魔王様を拾ったのは

恵葉

文字の大きさ
上 下
17 / 23

クーデターと冤罪

しおりを挟む
暗闇の中、ファルコは火柱の上がっている方へ偵察に行きました。
火柱は魔王城から上がっておりました。
ファルコが可能な限り、近付いて様子を窺うと、魔獣同士、そして魔族同士が戦っておりました。
城の一番高い塔の屋上では、魔王と、魔族の若い青年が戦っていました。
「おのれ!良くも謀りおったな!」
魔王は流石、強い…魔族の青年が、どれだけ切りかかろうとも、魔族の魔法攻撃を仕掛けようとも、魔王は簡単に跳ね返してくる。
しかし青年も、決して弱いわけではない。
何よりも、青年の背後には、よく似た風貌の若い男女がずらりと並んでいる。
一斉攻撃など、多彩な攻撃に、魔王も徐々にではあるが、時々苦戦を強いられ始めていた。

魔王派の魔族や魔獣と、王子派の魔族や魔獣の戦いは、熾烈な争いでした。
あちこちで叫び声や悲鳴が響き渡り、まるで地獄絵図のようでした。

ファルコは、近くの木の上から枝に隠れてその様子をずっと見ておりました。
明け方まで続いた戦いは、再びの大きな爆発が起こり、終焉を迎えました。
『何だ?!何が起きたのだ?』
呟きながら、ファルコはそっと更に城へ近付いた。
そこには、親子で力の限りにぶつかり合ったのであろう、魔王とその子供達が倒れていた。
相打ちだったのだろう、全員が虫の息だった。
ファルコはきびすを返してロンとノエルの元へ飛んだ。

『ヤバいよ!ヤバいよ!魔王城が大変なことになっているよ!』

いつもはクールで、格好いい“鷹!”って感じのファルコが、豆鉄砲を喰らった鳩のような形相で飛び込んで来ました。
鷹が鳩に見えるって…ファルコが間抜けな顔になったのか?私の目が疲れているのか?

焦りまくったファルコが、何が起きたのかを報告していると、ビレトが両目を見開いて叫んだ。
「行かなくちゃ!」
そう言って飛び出していった。
飛び出していくビレトの横顔は、何故か少し嬉しそうに、口角が上がって見えました。
ベネはその後ろ姿を目で追いながら、ビレトが何故、慌てて魔王城へ向かったのか、不思議に思いました。
不思議に思いながらも、深く考えなかった…後から思えば、考えるべきだったのに。

ノエルやベネは、相談し、ベネはビレトを置いて出発すべきだというのを、ノエルは一応、数日は待とうと説得し、その場に留まりました。
そしてファルコを何回か、偵察に行かせていたのですが、ある日、再びファルコが大騒ぎをして戻ってきました。

『ヤバいよ!ヤバいよ!大変だよぉ!魔王軍が攻めてくるよ!!!』
「ごめん…言っていることが良く分からないんだけど…何で攻めてくるの?っていうか、誰を攻めてくるの?」
『ベネやノエルたちを逆賊として攻めてくるんだよ!!!』
「はぁ?!ちょっと本当に意味が分からないんだけど…。」
『ビレトの奴、やりやがった!あいつは魔王の座に就きやがったんだ!』
『何であいつが魔王になるんだよ…一番上の兄が居たはずだろ?!』
ベネも怪訝な顔で聞きました。
『ベネ!お前の両親に対して、兄弟全員でクーデターを起こして、そして…相打ちで全滅したんだ…。
生き残っているのはビレトとベネ、お前だけなんだ…。
ビレトは魔王とその子供たちが相打ちしたところへ駆け込んで、正当な血筋として魔王の座に就いたんだ…。』
『あいつが魔王になったとして、何で俺に軍を差し向けるんだ?
俺は別に魔王の座なんて興味は無ぇ!』
『…クーデターを扇動したのは、お前って事になっている…。』
『はぁ?!何を言っているんだ?!俺は関係無ぇじゃねえか!』
ファルコの説明に、ベネが食って掛かっていた。
「ベネ…嵌められたんだよ…お兄さんたちも嵌められたんだよ、きっと…。
犯人はビレトだよ…。
ベネに帰ろうと言っていたのは、その騒ぎにベネの事も片付けたかったのかもしれないね…それだけが失敗したから、だから逆賊の汚名を着せて、殺そうというのでは?」
『何でだよ!何でなんだよぉ!!!』
ベネは辛そうに叫びました…それでもビレトに対し、兄弟の情があったのかも…。
でも今は落ち込んでいる時ではない。
これからの事を考えなくては…。

「ベネ…これからどうする?魔王軍を迎え撃つ?とりあえず逃げる?」
『…こちらから出向く!それでビレトをぶっ飛ばす!』
「ベネ…ビレトは出てこないと思うよ。
堂々とあなたと戦うような相手なら、そもそもこんな陰謀は企てないわ。
自分の兄弟を利用して両親を殺害とか、相当な腹黒よ?」
『でも!俺は信じられねぇ!そんな奴じゃないんだ!きっと何かわけがある筈だ!』
ベネはどうしてもビレトは悪い奴じゃないと言って聞かず、取り敢えずその場で魔王軍を迎え撃つことになった。
ヒースと私は、魔族と戦うのはかなりの不安があるので…いや私はむしろ、不安しかないくらいだが…ロンの背に乗り、上空へ避難する事になった。
ベネは一人、大きな岩の上に佇み、魔王軍を迎え撃つことに…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...