私は逃げます

恵葉

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ひとりぼっちじゃなかった誕生日

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「アルフレッド様がご一緒してくれるし、それに実は今日は私の誕生日なので、少しはお洒落した方が良いのかな?」

身支度を手伝いに付いてきてくれた侍女のアンナに聞きました。

「お誕生日なのですか?おめでとうございます。
では急ぎながらもいつもよりお綺麗にしたいですね。」

そう言って笑顔を向けてくれた。

服だけでと思っていたのに、アンナには、髪も洗われて、身体も洗われて、良い匂いの香油を髪にも身体にもすり込まれてしまいました。

「まるで花嫁さんみたいね!」

念入りな準備に、思わず笑ってしまいました。

「お誕生日ですから特別ですよ。」

アンナも笑って言いました。

あまりアルフレッド様を待たせたく無かったので、髪はいつものポニーテールにしようと思ったら、アンナはポニーテールの一部を三つ編みにして、ポニーテールの根元から途中まで巻き付けて、その三つ編みにキラキラ光る色々な石の付いたピンを挿して飾ってくれました。

そして少しドレッシーな、丈の長いワンピースを着せてくれました。
胸元はスクエアカットで、ウエスト下まで細かいピンタックで、ウエスト下からは、そのままギャザースカートみたいに広がるデザインで、ドレスのように華やかではないけど、クルッとまわったりすると、裾が広がる感じの軽い生地で。
袖は透ける感じの薄い生地で、手首に近くなるに従ってかなりボリュームのあるパフスリーブ。
自分でデザインして作ったもので、ウエストにはレースの紐をベルトのように緩く巻いて。

本当はこのドレスは、まだまだ改善したいものですが、この状態でもお気に入りです。

アンナに連れられて、居間へ行くと、アルフレッド様が待っていて、立ち上がって私の姿を見て、固まってしまいました。

「あれ?変ですか?これ…自分でデザインして作ったんですけど…。
11歳になったし、少しは大人っぽくって思ったんですけど…。」

「…いや、凄く大人っぽくて、綺麗だよ。
ごめん!急に大人っぽくて、ビックリした!」

「では!ダイニングへエスコートしてもらえますか?」


ダイニングへ行くと、入口でアンナが待っていて、ドアを開けてくれました。

「ありがとう!」

そう言って一歩入ると、大勢の人が居て。

「「「「「お誕生日おめでとうございます!」」」」」

「えっ?!何?!」

一瞬、何が起きたのか、分かりませんでした。

よく見ると、昼間、お会いしていたはずのジョージ殿下にレイモンド様、アンドリュー様、バーバラ先生を筆頭に、使用人の皆さんも居て、凄いご馳走が用意されて、部屋中、リボンやお花で飾られて。

驚いて立ち尽くしていると、レイモンド様が駆け寄ってきました。

「ごめん!こういうの、イヤだった?」

そう言って私の目元にハンカチを当ててオロオロして。
気が付くと私、涙がこぼれていました。

「違うんです…こんな、私のためにこんなパーティーを開いてもらえたのって、初めてで…。
凄い嬉しくて…。」

笑い泣きしてしまいました。

「マリーナ様!折角お綺麗にしたのに、台無しになってしまいますよ。
これは私からのお誕生日プレゼントだったのですが。」

そう言ってアンナは、綺麗に刺繍をしたすみれ色のハンカチを差し出してきました。

「アンナ…ありがとう!ありがとう!」

ハンカチは握りしめてアンナに抱きつきました。

「ハンカチは握りしめるための物では無いですよ。
目元を押さえて、泣き止んでください。」

アンナは姉さまよりもお姉様みたいだ!って思いました。

アンドリュー様が、大きな薔薇の花束を抱えて近付いてきました。
何故か、朱赤の薔薇よりも赤そうな顔をして、花束を差し出してきました。

「…お誕生日、おめでとう…その…凄く綺麗です…。」

「ありがとうございます!ホント!凄く綺麗な薔薇ですね!嬉しいです!」

ん?何か周りの目線が…少し残念な目になってる?!何で???

レイモンド様からはちょっとずっしりする箱を頂きました。

「開けてみて良いですか?」

喜んで開けると、ソーイングボックスでした。
それも前世のケルティック模様のような模様が施されたもので、私の好みに凄くドンピシャでした。

「ずっと長く使ってもらえたらと思って、少し大人っぽい柄にしてみたんだけど…。
中も凝ってみたんだけど…。」

確かに刺繍枠まで何故か綺麗な柄のエンボス加工がされていたり、もはやこれは裁縫道具と言って良いのか?というものが沢山。
ピンクッションも土台にお揃いの柄が入っていましたし。
針は普通の針で良かった!

「ん?これは?」

「それも裁縫道具だよ…。普段から使えるけどね、読書とか。
ペンダント型のルーペだよ。」

「え!?これ、ルーペですか?!凄いお洒落です!確かにこれなら普段から使えますね!
ありがとうございます!!!」

「でもごめんね、ハサミだけは入れてないんだ…。切るって私たちの縁も切られそうで…。
ハサミは申し訳ないけど、自分で揃えてね!」

「大丈夫です!ハサミは自分で用意します!
本当に凄く嬉しいです!ルーペは図書館とかへ行くときにも持って行きますね!
これ、普通のペンダントとしても合いそうですよね。
ちょっと付けてみますね!」

「あ、やってあげるよ!」

そういって留め金を後ろで留めてくださいました。

「やっぱり今日のこの髪を飾っているピンに合っていると思いませんか?!
本当に凄く気に入りました!」

すると少し離れたところで見守ってくださっていたアルフレッド様が来ました。

「俺からはこれ…改めて誕生日おめでとう!」

「え!?でも?!もう…。」

もうブレスレットを頂いたと言い終える前に、宝石箱くらいの大きさのものを差し出され。
良いのかなと思いながらも受け取り、包装してあった包みを開きました。
包装してあったのは、綺麗な大きめのスカーフで、これ、使える!って思いました。
それをレースのリボンで飾ってあって。
開けるとやはり宝石箱のような綺麗な箱が出てきました。
その箱を開けると、オルゴールになっていて、良く分からないけど、素敵な音楽が流れてきました。
良かった。オルゴールの空いている部分には、特にアクセサリーとか入っていなかった。
これ以上あったら…流石に申し訳ない。

「これね、よく見て、下に引き出しがあるんだよ。」

よく見ると下に小さな引き出しが。
でも鍵穴があり、どう見ても鍵が無い。

「でもこれ…どうやって開けるのですか?」

「ブレスレット…。」

「あ!」

そういう事か!あのブレスレットについている鍵が、これの鍵だったのね。

「ここには君の大切な物でも入れて!」

「素敵なプレゼントをありがとうございます!」

その後も、ジョージ殿下からは、王宮のパティシエが作った焼き菓子の詰め合わせとか、バーバラ先生からは冒険ものの本の全集とか、使用人の皆様まで普段、使えるようなちょっとしたものとかくださいまして、今までで一番の本当に心に残る誕生日になりました。

この日ばかりは使用人の皆様にも一緒に食事をしていただきまして、皆で本当に楽しく頂きました。

そして食事の後は、アルフレッド様とレイモンド様、殿下とアンドリュー様、バーバラ先生と居間へ移動しました。
使用人の皆様は、片付けとかがあると言って、お祝いはここまでと。
居間でお茶などを頂きながら、折角なので、お互いにお互いの事をもっと良く知りましょうとバーバラ先生がおっしゃって、先生が用意してきてくださっていたゲームをすることになりました。

「この中に、色々な質問を書いた紙が入っています。
でもそれだけでは面白くないから、皆さんも一枚ずつ、何か聞きたいことを書いてください。
書いた人からこの箱へ入れてください。」

そう言って紙を配って箱を皆の前に置きました。

皆、書いて入れ終わったところでゲームのはじまりです。

先生が良く箱を振って中を混ぜまして。

「先ずは順番を決めましょう!この紙片を引いてください。早い者勝ちよ!
その紙片に番号が書いてあります。」

そう言ってひも状に切った紙を先生が持ちました。

その順番に輪になって座り直しました。

「では!一番の方から箱の中から紙を一枚取ってください。」

そう言って一番のレイモンド様に箱を渡しました。
一枚取ると、箱を真ん中のテーブルに置き。

「紙を開いて、そこに書いてある質問に答えてください。拒否は無しですよ!」

レイモンド様は紙を開くと、ニヤリと笑いました。

「私のは質問は『好きな食べ物は』で、答えはポテトサラダだね。
簡単な質問で良かったよ!」

次は私でした。
ドキドキしながら引きました。

「『行ってみたい場所は?』海です!」

更に殿下の番でした。

「『今までに一番驚いたことは』木登りする貴族令嬢。」

私の方を見ながら笑いながら言われました。

「そ…それは忘れてください…。」

アンドリュー様は引いた紙を見て真っ赤になってしまいました。

「これ…パスって無いの!?パスは!無理だよ!拒否する!」

「え?じゃあ王子命令で拒否は認めないって言ったら?」

殿下が意地悪を言いました。

「無理ぃぃいいい!!!」

アンドリュー様は部屋から飛び出して行ってしまいました。

隣のバーバラ先生が、アンドリュー様が落としていった紙片を拾ってみました。

「なるほどね…。」

「何々?」

殿下も覗き込み、言いました。

「…可愛いねぇ~。」

そしてバーバラ先生は、ポケットにしまってしまいました。

「さて私ね!『いつまでに結婚したい?』アハハ!私は既に結婚しているからねぇ!」

「え!?バーバラ先生、結婚しているのですか?!」

驚いて聞いてしまいました。

「なぁに!?私が結婚していたら変かしら?!
しているわよ~13歳の時に。」

「えぇ~!?13歳?!誰と?!」

「アルフレッド様の家…公爵家の執事よ…。あの頃はまだ見習いだったけど。」

そう言って遠い目をしていらっしゃいました。

「さあ!次よ!次は誰!?」

最後はアルフレッド様でした。

「『好みのタイプは?』…好みのタイプ…一緒にいると、笑顔になれる人が良いなぁ…。
マリーナは結局のところ、どういう人がタイプなの?」

何を思ったか、アルフレッド様が話を振ってきました。

「私は…私を束縛することなく、一個人を認めてくれ、そして一緒に笑って暮らせる人が好いですね…。
大したことない伯爵家とはいえ、貴族の娘にロクに自由なんて無いのは分かっていますけどね…。
少なくともうちの両親たちのように、人を意志も何もない道具のように扱う人たちは嫌ですね…。」

「だったらやっぱり私と結婚しない?私は君の意志を無視するような事はしないよ?
そりゃあ時には、君の希望通りに出来ない時もあるかもしれない。
それでも出来る限りは努力するよ?」

「私は…そこまでレイモンド様の事を知らないので…。」

「…そうだね…先ずは知ってもらうように努力するよ。」

静まり返ったところでバーバラ先生が手を打ちました。

「はい!ここまで!折角のマリーナちゃんのお誕生日なのよ!
ではマリーナちゃん、11歳になりました!
なりました!12歳までにやりたいことは!?」

「もっと服が作りたいです!今回のドレスも自分でデザインして自分で作ったんですよ!」

「そのドレス素敵ね!それってもう少し大人向けに…私向けに作ってもらう事って可能かしら?
勿論、材料費とかお礼は出すわよ?」

「時間さえあれば!
でもその前にこれ、まだ完成ではないんですよ。
試作品なんです。
なのでバーバラ先生の意向とか聞いたうえで、これとそっくり…でも良いですけど、出来ればもっと良くしたいので、更に改良するものでも良ければ!」

「では明日の授業の後にでも、相談しましょう!」

こうして11歳の私の誕生日は、初めて人に祝ってもらった、思い出に残る誕生日になりました。
それにバーバラ先生とのこの話が、私の夢の一つに繋がるなんて、思ってもみませんでした。
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