私は逃げます

恵葉

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反撃開始

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この日の夜は、二手に分かれ、寝ずの番をする事にしました。

扉にかんぬきのように差し込んだ椅子の脚は外し、私は一人で寝室に篭もり、寝室の扉が開かないように、椅子を扉とベッドの間にハマるように、倒して置き、寝室へは侵入出来ないようにする。

レイは、浴室の方に隠れる。
侵入者がいた場合、様子次第では、レイは対峙し、状況によっては様子見に徹する。

何にしても先ずは今夜です。

夕方と思われる、差し込む光も弱まり、薄暗くなってきた頃、置かれていた水を飲み、果物とパンを食べ、備えることにしました。

真っ暗な中、一人で待つのは辛かった。
レイには、眠っていても良いと言われていたのですが、眠いのに寝付けず、ずっとウトウトしていました。


どのくらい時間が経ったのか、ウトウトしていたのですが、扉の所で微かな物音がして、一気に目が覚めました。
扉が開き、侵入出来ないようにつっかえ棒代わりに置いていた椅子の脚に扉が当たりました。
暫く扉を押し開けようと、そっと押されていましたが、やがて諦めたのか、そのままそっと閉められました。

その間、私は、怖くて息を潜めて扉を見つめていました。


やがて何も聞こえなくなり、私はそのまま眠ってしまった様でした。


それからまた、どのくらい時間が経ったのか、寝室の扉をノックする音で、目が覚めました。


「リーナ?起きて?リーナ?」

「…ごめん…疲れて眠ってしまったみたいで…。」


起き上がって、椅子を退け、扉を開けた。

居間の方は、カーテンを開けっぱなしにしてあるので、光が差し込み、今が夜ではない事は分かりました。


「昨夜…何か分かった?」

差し込む光も無くなって、完全に真っ暗になって暫くした頃、扉がそっと開いたそうです。
廊下もあまり明かりを点けていないようで、あまり良くは見えなかったそうです。
だから取り敢えずは対峙する事無く、様子を覗っていたそうです。

扉が開き、先ずは数人の男と思われる体格の良い人間が入ってきて、そっと部屋の中の様子を覗っていたそうです。
見付かるかと焦りながら、浴室の扉の影に隠れていたら、浴室までは調べられなかったそうです。

更に数人が入ってきて、何かごそごそとやって、やがてまたそっと出ていったそうです。


レイも、その後、眠ってしまったと言っていました。


そして部屋には、再びパンや果物、水が新しいものに取り換えられておりました。


「少なくとも暫くは殺されることは無いということかな…?」

「そう信じたいけど…何とも言えないな…。」

「でも直ぐ殺すつもりなら、水や食べ物を置いていかないんじゃない?
毒が入っていないことは、昨日、分かったわけだし。」

「まあね…とはいえ、狙いが全然、分からないんだよね…。」

「ねぇ、この窓を塞いでいる板、何とかならないかな?
何とかするために、鉄の棒とか欲しいよね。」

「でも使えそうなものは何も無いよ…。」

「私たちを縛っていたロープ、あるよね?
あれでベッドフレームのパイプを折れないか、やってみるよ。
椅子の脚、折っても良い?」

「え?!ロープと椅子の脚で何をするつもり?」

私は、椅子を持ち上げ、硬い大理石の床に何回も叩き付け、折りました。
何回も叩き付けていたら、扉が乱暴に何回も叩かれ、怒鳴り声が聞こえてきました。

「おい!お前たち!何をやっているんだ!
静かにしないとただではすまないぞ!」

私は扉へ駆け寄り、大声で叫びました。

「いつまでこんな所に閉じ込めておくつもりよ!
出してよ!私が何をしたって言うのよ!」

「黙れ!静かにしないと喋れないようにするぞ!」

再び怒鳴られ、私は泣き声を出して、言い返すのを止めました。

レイは、怪訝な顔をして、でも私の邪魔をする事無く、見守ってくれた。

私は右手に壊れた椅子を拾い、左手にレイの手首を掴み、真実へ向かいました。

「精神不安定になった私は、部屋で泣いて暴れましたとさ!
やってきたのは一人でしたね。
ドアの外にはそんなに居ないと言うことでしょうか…。」

さてここからもう一仕事です。
ベッドフレームに、シンプルに縦にハマっている捻った鉄の棒のうちの2本、上の方でロープを通して結び、間に椅子の脚を突っ込みました。

「それで何をするの?」

「これでこの脚をひたすら捻って、ロープの輪を縮めて、鉄の棒を切るというわけです。
それを繰り返せば鉄の棒、何本か、手に入りますよ。」

「…そんなこと、どこで覚えたの?
あ、あのスチュアート家の遠縁とか言う家庭教師?」

「これは…バーバラ先生だったかしら?誰だったかしら?」

本当は前世で覚えたけど、そんなこと言えない…。

それからレイも同様にして違う鉄の棒を折って、取ってくれて、鉄の棒は4本になりました。

「4本あれば、取り敢えず二人分の武器になるかな?」

さて次は窓を塞いでいる板を減らしたい。
取り敢えず一番外しやすい窓はどれか、見ることになりました。

居間の窓を全て見て、ふと思った。
居間以外の窓は?

トイレの窓は小さい上に、場所が高過ぎる…。
風呂場らしき小部屋の窓は…大きさ的には何とか出られそうだけど、問題は高さがね…高過ぎる。
寝室には窓は無さそうだなぁ…。
でも…隙間風は入ってくるんだよね。

少ししか本の入っていない本棚を退けてみた。

「あった…。」

窓があった。
ただし塞がっているけど。
でも…この窓は内側から塞がれている?!

でもこれなら何とか出来ないかな?!

「これ!これなら何とか外せないですかね?」

「いけそうだよね?!
後はバレないようにだよね?!」

私たちは夜中から明け方が一番バレないのではと言うことで、夜は暗くなったら寝室へ篭もり、扉を開けられないようにして、さっさと眠りました。

深夜、やはり微かな物音が居間の方から聞こえてきて、そしてこれまたやはり!寝室の様子も覗おうと、扉を開けようとドアノブがまわりました。
…開けられずに諦めたようですが。

今夜はなかなか去ってくれなくて、少しヒヤヒヤしました。
何か異変を感じたのだろうか?
何かコソコソ話している感じもしましたが、それよりも何よりも、こちらの計画がダメにならないように、ひたすら息を潜めていました。

奴らが去って、暫く経った頃、私たちは作業に入りました。
本棚は先に退けておいたので、次は窓を塞いでいる板を剥がすことです。
居間の方は、かなり雑に塞いであったのですが、こちらは塞いだ意図が異なっていたのか、綺麗に15センチくらいの幅の板を7枚、窓枠に釘で打ち付けてありました。
窓は上が丸くなっている形だったので、上の方が板が横に飛び出ていたので、上から剥がすことにしました。
飛び出ている所に鉄の棒を差し込み、その棒と壁の間に、別の棒を先の棒に垂直になるように差し込み、テコの要領で押して押して、板を上げることで釘を浮かせて。
それを繰り返し、板を一枚ずつ外していきました。

窓が見えてくると、その窓は少し変わっていました。
出窓ではあるのですが、窓ガラスが出窓の外ではなく、建物側に付いていて、出窓の出ている部分は、完全に外なのです。
そして雨戸があるというものでした。
板を全て外し終え、窓の外を見ると、植物が枯れた小さな植木鉢と、その下に完全に変色した古い手紙が置いてありました。

後は雨戸を開ければ私たちは外へ出られる!
雨戸は本の1センチ程度ずらして、開けられることだけを確認し、それ以上は開けませんでした。
誰かに見られて、再び閉じられたら、お終いなので。

「どうする?直ぐに逃げる?」

レイに聞いた。

「もう一日…夜まで待とう…体力を温存するんだ。」

「そうね。走らなくちゃ言えなくなると思うし。」

私たちは、明日の奴らの見回りの後、脱出することに決めた。
ここがどこか、全く分からないし、外の様子も分からない。
でもきっと、唯一のチャンスになると思う。
何が何でも成功させなくては!

そして私たちは、板はベッドの下に隠し、本棚を元通りに戻した。

「明日に備えて、しっかり眠ろう!」

「うん!おやすみ!」

そう言ってお互いベッドの端と端に入りました。

朝は二人ともとことん、眠りました。

驚いたことに、身体を拭くためと思われる桶と水と手拭いが数本、置いてありました。
流石に髪は洗えない。
でもずっと埃っぽかった身体を、久し振りにスッキリと出来ました。

食事はいつも通り、パンと果物だけ。
私たちはパンだけ食べて、リンゴやオレンジは、逃走時の食料にまわすことにしました。
これが後々、色々と影響をしてくるのですが、この時は気が付きもせず。

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