126 / 155
第3章 緑の色
第121話 行動理念の色
しおりを挟む「ガァアアアッ!」
「くそっ! 立てっ!」
レギナが左腕をつかみ、通路を引きずろうとしているが触れられている部分が神経との接触を拒絶するかのようにして、痛みが肌に突き刺さる。
「アァッッ!」
「このままだと二人とも石の下敷きだぞっ! ここで死にたいのかっ!」
遺跡の振動はさらに激しさを増している。すでに後方の通路には天井から降り注いだ瓦礫で埋め尽くされている。
死にたくない。
こんな終わりかた、認めるものか。
僕は、全力で足掻いて殺されるんだ。
こんな惨めな死に方じゃない。
頭の中ではわかっているはずなのに、体が言うことを聞かない。
「逃げ....ってっ.....」
「断るっ! 意地でも連れ出すぞっ!」
意識が飛びそうになる、その霞んだ視界の奥ではレギナが必死の形相で自分を引きずろうとしている。
もう激痛は、その痛みを通り越して感覚は麻痺している。
足が動かない。
手が動かない。
あの時と一緒だ。
あの時。
あの時。
引きずられながら通路を進む。すでに周りの壁は崩れ、天井も落ち、人が通れる状況ではないというのがわかる。
「もう少しだ、出口が見えてきたぞっ!」
「ハァ.....ハァ.....」
片足だけでも動かす努力をしているが、目の前に見えてきたのは外の光だった。そうだ、まだ間に合う。
あの時とは違う。
「あり....が.....」
「礼は生きてここから出たら....っ!」
出口の一歩手前、突如体が重力に伴って崩れ落ちる。地面に放り出された体を軋む体で起き上がらせた。
いったい何が....
「....くっ」
「レ....ギナ....さんっ」
隣を見ると、先ほどまで自分を運んでいたレギナが自分と同じくして地面にうつ伏せとなって倒れている。だが、自分と違う状況が一つだけあった。
自分の左手に液体のようなものが湿ったものが触れる。
そして、その液体の流れている方向に顔を向けると、そこには頭から血を流し倒れているレギナの姿が目に入った。そばに落ちている大きな石を見て想定するに、頭に当たって気絶したということか。
次の瞬間
目の前にあった出口の光が大きな音を立てて閉ざされた。
脱出不可能。
「く.....そぉっっ!」
全身の痛み、それ以上に目の前の状況に悔しさがこぼれ出た。こんなところで止まってしまった自分に対してだ。
こんなはずじゃなかった。
崩れゆく遺跡の中で考えていた、どこを間違えていたのかを。
いや、そもそもこんな遺跡に彼女を連れてくるんじゃなかった。自分の問題を巻き込ませてしまった。そして、自分が考えた作戦でこんなことになった。
いや、自分の命が大事だから、急いだから、焦ったからこうなったのか。
全部、自分のせいだ。
「レギナさん....っ、レギナさん....っ!」
何度も呼びかけるがレギナは全く動く気配がない。そばに落ちた石をもう一度見返すと、あんな大きさの石が頭に当たってタダで済むわけがない。おそらく、脳に何か重大なダメージが起きている可能性が高い。
下手をすれば命に関わる。
早く、早くここから逃げ出さなくては。
すでに体全身を覆っていた痛みはだいぶ引いてきた。揺れている遺跡の中で彼女を抱えながら出口を探そうとするも周りが暗い上に瓦礫まみれで移動もままならない。
「パレットソードが使えれば.....っ」
腰に下げているパレットソードを抜こうとするも、全くもって抜ける気配がない。しかし、どちらにせよ彼女を抱えたままで二人とも脱出ということ自体が難しい。
次の瞬間。
激しい音がすぐそばで響き、思わず彼女を抱えたまま地面へと転がる。
「ギャァアアアアッッッ!」
突如襲い掛かる下半身の痛み。重いものに潰される、両足の骨が軋み、関節が外れる勢いで強い圧迫感と圧力を感じる。仰向けになった状態で後ろを向くと、下半身の主に腰から先に岩でできた壁が倒れ、それの下敷きになっているのがわかった。
痛みで、思考が鈍る。
なんとか体をそこから抜こうと力を込めるが身体強化術もまともに使えない。しかし、感覚でわかるのは確実に両足は逝ってしまったということだろうか。
「くっ....っ! あぁっっ!」
考えようとするが、全身の痛みが思考を阻害する。どうやって逃げるか、どうやってこの状況を回避するか、全く浮かんでこない。
目の前で全く動かず、先ほどまで自分を引きずってまで脱出させようとした人がいるのにもかかわらずだ。
また守れないのか。
痛みに負けて、自分に負けて、また守れないのか。
いや、違う。今度は、絶対に助ける。
自分も、彼女もだ。
「....っはっ! アァアアアッッッ!」
全身に魔力を流し、体を持ち上げ、下半身にかかった岩を全力でおしのける。そして、足に乗っかった岩はやがてぐらつき、再び大きな音を立てて自分の体の上からどかした。
これである程度動くことができる。
パレットソードを腰から外し、それを杖代わりに匍匐前進で体を引きずりながらレギナの元へと駆け寄る。
「レギナさんっ! レギナさんっ! 聞こえますかっ!?」
レギナの顔に耳を当てるが、かすかに息をしている。胸に手を当てても確かにその鼓動を感じることはできる。しかし、この状態はまずい。
どうする、彼女を抱え逃げる出口はない。それに、自分は両足を負傷して使い物にならない。外にいるサリーたちに助けを求めることもできない。このままいけば二人ともレギナの言っていた通りここが墓場になる。
それはごめんだ。
すると、杖にしていたパレットソードがバランスを崩し、そのまま自分の体ごと倒れてしまう。そのまま地面へと倒れてしまったわけだが、自分の手から何かがこぼれ落ちた。
「これって....」
音のした方へ顔を向けると、そこには暗闇の中、青く光る精霊石が落ちていた。それを手に取ると、わずかに温かい。
またバカなことを考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やめてっ! その人は何も悪くないっ!」
「黙れっ、この使役されて寄生することでしか生きられない、なりそこないがっ!」
「ダメっ! 私たちは何もしてないじゃないっ! どうして....どうして人間ってこんなに勝手なのっ!」
「くっ! 全員、封印の儀式を急げっ!」
「いや....っ、いや....っ」
もう、何も守れないのは
いや....っ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ここかな....?」
パレットソードの鞘を精霊石の光で照らしながら、それぞれの穴を見つめる。サリーの赤い精霊石は六角形をしていて、シルの緑色の精霊石は四角い形をしている。そして、ウィーネの青い精霊石はトランプのダイヤの形をしていて、確かに、パレットソードには当てはまる穴の形が確かにあった。
そこに、そっと嵌めた。
次の瞬間、青の精霊石の輝きが一瞬だけ増し、パレットソードの鞘に電子基板のようにして青い筋が流れ消えた。おそらく、うまく嵌ったのだろう。
「....頼むぞ....」
パレットソードの柄の部分を捻る。まずは、赤い精霊石が光り、そして次にその下にある青い精霊石が光った。
「ウィーネさんっ! 聞こえますかっ!」
(ちょっとっ! 大丈夫っ! なんかものすごい勢いで遺跡が崩れたわよっ!)
次の瞬間、頭が割れる勢いで大声で応答してきたのは間違い無くウィーネの声だった。この状況は、初めてサリーと対話した時と似ている。
「こっちはまだ生きてます。精霊石は無事に回収できたんですが、ここから出られなくなってしまいまして」
(そんなの言われなくてもわかるわよっ! でも....まだここに入ることができないし....)
ウィーネの様子から考えて、おそらくこの遺跡本体が破壊されたとしても、あの入り口にある鳥居をなんとかしなければ中に入れないというわけか。
「ウィーネさん、時間がありません。俺の言うことを落ち着いて聞いてください」
(何よっ! さっさと言ってっ!)
深く息を吸い込み、はっきりと大声で話した。
「俺と、今すぐ契約してくださいっ!」
(....ハァっ!? 何言ってるのよっ! まだ契約の代償も聞いてないにできるわけないでしょっ! ねぇ、あんたひょっとしてバカ? バカでしょっ!)
まぁ、予想通りの反応だ。
しかし、こっちにも返しはある。
「ウィーネさん、言いましたよね? 精霊石を見つけたら、俺と契約してくれるって」
(ウッ....それは....)
「この通り、契約の条件は満たしました。あなたには契約の義務がある」
(そ、それと、これとは....また....っ!)
再び、息を深く吸い込む。
「青の精霊ウンディーネ。契約の条件は満たした、今後は俺の言うことに従い、俺に力を貸せ、違えることは許さない」
(....偉そうなこと言うんじゃないわよっ! あぁっ! わかったっ!)
すると、鞘に嵌った青の魔石に輝き始め、暗い空間を青い光一色で染め始める。すると、先ほどまでビクともしなかったパレットソードが徐々にその箍が外れたかのようにして徐々に抜けるようになる。
(其の契約者よ。その力を持って何を為す)
「自身を救うため、守るため」
(其の契約者よ。守るためには命を惜しむか)
「命は惜しい。だが自分も、周りの人間も俺は守りたい」
(其の契約者よ。守ったその結果が、たとえ正しくなかったとしても。そこに悔いはあるか)
「....自分が一番わかってるのでは?」
(っ! いいとこだったのにっ! わかった、あなたを契約者として、私の力を貸すわっ! その剣をさっさと引き抜きなさいっ!)
パレットソードの剣身が見える、そして白い刃には青い筋が数多に流れ徐々にその形状を変えてゆく。
ふと足元が濡れていると思ったら、それは徐々に足に絡みつき先ほど潰されてダメになったはずの下半身が修復されてゆくの感じる。
(私の力を使うのなら命をかけてでも守りなさいっ! あんたも、守った人も命を落とそうものならば許さないんだからっ!)
「はいっ!」
完全に引き抜いたパレットソードは輝きを増し、そして絡みついていく水と共にその形状を変えていった。
『魔槍 アクアトゥーテラー』
青い筋を幾重にも走らせ、パレットソードは白く、まっすぐな一本の槍へと姿を変えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
異世界モノつめあわせセット
銀狐
ファンタジー
何時ぞやに書いていた作品たちの詰め合わせ。
詳細は『0.この作品について』をご覧ください。
作品の紹介等はそれぞれの作品名が書かれたページに記載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる