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籠城 前編
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王宮での茶会からアルに別邸へ送ってもらうと、手紙が届いておりました。
スチュアート家からの手紙だったので、レイかなと思っておりました。
着替えて一人になった部屋でソファに腰を下ろし、封を切ると、レイからではありませんでした。
何と、侯爵ご当主からでした。
アンジェリカ様の事だったらもう忘れたいからどうでも良いんだけどな…とか思いながら、読み始めました。
マリーナ嬢
その節は、我が娘が大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳なかった。
既に申し上げているが、伯爵家への賠償金とは別に、もしも君が何か望むことがあれば、出来る限り沿うようにしたいと思う。
そして君にこんな事を頼める立場にはないのだが、お願いしたいことがあり、こうして手紙を書いている。
レイモンドの事なのだが、あれ以来、少し人が変わったようになってしまい。
家族全員、心配し、あれこれ手を尽くしているものの改善されず。
もしも可能であれば、一度、あれに会いに来てもらえないだろうか。
レイモンドの様子がおかしいらしい…。
確かに私も気になってはいました。
でもどう接したら良いかもわからなくて困ってしまいました。
おかしいっていっても、どうおかしいのかな。
アルに相談したくても、今は一緒に暮らしていないから、毎日顔を合わせる事は無いし。
それにアルは留学のための試験の勉強で忙しいと思うし。
いや、それは私もだけど。
私は年齢的にも試験内容的にも、初等過程終了資格があるかどうかと、中等課程のレベルがどのあたりかだけだから、しかも中身23歳で前世で普通に小中高さらに専門も出ている私には、この世界の初等レベルは正直言って楽勝…。
中等も最初からではなくて、途中から入れるのではないかと思っている。
アルの方が中等課程修了資格が取れるのか、それとも中等の途中からになるのか、途中からの場合、どこからになるのか、難しそうで…。
それを考えてもアルは巻き込めないかなと。
中身23歳のお姉さんとしては、15歳の少年があまりにも色々な事があって、ショックを受けてしまったのを、出来る事なら何とかしてあげたい…。
これは…会いに行くか…。
というわけで、翌日、侯爵家ご当主へ、レイに会いに行きたいのでと、ご都合を教えていただけないかと返事を出しました。
返事を出したら、即日、連絡というか、侯爵家の執事さんがいらっしゃいました。
「ご当主からのお返事を預かってまいりまして、出来ましたら今、ご確認の上、口頭で結構ですので、私にお返事をいただければと思います。」
それによると、可能だったらこのまま執事と一緒に来て欲しいと。
難しい場合は都合の良い日をいつでも良いので教えて欲しいとの事でした。
今日はもう特に予定も無いので、レイモンドに会うのは、一日も早い方が良いだろうと思い、すぐに会いに行くことにしました。
身支度をしてくるので、待っていてくださるように伝え、更に侯爵家別邸の侍女さん一人、一緒に来てもらうようにしました。
それに別邸の執事さんにもその旨を伝え、思い立ったが吉日で、スチュアート家の執事さんに同行しました。
侯爵家の馬車に揺られながら、侯爵家の執事さんに、レイの事について、尋ねました。
「レイが公爵家別邸を去ってから、連絡を取れていなかったのですが、その間、彼はどうだったのですか?」
「…私がお答えするわけにもいかないのですが、とにかく今の若様は…部屋からも出てこなくなってしまいまして…。食べる物もあまり食べて頂けず…。このままではお命にもと、使用人一同心を痛めておりまして…。」
「今ってどなたか、お目にかかれているのですか?」
「お部屋の中へ入れるのはアンドリュー様だけです…。
他の誰もお部屋の中へは入れず…アンドリュー様も毎日入れるわけでは無く、一日か二日に1回、お食事を運べるだけなのです。
お顔も見られるわけでは無く、頭からシーツを被ってしまっていて、鍵を開けて一人入れる程度の隙間を開けて下さるだけで。
一度、旦那様が強行突入しようとしたのですが、そうしましたらアンドリュー様でさえも一週間、入れなくなりまして…。」
執事さんは涙を流しながら、話してくれました。
きっと今日は会えないだろうな、声も聞けないだろうなと思いながら、向かいました。
やがて馬車は侯爵邸に到着すると、アンドリュー様が疲れきった顔で出迎えてくれました。
「姉様があんな事を仕出かして、謝っても謝りきれないのに、今度は兄様の事まで申し訳無い…。」
「あなたは私を助けてくれたでしょ。
それにアンジェリカ様の事は、あなたのせいではないわ。
レイも私は彼に恩もあるのだから、当然よ。」
「本当に…ありがとう…。もう君しか兄様を助けられる人は思い浮かばないんだ…。
父様はさっきまで君を待っていたんだが、急な王宮からの呼び出しで、君に直接会えずに申し訳無いと言っていたよ。」
「正直言って、今日一日で何とかなるとは思えないから、侯爵様にはまた改めてお目にかかることになると思うから、気にしないで下さい。」
先ずはお茶をと言われたのですが、私は先ずはレイに会いに行きました。
アンドリュー様が案内してくれまして、私はお茶のワゴンを用意しもらいました。
アンドリュー様がドア越しに声を掛けたのですが、返事はなく。
幾度も幾度もドアを叩き、声を掛け続け、ようやく鍵を開ける音が聞こえたのは一時間以上も経ってからでした。
お茶はもう冷めていました…冷めていたけど…でも…。
「兄上…お茶をお持ちしたので、開けていただけませんか」
アンドリュー様がようやく開いた隙間から声を掛けるも、微かな声で返ってきた言葉は。
「…茶など要らない…。ほっといてくれ…。」
そしてまた閉めようとするのをアンドリュー様が手をかけ、言いました。
「兄上!マリーナ嬢が来ているのです!!!」
閉じようとするのが止まりました。
「リーナが…?」
「はい!兄上に会いたいと、いらしているのです!
どうか少しだけでも会って下さいませんか?!」
「…私はもうリーナには会えない…悪いが帰ってもらってくれ…。」
レイの声は、まるで亡霊か何かのような、声だけでこんなに暗く出来るのだというくらいに暗い声でした。
私はそっとアンドリュー様を退け、ワゴンからトレイを下ろして廊下に直に置き、ドア口のドアの横に座り、ティーポットに茶葉と少々冷めたお湯を入れ、カップにお茶を入れました。
それをそっとドアの隙間から差し出しました。
受取る様子が無いので、そのままソーサーを床に置きました。
そして自分の分もカップにお茶を入れ、飲み始めました。
アンドリュー様には、暫く二人だけにして欲しいとお願いしました。
「レイ…少し冷めているけど、お茶、飲まない?…。何ならケーキもあるよ。」
「私は…リーナに会える立場に無いし、会える状態じゃないんだ…。お願いだから…ほっといてくれないか?」
「レイは…私の事は、嫌いになった?私、もうすっかり傷物だしね。」
敢えて自虐的に言ってみた。
「…リーナは傷物なんかじゃないよ…。」
「世間的には私は傷物だよ…もうすっかり!」
「…ごめん…私が、守れなかったから…。」
「レイは守ってくれたじゃない。だから私は知っての通り、世間的にはどうしようもない傷物だけど、本当は別にそこまで傷付いてはいないよ?」
気が付けばレイもドアに背を付けて座り込んでいるようでした。
膝を抱えて座り込んで、顔を伏せていた。
頭からシーツを被っているし、部屋の中は薄暗いので、レイの様子はあまり分からない。
それでも今日は声が聞けたから、良しというところかな。
「レイ…私、今日はもう帰らなくちゃいけないんだけど、明日また来るから…。
明日は私を部屋に入れてくれる?」
「私の事は気にしなくて良いから…もう来ないで…。」
「…私にはもう会いたくない?私の顔なんて見たくもない?私の事、嫌いになった?
もしそうなら、このドアを開けて、ちゃんと顔を見せて、ちゃんと私の目を見て、そう言って…。
そしたらもう来ないから…。」
見るとドアの隙間の向こうにレイが見えました…シーツを被ったままのレイがこっちを見て…目に涙を溜めて…。
「そんなの…言えるわけないじゃん…リーナの事、好きなんだから…どうしようもなく好きなんだから…。」
「…じゃあ私、明日も来るね!明日はもっと早く鍵を開けてね。」
そう言ってドアの隙間から手を入れて、俯くレイの頭をそっと撫でて、立ち上がった。
「また明日ね…。」
スチュアート家からの手紙だったので、レイかなと思っておりました。
着替えて一人になった部屋でソファに腰を下ろし、封を切ると、レイからではありませんでした。
何と、侯爵ご当主からでした。
アンジェリカ様の事だったらもう忘れたいからどうでも良いんだけどな…とか思いながら、読み始めました。
マリーナ嬢
その節は、我が娘が大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳なかった。
既に申し上げているが、伯爵家への賠償金とは別に、もしも君が何か望むことがあれば、出来る限り沿うようにしたいと思う。
そして君にこんな事を頼める立場にはないのだが、お願いしたいことがあり、こうして手紙を書いている。
レイモンドの事なのだが、あれ以来、少し人が変わったようになってしまい。
家族全員、心配し、あれこれ手を尽くしているものの改善されず。
もしも可能であれば、一度、あれに会いに来てもらえないだろうか。
レイモンドの様子がおかしいらしい…。
確かに私も気になってはいました。
でもどう接したら良いかもわからなくて困ってしまいました。
おかしいっていっても、どうおかしいのかな。
アルに相談したくても、今は一緒に暮らしていないから、毎日顔を合わせる事は無いし。
それにアルは留学のための試験の勉強で忙しいと思うし。
いや、それは私もだけど。
私は年齢的にも試験内容的にも、初等過程終了資格があるかどうかと、中等課程のレベルがどのあたりかだけだから、しかも中身23歳で前世で普通に小中高さらに専門も出ている私には、この世界の初等レベルは正直言って楽勝…。
中等も最初からではなくて、途中から入れるのではないかと思っている。
アルの方が中等課程修了資格が取れるのか、それとも中等の途中からになるのか、途中からの場合、どこからになるのか、難しそうで…。
それを考えてもアルは巻き込めないかなと。
中身23歳のお姉さんとしては、15歳の少年があまりにも色々な事があって、ショックを受けてしまったのを、出来る事なら何とかしてあげたい…。
これは…会いに行くか…。
というわけで、翌日、侯爵家ご当主へ、レイに会いに行きたいのでと、ご都合を教えていただけないかと返事を出しました。
返事を出したら、即日、連絡というか、侯爵家の執事さんがいらっしゃいました。
「ご当主からのお返事を預かってまいりまして、出来ましたら今、ご確認の上、口頭で結構ですので、私にお返事をいただければと思います。」
それによると、可能だったらこのまま執事と一緒に来て欲しいと。
難しい場合は都合の良い日をいつでも良いので教えて欲しいとの事でした。
今日はもう特に予定も無いので、レイモンドに会うのは、一日も早い方が良いだろうと思い、すぐに会いに行くことにしました。
身支度をしてくるので、待っていてくださるように伝え、更に侯爵家別邸の侍女さん一人、一緒に来てもらうようにしました。
それに別邸の執事さんにもその旨を伝え、思い立ったが吉日で、スチュアート家の執事さんに同行しました。
侯爵家の馬車に揺られながら、侯爵家の執事さんに、レイの事について、尋ねました。
「レイが公爵家別邸を去ってから、連絡を取れていなかったのですが、その間、彼はどうだったのですか?」
「…私がお答えするわけにもいかないのですが、とにかく今の若様は…部屋からも出てこなくなってしまいまして…。食べる物もあまり食べて頂けず…。このままではお命にもと、使用人一同心を痛めておりまして…。」
「今ってどなたか、お目にかかれているのですか?」
「お部屋の中へ入れるのはアンドリュー様だけです…。
他の誰もお部屋の中へは入れず…アンドリュー様も毎日入れるわけでは無く、一日か二日に1回、お食事を運べるだけなのです。
お顔も見られるわけでは無く、頭からシーツを被ってしまっていて、鍵を開けて一人入れる程度の隙間を開けて下さるだけで。
一度、旦那様が強行突入しようとしたのですが、そうしましたらアンドリュー様でさえも一週間、入れなくなりまして…。」
執事さんは涙を流しながら、話してくれました。
きっと今日は会えないだろうな、声も聞けないだろうなと思いながら、向かいました。
やがて馬車は侯爵邸に到着すると、アンドリュー様が疲れきった顔で出迎えてくれました。
「姉様があんな事を仕出かして、謝っても謝りきれないのに、今度は兄様の事まで申し訳無い…。」
「あなたは私を助けてくれたでしょ。
それにアンジェリカ様の事は、あなたのせいではないわ。
レイも私は彼に恩もあるのだから、当然よ。」
「本当に…ありがとう…。もう君しか兄様を助けられる人は思い浮かばないんだ…。
父様はさっきまで君を待っていたんだが、急な王宮からの呼び出しで、君に直接会えずに申し訳無いと言っていたよ。」
「正直言って、今日一日で何とかなるとは思えないから、侯爵様にはまた改めてお目にかかることになると思うから、気にしないで下さい。」
先ずはお茶をと言われたのですが、私は先ずはレイに会いに行きました。
アンドリュー様が案内してくれまして、私はお茶のワゴンを用意しもらいました。
アンドリュー様がドア越しに声を掛けたのですが、返事はなく。
幾度も幾度もドアを叩き、声を掛け続け、ようやく鍵を開ける音が聞こえたのは一時間以上も経ってからでした。
お茶はもう冷めていました…冷めていたけど…でも…。
「兄上…お茶をお持ちしたので、開けていただけませんか」
アンドリュー様がようやく開いた隙間から声を掛けるも、微かな声で返ってきた言葉は。
「…茶など要らない…。ほっといてくれ…。」
そしてまた閉めようとするのをアンドリュー様が手をかけ、言いました。
「兄上!マリーナ嬢が来ているのです!!!」
閉じようとするのが止まりました。
「リーナが…?」
「はい!兄上に会いたいと、いらしているのです!
どうか少しだけでも会って下さいませんか?!」
「…私はもうリーナには会えない…悪いが帰ってもらってくれ…。」
レイの声は、まるで亡霊か何かのような、声だけでこんなに暗く出来るのだというくらいに暗い声でした。
私はそっとアンドリュー様を退け、ワゴンからトレイを下ろして廊下に直に置き、ドア口のドアの横に座り、ティーポットに茶葉と少々冷めたお湯を入れ、カップにお茶を入れました。
それをそっとドアの隙間から差し出しました。
受取る様子が無いので、そのままソーサーを床に置きました。
そして自分の分もカップにお茶を入れ、飲み始めました。
アンドリュー様には、暫く二人だけにして欲しいとお願いしました。
「レイ…少し冷めているけど、お茶、飲まない?…。何ならケーキもあるよ。」
「私は…リーナに会える立場に無いし、会える状態じゃないんだ…。お願いだから…ほっといてくれないか?」
「レイは…私の事は、嫌いになった?私、もうすっかり傷物だしね。」
敢えて自虐的に言ってみた。
「…リーナは傷物なんかじゃないよ…。」
「世間的には私は傷物だよ…もうすっかり!」
「…ごめん…私が、守れなかったから…。」
「レイは守ってくれたじゃない。だから私は知っての通り、世間的にはどうしようもない傷物だけど、本当は別にそこまで傷付いてはいないよ?」
気が付けばレイもドアに背を付けて座り込んでいるようでした。
膝を抱えて座り込んで、顔を伏せていた。
頭からシーツを被っているし、部屋の中は薄暗いので、レイの様子はあまり分からない。
それでも今日は声が聞けたから、良しというところかな。
「レイ…私、今日はもう帰らなくちゃいけないんだけど、明日また来るから…。
明日は私を部屋に入れてくれる?」
「私の事は気にしなくて良いから…もう来ないで…。」
「…私にはもう会いたくない?私の顔なんて見たくもない?私の事、嫌いになった?
もしそうなら、このドアを開けて、ちゃんと顔を見せて、ちゃんと私の目を見て、そう言って…。
そしたらもう来ないから…。」
見るとドアの隙間の向こうにレイが見えました…シーツを被ったままのレイがこっちを見て…目に涙を溜めて…。
「そんなの…言えるわけないじゃん…リーナの事、好きなんだから…どうしようもなく好きなんだから…。」
「…じゃあ私、明日も来るね!明日はもっと早く鍵を開けてね。」
そう言ってドアの隙間から手を入れて、俯くレイの頭をそっと撫でて、立ち上がった。
「また明日ね…。」
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