレッド様を強くお慕いしている方が、アルフレッド様と婚約するのを阻止したりとか、若しくはその逆とか…。
それで大姉さま…大姉さまはとても広い交友関係をお持ちですよね。
夜会や茶会などで、私やアルフレッド様、レイモンド様についての話を聞いたことが無いかなと思いまして。」
「あら!アルフレッド様をお慕いしている筆頭はレイモンド様の妹さんでしょ?有名よ?」
「大姉さまから見て、彼女はそのために私を攫うとかやりそうな方ですか?」
「ん…一人ではやらないわね…あれは誰かにやらせるタイプ。
それと彼女がやるなら、きっと誰かと組んでいるわね。
そうね…そういう意味ではアルフレッド様やレイモンド様を慕っている人をあたるのは正解かもね?
分かったわ、暫く探ってあげる…。
それとあなた、今週末の茶会に来なさいよ…何ならアルフレッド様とレイモンド様も連れて。
仲良く三人で来て、その上であなたが単独行動をしたら、茶会の参加者の中に、敵がいるなら、再び動くんじゃない?
週末、我が家で茶会だから、警備については使用人たちにあなたから目を離さないように言っておくわよ?」
確かにこちらから罠を仕掛けるのも一つかもしれない。
まあアルやレイに話したら、反対されるとは思うので、何とか他の理由を付けて、最低でもどちらか片方だけでも連れて来よう…。
本当は大姉さまに、あまり借りを作りたくなかったのですが、大姉さまが顔が広いのも事実なので、今回は、渋々頼み、大姉さまの邸を後にしました。
それとは別に、レイは実家で、妹さんの様子を良く見ながら、さりげなく探りを入れたりしていたそうです。
「あら、お兄様、また帰っていらしているの?そんなでは、アルフレッド様に出し抜かれますわよ。」
「あの二人、見ていると本当に仲が良くて…私は最近、諦めるべきかとさえ思い始めているんだ…。」
「駄目ですわ!そんな簡単に諦めては!お兄様、マリーナ様をデートにお誘いしたり、二人きりで出掛けたりとか、ちゃんとなさっているのですか?!
後は二人でご旅行へ出掛けられては如何ですか?演劇鑑賞なんていかがでしょう?もちろん、ボックス席で!
誰も邪魔の入らないボックス席で、二人きりでロマンチックな劇でも見れば、そんな雰囲気になるかもしれませんよ。」
「そ…そんな雰囲気って…。」
「お兄様、相手を仕留めようと考えるのであれば、先ずはとにかく二人きりになる機会を作る!
そしてそっと抱きしめたり、キスしたり…とにかく押しまくるのです!!!」
「押しまくるって…アンジェリカ、今、歳は幾つだっけ?」
「14歳です…アルフレッド様と丁度良くつり合いが取れると思うのですが…。」
「君、アルフレッドの事が好きなの?」
「はぁ…お兄様…考えてもみてください。
どうせ嫁に行くなら、条件の良い相手の方が良いに決まってます!
そしてアルフレッド様はお顔立ちも良く、しかも公爵家ですよ!性格も悪くなさそうですし…。
あ、お兄様、今度、私を公爵家別邸へ連れて行ってくださいませんか?
アルフレッド様がご在宅の時に。
アルフレッド様を狙う同年代女性は多いのです。
少しでもチャンスを得るためには、お兄様の協力が必須なのです!
何でしたら私、お兄様がマリーナ場を捕まえるお手伝い、致しますよ?
アンドリューもあの子を気に入っているようですけど…でもアンドリューでは無理そうですしね。」
「アンジェリカ…マリーナはまだ11歳だよ?そんな押しまくるとか罠にかけるような何かとか、そういう歳ではないんだよ?」
「…お兄様…甘いですわね…。女の子は10歳を過ぎれば、早い子は嫁ぎます。
嫁ぐからには多少でも閨教育も受けます。
11歳、12歳になれば、キスくらいは別に…13歳とか14歳、15歳になれば、それこそ早い子は子を生すような行為にも足を突っ込む子はそれなりに居ますわ!」
「いやでも!マリーナだよ?!」
「…まあ…確かにあの子は、まるでおさるさんの様というか、アンドリューよりも男の子のようですわね…。
だからこそ!お兄様が導いてあげるべきでは?!」
「アンジェリカ…君…怖いよ…。」
「まあ!失礼な!お兄様があの子を落としてくれないと、私にアルフレッド様との未来がやってこないのよ!」
「いや…アルフレッドは、君みたいなタイプは、無理だと思うよ…。」
「…いざとなれば…。」
「君…どうしちゃったの?そんな子だった?」
その後は話題を変え、アンジェリカが最近、どこのご令嬢と親しいのかを探る事に徹した。
類は友を呼ぶのか、アンジェリカが親しくしているご令嬢は、気の強い子たちばかりだった。
気になったのは、皆、同じ歳のご令嬢ばかりなのに、一人だけアンドリューと同じ歳のご令嬢が居た。
しかもその子は、確か、前にマリーナを後ろから突き飛ばしたとかいう子ではなかったかなと…。
アルとリーナに相談したいので、近々また公爵家別邸へ戻ろうと思う…。
その頃、アルフレッドは再びあの湖の街から、二人が監禁されていた邸のある街にかけて、あの邸についての聞き込みを行っていた。
スチュアート家があの別荘を研究者に売り、更に流れて辿り着いたのは、現所有者はレッドウィング侯爵家という事がわかった。
しかし街の人々が言うには、たまに誰かが来ている様子はあるのだが、レッドウィング家が購入して以降、あの建物に所有者らしき人が来ているのは、殆ど見掛けないのだそうだ。
一度だけ貴族のご令嬢数人が、使用人を連れて、来ているのを見たというものがあった。
それを見掛けたのは、あの建物から最も近い場所にある公園を管理している高齢の夫婦だったのだが。
不思議に思ったのは、あの邸の所有者が変わったと街の人々の噂で知り、長い間使われもせずに放置されていた建物も、ようやく掃除されたり修繕されたりして、使われるようになるだろうと思っていたら、そんな掃除とか修繕された様子もないうちに、そのご令嬢たち数名を乗せた馬車が、その建物に続く道を走っていくのを見たのだという。
どう見ても良い所のお嬢様ばかりで、あんな子たちが掃除をするのかと思ったのだそうだ。
使用人らしき人たちを乗せた馬車や、荷物を積んだ馬車も続いていたので、掃除をするのは使用人かなと思いながらも、だったら綺麗になってからお嬢様たちが来れば良いのにと不思議に思っていたとか。
しかも彼女たちは、数人の使用人を残し、夕方にはそこを立ち去ってしまったそうだ。
更に数日後には、残っていた使用人たちもその邸を去り、人の居そうな気配はあるものの、近付いて覗くわけにもいかず、そのままらしい。
その人の居る気配も、更に数日後、何かあったのか、少し騒がしいと思っていたら、再び全く人の居ない様子になったとか。
山の中で、しかも誰も居ない邸は、野盗とか怪しい人間たちが入り込む事もあるので、出来れば管理人くらいは置いて欲しいなとは思っていて、近々、申し入れをしようかと、街の人々と相談していたらしい。
そこから考えられるのは、レイとリーナが監禁されていたのは、恐らくその残された使用人たちが去る直前か、去った後だろう。
その後の人の居る気配というのが、監禁されていた期間で、見張りと世話をする少数の者だけが居たのだろう。
少し騒がしくなった時が、二人が脱走をした時ではないかと思われる。
二人がどこかへ訴えて、監視役などが捕まったら、監禁していた貴族まで捕まる可能性もあり、慌てて邸から去ったのだろう。
後はその最初に来ていた貴族のご令嬢数人…馬車は4人乗りで、窓からチラッと見えた、少なくとも二人はご令嬢っぽくて、最低でも3人は乗っていたらしい。
4人目が居たかどうかまでは分からないと。
一人はレッドウィング家のご令嬢だろうと考え、残りが誰なのかを探れば、犯人はそのご令嬢方で間違いは無いのではと思う。
その夜、公爵家別邸には、久しぶりに三人が揃った。
「ごめんなさい、私はまだ情報というほどのものは得られていなくて…。
大姉さまを頼ってみたんだけど、今のところ、アルを凄く慕っているのはアンジェリカ様以外にも居るけど、それでもアンジェリカ様が最もと有名だとまで大姉さまに言われてしまって。
それで大姉さまから、この週末に、大姉さまの嫁いでいる伯爵家で茶会があるから、そこにアルとレイを伴って参加してみてはと言われました。
二人を連れて参加した上で、二人から離れて隙を作ったように見せかけて、罠を張ってはと。
一応、大姉さまは、使用人の皆様に私から目を離さないようにとか、警備を増やしたりしてくれるって言っていたけど…。」
「私はアンジェリカに色々話を聞いてみたんだけど…正直言って黒に近い印象を持ったよ…情けないんだけど。
今のアンジェリカだったら、少々過激な事も、やりかねないという思考だった…。
一番仲が良いのは、ミシェリーナという、アンドリューと同じ歳の子だって言っていたけど。
アンドリューと同じ歳という事は、リーナとも同じ歳って事だよね?
リーナはそのミシェリーナという子、知っている?」
「親しいわけではないですけど…知っています…。
彼女は私の事を嫌いだと思います…。」
「え!?何で?嫌うほど接点のある子なの?」
「アンジェリカ様から伺っているかもしれないですが、彼女はアンドリュー様をお慕いしているようなのです。」
そして私は、元々はスチュアート家から私への婚約の申し入れって、アンドリュー様が言い出していたのではないかと改めて確認し、ミシェリーナ様は、それを快く思っていなかったこと。
でも決定的に嫌われたのは、ミシェリーナ様が姉の様に慕っている方が私の遠縁で。
その遠縁の方が私の事をとても可愛がってくださっていて…その方と私が一緒に居る時に、ミシェリーナ様に遭遇したこと。
ミシェリーナ様は私から彼女を奪おうというか、引き離そうとしたが、彼女は私を優先してしまい、私は更にミシェリーナ様から睨まれた事。
以来、ミシェリーナ様に遭遇すると、周囲に誰も居なければ、かなりの確率で嫌がらせを受けるようになった事を話しました。
「でも…そうですか…ミシェリーナ様がアンジェリカ様と繋がっているのですか…。」
「うわぁ…男を争ってでも怖いのに、姉のように慕う友達?をも争ってって…女性って怖いね…。」
アルがドン引きして言いました。
うん、引くよね…。
「そういえば…ミシェリーナ様の家名は、レッドウィング侯爵家です…。」
私は思い出して言いました。
「それは…アンジェリカとミシェリーナ嬢はほぼ黒だね…。
我が妹ながら情けない…。
しかも媚薬まで盛るとか、有り得ないだろ!!!実の兄に、女性をそれもまだ11歳の子を襲わせようとするとか、何を考えているのか!!!」
レイは相当怒っているようでした。
まあ…結果的に媚薬を盛られたのはレイだったし…。
「でも現時点では、証拠が無いのと、その二人だけの仕業なのか、他にも居るのかが分からないんだよね…。」
「ここはやっぱり大姉さまの言うように、罠を張ってみる?」
「マリーナ、久しぶり!今、公爵家別邸でお世話になっているのでしょ?
どうなの?婚約相手は決まった?」
「大姉さま…ご無沙汰しております。お時間を頂き、ありがとうございます。
婚約相手は…只今、調整中といったところでしょうか…。
所で大姉さま、ご相談したいことがありまして。」
「どうしたの?婚約相手の悩みかしら?」
「そう…ですね…というか、アルフレッド様かレイモンド様となってから、私の周囲であまり宜しくない事が起きておりまして…先日、私、攫われたのです…。」
「え?!大丈夫だったの?!攫われて、何事も無かったの?!すぐに助け出されたのかしら?」
大姉さまは、目を見開いて驚かれました。
うん、大姉さまは関わっていないという事ね…。
この人、やましいことがあったり、嘘をつくと、目を逸らすから…。
ここまで驚くのは本当に驚いているという顔ね…。
「自力で脱出はしたのですが、その後、帰るまでに時間が掛かりまして、探しに来てくれたアルフレッド様に見付けて頂きましたが。」
「あぁ…あなた小さい頃からおサルさんみたいだったものね…。
うちの子も大事にするだけではなくて、いざという時のために、少しは鍛えておいた方が良いのかしら…。
でもおサルさんになっても困るのよね…。」
大姉さまは私の事はそっちのけでブツブツ言い始めました…おサルさん…可愛くて良いじゃないですかって突っ込みたいけど止めておきました、今はその話じゃない。
「大姉さま…アルフレッド様とレイモンド様はその事をご存じでして、そしてその二人は関与していないと言えるのですが、でも二人のどちらかに関する人という可能性はありまして。
例えばアルフレッド様を強くお慕いしている方が、アルフレッド様と婚約するのを阻止したりとか、若しくはその逆とか…。
それで大姉さま…大姉さまはとても広い交友関係をお持ちですよね。
夜会や茶会などで、私やアルフレッド様、レイモンド様についての話を聞いたことが無いかなと思いまして。」
「あら!アルフレッド様をお慕いしている筆頭はレイモンド様の妹さんでしょ?有名よ?」
「大姉さまから見て、彼女はそのために私を攫うとかやりそうな方ですか?」
「ん…一人ではやらないわね…あれは誰かにやらせるタイプ。
それと彼女がやるなら、きっと誰かと組んでいるわね。
そうね…そういう意味ではアルフレッド様やレイモンド様を慕っている人をあたるのは正解かもね?
分かったわ、暫く探ってあげる…。
それとあなた、今週末の茶会に来なさいよ…何ならアルフレッド様とレイモンド様も連れて。
仲良く三人で来て、その上であなたが単独行動をしたら、茶会の参加者の中に、敵がいるなら、再び動くんじゃない?
週末、我が家で茶会だから、警備については使用人たちにあなたから目を離さないように言っておくわよ?」
確かにこちらから罠を仕掛けるのも一つかもしれない。
まあアルやレイに話したら、反対されるとは思うので、何とか他の理由を付けて、最低でもどちらか片方だけでも連れて来よう…。
本当は大姉さまに、あまり借りを作りたくなかったのですが、大姉さまが顔が広いのも事実なので、今回は、渋々頼み、大姉さまの邸を後にしました。
それとは別に、レイは実家で、妹さんの様子を良く見ながら、さりげなく探りを入れたりしていたそうです。
「あら、お兄様、また帰っていらしているの?そんなでは、アルフレッド様に出し抜かれますわよ。」
「あの二人、見ていると本当に仲が良くて…私は最近、諦めるべきかとさえ思い始めているんだ…。」
「駄目ですわ!そんな簡単に諦めては!お兄様、マリーナ様をデートにお誘いしたり、二人きりで出掛けたりとか、ちゃんとなさっているのですか?!
後は二人でご旅行へ出掛けられては如何ですか?演劇鑑賞なんていかがでしょう?もちろん、ボックス席で!
誰も邪魔の入らないボックス席で、二人きりでロマンチックな劇でも見れば、そんな雰囲気になるかもしれませんよ。」
「そ…そんな雰囲気って…。」
「お兄様、相手を仕留めようと考えるのであれば、先ずはとにかく二人きりになる機会を作る!
そしてそっと抱きしめたり、キスしたり…とにかく押しまくるのです!!!」
「押しまくるって…アンジェリカ、今、歳は幾つだっけ?」
「14歳です…アルフレッド様と丁度良くつり合いが取れると思うのですが…。」
「君、アルフレッドの事が好きなの?」
「はぁ…お兄様…考えてもみてください。
どうせ嫁に行くなら、条件の良い相手の方が良いに決まってます!
そしてアルフレッド様はお顔立ちも良く、しかも公爵家ですよ!性格も悪くなさそうですし…。
あ、お兄様、今度、私を公爵家別邸へ連れて行ってくださいませんか?
アルフレッド様がご在宅の時に。
アルフレッド様を狙う同年代女性は多いのです。
少しでもチャンスを得るためには、お兄様の協力が必須なのです!
何でしたら私、お兄様がマリーナ場を捕まえるお手伝い、致しますよ?
アンドリューもあの子を気に入っているようですけど…でもアンドリューでは無理そうですしね。」
「アンジェリカ…マリーナはまだ11歳だよ?そんな押しまくるとか罠にかけるような何かとか、そういう歳ではないんだよ?」
「…お兄様…甘いですわね…。女の子は10歳を過ぎれば、早い子は嫁ぎます。
嫁ぐからには多少でも閨教育も受けます。
11歳、12歳になれば、キスくらいは別に…13歳とか14歳、15歳になれば、それこそ早い子は子を生すような行為にも足を突っ込む子はそれなりに居ますわ!」
「いやでも!マリーナだよ?!」
「…まあ…確かにあの子は、まるでおさるさんの様というか、アンドリューよりも男の子のようですわね…。
だからこそ!お兄様が導いてあげるべきでは?!」
「アンジェリカ…君…怖いよ…。」
「まあ!失礼な!お兄様があの子を落としてくれないと、私にアルフレッド様との未来がやってこないのよ!」
「いや…アルフレッドは、君みたいなタイプは、無理だと思うよ…。」
「…いざとなれば…。」
「君…どうしちゃったの?そんな子だった?」
その後は話題を変え、アンジェリカが最近、どこのご令嬢と親しいのかを探る事に徹した。
類は友を呼ぶのか、アンジェリカが親しくしているご令嬢は、気の強い子たちばかりだった。
気になったのは、皆、同じ歳のご令嬢ばかりなのに、一人だけアンドリューと同じ歳のご令嬢が居た。
しかもその子は、確か、前にマリーナを後ろから突き飛ばしたとかいう子ではなかったかなと…。
アルとリーナに相談したいので、近々また公爵家別邸へ戻ろうと思う…。
その頃、アルフレッドは再びあの湖の街から、二人が監禁されていた邸のある街にかけて、あの邸についての聞き込みを行っていた。
スチュアート家があの別荘を研究者に売り、更に流れて辿り着いたのは、現所有者はレッドウィング侯爵家という事がわかった。
しかし街の人々が言うには、たまに誰かが来ている様子はあるのだが、レッドウィング家が購入して以降、あの建物に所有者らしき人が来ているのは、殆ど見掛けないのだそうだ。
一度だけ貴族のご令嬢数人が、使用人を連れて、来ているのを見たというものがあった。
それを見掛けたのは、あの建物から最も近い場所にある公園を管理している高齢の夫婦だったのだが。
不思議に思ったのは、あの邸の所有者が変わったと街の人々の噂で知り、長い間使われもせずに放置されていた建物も、ようやく掃除されたり修繕されたりして、使われるようになるだろうと思っていたら、そんな掃除とか修繕された様子もないうちに、そのご令嬢たち数名を乗せた馬車が、その建物に続く道を走っていくのを見たのだという。
どう見ても良い所のお嬢様ばかりで、あんな子たちが掃除をするのかと思ったのだそうだ。
使用人らしき人たちを乗せた馬車や、荷物を積んだ馬車も続いていたので、掃除をするのは使用人かなと思いながらも、だったら綺麗になってからお嬢様たちが来れば良いのにと不思議に思っていたとか。
しかも彼女たちは、数人の使用人を残し、夕方にはそこを立ち去ってしまったそうだ。
更に数日後には、残っていた使用人たちもその邸を去り、人の居そうな気配はあるものの、近付いて覗くわけにもいかず、そのままらしい。
その人の居る気配も、更に数日後、何かあったのか、少し騒がしいと思っていたら、再び全く人の居ない様子になったとか。
山の中で、しかも誰も居ない邸は、野盗とか怪しい人間たちが入り込む事もあるので、出来れば管理人くらいは置いて欲しいなとは思っていて、近々、申し入れをしようかと、街の人々と相談していたらしい。
そこから考えられるのは、レイとリーナが監禁されていたのは、恐らくその残された使用人たちが去る直前か、去った後だろう。
その後の人の居る気配というのが、監禁されていた期間で、見張りと世話をする少数の者だけが居たのだろう。
少し騒がしくなった時が、二人が脱走をした時ではないかと思われる。
二人がどこかへ訴えて、監視役などが捕まったら、監禁していた貴族まで捕まる可能性もあり、慌てて邸から去ったのだろう。
後はその最初に来ていた貴族のご令嬢数人…馬車は4人乗りで、窓からチラッと見えた、少なくとも二人はご令嬢っぽくて、最低でも3人は乗っていたらしい。
4人目が居たかどうかまでは分からないと。
一人はレッドウィング家のご令嬢だろうと考え、残りが誰なのかを探れば、犯人はそのご令嬢方で間違いは無いのではと思う。
その夜、公爵家別邸には、久しぶりに三人が揃った。
「ごめんなさい、私はまだ情報というほどのものは得られていなくて…。
大姉さまを頼ってみたんだけど、今のところ、アルを凄く慕っているのはアンジェリカ様以外にも居るけど、それでもアンジェリカ様が最もと有名だとまで大姉さまに言われてしまって。
それで大姉さまから、この週末に、大姉さまの嫁いでいる伯爵家で茶会があるから、そこにアルとレイを伴って参加してみてはと言われました。
二人を連れて参加した上で、二人から離れて隙を作ったように見せかけて、罠を張ってはと。
一応、大姉さまは、使用人の皆様に私から目を離さないようにとか、警備を増やしたりしてくれるって言っていたけど…。」
「私はアンジェリカに色々話を聞いてみたんだけど…正直言って黒に近い印象を持ったよ…情けないんだけど。
今のアンジェリカだったら、少々過激な事も、やりかねないという思考だった…。
一番仲が良いのは、ミシェリーナという、アンドリューと同じ歳の子だって言っていたけど。
アンドリューと同じ歳という事は、リーナとも同じ歳って事だよね?
リーナはそのミシェリーナという子、知っている?」
「親しいわけではないですけど…知っています…。
彼女は私の事を嫌いだと思います…。」
「え!?何で?嫌うほど接点のある子なの?」
「アンジェリカ様から伺っているかもしれないですが、彼女はアンドリュー様をお慕いしているようなのです。」
そして私は、元々はスチュアート家から私への婚約の申し入れって、アンドリュー様が言い出していたのではないかと改めて確認し、ミシェリーナ様は、それを快く思っていなかったこと。
でも決定的に嫌われたのは、ミシェリーナ様が姉の様に慕っている方が私の遠縁で。
その遠縁の方が私の事をとても可愛がってくださっていて…その方と私が一緒に居る時に、ミシェリーナ様に遭遇したこと。
ミシェリーナ様は私から彼女を奪おうというか、引き離そうとしたが、彼女は私を優先してしまい、私は更にミシェリーナ様から睨まれた事。
以来、ミシェリーナ様に遭遇すると、周囲に誰も居なければ、かなりの確率で嫌がらせを受けるようになった事を話しました。
「でも…そうですか…ミシェリーナ様がアンジェリカ様と繋がっているのですか…。」
「うわぁ…男を争ってでも怖いのに、姉のように慕う友達?をも争ってって…女性って怖いね…。」
アルがドン引きして言いました。
うん、引くよね…。
「そういえば…ミシェリーナ様の家名は、レッドウィング侯爵家です…。」
私は思い出して言いました。
「それは…アンジェリカとミシェリーナ嬢はほぼ黒だね…。
我が妹ながら情けない…。
しかも媚薬まで盛るとか、有り得ないだろ!!!実の兄に、女性をそれもまだ11歳の子を襲わせようとするとか、何を考えているのか!!!」
レイは相当怒っているようでした。
まあ…結果的に媚薬を盛られたのはレイだったし…。
「でも現時点では、証拠が無いのと、その二人だけの仕業なのか、他にも居るのかが分からないんだよね…。」
「ここはやっぱり大姉さまの言うように、罠を張ってみる?」
794
お気に入りに追加
2,309
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる