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観劇
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何とか大姉さまを追い払い、アルフレッド様と戦略会議を開きました。
どうやら私がカフェへ行ったのは、大きな間違いだったようです。
まだハッキリとは分からないものの、私がレイモンド様とカフェで仲睦まじくしていたという噂により、良くも悪くもそれが私にとっての虫よけになってしまっているわけです。
いや、単なる虫よけだったら有難いですが、アンドリュー様とどうとか、レイモンド様と…は、無いな…ロリコンじゃないだろうし。
そんな話になったら、とっても迷惑です。
それにそれがアルフレッド様との偽装婚約の邪魔になる。
なのでアルフレッド様の方も、家の方の話を進めるという点は意見が一致しました。
まずは問題は、どうやって私との婚約を認めさせるかです。
出会いは姉さまの嫁ぎ先の邸で良いとして。
気が合ってスチュアート家の茶会へ参加も良しとして。
本日はその時に約束した茶会ということで。
「あ、レイモンド様とアンドリュー様、私の計算の速さに驚かれていました…それって不味かったでしょうか?」
「君、計算、早いの?」
「簡単な計算で、桁数の大きくないものだったら、割と得意です…。」
「例えば…じゃあ茶会を開くとして、50人の参加者を予定していて、ケーキは3種類で全部で200個、スコーンは3種類を全部で250個、それぞれ何個ずつ用意すれば良い?」
「ケーキは1種類あたり67個で3種類で201個になりますね。
スコーンは一種類あたり83個で249個になりますね。
でも参加者50人だったら、どちらも種類を増やすか、トータル数を減らした方が良いのでは?余りますよ?」
「へぇ…君、本当に10歳???」
「10歳です…。」
「それでその計算を彼らの目の前でやっちゃったの?」
「やっちゃいました…レイモンド様は興味があるみたいでした…。」
「マリーナ…それ、俺でも家に引き込んだら良いかもって考えるよ…。
まだそれだけでは分からないけど、君、頭の回転が速い可能性があると思うよ。
俺がレイモンド殿だったら、弟の相手にか、場合によっては自分の候補に挙げるかな…。」
「え~と…アルフレッド様!早く偽装婚約出来るように頑張ってください!
真面目にヤバいじゃないですか!私が!」
「良し!こっちも君の頭の良さを持ち出して父上を説得してみるよ。
…後は…既成事実でも作っておくか?」
「え!?き…既成事実?!私まだ10歳ですよ!!!!」
「…君、何を想像しているの?10歳児にそんな…やるわけないでしょ!
例えば君が俺に惚れて、君が俺にキスしてしまったとかさ…そんな程度だよ…。」
「え~!それでも私のファーストキスなのに…。
まあ良いけどね、キスくらいなら…。」
「え!?良いの?!君、本当に10歳?随分と何というか…大人っぽいよね!?」
「…仕方ないなぁ…。」
私は立ち上がってアルフレッド様の所へ行き、いきなり両肩に手を置き、軽く唇を重ねました。
瞬間、アルフレッド様は顔を真っ赤にしてしまいました。
「あれ?何でアルフレッド様の方が真っ赤になってるの?」
言いながら私も少し、頬に熱を感じてしまいました。
「俺…初めてだったのに…。」
「え!?子供の頃とか幼なじみととか無かったの?!」
「分かった、父上には、君に奪われたと言っておくよ…。」
「いやいやいや!それはヤバいでしょ!?普通は男性が責任を取ってってなるでしょ?!」
「…じゃあ俺がロリコンで君を襲ったことにしておくよ…。」
「え!?ロリコンも不味いのでは?」
「…じゃあ…相思相愛?」
「それは嘘っぽいかな…。
ねぇ…冷静に考えると、今のキスだって、目撃者がいるわけでもないし、証拠が無くない?」
「あぁ~確かにそう言われてみれば…。
え!?じゃあ俺のファーストキスは!?責任取ってくれ!」
「それ、10歳児に言う言葉???」
「やはり君が頭がかなり良さそうだという方向で持って行くかな…。
でも一回、人目に付くような場所で、仲睦まじく会っておきたいよね。」
「そうですね~では近々都合も合う時に、一緒にどこかへ出掛けましょう。
明日とか時間、空いていませんか?」
「今日、今からではダメなの?」
「それじゃあ私、どんなビッチよ?!ってなっちゃうじゃないですか!
午前中はレイモンド様と仲睦まじく、午後はアルフレッド様とって…。」
「え!?ビ???何?」
思わず発してしまった前世のそれもスラングに、レイモンド様は反応してしまいました。
そんなの聞き流してくれたら良いのに。
「あ~この世界の言葉ではなかったか…。
どんな尻軽だって意味です。」
「ねえ…君、本当にマリーナ嬢だよね?」
「どういう意味ですか?」
眉間に皺を寄せて聞いてきたレイモンド様に、私も眉間に皺で、聞き返しました。
「君、10歳児っぽくないんだよね…。
言葉遣いもだけど、知識って言うか…10歳児とは思えない…。
本当に君、誰???」
「…私は生まれた時からマリーナですよ…。
でも…確かに誰にも話していない秘密もあります。
ありますけど、そんな誰にも話していないものを、信頼関係も出来ていないアルフレッド様に話すわけないじゃないですか。
話すわけないですが、これだけは言っておきます。
多分、私、アルフレッド様の役に立ちますよ…。
レイモンド様の役にも立てるかもとは思いますが、私は自由が欲しいんです。
誰かに決められて、誰かに縛られる人生なんてごめんなんです。
だから!偽装婚約を申し出てくださったアルフレッド様にだったら、協力しますよ。」
「君さ、近々直接父に会ってみない?その方が説得が早い気がするよ。」
結局、近々直接お会いすることになった。
とはいえ、やはり世間の噂というのもあるので、翌日、一緒に出掛けることになった。
人に邪魔をされずに、多くの目撃者を作れて、ということで、昼の部の観劇へ出掛け、そのままカフェでお茶をするという事になりました。
急だったのですが、そこは流石は公爵家、ボックス席を確保してくださいまして。
アルフレッド様にエスコートしていただいて、劇場へ行きました。
いやぁ~この日も視線が突き刺さって痛かったです。
「あの子って先日、スチュワート侯爵家のレイモンド様と…。」
「それで今日はマスターソン公爵家のアルフレッド様?!
あの子は何なの???どこか凄い家のご令嬢なのかな?!」
…貧乏伯爵家の末っ子ですけどね…。
少々変わり者ってだけで…。
「ほらっ!アルフレッド様!私にメロメロって演技してください!見られていますよ!」
「め…メロメロって…わ、分かった…。
俺はロリコン!俺はロリコン!幼女に興奮する…。」
「いやいや!そこの興奮って要らないですから~妹的に可愛くて仕方が無いって顔でもしていてください。」
「えぇ~可愛くて仕方ないって…う~ん…じゃあはい!ここ座って!」
ボックス席の二人掛けのソファで、何故かアルフレッドは真ん中に座って両手を広げられました。
まあ話題作りのためには良いかと思いまして。
「じゃあ!」
と言って、アルフレッド様の膝の上に座りました。
両手を広げられたから座ったのに…何か固まっている?!
「え~と…どうしました?アルフレッド様?」
「…いや…俺、妹とか居ないから、何か…よくわからなくて…。
何か…柔らかいし、良い匂いするなぁって思って…ちょっとあの…。
あ!頼むから俺の膝の上であんまり動かないで!ちょっと…あの…感じちゃうから…。」
「え!?…え~と…うん、今のは聞かなかったことにしておくよ…。」
何故か二人で赤くなって俯いて、劇の始まるのを待ちました。
周囲から生暖かい目で見られているとも気付かずに…。
劇は、幼少期に母親とは死別し、更に父親の再婚で、再婚相手とその連れ子に苛められ、30以上も歳の離れた高位貴族の愛人として差し出されそうになっていたご令嬢が、家を飛び出し、一人で頑張っているところで、隣国の王族青年と出会い、結ばれるという話でした。
まあ…ベタと言えばベタですが、家族に駒にされそうになっているとか、一人で頑張るとか、刺さるワードもあり、熱中してしまいました。
観劇の後、アルフレッド様が予約していたカフェへ移動しました。
馬車の中でも、私は興奮しまくって喋ってしまいました。
アルフレッド様はいつもとは違って静かだったのですが、微笑みながら聞いてくれていたので、私も深くは考えませんでした。
カフェへ到着し、案内されたのは、二階のテーブルで、二階は全て半個室になっているので、周囲から会話は聞かれる心配は無い。
しかし一階の席から、誰と誰が来ているかは見える。
つまりは仲睦まじい様子を噂に流したい私たちには最適なのである!
さっすがアルフレッド様!よく考えてお店を選んでいらっしゃる!!
「どうする?少し早いけど、ここで晩御飯がてら何か食べる?
それともお茶程度にしておく?」
アルフレッド様が聞いてきた。
「レイモンド様と行った時は、ワンプレートメニューを頼んだのですが、それぞれ違うのを選んで、それをシェアして頂いてしまったのですよ…それでそれが仲良さそうに見られてしまったようなのですが…。」
「あ、じゃあパフェとかオーダーして、あ~ん!とかやっちゃいます?!」
「…?!」
「え!?何でそんな真っ赤な顔になるんですか!?」
「…いや…何となく…。」
「それでもレイモンド様の時よりも仲睦まじく見せようって思ったら、単純にシェアするよりも、食べさせ合った方が、それらしく見えませんか?」
「そ…そう…です…ね?!」
「な…何でそんなカタコトになっているんですか?しかもまた顔が赤いですよ?」
そんな話をしていた時に、店員さんがオーダーを聞きに参りました。
「じゃあ私はイチゴパフェで!それにカフェオレをホットで!」
「じゃあ…俺は…チョコバナナクレープにコーヒーで…。」
アルフレッド様の意向も何もなく、「あ~ん」路線を選択となりました。
美味しそうなパフェとクレープ、そしてコーヒーとカフェオレが運ばれてまいりました。
「じゃあ!早速!アルフレッド様!はい!あーんしてください!」
パフェの上に乗ったイチゴをフォークに刺して、アルフレッド様の口元に差し出しました。
それはもう!面白いくらいに真っ赤になって、口を開けておりました。
「美味しいですか?」
アルフレッド様は、口元を手で覆い隠し、真っ赤なまま、何も言わずに頷いていました。
そして次は、アルフレッド様が、クレープを一口サイズにナイフで切り分けたのを見て、更に調子に乗って言いました。
「アルフレッド様!それ!ほら!私に!あ~ん!」
目を閉じて口を開けてみました。
口に差し込まれたクレープを味わい。
「う~ん!美味しい!!!」
今度はアイスクリームの部分にクリームとイチゴソースを付けて、差し出しました。
「はい!アルフレッド様!あ~ん!美味しいですか?」
嬉しくなって聞きました。
アルフレッド様はコクコクと頷きながら、味わっていました。
そして再びクレープを一口サイズに切り分け、差し出してきたので、目を閉じて口を開けました。
ん?!すぐに口の中に入れてもらえない?!
と思った次の瞬間、唇の端に何か柔らかいものを押し付けられ、驚いて目を開けると、アルフレッド様の顔が目の前に…更に目を見開いた次の瞬間、口の中にクレープを押し込まれました。
瞬間、一階から悲鳴が聞こえてきましたが…悲鳴を遠くに聞きながら、私はパニックになりながら、クレープを咀嚼しておりました。
その後は、アルフレッド様も私も、顔を赤くしたまま、黙々とそれぞれ目の前のものを食べ、アルフレッド様はコーヒーを、私はカフェオレを飲んで、お店を後にしました。
その夜に、あちこちで開かれていた夜会では、アルフレッド様と私の噂が駆け巡っていたとは私たちは知りませんでした。
どうやら私がカフェへ行ったのは、大きな間違いだったようです。
まだハッキリとは分からないものの、私がレイモンド様とカフェで仲睦まじくしていたという噂により、良くも悪くもそれが私にとっての虫よけになってしまっているわけです。
いや、単なる虫よけだったら有難いですが、アンドリュー様とどうとか、レイモンド様と…は、無いな…ロリコンじゃないだろうし。
そんな話になったら、とっても迷惑です。
それにそれがアルフレッド様との偽装婚約の邪魔になる。
なのでアルフレッド様の方も、家の方の話を進めるという点は意見が一致しました。
まずは問題は、どうやって私との婚約を認めさせるかです。
出会いは姉さまの嫁ぎ先の邸で良いとして。
気が合ってスチュアート家の茶会へ参加も良しとして。
本日はその時に約束した茶会ということで。
「あ、レイモンド様とアンドリュー様、私の計算の速さに驚かれていました…それって不味かったでしょうか?」
「君、計算、早いの?」
「簡単な計算で、桁数の大きくないものだったら、割と得意です…。」
「例えば…じゃあ茶会を開くとして、50人の参加者を予定していて、ケーキは3種類で全部で200個、スコーンは3種類を全部で250個、それぞれ何個ずつ用意すれば良い?」
「ケーキは1種類あたり67個で3種類で201個になりますね。
スコーンは一種類あたり83個で249個になりますね。
でも参加者50人だったら、どちらも種類を増やすか、トータル数を減らした方が良いのでは?余りますよ?」
「へぇ…君、本当に10歳???」
「10歳です…。」
「それでその計算を彼らの目の前でやっちゃったの?」
「やっちゃいました…レイモンド様は興味があるみたいでした…。」
「マリーナ…それ、俺でも家に引き込んだら良いかもって考えるよ…。
まだそれだけでは分からないけど、君、頭の回転が速い可能性があると思うよ。
俺がレイモンド殿だったら、弟の相手にか、場合によっては自分の候補に挙げるかな…。」
「え~と…アルフレッド様!早く偽装婚約出来るように頑張ってください!
真面目にヤバいじゃないですか!私が!」
「良し!こっちも君の頭の良さを持ち出して父上を説得してみるよ。
…後は…既成事実でも作っておくか?」
「え!?き…既成事実?!私まだ10歳ですよ!!!!」
「…君、何を想像しているの?10歳児にそんな…やるわけないでしょ!
例えば君が俺に惚れて、君が俺にキスしてしまったとかさ…そんな程度だよ…。」
「え~!それでも私のファーストキスなのに…。
まあ良いけどね、キスくらいなら…。」
「え!?良いの?!君、本当に10歳?随分と何というか…大人っぽいよね!?」
「…仕方ないなぁ…。」
私は立ち上がってアルフレッド様の所へ行き、いきなり両肩に手を置き、軽く唇を重ねました。
瞬間、アルフレッド様は顔を真っ赤にしてしまいました。
「あれ?何でアルフレッド様の方が真っ赤になってるの?」
言いながら私も少し、頬に熱を感じてしまいました。
「俺…初めてだったのに…。」
「え!?子供の頃とか幼なじみととか無かったの?!」
「分かった、父上には、君に奪われたと言っておくよ…。」
「いやいやいや!それはヤバいでしょ!?普通は男性が責任を取ってってなるでしょ?!」
「…じゃあ俺がロリコンで君を襲ったことにしておくよ…。」
「え!?ロリコンも不味いのでは?」
「…じゃあ…相思相愛?」
「それは嘘っぽいかな…。
ねぇ…冷静に考えると、今のキスだって、目撃者がいるわけでもないし、証拠が無くない?」
「あぁ~確かにそう言われてみれば…。
え!?じゃあ俺のファーストキスは!?責任取ってくれ!」
「それ、10歳児に言う言葉???」
「やはり君が頭がかなり良さそうだという方向で持って行くかな…。
でも一回、人目に付くような場所で、仲睦まじく会っておきたいよね。」
「そうですね~では近々都合も合う時に、一緒にどこかへ出掛けましょう。
明日とか時間、空いていませんか?」
「今日、今からではダメなの?」
「それじゃあ私、どんなビッチよ?!ってなっちゃうじゃないですか!
午前中はレイモンド様と仲睦まじく、午後はアルフレッド様とって…。」
「え!?ビ???何?」
思わず発してしまった前世のそれもスラングに、レイモンド様は反応してしまいました。
そんなの聞き流してくれたら良いのに。
「あ~この世界の言葉ではなかったか…。
どんな尻軽だって意味です。」
「ねえ…君、本当にマリーナ嬢だよね?」
「どういう意味ですか?」
眉間に皺を寄せて聞いてきたレイモンド様に、私も眉間に皺で、聞き返しました。
「君、10歳児っぽくないんだよね…。
言葉遣いもだけど、知識って言うか…10歳児とは思えない…。
本当に君、誰???」
「…私は生まれた時からマリーナですよ…。
でも…確かに誰にも話していない秘密もあります。
ありますけど、そんな誰にも話していないものを、信頼関係も出来ていないアルフレッド様に話すわけないじゃないですか。
話すわけないですが、これだけは言っておきます。
多分、私、アルフレッド様の役に立ちますよ…。
レイモンド様の役にも立てるかもとは思いますが、私は自由が欲しいんです。
誰かに決められて、誰かに縛られる人生なんてごめんなんです。
だから!偽装婚約を申し出てくださったアルフレッド様にだったら、協力しますよ。」
「君さ、近々直接父に会ってみない?その方が説得が早い気がするよ。」
結局、近々直接お会いすることになった。
とはいえ、やはり世間の噂というのもあるので、翌日、一緒に出掛けることになった。
人に邪魔をされずに、多くの目撃者を作れて、ということで、昼の部の観劇へ出掛け、そのままカフェでお茶をするという事になりました。
急だったのですが、そこは流石は公爵家、ボックス席を確保してくださいまして。
アルフレッド様にエスコートしていただいて、劇場へ行きました。
いやぁ~この日も視線が突き刺さって痛かったです。
「あの子って先日、スチュワート侯爵家のレイモンド様と…。」
「それで今日はマスターソン公爵家のアルフレッド様?!
あの子は何なの???どこか凄い家のご令嬢なのかな?!」
…貧乏伯爵家の末っ子ですけどね…。
少々変わり者ってだけで…。
「ほらっ!アルフレッド様!私にメロメロって演技してください!見られていますよ!」
「め…メロメロって…わ、分かった…。
俺はロリコン!俺はロリコン!幼女に興奮する…。」
「いやいや!そこの興奮って要らないですから~妹的に可愛くて仕方が無いって顔でもしていてください。」
「えぇ~可愛くて仕方ないって…う~ん…じゃあはい!ここ座って!」
ボックス席の二人掛けのソファで、何故かアルフレッドは真ん中に座って両手を広げられました。
まあ話題作りのためには良いかと思いまして。
「じゃあ!」
と言って、アルフレッド様の膝の上に座りました。
両手を広げられたから座ったのに…何か固まっている?!
「え~と…どうしました?アルフレッド様?」
「…いや…俺、妹とか居ないから、何か…よくわからなくて…。
何か…柔らかいし、良い匂いするなぁって思って…ちょっとあの…。
あ!頼むから俺の膝の上であんまり動かないで!ちょっと…あの…感じちゃうから…。」
「え!?…え~と…うん、今のは聞かなかったことにしておくよ…。」
何故か二人で赤くなって俯いて、劇の始まるのを待ちました。
周囲から生暖かい目で見られているとも気付かずに…。
劇は、幼少期に母親とは死別し、更に父親の再婚で、再婚相手とその連れ子に苛められ、30以上も歳の離れた高位貴族の愛人として差し出されそうになっていたご令嬢が、家を飛び出し、一人で頑張っているところで、隣国の王族青年と出会い、結ばれるという話でした。
まあ…ベタと言えばベタですが、家族に駒にされそうになっているとか、一人で頑張るとか、刺さるワードもあり、熱中してしまいました。
観劇の後、アルフレッド様が予約していたカフェへ移動しました。
馬車の中でも、私は興奮しまくって喋ってしまいました。
アルフレッド様はいつもとは違って静かだったのですが、微笑みながら聞いてくれていたので、私も深くは考えませんでした。
カフェへ到着し、案内されたのは、二階のテーブルで、二階は全て半個室になっているので、周囲から会話は聞かれる心配は無い。
しかし一階の席から、誰と誰が来ているかは見える。
つまりは仲睦まじい様子を噂に流したい私たちには最適なのである!
さっすがアルフレッド様!よく考えてお店を選んでいらっしゃる!!
「どうする?少し早いけど、ここで晩御飯がてら何か食べる?
それともお茶程度にしておく?」
アルフレッド様が聞いてきた。
「レイモンド様と行った時は、ワンプレートメニューを頼んだのですが、それぞれ違うのを選んで、それをシェアして頂いてしまったのですよ…それでそれが仲良さそうに見られてしまったようなのですが…。」
「あ、じゃあパフェとかオーダーして、あ~ん!とかやっちゃいます?!」
「…?!」
「え!?何でそんな真っ赤な顔になるんですか!?」
「…いや…何となく…。」
「それでもレイモンド様の時よりも仲睦まじく見せようって思ったら、単純にシェアするよりも、食べさせ合った方が、それらしく見えませんか?」
「そ…そう…です…ね?!」
「な…何でそんなカタコトになっているんですか?しかもまた顔が赤いですよ?」
そんな話をしていた時に、店員さんがオーダーを聞きに参りました。
「じゃあ私はイチゴパフェで!それにカフェオレをホットで!」
「じゃあ…俺は…チョコバナナクレープにコーヒーで…。」
アルフレッド様の意向も何もなく、「あ~ん」路線を選択となりました。
美味しそうなパフェとクレープ、そしてコーヒーとカフェオレが運ばれてまいりました。
「じゃあ!早速!アルフレッド様!はい!あーんしてください!」
パフェの上に乗ったイチゴをフォークに刺して、アルフレッド様の口元に差し出しました。
それはもう!面白いくらいに真っ赤になって、口を開けておりました。
「美味しいですか?」
アルフレッド様は、口元を手で覆い隠し、真っ赤なまま、何も言わずに頷いていました。
そして次は、アルフレッド様が、クレープを一口サイズにナイフで切り分けたのを見て、更に調子に乗って言いました。
「アルフレッド様!それ!ほら!私に!あ~ん!」
目を閉じて口を開けてみました。
口に差し込まれたクレープを味わい。
「う~ん!美味しい!!!」
今度はアイスクリームの部分にクリームとイチゴソースを付けて、差し出しました。
「はい!アルフレッド様!あ~ん!美味しいですか?」
嬉しくなって聞きました。
アルフレッド様はコクコクと頷きながら、味わっていました。
そして再びクレープを一口サイズに切り分け、差し出してきたので、目を閉じて口を開けました。
ん?!すぐに口の中に入れてもらえない?!
と思った次の瞬間、唇の端に何か柔らかいものを押し付けられ、驚いて目を開けると、アルフレッド様の顔が目の前に…更に目を見開いた次の瞬間、口の中にクレープを押し込まれました。
瞬間、一階から悲鳴が聞こえてきましたが…悲鳴を遠くに聞きながら、私はパニックになりながら、クレープを咀嚼しておりました。
その後は、アルフレッド様も私も、顔を赤くしたまま、黙々とそれぞれ目の前のものを食べ、アルフレッド様はコーヒーを、私はカフェオレを飲んで、お店を後にしました。
その夜に、あちこちで開かれていた夜会では、アルフレッド様と私の噂が駆け巡っていたとは私たちは知りませんでした。
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