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久しぶりのお仕事
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いよいよジョージ殿下の補佐のお仕事が始まりました。
初日は、今後の打ち合わせのためにも、アルとレイと三人で登城しました。
案内されて、殿下の執務室へ向かうと、既に仕事を始めていらっしゃいました。
王領の一部の街の治安や経済、食糧事情等を調べ、改善策を陛下と宰相様に報告するというものでした。
その町は、王都から一泊二日で行って帰ってこられる距離の街で、元は昔の侯爵領だったらしいのですが、何か事件などがあり、侯爵家は取り潰され、領地は王家にとなったのだそうです。
その時の領主が、悪政を強いていたようで、その当時から治安も悪化し、経済的にも不安定になっていたようで、それが王領になって、代理の者に統治させているようなのですが、どうもいつまでも改善されないとかで、この度、ジョージ殿下も14歳なので、領地を治める事を覚えるために、取り掛かる事になったようです。
しかし当然、まだ14歳の殿下に丸投げとも行かず、必ず陛下か宰相様の承諾を得て動くようにとの事で、その陛下や宰相様に提出する資料の作成を、私にというわけです。
正直って、数字とかのデータの資料を作るのは、私、好きなのです。
そこから見えてくるというのが面白い。
だから王家からの仕事でなければ、寧ろ喜んでやるところです。
でも私に依頼してきた意図がイマイチ分からない現状では、喜んで調子にのってやるわけにはいかないのです。
つまりは、アレとレイは、実は私のお目付け役でもあるのでした。
調子に乗ってやり過ぎて、王家から完全にロックオンされないように…。
あ、なので初日、私は殿下にもう一つ、交渉しなくてはならないことがありました。
「殿下、おはようございます。短い期間ですが、本日からどうぞよろしくお願い致します。」
「こちらこそ末永く宜しく!」
黒い笑顔で返されてしまいました。
思っていないくせに…末永くじゃなくて、今回は試験的採用ですよね!?様子見ですよね?!
無駄ですよ、私、手を抜きますから!
「さて殿下…言い忘れておりましたが、お願いが一つございます。」
「何でも言って!君の協力を仰ぐためなら、何でもするから!」
「…またまたぁ…ってそれは置いといて、真面目なお話です。
今回の私のお手伝いですが、可能であれば陛下や宰相様にも…それは無理であれば、せめてそれ以外の方々には、伏せて頂きたいのです。
私、こう見えてまだ11歳ですよ…いや、11歳ではなくても幼気な女子なのです。
本来、こういった殿下のお仕事のお手伝いって、男性がやるものではありませんか?
それを私ごときがやって、目を付けられるのも僻まれるのも避けたいのです…。」
「ん…父上たちにまで隠すのは無理かな…私ではないってバレるから。
それ以外だったら別に良いよ、黙っていてあげる。
私としても、もしも本当に君が有能なのであれば、それを他に取られたくはないからね…。」
いやいや、何を言っちゃっているの?!この人は。
私は殿下のものでも王家のものでもありませんって…。
と!突っ込みたいけど、それで更に何か警戒されて、網でも張られても面倒なので、ひきつった笑顔で堪えました。
ふと横を見ると、アルとレイも、顔が引きつっている…。
彼らも必死で堪えているんだね。
本当にね…こういう仕事は大好きだし、楽しいのよ。
でも上に立つものが横柄って、何か前世の社畜時代に通じるものを感じるなぁ。
さて私の仕事…それはグラフの作成。
と言ってもこの時代にグラフ何てものはなく、勿論PCも無い。
PCがあれば、エクセルで簡単に作れてしまうのですけどね。
なので地道に殿下と殿下の補佐官の方々が調べてきた数字を、先ずは綺麗に並べなければならず。
この人たち、皆、表さえも無く、羅列なのですよ…。
この時代、表も無い様で…。
ある意味そんな羅列で理解するこの時代の人たちって、頭が良いのではないかとも思えてくる。
でも非常に数多い上に、何せ羅列、箇条書きの数字を、整理する術から…一人でやるのもなので、アルとレイに、やり方を教え、手伝っていただくことにしました。
取り敢えず表の作り方を教え、そこに当てはまる数字を、箇条書きや羅列の中から、探し出して、埋めてもらうことにしました。
その作業をお二人にやってもらっていると、殿下と殿下の側近の方が、覗き込んできました。
「これは…何をやっているの?」
「えっと…大変申し上げづらいのですが、皆様の資料は、あまり整理というものが成されていなくて、見辛いのです。
このままでは殿下が望まれる資料を作成するにも、非常に手間が掛かってしまいますので、その前段階として、整理する事をアルフレッド様とレイモンド様にお手伝い頂こうと、それについて説明しているところです。」
「し!失礼な!我らが調べて作った資料を整理されていない、不完全なものと言うのか?!」
「…。」
その通りなんだけど、それを言ったら更に怒られそうな気がして、取り敢えず黙る私…。
「あの…私のやり方にご不満なのでしたら、お手伝いは致しかねるのですが…。
パン屋さんにパンの作り方を知らない人が、麦を渡して、その麦を粉にすることも無く、そのままパンを作れと言っても、それを作れるパン屋さんなんて居ませんよ?
それと同じことですが…。」
黙ったものの、それでもイラっとしていたのもあって、つい、喧嘩を売るような事を言ってしまいました。
う~ん…私はそろそろ他にも逃げる方法というものを、考え始めた方が良いのかもしれない…。
そんな風に初めて思いました。
実家からは取り敢えず逃げた!まだ逃げ切ってはいないけど。
でもまあそれは今回の件が終わってから…。
殿下は、クスクス笑いながら、側近の方に言った。
「お前の負けだな…どうだ?年下の女性に負ける気分は?」
「年下と言っても、私は殿下の一つ下、13ですから、このご令嬢とは二つしか違いませんが?」
「13…という事は、私の兄上と同じ歳ですわね。」
「そうか…では私にも兄と同じように敬うが良い!」
「申し訳ございません。私、兄を敬うほど、兄を存じませんので…。」
「はっはっは!!!完全お前の負けだ!」
殿下が大笑いしながら楽しそうに仰いました。
「それで…その整理の仕方というものを、私たちにも教えてもらえないだろうか?
最初からそのように資料を作って有れば、マリーナ嬢が、更にそれを見やすく整えるのが簡単になるのだろう?」
「はい、そうですね、そうしていただけると、私としてもありがたいです。
それに今後、殿下がお一人でお作りになる事があっても、とても説明とかもやりやすいと思いますよ。
こうして私は、初日は、アルとレイだけでなく、殿下とその側近…紹介されなかったけど、ドルフ様と仰るらしいけど…にも資料の整理を教えることになりました。
初日は膨大な量の数字の資料を整理する方法を教えるだけで終わりました。
要するに表の作り方。
殿下は、連日でも登城して欲しそうでしたが、それは無理とお断りしました。
だってね…私、単なるお手伝いです。
確かに好きな類の仕事ではあるのですが、好きな仕事で楽しいからと言って、そのやり甲斐の搾取というのでしょうか?それを理由に社畜状態にとか、もう絶対に嫌なのです。
「好きでやっているんでしょ?」
「好きな仕事なんでしょ?」
「楽しいんでしょ?」
「だったら!休日なんて要らないよね?休日手当も残業手当も出せないけど、でもやってくれるよね?
何よりも優先してくれるよね?!」
というのは違うと思う…そこはもう絶対に拒否します。
断固!拒否します!
その状態からは絶対に!逃げさせていただきます!
表づくりは私、嫌いなわけではないが、そこまで好きなわけではありません。
一番好きなのは、表やグラフから見えてくるものを見る事が好きなのですが…要するに解析でしょうか?…表を作るよりは、グラフを作る方が好きです。
次回はグラフに取り掛かれるかなと、少し楽しくなっておりました。
そこでふと気が付きました。
この時代、色が付けられる筆記具って、どのくらいあるのかな?
マーカーとかあるわけ無いし、色鉛筆も見た記憶が無いです。
勿論、クレヨンとかも無い。
あるのは黒炭と、羽ペンと、油彩と水彩の筆や絵の具…。
うわぁ!筆で色付けとかやっていたら、凄く時間が掛かってしまうのでは?!
円形グラフは水彩で良いとして、折れ線グラフも羽ペンで良いとして、棒グラフ…どうしよう?!
悩みに悩んで、王宮からの帰り道、文具店へ立ち寄っていただきました。
やはりペンのインクの色も、それほど種類があるわけではなく…。
白黒のみで、柄を付けて分ける方法もあるけど…柄を描くのが面倒くさい。
どうしようかなと悩んでいると、にかわが目に入りました。
にかわというのは、前世では主にヨーロッパ等で大昔から使われていた糊の一種で、動物の骨や皮を煮て、出来る粘り気のある液体を乾燥させて、更に水などで溶いて使ったものです。
糊…そうだ!色紙を先に作って、それを切り貼りして、棒グラフを作れば良いんだ!
色紙は先に水彩絵の具で何色か、べた塗りして作っておこう…。
本当はべた塗りするなら、ポスターカラーが良いけど、そんなものはこの世界、この時代に無いからね。
というわけで、筆と紙と、そして棒グラフに使いやすそうな色…青や緑、黄色、赤などの水彩絵の具を買い込んで帰りました。
帰宅後、部屋で広げていると、ドアをノックする音が聞こえ、「どうぞ!」と言うと、レイモンド様がドア口に。
「こんな事だろうと思った…。」
「え!?」
「今から作業をするつもりでしょ?!
ダメだよ…仕事はあくまでも仕事をすべき場所、王宮でやらなくちゃ…。」
「でも王宮でやったら、あちこちに絵の具が飛んで、汚してしまうかもしれないですし、絵の具臭くなるかもしれないですよ。
私の部屋だったら臭くなっても窓を開けて換気しますし、汚れはカーペットは汚れないように大きな板を運んでもらったので、その上でやるつもりですよ。」
「そうではなくてね、ただでさえ単なるお手伝いなんだよ?
仕事は仕事の時間のみに、仕事をやるべき場所でやるべきで、自分の時間を犠牲にしてやってはダメだよ。
それは良いように利用されているのと同じだよ?」
言われてみれば確かに…。
これって代休の無い休日出勤をしたり、毎晩遅くまで残業をしていた…残業手当なんて出ないのに残業をしていた前世の社畜と同じじゃない…。
そう気が付きました。
「そうか…私、社畜体質から脱却しないと、逃げるもへったくれも無いんだ…。」
思わず呟いた。
「え?!シャ…何?ダッキャク???どこの言葉?」
レイが聞いてきました。
「あ…え~と…何かの本で読んだ、どこかの国の言葉でね。
シャチクというのは、奴隷ではないのに、まるで奴隷のように、誰かのために尽くしてしまう人の事でね、ダッキャクというのは、そこからとか、そんな状況から逃げるって事…。
私はつい、やり過ぎてしまうから、そんな状況から逃げなくちゃって言ったの。」
「そうか…リーナは難しい言葉を知っているんだね。
うん、そんな誰かに尽くしてばかりの状況からは、逃げなくちゃね…。」
そう言ったレイに、心の中で、「それは侯爵家からも逃げるって事ですよ…。」とつぶやいてみました。
初日は、今後の打ち合わせのためにも、アルとレイと三人で登城しました。
案内されて、殿下の執務室へ向かうと、既に仕事を始めていらっしゃいました。
王領の一部の街の治安や経済、食糧事情等を調べ、改善策を陛下と宰相様に報告するというものでした。
その町は、王都から一泊二日で行って帰ってこられる距離の街で、元は昔の侯爵領だったらしいのですが、何か事件などがあり、侯爵家は取り潰され、領地は王家にとなったのだそうです。
その時の領主が、悪政を強いていたようで、その当時から治安も悪化し、経済的にも不安定になっていたようで、それが王領になって、代理の者に統治させているようなのですが、どうもいつまでも改善されないとかで、この度、ジョージ殿下も14歳なので、領地を治める事を覚えるために、取り掛かる事になったようです。
しかし当然、まだ14歳の殿下に丸投げとも行かず、必ず陛下か宰相様の承諾を得て動くようにとの事で、その陛下や宰相様に提出する資料の作成を、私にというわけです。
正直って、数字とかのデータの資料を作るのは、私、好きなのです。
そこから見えてくるというのが面白い。
だから王家からの仕事でなければ、寧ろ喜んでやるところです。
でも私に依頼してきた意図がイマイチ分からない現状では、喜んで調子にのってやるわけにはいかないのです。
つまりは、アレとレイは、実は私のお目付け役でもあるのでした。
調子に乗ってやり過ぎて、王家から完全にロックオンされないように…。
あ、なので初日、私は殿下にもう一つ、交渉しなくてはならないことがありました。
「殿下、おはようございます。短い期間ですが、本日からどうぞよろしくお願い致します。」
「こちらこそ末永く宜しく!」
黒い笑顔で返されてしまいました。
思っていないくせに…末永くじゃなくて、今回は試験的採用ですよね!?様子見ですよね?!
無駄ですよ、私、手を抜きますから!
「さて殿下…言い忘れておりましたが、お願いが一つございます。」
「何でも言って!君の協力を仰ぐためなら、何でもするから!」
「…またまたぁ…ってそれは置いといて、真面目なお話です。
今回の私のお手伝いですが、可能であれば陛下や宰相様にも…それは無理であれば、せめてそれ以外の方々には、伏せて頂きたいのです。
私、こう見えてまだ11歳ですよ…いや、11歳ではなくても幼気な女子なのです。
本来、こういった殿下のお仕事のお手伝いって、男性がやるものではありませんか?
それを私ごときがやって、目を付けられるのも僻まれるのも避けたいのです…。」
「ん…父上たちにまで隠すのは無理かな…私ではないってバレるから。
それ以外だったら別に良いよ、黙っていてあげる。
私としても、もしも本当に君が有能なのであれば、それを他に取られたくはないからね…。」
いやいや、何を言っちゃっているの?!この人は。
私は殿下のものでも王家のものでもありませんって…。
と!突っ込みたいけど、それで更に何か警戒されて、網でも張られても面倒なので、ひきつった笑顔で堪えました。
ふと横を見ると、アルとレイも、顔が引きつっている…。
彼らも必死で堪えているんだね。
本当にね…こういう仕事は大好きだし、楽しいのよ。
でも上に立つものが横柄って、何か前世の社畜時代に通じるものを感じるなぁ。
さて私の仕事…それはグラフの作成。
と言ってもこの時代にグラフ何てものはなく、勿論PCも無い。
PCがあれば、エクセルで簡単に作れてしまうのですけどね。
なので地道に殿下と殿下の補佐官の方々が調べてきた数字を、先ずは綺麗に並べなければならず。
この人たち、皆、表さえも無く、羅列なのですよ…。
この時代、表も無い様で…。
ある意味そんな羅列で理解するこの時代の人たちって、頭が良いのではないかとも思えてくる。
でも非常に数多い上に、何せ羅列、箇条書きの数字を、整理する術から…一人でやるのもなので、アルとレイに、やり方を教え、手伝っていただくことにしました。
取り敢えず表の作り方を教え、そこに当てはまる数字を、箇条書きや羅列の中から、探し出して、埋めてもらうことにしました。
その作業をお二人にやってもらっていると、殿下と殿下の側近の方が、覗き込んできました。
「これは…何をやっているの?」
「えっと…大変申し上げづらいのですが、皆様の資料は、あまり整理というものが成されていなくて、見辛いのです。
このままでは殿下が望まれる資料を作成するにも、非常に手間が掛かってしまいますので、その前段階として、整理する事をアルフレッド様とレイモンド様にお手伝い頂こうと、それについて説明しているところです。」
「し!失礼な!我らが調べて作った資料を整理されていない、不完全なものと言うのか?!」
「…。」
その通りなんだけど、それを言ったら更に怒られそうな気がして、取り敢えず黙る私…。
「あの…私のやり方にご不満なのでしたら、お手伝いは致しかねるのですが…。
パン屋さんにパンの作り方を知らない人が、麦を渡して、その麦を粉にすることも無く、そのままパンを作れと言っても、それを作れるパン屋さんなんて居ませんよ?
それと同じことですが…。」
黙ったものの、それでもイラっとしていたのもあって、つい、喧嘩を売るような事を言ってしまいました。
う~ん…私はそろそろ他にも逃げる方法というものを、考え始めた方が良いのかもしれない…。
そんな風に初めて思いました。
実家からは取り敢えず逃げた!まだ逃げ切ってはいないけど。
でもまあそれは今回の件が終わってから…。
殿下は、クスクス笑いながら、側近の方に言った。
「お前の負けだな…どうだ?年下の女性に負ける気分は?」
「年下と言っても、私は殿下の一つ下、13ですから、このご令嬢とは二つしか違いませんが?」
「13…という事は、私の兄上と同じ歳ですわね。」
「そうか…では私にも兄と同じように敬うが良い!」
「申し訳ございません。私、兄を敬うほど、兄を存じませんので…。」
「はっはっは!!!完全お前の負けだ!」
殿下が大笑いしながら楽しそうに仰いました。
「それで…その整理の仕方というものを、私たちにも教えてもらえないだろうか?
最初からそのように資料を作って有れば、マリーナ嬢が、更にそれを見やすく整えるのが簡単になるのだろう?」
「はい、そうですね、そうしていただけると、私としてもありがたいです。
それに今後、殿下がお一人でお作りになる事があっても、とても説明とかもやりやすいと思いますよ。
こうして私は、初日は、アルとレイだけでなく、殿下とその側近…紹介されなかったけど、ドルフ様と仰るらしいけど…にも資料の整理を教えることになりました。
初日は膨大な量の数字の資料を整理する方法を教えるだけで終わりました。
要するに表の作り方。
殿下は、連日でも登城して欲しそうでしたが、それは無理とお断りしました。
だってね…私、単なるお手伝いです。
確かに好きな類の仕事ではあるのですが、好きな仕事で楽しいからと言って、そのやり甲斐の搾取というのでしょうか?それを理由に社畜状態にとか、もう絶対に嫌なのです。
「好きでやっているんでしょ?」
「好きな仕事なんでしょ?」
「楽しいんでしょ?」
「だったら!休日なんて要らないよね?休日手当も残業手当も出せないけど、でもやってくれるよね?
何よりも優先してくれるよね?!」
というのは違うと思う…そこはもう絶対に拒否します。
断固!拒否します!
その状態からは絶対に!逃げさせていただきます!
表づくりは私、嫌いなわけではないが、そこまで好きなわけではありません。
一番好きなのは、表やグラフから見えてくるものを見る事が好きなのですが…要するに解析でしょうか?…表を作るよりは、グラフを作る方が好きです。
次回はグラフに取り掛かれるかなと、少し楽しくなっておりました。
そこでふと気が付きました。
この時代、色が付けられる筆記具って、どのくらいあるのかな?
マーカーとかあるわけ無いし、色鉛筆も見た記憶が無いです。
勿論、クレヨンとかも無い。
あるのは黒炭と、羽ペンと、油彩と水彩の筆や絵の具…。
うわぁ!筆で色付けとかやっていたら、凄く時間が掛かってしまうのでは?!
円形グラフは水彩で良いとして、折れ線グラフも羽ペンで良いとして、棒グラフ…どうしよう?!
悩みに悩んで、王宮からの帰り道、文具店へ立ち寄っていただきました。
やはりペンのインクの色も、それほど種類があるわけではなく…。
白黒のみで、柄を付けて分ける方法もあるけど…柄を描くのが面倒くさい。
どうしようかなと悩んでいると、にかわが目に入りました。
にかわというのは、前世では主にヨーロッパ等で大昔から使われていた糊の一種で、動物の骨や皮を煮て、出来る粘り気のある液体を乾燥させて、更に水などで溶いて使ったものです。
糊…そうだ!色紙を先に作って、それを切り貼りして、棒グラフを作れば良いんだ!
色紙は先に水彩絵の具で何色か、べた塗りして作っておこう…。
本当はべた塗りするなら、ポスターカラーが良いけど、そんなものはこの世界、この時代に無いからね。
というわけで、筆と紙と、そして棒グラフに使いやすそうな色…青や緑、黄色、赤などの水彩絵の具を買い込んで帰りました。
帰宅後、部屋で広げていると、ドアをノックする音が聞こえ、「どうぞ!」と言うと、レイモンド様がドア口に。
「こんな事だろうと思った…。」
「え!?」
「今から作業をするつもりでしょ?!
ダメだよ…仕事はあくまでも仕事をすべき場所、王宮でやらなくちゃ…。」
「でも王宮でやったら、あちこちに絵の具が飛んで、汚してしまうかもしれないですし、絵の具臭くなるかもしれないですよ。
私の部屋だったら臭くなっても窓を開けて換気しますし、汚れはカーペットは汚れないように大きな板を運んでもらったので、その上でやるつもりですよ。」
「そうではなくてね、ただでさえ単なるお手伝いなんだよ?
仕事は仕事の時間のみに、仕事をやるべき場所でやるべきで、自分の時間を犠牲にしてやってはダメだよ。
それは良いように利用されているのと同じだよ?」
言われてみれば確かに…。
これって代休の無い休日出勤をしたり、毎晩遅くまで残業をしていた…残業手当なんて出ないのに残業をしていた前世の社畜と同じじゃない…。
そう気が付きました。
「そうか…私、社畜体質から脱却しないと、逃げるもへったくれも無いんだ…。」
思わず呟いた。
「え?!シャ…何?ダッキャク???どこの言葉?」
レイが聞いてきました。
「あ…え~と…何かの本で読んだ、どこかの国の言葉でね。
シャチクというのは、奴隷ではないのに、まるで奴隷のように、誰かのために尽くしてしまう人の事でね、ダッキャクというのは、そこからとか、そんな状況から逃げるって事…。
私はつい、やり過ぎてしまうから、そんな状況から逃げなくちゃって言ったの。」
「そうか…リーナは難しい言葉を知っているんだね。
うん、そんな誰かに尽くしてばかりの状況からは、逃げなくちゃね…。」
そう言ったレイに、心の中で、「それは侯爵家からも逃げるって事ですよ…。」とつぶやいてみました。
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