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茶会
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アルフレッド様にエスコートされて、急遽出席したスチュアート家の茶会は、10代半ばから30前後までの、お若い方々の茶会でした。
アルフレッド様が10歳児を伴って現れた時、その場は少々ざわつきました。
そりゃそうだわな…そんな10歳児って私くらいだもん。
綺麗なお姉さま方の視線が痛いです。
先ずは主催のスチュアート家のご嫡男であるレイモンド様と、ご息女のアンジェリカ様へご挨拶に向かいました。
私はお二人を存じ上げないので、アルフレッド様の後ろに添え物のように控えました。
「本日はご招待いただき、ありがとうございます。
突然で申し訳ないと思ったのですが、先日、素敵な女性と出会いまして、本日は彼女をエスコートさせていただきました。
ご紹介いたします。フォーサイス伯爵家のご息女、マリーナ嬢です。」
「初めまして。マリーナと申します。」
私は挨拶は最低限、されど出来る限り丁寧にカーテシーをして、頭を下げました。
「これはご丁寧に…。スチュアート家のレイモンドです。これは妹のアンジェリカです。
他にももう一人弟がいるのだが、本日は…私やアンジェリカと歳の近いものが多い故、弟は参加していないのだが、マリーナ嬢のお相手に呼んでこようか?きっと君と歳が近いと思うのだが?」
「お心遣い、ありがとうございます。しかし本日はマリーナは僕の傍に居ますから大丈夫です。
ね!マリーナ!」
「はい。どうか私の事はお気遣いなく。」
そもそもアルフレッド様の虫除けの為の私です。
虫除けは、常に主の傍に居なくてはなのですわ。
そんな事を心の中で思っていました。
が!突き刺すような視線を寄越してくださっていたアンジェリカ様に通じるわけもなく。
「ちょっと!すぐにアンドリューを呼んできて!マリーナさんのお相手をするように言ってちょうだい!」
止める間もなく執事に言ってしまいました…。
そしてアルフレッド様の腕にあっという間に腕を絡めると、引き摺るように他のお客様の方へ行ってしまいました。
いや!凄いです!貴族令嬢って私が思っていたのと違う!
ん?!大姉さまを思えば、そんなものなのか?!私には無理だわ!10年経ってもあんな風にはなれない!
まあ良いや、今日はアルフレッド様が10歳児をエスコートして連れてきたという話題を世間にばら撒いただけでも良しとしよう!
そこへ残されたレイモンド様と私ですが、何を話して良いのか悩んでいる様子のレイモンド様へ、助け船を出しました。
「行ってしまわれましたね…。でもどうか私の事はお気遣いなく。
宜しければ綺麗なお庭を拝見させていただいて宜しいですか?
どなたかご案内頂ける侍女の方でもお借り頂けないでしょうか?」
「君は…随分と大人びた子のようだね?うちの弟とは大違いだ…。
折角だから、僕が案内しようか?」
「いえいえ!滅相もございません。
レイモンド様が席を外されては、他のお客様が寂しく思われてしまいますから!
どうか侍女をお一人お借りさせてくださいまし。」
そんな話をしていると、見たことのある少年が走ってきた。
あ…ミシェリーナ様が追いかけていたアンドリュー様だ…そうか、レイモンド様の弟君だったんだ…。
うわぁ~面倒くさい!
「兄上、どなたかのお相手をと言われて参りましたが…。」
私の方をチラチラ見ながら言った。
どなたかも何も、どう見ても私しかそれらしい“子供”って居ないし…。
でもお願いだからほっといてくれないかなぁ?!
私、貴族の皆様の人間関係に足を突っ込みたくないんですよね…今日の事があのミシェリーナの耳に入ったら、また私が嫌がらせをされるじゃない。
次は記憶喪失では済まないかもしれないし…。
「こちらのマリーナ嬢のお相手をと思ったんだが…。」
「あの…本当にどうかお気遣い無用ですので…何でしたら番犬の一頭もお借りできれば、散歩でもしてきますので…。」
ついに侍女を借りるのは諦めて、番犬をと申し出てみた。
「兄上はお客様のお相手がありますから!ここは私が庭でもどこでも案内させていただきます!」
あぁ~もう駄目だ…静かに時間をやり過ごしたかったけど…。
「…では、アルフレッド様に、アンドリュー様にお庭をご案内頂いている事と、お帰りの際には必ずお声をおかけくださるように伝えて頂けますか?」
諦めて折れました…。
案内されるままに大人しく歩いていると、とても美しいバラ園へたどり着きました。
「とても素敵なバラ園ですね!」
思わず声を掛けると、何故か顔を背けて言われました。
「祖父が祖母の為に作ったバラ園なんです…。祖父と祖母はとても仲が良くて…。」
「こんなに素敵なバラ園を作っていただけるほど思われて、お祖母様はとても素敵な方なのでしょうね。
そしてお祖父様もとてもお優しい方なのでしょうね。」
「そうなんです!私たち孫の事も、とても可愛がってくださって。
私もいずれ、祖父母の様に歳を取れたらと…。」
急に熱を込めてこちらを見つめて言われたが、きっとお祖父様、お祖母様想いな孫なのでしょうね。
そう思って微笑み返した。
「あの!アルフレッド様とはどういったご関係なのですか?!」
「ん?アルフレッド様とは…え~と…姉の嫁ぎ先の侯爵家で出会いまして…。
親切にしていただいておりますが?」
流石にまだ親にも言っていない、私とアルフレッド様が婚約(虫除けのため)しようとしているなんて、ここで言うわけにもいかない。
なので無難な事だけ言っておいた。
「あの!マリーナ嬢のお好きなものは何ですか?!」
何だか前のめりに聞いてきました。
「そうですねぇ~綺麗なお花は好きですね。
それに絵画を見る事とか、音楽を聴くことも好きです。
本を読むことも大好きですね。
そしてお洋服が大好きです。」
「ドレスですか?!では今度、プレゼントさせていただきますね!」
「あ!違うんです!ドレスは…勿論、着るのも好きですが、お洋服も“見るのが”好きなんです…。
それで色々なデザインを考えるのが好きなのです。
と言っても普段、ドレスを作る時は、お母様やお姉様たちに色々と教示をされてしまって、私が作りたいようなデザインでは作らせて頂けないんですけどね…。」
「では!今度、マリーナ嬢が好きなようにデザインして、それを私がプレゼントさせていただくというのは如何でしょう?!」
「それは…とてもありがたいお申し出なのですが、でも紳士がむやみに女性にドレスを贈ってはダメですよ。」
そんな話をしている時でした。
突然、薔薇の生け垣の陰から、アルフレッド様がやってきました。
「探しましたよ!」
「あら!?お帰りですか?ではアンドリュー様、お忙しい中をお相手くださいまして、本当にありがとうございました。」
そう言って頭を下げると、アンドリュー様は焦ったように言った。
「あの!マリーナ嬢さえ良ければ、これから書斎へ行きませんか?マリーナ嬢がご興味を持ちそうな本も沢山あるんです。
帰りは我が家の馬車で送りますから!」
驚いて目を丸くしているアルフレッド様を視界の隅に置きながらも、私は落ち着いて答えました。
「ありがとうございます。でも私は招待された身ではありませんので、これ以上ご迷惑をお掛けしては、家族に叱られてしまいますので。
また改めて機会がございましたら…。
本日は本当に素敵なお庭を拝見させていただきまして、ありがとうございました。」
そう言ってその場を辞しました。
アルフレッド様が少しホッとしたご様子なのも、気が付いてしまいましたが、そもそもは強引に連れてきたのはアルフレッド様ですので、そこは同情は出来ません。
そしてこの時の私は、この日が発端となって、私自身を追い詰めることになるなんて、思ってもみませんでした。
茶会からの帰りの馬車の中で、アルフレッド様と私は、どうやって婚約へ持っていくかを話し合いました。
我が家は問題はありません。
姉たちは既に嫁いでいるので、邪魔に入る事はありません。
それに公爵家から伯爵家への申し出は、伯爵家が断る事は、非常に難しいのです。
なので問題なのは、アルフレッド様がどうやって公爵様や公爵夫人を説得するかです。
ハッキリ言って、我が家には、これといった魅力は全く!微塵も!ありません。
領地が素晴らしいわけでも無ければ、何か素晴らしい商売をしているわけでもなく、王宮で重要なポストについているわけでもありません。
本当に!全く!何も無い家なのです。
そうなると、利害のある政略的な婚約に持っていくのは難しい。
後は恋愛による婚約しかない。
かといって、10歳児に手を付けちゃいました!テヘペロっ!ってわけにもいきません。
10歳児に性欲が湧くのは、ロリコンだけです。
10代半ばにしてロリコンは、声を大にして言える事ではない。
何とかして恋に落ちたふりをしなくてはならない。
それには、お互いに過ごした時間が少なすぎる!
というわけで、何とか適当な理由をでっちあげて、何回か二人でお出かけするのが良いだろうという事になりました。
先ずは今日の茶会で、「どうもあの二人、お互いに興味を持っているのかもしれないぞ?」という噂くらいは立てられたと…思います…多分…アンジェリカ様に拉致られていましたけど…でも多分、大丈夫だよね?
「次回はどうなさいますか?」
「う~ん…人目に付くようにした方が良いよね…。
そうだ!君、犬は好きだよね?我が家へ来て、そのまま一緒に公園へ犬の散歩へ行くのはどうだろう?」
「まあ!犬がいらっしゃいますの?!どんなのを飼っていらっしゃるのですか?!」
「我が家に居るのは、この前、君が一緒に遊んでいた大型犬と同じ種類のが居るのと、それから少し狼に似た感じの、北の方の犬も居るよ。
見た目は怖いけど、実は少し抜けていて、人懐っこくて可愛いよ。」
「それは是非!お会いしたいです!では着替えを持って行った方が良いですよね?!」
「え!?何で???」
「ワンちゃんたちと目一杯遊んだら、汚れるじゃないですか…。」
「え!?君、着替えなくちゃいけないくらいに汚れるほど遊ぶつもりなの?」
「…ダメですか?」
「いや…良いけどね…。」
「あぁ~すごく楽しみです!!!」
というわけで、次回はアルフレッド様のお邸を訪ね、犬の散歩へ行くことに決まった。
日程は後日改めて連絡を貰う事とした。
が…それもいけなかったと気が付くのはまだ先の事…。
帰宅すると、お母様からレイモンド様とアンドリュー様へお礼の手紙を書くように言われました。
招待されたわけでもないのにお伺いし、良くして頂いたので、お礼状を書けというわけである。
まあね…そうだよね…呼ばれていないのについて行っちゃったんだもん…強引に連れていかれたともいうけど。
お礼状を書くと、お母様は、冷やして飲むと、キリっとしたのど越しの白ワインと、爽やかな風味の白ブドウのジュース、それにチーズやドライフルーツを籠に持って、手紙と一緒に送り届けさせていました。
すると翌日、今度はアンドリュー様からお茶のお誘いがありました。
先日の話に上がった書斎を見に来ないかと。
ん?!アンドリュー様って、婚約者はまだいなかったのでしたっけ?
兄さまに聞くと、候補者の名前は何人か耳にしているが、まだ決まったという話は聞かないと言われました。
「間違ってもお前の名前は上がっていないぞ?」
「いやいや!そもそも無理だし…。あんまり目立ちたくないんだよね…。
だいたい私が突き飛ばされた時のだって、多分、アンドリュー様絡みだよ?
あの時、アンドリュー様狙いのご令嬢が多かったんだよね。
なのにどこで間違ったのか、アンドリュー様が私と同じテーブルへ着いてしまって、話しかけられて…。
ご令嬢たちの視線が凄い痛かったの。
それで上手く逃げだしたと思ったら、人の目の無い所で後ろから誰かに突き飛ばされたんだよ…。」
「でも侯爵家からのお誘いを、おいそれと断るわけにはいかないぞ?
まあお前、取り敢えず本だけ見せて頂いて、次からは何とか逃げられるように、迂闊なことはしゃべらない事だな。」
「はぁ~い…気を付けますぅ!」
こうして一週間のうちに、二回目の訪問が決まってしまいました。
でもね!本を見せて頂くだけだし!間違えても借りるとかしないように気を付けよう!って思っておりました。
アルフレッド様が10歳児を伴って現れた時、その場は少々ざわつきました。
そりゃそうだわな…そんな10歳児って私くらいだもん。
綺麗なお姉さま方の視線が痛いです。
先ずは主催のスチュアート家のご嫡男であるレイモンド様と、ご息女のアンジェリカ様へご挨拶に向かいました。
私はお二人を存じ上げないので、アルフレッド様の後ろに添え物のように控えました。
「本日はご招待いただき、ありがとうございます。
突然で申し訳ないと思ったのですが、先日、素敵な女性と出会いまして、本日は彼女をエスコートさせていただきました。
ご紹介いたします。フォーサイス伯爵家のご息女、マリーナ嬢です。」
「初めまして。マリーナと申します。」
私は挨拶は最低限、されど出来る限り丁寧にカーテシーをして、頭を下げました。
「これはご丁寧に…。スチュアート家のレイモンドです。これは妹のアンジェリカです。
他にももう一人弟がいるのだが、本日は…私やアンジェリカと歳の近いものが多い故、弟は参加していないのだが、マリーナ嬢のお相手に呼んでこようか?きっと君と歳が近いと思うのだが?」
「お心遣い、ありがとうございます。しかし本日はマリーナは僕の傍に居ますから大丈夫です。
ね!マリーナ!」
「はい。どうか私の事はお気遣いなく。」
そもそもアルフレッド様の虫除けの為の私です。
虫除けは、常に主の傍に居なくてはなのですわ。
そんな事を心の中で思っていました。
が!突き刺すような視線を寄越してくださっていたアンジェリカ様に通じるわけもなく。
「ちょっと!すぐにアンドリューを呼んできて!マリーナさんのお相手をするように言ってちょうだい!」
止める間もなく執事に言ってしまいました…。
そしてアルフレッド様の腕にあっという間に腕を絡めると、引き摺るように他のお客様の方へ行ってしまいました。
いや!凄いです!貴族令嬢って私が思っていたのと違う!
ん?!大姉さまを思えば、そんなものなのか?!私には無理だわ!10年経ってもあんな風にはなれない!
まあ良いや、今日はアルフレッド様が10歳児をエスコートして連れてきたという話題を世間にばら撒いただけでも良しとしよう!
そこへ残されたレイモンド様と私ですが、何を話して良いのか悩んでいる様子のレイモンド様へ、助け船を出しました。
「行ってしまわれましたね…。でもどうか私の事はお気遣いなく。
宜しければ綺麗なお庭を拝見させていただいて宜しいですか?
どなたかご案内頂ける侍女の方でもお借り頂けないでしょうか?」
「君は…随分と大人びた子のようだね?うちの弟とは大違いだ…。
折角だから、僕が案内しようか?」
「いえいえ!滅相もございません。
レイモンド様が席を外されては、他のお客様が寂しく思われてしまいますから!
どうか侍女をお一人お借りさせてくださいまし。」
そんな話をしていると、見たことのある少年が走ってきた。
あ…ミシェリーナ様が追いかけていたアンドリュー様だ…そうか、レイモンド様の弟君だったんだ…。
うわぁ~面倒くさい!
「兄上、どなたかのお相手をと言われて参りましたが…。」
私の方をチラチラ見ながら言った。
どなたかも何も、どう見ても私しかそれらしい“子供”って居ないし…。
でもお願いだからほっといてくれないかなぁ?!
私、貴族の皆様の人間関係に足を突っ込みたくないんですよね…今日の事があのミシェリーナの耳に入ったら、また私が嫌がらせをされるじゃない。
次は記憶喪失では済まないかもしれないし…。
「こちらのマリーナ嬢のお相手をと思ったんだが…。」
「あの…本当にどうかお気遣い無用ですので…何でしたら番犬の一頭もお借りできれば、散歩でもしてきますので…。」
ついに侍女を借りるのは諦めて、番犬をと申し出てみた。
「兄上はお客様のお相手がありますから!ここは私が庭でもどこでも案内させていただきます!」
あぁ~もう駄目だ…静かに時間をやり過ごしたかったけど…。
「…では、アルフレッド様に、アンドリュー様にお庭をご案内頂いている事と、お帰りの際には必ずお声をおかけくださるように伝えて頂けますか?」
諦めて折れました…。
案内されるままに大人しく歩いていると、とても美しいバラ園へたどり着きました。
「とても素敵なバラ園ですね!」
思わず声を掛けると、何故か顔を背けて言われました。
「祖父が祖母の為に作ったバラ園なんです…。祖父と祖母はとても仲が良くて…。」
「こんなに素敵なバラ園を作っていただけるほど思われて、お祖母様はとても素敵な方なのでしょうね。
そしてお祖父様もとてもお優しい方なのでしょうね。」
「そうなんです!私たち孫の事も、とても可愛がってくださって。
私もいずれ、祖父母の様に歳を取れたらと…。」
急に熱を込めてこちらを見つめて言われたが、きっとお祖父様、お祖母様想いな孫なのでしょうね。
そう思って微笑み返した。
「あの!アルフレッド様とはどういったご関係なのですか?!」
「ん?アルフレッド様とは…え~と…姉の嫁ぎ先の侯爵家で出会いまして…。
親切にしていただいておりますが?」
流石にまだ親にも言っていない、私とアルフレッド様が婚約(虫除けのため)しようとしているなんて、ここで言うわけにもいかない。
なので無難な事だけ言っておいた。
「あの!マリーナ嬢のお好きなものは何ですか?!」
何だか前のめりに聞いてきました。
「そうですねぇ~綺麗なお花は好きですね。
それに絵画を見る事とか、音楽を聴くことも好きです。
本を読むことも大好きですね。
そしてお洋服が大好きです。」
「ドレスですか?!では今度、プレゼントさせていただきますね!」
「あ!違うんです!ドレスは…勿論、着るのも好きですが、お洋服も“見るのが”好きなんです…。
それで色々なデザインを考えるのが好きなのです。
と言っても普段、ドレスを作る時は、お母様やお姉様たちに色々と教示をされてしまって、私が作りたいようなデザインでは作らせて頂けないんですけどね…。」
「では!今度、マリーナ嬢が好きなようにデザインして、それを私がプレゼントさせていただくというのは如何でしょう?!」
「それは…とてもありがたいお申し出なのですが、でも紳士がむやみに女性にドレスを贈ってはダメですよ。」
そんな話をしている時でした。
突然、薔薇の生け垣の陰から、アルフレッド様がやってきました。
「探しましたよ!」
「あら!?お帰りですか?ではアンドリュー様、お忙しい中をお相手くださいまして、本当にありがとうございました。」
そう言って頭を下げると、アンドリュー様は焦ったように言った。
「あの!マリーナ嬢さえ良ければ、これから書斎へ行きませんか?マリーナ嬢がご興味を持ちそうな本も沢山あるんです。
帰りは我が家の馬車で送りますから!」
驚いて目を丸くしているアルフレッド様を視界の隅に置きながらも、私は落ち着いて答えました。
「ありがとうございます。でも私は招待された身ではありませんので、これ以上ご迷惑をお掛けしては、家族に叱られてしまいますので。
また改めて機会がございましたら…。
本日は本当に素敵なお庭を拝見させていただきまして、ありがとうございました。」
そう言ってその場を辞しました。
アルフレッド様が少しホッとしたご様子なのも、気が付いてしまいましたが、そもそもは強引に連れてきたのはアルフレッド様ですので、そこは同情は出来ません。
そしてこの時の私は、この日が発端となって、私自身を追い詰めることになるなんて、思ってもみませんでした。
茶会からの帰りの馬車の中で、アルフレッド様と私は、どうやって婚約へ持っていくかを話し合いました。
我が家は問題はありません。
姉たちは既に嫁いでいるので、邪魔に入る事はありません。
それに公爵家から伯爵家への申し出は、伯爵家が断る事は、非常に難しいのです。
なので問題なのは、アルフレッド様がどうやって公爵様や公爵夫人を説得するかです。
ハッキリ言って、我が家には、これといった魅力は全く!微塵も!ありません。
領地が素晴らしいわけでも無ければ、何か素晴らしい商売をしているわけでもなく、王宮で重要なポストについているわけでもありません。
本当に!全く!何も無い家なのです。
そうなると、利害のある政略的な婚約に持っていくのは難しい。
後は恋愛による婚約しかない。
かといって、10歳児に手を付けちゃいました!テヘペロっ!ってわけにもいきません。
10歳児に性欲が湧くのは、ロリコンだけです。
10代半ばにしてロリコンは、声を大にして言える事ではない。
何とかして恋に落ちたふりをしなくてはならない。
それには、お互いに過ごした時間が少なすぎる!
というわけで、何とか適当な理由をでっちあげて、何回か二人でお出かけするのが良いだろうという事になりました。
先ずは今日の茶会で、「どうもあの二人、お互いに興味を持っているのかもしれないぞ?」という噂くらいは立てられたと…思います…多分…アンジェリカ様に拉致られていましたけど…でも多分、大丈夫だよね?
「次回はどうなさいますか?」
「う~ん…人目に付くようにした方が良いよね…。
そうだ!君、犬は好きだよね?我が家へ来て、そのまま一緒に公園へ犬の散歩へ行くのはどうだろう?」
「まあ!犬がいらっしゃいますの?!どんなのを飼っていらっしゃるのですか?!」
「我が家に居るのは、この前、君が一緒に遊んでいた大型犬と同じ種類のが居るのと、それから少し狼に似た感じの、北の方の犬も居るよ。
見た目は怖いけど、実は少し抜けていて、人懐っこくて可愛いよ。」
「それは是非!お会いしたいです!では着替えを持って行った方が良いですよね?!」
「え!?何で???」
「ワンちゃんたちと目一杯遊んだら、汚れるじゃないですか…。」
「え!?君、着替えなくちゃいけないくらいに汚れるほど遊ぶつもりなの?」
「…ダメですか?」
「いや…良いけどね…。」
「あぁ~すごく楽しみです!!!」
というわけで、次回はアルフレッド様のお邸を訪ね、犬の散歩へ行くことに決まった。
日程は後日改めて連絡を貰う事とした。
が…それもいけなかったと気が付くのはまだ先の事…。
帰宅すると、お母様からレイモンド様とアンドリュー様へお礼の手紙を書くように言われました。
招待されたわけでもないのにお伺いし、良くして頂いたので、お礼状を書けというわけである。
まあね…そうだよね…呼ばれていないのについて行っちゃったんだもん…強引に連れていかれたともいうけど。
お礼状を書くと、お母様は、冷やして飲むと、キリっとしたのど越しの白ワインと、爽やかな風味の白ブドウのジュース、それにチーズやドライフルーツを籠に持って、手紙と一緒に送り届けさせていました。
すると翌日、今度はアンドリュー様からお茶のお誘いがありました。
先日の話に上がった書斎を見に来ないかと。
ん?!アンドリュー様って、婚約者はまだいなかったのでしたっけ?
兄さまに聞くと、候補者の名前は何人か耳にしているが、まだ決まったという話は聞かないと言われました。
「間違ってもお前の名前は上がっていないぞ?」
「いやいや!そもそも無理だし…。あんまり目立ちたくないんだよね…。
だいたい私が突き飛ばされた時のだって、多分、アンドリュー様絡みだよ?
あの時、アンドリュー様狙いのご令嬢が多かったんだよね。
なのにどこで間違ったのか、アンドリュー様が私と同じテーブルへ着いてしまって、話しかけられて…。
ご令嬢たちの視線が凄い痛かったの。
それで上手く逃げだしたと思ったら、人の目の無い所で後ろから誰かに突き飛ばされたんだよ…。」
「でも侯爵家からのお誘いを、おいそれと断るわけにはいかないぞ?
まあお前、取り敢えず本だけ見せて頂いて、次からは何とか逃げられるように、迂闊なことはしゃべらない事だな。」
「はぁ~い…気を付けますぅ!」
こうして一週間のうちに、二回目の訪問が決まってしまいました。
でもね!本を見せて頂くだけだし!間違えても借りるとかしないように気を付けよう!って思っておりました。
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