私は逃げます

恵葉

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人気のカフェの罠

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侯爵家を訪れた翌々日、再び侯爵家の馬車がお迎えにやってきました。

朝から準備は済ませていたので、馬車が門を入ってきたのを窓から見ると、直ぐに部屋を出て、ホールへ向けて、階段を降りていきました。

私がホールに着くと同時に玄関の扉が開き、レイモンド様が入ってきました。

レイモンド様は、少しだけカジュアルに、濃いモスグリーンのパンツと同色のテーラードのジャケット、そして生成りの綿のシャツという町人の服装でした。
馬車も家紋を隠した外観は地味目な馬車でした…中は豪華でしたけど。

私も街のカフェと聞いていたので、貴族ではなく、裕福なお家のお嬢さん的な、無地の生成りの綿に、レースとフリルがたっぷりのワンピースに、草花柄でノースリーブのオーバーワンピースを羽織り、スカート部分の前ボタンは上1/3だけを留めて、下のワンピースのフリルやレースが見えるようにした。
状況を見て、全て留めれば裾のフリルだけが見えるようになるので、上品にも見えるはず。
アクセサリーは控えめにリバーシブルのチョーカーのみにした。
ワンピースにも使っているレースにサテンリボンを通し、中央にリバーシブルになっているヘッドを下げている。
ヘッドの片側はカメオで、裏返すとシルバーの土台に様々な石で花が描かれている。

レイモンド様がタイ等をしていなかったので、私もヘッドはカメオを表にしました。

時間も限られるので、早速出掛けました。

連れていかれたのは宝飾店でした。

「アクセサリーはアンジェリカは十分持っているし、ハッキリした好みもあるので、自分で選ばせるのが良いだろうと思うのだが、それではサプライズにならないだろう?
それで宝飾をあしらった何か…手鏡とか文具とか置物とか、そういったものはどうだろうと思ったんだ。
でも…どんなものが良いのか、全然!分からなくて…。
それでマリーナに選ぶのを手伝ってもらえたらなと思ったんだ。」

「分かりました!お力になれるように頑張りますね!」

先ずは店内であれこれ見て回りました。

アンジェリカ様の普段の行動等を聞きながら、あれこれ話し合い、最終的に数々の宝石で華やかな装飾のなされたオルゴールとなりました。



包装してお邸へ届けてもらうように手配し、その後はいよいよカフェです!


カフェはとてもお洒落で、若い女性客と、カップルで繁盛していました。

テーブルとイスは、1セット1セット異なったデザインで、まるで家具工房の店舗のようでした。
レイモンド様と私は、通りに面した窓際のテーブルへ案内されました。
10歳児の私が一緒だったからでしょうね、少し可愛らしい系の席でした。

「レイモンド様、申し訳ございません!ご一緒しているのがお子様な私なので、ちょっと私よりの席へ案内されてしまったようです。」

「あはは!気にしなくて良いよ。
アンジェリカを連れて来ようものなら、頼まずともこの席を希望するだろうから!
アンジェリカは普段、大人っぽい恰好をしているのに、家具だけは可愛いものを好むんだよね。

さて!何を頼もうか!?朝食は?食べてきた?」

「いえ、軽くスープを頂いてきただけです。」

「良かった!じゃあここで一緒に少し遅い朝食兼ランチを楽しもう!

何にしようか!?」

レイモンド様と一緒にメニューを広げて顔を突き合わせた。

最終的に二種類に絞り込んだものの、どちらにしようか決めかねていた。

「ん~!!!どうしよう~!」

「悩んでいるの?」

「はい…この2種のキッシュプレートか、2種のパスタプレートで悩んでいて…。」

「じゃあマリーナがキッシュにして、私がパスタにしようか?それでお互いにシェアしてはどうだろう?
悩んでいるのを全部、食べられるよ。」

「良いんですか!?是非!お願いします!」

というわけで、二種類のプレートをオーダーし、シェアすることになりました。

話が聞こえていた店員さんが、最初から分けて持ってきてくださる事になりました。


キッシュのプレートには、きのこのキッシュと、ほうれん草のキッシュ、それにかぼちゃサラダと人参のサラダとカットフルーツが載っていました。
パスタプレートには、ボロネーゼと、チーズのパスタ、それにポテトサラダとカットフルーツが載っていました。

それを元のプレートよりも更に少し大きめのお皿に、カットフルーツだけは両方に同じものが載っているので、そのままに、他の物を全て、半分に分けて盛ってきてくださいました。

「美味しい!これ、凄く美味しいです!きのこのキッシュ、美味しすぎます~!!!」

「パスタも美味しいよ!食べてみて!」

「ホント!凄い美味しいです!!!チーズのパスタ…これ何てお皿を舐めたくなっちゃいますね!
サラダも美味しいです~
素敵なお店へ連れてきてくださってありがとうございます!
本当に幸せです~。」

思わず顔が緩んで笑ってしまいました。
それほど美味しいお店で、また来たいなぁ~。
10歳児一人では来られないけど…大姉さまなら頼めば連れてきてくれるかな。
そんな事を考えながら食べておりました。

美味しい食事のお陰で、話も弾み、あっという間に帰らなければいけない時間になってしまいました。

行きと同じように侯爵家の馬車に乗り、家へ送ってもらいました。
家に着き、馬車から降ろしてもらうと、レイモンド様が何かを手渡してきました。

「今日は本当にお付き合いいただいてありがとう!
とても助かったよ!これは本当にささやかだけど、お礼に受け取ってくれるかな。」

「え!?でも食事をご馳走になったので、それで十分ですよ?」

「食事は私も楽しんだので、君へのお礼にはならないよ。
君にと思って買ったので、是非、受け取って欲しいんだけど?」

「ん…ではありがたく受け取らせていただきます。
本当にありがとうございました。」

時間も無かったので、お互いに引かないという状況になってもねと、受け取ってしまいました。
今度、何かお礼をすれば良いかなと安易に考えておりました。

「では今日はここで」

そう言ってレイモンド様は馬車に乗り、帰っていきました。


家に入ると、侍女がすぐにやってきまして、午後の約束の相手が既に到着していると、応接間に案内されました。


午後は、アルフレッド様と約束していたのでした。
私たちの偽装婚約に持って行くために、先ずは周囲を納得させられるように、私たちの仲を構築することになっていたのでした。
本日の午後は、我が家の庭で、茶会と称した作戦会議を予定していたのでした。

「アルフレッド様、お待たせいたしました。ご案内いたしますね!」

「午前中は出掛けていたんだね?忙しいのにごめんね!」

「いえいえ!知人から頼まれて、お買い物にお付き合いして、その後、人気のカフェとかいうところで朝食兼ランチを頂いてきたんです。」

「え?!え~と…相手は誰か聞いても良いのかな?」

「先日の茶会でご紹介されたレイモンド様ですよ?」

「え!?先日知り合って、もう一緒に出掛けたの?!」

「頼まれたんですよ、人様への贈り物を選ぶのを手伝ってほしいって。」

「ちょ!ちょ!ちょっと待って!レイモンド殿って言ったよね???
どういう仲なの?!」

「どういうも何も、先日、アンドリュー様に誘われてお邸を再訪して。
そうしましたら侯爵夫人とレイモンド様もいらっしゃって。
それでアンドリュー様とレイモンド様と私の三人で、お邸のワンちゃんたちと散々遊んで帰ってきたんです。
その時についでに今日のお手伝いを頼まれただけですよ?」

「…レイモンドから何か言われた?」

「何をですか?あ、大人びてるとか言われたかな、一回だけ。
でも他には特に…。

それに考えてもみて!15歳と10歳児よ!相手にされるわけないでしょ。」

「おれも15歳だけどな…。」

「アルフレッド様の場合は、偽造じゃないですか~私に興味があるとかではないですよね?」

「…まあな…。でも!婚約したら5年は継続って約束だろ!?」

「大丈夫ですよ~心配し過ぎですって!
私にそんな条件の良すぎるお話が、偽造以外にくるわけないじゃないですか~!」

「そうだと良いんだけどな…。」

「え!?何?何かあるの?」

「まあ…お前が偽造ではなくて、思う相手が出来たとか言うんだったら仕方ないけどな…。」

「思う相手?って誰の事ですか?」

「そうか…。まあでも俺たちの計画、急いだほうが良いかもな…。
今日、帰ったら父上に打診してみるよ。」

「え!?こんな会うのはまだ三回目とかいうレベルで良いの!?
納得してもらえるかな?」

「努力するさ…。しかしカフェ…怪しいなぁ~…。」

そんな話をしていると、突然、騒がしくなった。
何だろうと邸の方を見ていると、いつの間に来たのか、大姉さまが来ていました。

「ちょっと!マリーナ!レイモンド様と親しくお付き合いしているって本当なの?!」

離れた場所でも聞こえるくらいの大声で叫ばれました。

「あら!アルフレッド様、いらしていたのですね?!
失礼いたしました!」

「いやそれよりも今の話はどういうことですか?」

「え!?え~と…マリーナ、これはどういうこと?」

「大姉さま、それは後にして、先ずは私とレイモンド様がどうとかいうお話を教えていただけますか?」

「あなた!今日、二人で仲良く宝飾店へ行ったというじゃない!
しかもその後、最近出来た、人気のカフェで、凄い仲睦まじく、料理を仲良く分け合って食べていたって情報が入ってきたのよ!
その噂を聞いた私の友人が、あなたがレイモンド様と婚約したのかって確認に来たのよ!
どうなっているの!?勿論、レイモンド様なら反対はしないわ!
でも本当の所はどうなの?!単なる噂だったら、気を付けないと、あなたに条件の良い婚約話が来なくなるのよ!」

え!?午前中の話が、まだ数時間しか経っていないのに、何で世間を賑わしているの?!
誰に見られた?どこから漏れた?!

焦って言葉を失くした私に、アルフレッド様が、怖そうな笑顔で私に声を掛けてきた。

「マリーナ嬢…その話、もう一度詳しく聞かせてもらって良いかな?
君はさっき、同じ料理を分け合って食べたなんて言っていなかったよね?
他にも何か、隠していることがあるんじゃないのかな?」

ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバいぃぃいいい!!!!
何でこんなことになっているんだ?!

「大姉さま…今日の所は帰っていただけますか?!私、アルフレッド様と話すことがありますので。」

「あなた!アルフレッド様とはどういうご関係なの?!」

「いえ、まだ何の関係もありません。ですから今から話す必要があるのです!
だから今日はお帰りください!!!」


何でカフェでちょっとご一緒しただけで、そんな話になるんだ?!
何か凄い罠にはまった気がする…。






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