私は逃げます

恵葉

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追跡 中編

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夜、公爵様がやってくるのと一緒に、アルも戻ってきました。
公爵様に案内されて、居間に隠されていた隠し扉から、通路を通って隠し部屋へ入りました。
あまり広くはない部屋で、テーブルと椅子が置かれただけのシンプルな部屋でした。

レイと私を含めて四人が腰掛けると、公爵様がアルに尋ねました。
「それで?お前たちが何かをやっているのは分かっているが…何か私に話すことがあるのでは?」
「父上…ここで話すことは、内密にお願い致します。
レイと私が、リーナとの婚約を求めて競っている事はご存じの通りなのですが、実は少し前、リーナとレイが攫われました。」
公爵家が関わっている可能性は低いように思った事もあり、様子を伺うために、公爵様へはある程度話す事になりました。
「攫われたというのはどういう事だ?!二人が無事にここに居るという事は、犯人は捕まえたのか?」
「二人は自力で脱出し、探していた私と合流し、ここへ戻ってきました。」

先ずは事の経緯をアルから話しました。
私はこの別邸から脱走して、公園で眠っていたところを攫われたこと。
流石に木の上で眠っていてとは話せませんでしたが…。
でも問題はレイはこの別邸の敷地内で攫われたということ。
別邸内で攫われたという事は、別邸内に犯人の協力者がいるかもしれないという事です。
そもそも私が公園で攫われたのも、私を狙っていたのであれば、私が脱走したことを知らないと難しいわけです。
まあ偶然、私が公園に居る所に出くわしたという可能性もありますが。
しかし偶然と考えるよりも、私の行動パターンを知っているものが、私が脱走するのを見ていてと考える方が、可能性は高いかなと。
更に攫われて、監禁され、媚薬を盛られたこと。
監禁されていた建物が、その昔、侯爵家の持ち物だった事を説明いたしました。
元所有者が誰なのかは、只今、侯爵ご当主に探ってもらっているけど、まだ現時点では不明。
私とレイを監禁して媚薬まで盛った狙いは、一つにはアルとの縁談を邪魔したいこと。
或いは私を傷物にしたいか、若しくはレイと私を一緒にさせたいかのどちらかだろうと。
アルとの縁談を邪魔したい人たちは、大勢いらっしゃいますが、その中の一人がレイの妹のアンジェリカ様であることは、レイが話しました。
妹と言えど、疑惑があれば、調べないわけにはいかないので、ここ暫くは、レイは自宅へ帰って、妹の様子を調べていたことも。
「いきなりアンジェリカを問い詰めたところで話はしないから、先ずはさりげなく世間話から聞いてみたんだよ。
アンジェリカがどのくらい、アルと婚約したいと考えているのかとか。」
「アンジェリカ嬢だけじゃないんだけど、ぐいぐい来る子って苦手なんだよね…。
何か、こちらの事は考えていないみたいじゃない。
自分が良ければって事でしょ?
しかもそういう子って、ライバルとか気に入らない子に対して、陰で攻撃していたりする子も珍しくないし。」
「あ…分かります…私、嫌がらせを受けるのは得意ですから。
別にアンジェリカ様ではないですけど、無視や嫌味を言われるのは序の口で、物を壊されたり隠されたり、挙句の果てには突き飛ばされたりですからね…。
でもそのくらいの子の方が、表では凄い大人しそうだったり、優しそうだったり、優秀だったり、要するに素晴らしい外面なんですよね…。」
「外面って…言い方…。」
「あはは…ごめんなさい。
でもレイ…女性に限らないけど!でも!女性ってそんなのが大勢いるんですよ。」
「こわいねぇ…。それでレイ、アンジェリカ嬢はどうなの?」
「…アルのどこが好きなのかとか聞いたんだよ…。
我が妹ながら、残念なんだけど…あれは恐らく公爵家という家柄だね…。
アルの性格とかどうなのか聞いたけど、私の方がアルの事を知っているんじゃないか?というくらいにアルの事を分かっていないんだよ…。
でもさ…それを突っ込んだら貴族の政略結婚なんてそんなものでしょって言い返されたんだよ…。」
「…確かに貴族の政略結婚って、家だけどさ…。
でもその場合、お互いにメリットがある事が前提でしょ?それはどうなの?」
「私も聞いたんだよ…アルは公爵家だけど…じゃあアルにとって、アンジェリカに何のメリットがあるのかと。
そしたら外見だと…我が家はあの子が唯一の女の子だからと、特に両親がだけど、溺愛して、どうも育て方を間違ったようだ…。
外見なんて、好みは人それぞれじゃないか。
金髪が好きな人も居れば、黒髪が好きな人もいる、髪の色なんて拘らない人もいる。
にも拘わらず外見って…情けなくなって、中身は無いのかって言ったんだよ。
そしたらキレられて、そもそも私がリーナを捕まえれば良いのだと…。
そのためには手段は択ばずに、何なら既成事実でも作ってしまえと言われたよ…。
あの子は…黒とは言い切りたくないけど、グレーかもしれない…。」
「アンジェリカ嬢は13歳だっけ?14歳だっけ?その歳だったら結婚している子もいるから、彼女が既成事実を作ろうとしても不思議は無いけど、でもリーナはまだ11歳だよ…。
11歳で婚約は全く珍しくないけど、でも結婚は早くても…いや政略結婚の場合は10歳で結婚も居るには居るけど、それは他国との婚姻とかでしょ。
国内の貴族同士で結婚は早くても12歳とか13歳じゃないの?」
そんな話をしていると、公爵様が口を開いた。
「…いや、どうしても囲ってしまいたい相手がいる場合、早めにと10歳で婚姻も貴族同士でもあるぞ…。
ただ婚姻は10歳とかで結んでも、実際に嫁ぐのは…そうだな…早くても12歳、13歳…出来れば15歳としたいところだな…。
我が家には娘は居ないが、娘が居れば、出来れば15歳くらいまでは手元に置いておきたいと思うのではないかと考えるな。」
「それはともかくとして、アンジェリカ様は…一人で今回のような事を計画出来るのでしょうか?」
私は話を戻してみた。
レイは眉間に皺を寄せて考えた。
「正直言って、アンジェリカだけで出来るとは思えないな…。
アンジェリカが関わっているとして、うちの使用人たちの一部はアンジェリカに加担していると思う。
でもうちの使用人、皆が皆、アンジェリカに甘いわけではないんだよ。
まして今回は私も襲われているわけだし。
なので今回、アンジェリカの交友関係を少し探ってきたんだけど、それを更に探ろうと考えているよ。
正直言って今までアンジェリカの交友関係何て興味無かったから、どう調べて良いか分からないんだけど…。」
「アンジェリカ様が良く出入りしているような茶会とかを調べてみては如何ですか?
良く出入りしている家があれば、そこは親しい可能性はありますよね。
あとはその茶会に出入りしている、他の人に聞いてみるのも一つかと…。
私…姉さまたちは、油断が出来ないし苦手なのですが、大姉さまの情報網はかなりと思いますから、大姉さまに聞いてみましょうか…。」
するとアルが心配してくれました。
「でも大丈夫なの?大姉さまって、あのかなりやり手の方でしょ?
リーナはその大姉さまに都合の良い相手に無理矢理嫁がされるのを危惧しているでしょ?」
「そうなんですけどね…でもついでに今現在の姉さまの考えも探ってこようかなと。」
「大丈夫なの?」
「取り敢えず一日か二日程度だけ行ってきます。
行くときは前以てアルやレイに詳細を書いておいていきますよ。
戻ってこないとか、何かあったら、その時は宜しくお願い致します。」
「私はまた、家へ戻って、アンジェリカが出掛けている先とか、茶会とか、探ってみるよ。」
「アルはどうする?」
「俺は取り敢えず茶会とか出てみるよ。
俺にやたらとすり寄ってくるのがいれば、怪しいし、アンジェリカ嬢についても調べられるでしょ?」
「そうだね…茶会とか嫌かもしれないけど頼むよ…。」

色々話しましたが、結局、先ずはアンジェリカ様が誰かと組んでという可能性を重点的に調べることになりました。
アンジェリカ様一人で出来る事でもないし。
しかし邸内に協力者がいるとなると、やはりアンジェリカ様は怪しい。
早速、レイはご自分の家へ帰っていきました。
私はまずは大姉さまに連絡を取らなくてはと思っていたのですが、公爵様にアルと二人、まだ残されました。

「レイモンド殿が居ない場所で聞きたかったのだが…アルフレッドとマリーナ嬢は、本当に婚約したいと思っているのか?
どうも君たちからは、まるで兄妹か仲の良い友達のような空気しか感じられないのだが…。
私としては、マリーナ嬢は非常に優秀な様だし、我が家に嫁に来てくれたら嬉しいが…。
しかしどうも君たちの考えていることが読めないんだよ…。」
「父上…勿論、俺たちは婚約したいと思っているよ。」
「…君たちには…何か考えがあるのではないか?恋愛感情とかではなく…。」
公爵様…鋭い…いや…見ていれば分かるのかな…。
「君たちには兄妹のような仲の良さしか見えないけど、寧ろレイモンド殿の方がマリーナ嬢を慕っているように見える…。
君たちの婚約に反対をしているわけではないんだよ…さっきも言ったけど、マリーナ嬢はとても賢く、我が家に嫁に来てもらえれば、我が家のためにもなるし。
ただ…君たちの考えている、本当の事を話してもらえないかな…。」
私とアルは、お互いに見つめあい、話すより他に無いと悟りました。
「父上…父上の読み通り、俺とリーナの間には、恋愛感情は恐らく殆どありません。
全く無いのかと言われると、それは分からないのですが。
それでも婚約したいと言い出したのは、お互いに利害関係が一致したからです。」
「どういう事だ?」
「茶会などを覗いていただくと分かるかと思うのですが、俺を狙って群がる女性たちがいて、間違えても彼女たちと婚約とか、絶対に嫌なのです。
そしてまだ婚約婚約とせっつかれるのも嫌なのです。
結婚したくないわけではない。
でもその前にまだ自分を高めたい、そのためには気を使わなくてはいけない婚約者は邪魔なのです…。」
「まあ…お前の場合は、次男とはいえ、公爵家だから、20代になってからでも、縁談には困らないとは思うけどな…。
マリーナ嬢のメリットは何なのか聞いて良いかな?」
「うちは…大姉さまが姉妹の結婚相手とかを、自分にとって都合の良い相手を見つけてきて、嫁がせようとするのです。
下の姉の結婚相手がそうなのですが、そして決して自分の結婚相手よりも優れた人は、連れてこないのです。
あくまでも姉さまにとって都合の良い相手で、自分の伴侶よりも見劣りのする人。
妹は駒なのです…そして私はそんな方々とは結婚したくない。
私は15歳くらいまで逃げ切る事が出来たら、家を出て、自分で働いて暮らしていきたいと思っています。
文官になるのでも良いし、自分で商売を立ち上げても良いですが。
姉たちの駒にはなりたくない。
なのでアルフレッド殿と婚約したいのは、3年ほどの時間稼ぎなのです。」
「そうか…。君たちの気持ちは分かった。
少し考えさせてくれ…。」

公爵様は、何となく肩を落とし、がっかりしながら部屋を出ていかれました。
「何か…公爵様に悪い事をしちゃったのかな…私たち。」


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