私は逃げます

恵葉

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レイモンドの思惑

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マリーナ嬢と知り合った時、弟と同じ歳という事もあり、正直言って、弟の相手候補くらいにしか思っていなかった。
弟が気に入っている相手のようでもあったので、興味が湧いて、近付いたに過ぎない。
その後も、弟との間を取り持ってあげようかと、彼女に接触する事が多かった。

しかし、彼女は実に興味深い子だった。

見た目も、普通の10歳くらいの女の子だったら、ピンクを筆頭に、可愛いドレスを好むものだと思う。
ところが彼女は、何故か茶会へ脱走目的に来ているのか?と思うような、周囲の木々に紛れそうな、可愛いとは異なるドレスを着てきたりしている。
しかも木登りを前提にしたような登る時に邪魔にならないように考えられたドレスを着ていたり。

ハッキリ言って興味深いというよりも、本音を言ってしまえば面白い。

どうも貴族の社交とかが苦手な様で、そこから逃げ出したいという様子が伺えるのだが、社交が苦手なものは、普通は壁際とか目立たないように静かに振る舞うものだと思う。
でも彼女は、目立たないように振る舞うだけに留まらず、どの場から逃げ出そうとするのだ。
非常に行動的なのである。

少し脳筋的な子供なのかなと思ってもみたが、同じくらいの歳の子たちと比較して、かなり賢い方なのではとも感じた。
それに気づいた頃には、弟には申し訳ないが、弟の相手としてというよりも、私自身が完全に興味を持ってしまっていた。

10歳ではあるが、身長は既に私と同じ歳のご令嬢方と同じくらいあるように見える。
顔はまだ幼さが残ってはいるが、話す内容とか、時々10歳児とは思えない事をいうので、そんな時は、それこそ私とロクに歳が変わらないようにも見える。

そして途中までは本当に純粋に好奇心だけだった。
ところが、王宮での茶会で、彼女が殿下たちに捕まった事件があった時に、違う感情に気が付いてしまった。
「取られたくない」って思う自分が居た。

そうではなくても彼女は、マスターソン公爵家の次男と仲が良さそうで、実は二人は婚約をしようとしていたらしい。
マスターソン家のアルフレッドが、公爵を説得する前に、我が家が先にマリーナ嬢との婚約話を申し入れてしまったため、彼らは婚約は出来なかった。
いや、こちらを断れば出来たはずだが、こちらもそんな簡単に諦められず、結論を出すのを一年、先送りしてもらった。

その一年間の間に、私はマリーナ嬢に振り向いてもらわなければ行けないわけである。



そんな折、珍しく、アルフレッドから連絡がきた。
待ち合わせて会ってみると、来月がマリーナ嬢の誕生日という事は知っていたが、当然、実家でパーティーなどを開くと思っていたが、実は何も無いらしい。
マリーナ嬢は、生まれてこの方、パーティーとかを開いてもらったことが無いらしい。
それでアルフレッドは、今、マリーナが預けられている、公爵家別邸でパーティーを開いてはどうかと提案したそうだが、マリーナから断られてしまったらしい。

そこでアルフレッドは、別邸の使用人たちに協力をしてもらって、サプライズパーティーをしないかと声を掛けてきたのだ。


マリーナの誕生日までは、もう三週間くらいしか無い。
大きなパーティーは難しいが、そもそもパーティー事態を遠慮したマリーナの事だから、大勢が集まるようなパーティーは、喜ばないかもしれないので、ちょうど良いかとこちらに都合よく考えた。
私とアルフレッド、パーバラ先生、他に数人の彼女の交友関係を招いて、こじんまりとやろうという事になった。
仕方ない、ここはアンドリューにも声を掛けてあげよう…。


私たちは、バーバラ先生に相談した。
そして使用人たちに協力を仰ぐ間、バーバラ先生に、マリーナを連れ出してもらうことになった。
バーバラ先生の知り合いがやっているというドレスショップへ、勉強を兼ねて行ってもらうという口実だ。
ドレスにも流行というものがある。
とはいえ、例えば茶会では、やたらと宝石類の装飾がついていては宜しくないとか、守らなければいけない決まりごとのようなものもあるらしい。
それらを実践で学ぶためにという事だ。

彼女たちが留守をしている間に、アルフレッドと私は、公爵家別邸の使用人たちに集まってもらった。
と言っても、そこは公爵家別邸なので、仕切るのはアルフレッドだ。
ただし我が侯爵家からも人を出しているので、私も一緒にというわけである。
皆にもアイディアを出してもらい、その日は午前中から私とアルフレッドが交代で一日中、マリーナを連れ出し、その間に料理や飾りつけを使用人たちにやってもらおうという事になった。
そして夕方に邸へ戻り、サプライズパーティーというわけだ。

時間も無いので、飾りつけと料理については、使用人たちに全面的に任せることになった。

誰を呼ぶかについては、近日中に決めて、ハッキリし次第、アルフレッドか私が、邸へマリーナに会いに行く際に、伝えることになった。


そして…私はマリーナの誕生日プレゼントも考えなければならない。
彼女が受け取るのを躊躇することなく受け取ってもらえるもの。
それでいて特別なものにしたい。

帰宅後、母上に相談してみた。
アンジェリカには相談したくない。
タイプが全く違うし、何より、どうやらアンジェリカはマリーナの事を嫌っているらしい。
なのでマリーナについての相談相手としては、アンジェリカは信用できないのである。

母からは、日も無いので、先ずは何をプレゼントするのかを決め、その上で特別なものを探しに店へ行きなさいと言われた。

色々悩んで、本当はアクセサリーーにしたいけど、それを喜ぶとも思えないし、ソーイングボックスにすることにした。
ただし普通のソーイングボックスではなく、凝ったデザインに、宝石で飾られたもので、中身も流石にハサミは縁起を考えて、自分で買ってね!という事にしたけど、一番は、ペンダントタイプのルーペである。
本当は直径10センチくらいのにしたかったけど、それでは大きすぎて、普段から持ち歩いて使ってもらうのが、難しくなってしまうため、楕円型で、5㎝くらいの長さのものを作ってもらうことにした。
レンズを前後で透かし彫りのカバーで挟むようにしてもらうつもりです。
透かし彫りの柄は、古代の遺跡にみるような、一本のロープで描いたような柄で、始まりと終わりが無い柄…永遠を意味して送ろうと思います。
永遠に…一緒に居られるように思いを込めて…母には「重い!」って言われたけど…。
良いじゃないか!私はアルフレッドよりも出遅れているっぽいんだから!
この際、願掛けでも何でも使いますよ!
それに小さな宝石をちりばめようと思う。

他に刺繍枠や刺繍のセット等を入れておくつもりです。
あ、それに白いハンカチも入れておこうかな…まずはそのハンカチに、私のために何か刺繍を刺してって…。

所でマリーナは、刺繍って刺せるのかな?刺せるよね?洋服を作れるくらいなんだから!

後は他に彼女が喜びそうな本を見つけられたら一緒にと考えています。





彼女のプレゼントの手配も無事に終わった。

特別なものをと考えたため、我が家の出入りの宝飾店へ、作ってくれるように頼んだ。

ソーイングボックスのデザインも、店員に相談しながら、私が考えた。
ペンダントタイプのルーペとお揃いのデザインである。
周囲を始まりと終わりのない紐が絡み合って柄を描いて囲み、中央には彼女の好きな、犬やウサギなどの動物を描いてもらうことにした。
それに宝石をちりばめるようにした。
出来上がったものを見た母は、額に手を当てて、首を振っていたけど…何故なんだ???


アンドリューは抱えるほどの花束と、並ばないと買えないお菓子を朝から並んで買うつもりらしい。
まあ…アンドリューは大丈夫だな…。

私も内緒にしているが、アルフレッドも何を送るのか、教えてくれない。
何を選んだのかが気になる…。



そうこうしているうちに、明日はいよいよマリーナの誕生日という日がやってきた。
予定では、くじ引きで買ったアルフレッドが、午前中から昼にかけて、遅めの朝食と早めの昼食を兼ねた食事に誘い、最近出来たばかりで人気の、大きな公園の中央にある池の畔のカフェへ連れて行くことになっている。
その後ゆっくり公園を散策し、夕方までに邸へ戻り、サプライズパーティーというわけである。

が!前日になって、別のサプライズが待っていた!
アルフレッドから緊急連絡が入り、何かと思ったら、何と!誕生日当日、昼前から、マリーナが王宮に呼び出されたというのだ…。
いつもの茶会…。
何でよりによってその日に!
今回の茶会の主催は誰なのだろう?王妃様?それとも殿下たちなのか?

「どうしよう?!」と焦るアルフレッドに、私は従者としてついて行くように言った。
茶会会場までは無理かもしれないが…でも公爵子息を馬車で待たせるなんてという事で、茶会会場までついて行けるかも?…いずれにしても、夕方からのサプライズパーティーまでには連れ戻してほしい!
折角の誕生日パーティーなのに、暗雲が立ち込めているように思えてきた…。
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