異世界探求者の色探し

西木 草成

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第3章 緑の色

第121話 行動理念の色

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「ガァアアアッ!」

「くそっ! 立てっ!」

 レギナが左腕をつかみ、通路を引きずろうとしているが触れられている部分が神経との接触を拒絶するかのようにして、痛みが肌に突き刺さる。

「アァッッ!」

「このままだと二人とも石の下敷きだぞっ! ここで死にたいのかっ!」

 遺跡の振動はさらに激しさを増している。すでに後方の通路には天井から降り注いだ瓦礫で埋め尽くされている。

 死にたくない。

 こんな終わりかた、認めるものか。

 僕は、全力で足掻いて殺されるんだ。

 こんな惨めな死に方じゃない。

 頭の中ではわかっているはずなのに、体が言うことを聞かない。

「逃げ....ってっ.....」

「断るっ! 意地でも連れ出すぞっ!」

 意識が飛びそうになる、その霞んだ視界の奥ではレギナが必死の形相で自分を引きずろうとしている。

 もう激痛は、その痛みを通り越して感覚は麻痺している。

 足が動かない。

 手が動かない。

 あの時と一緒だ。

 あの時。

 あの時。

 引きずられながら通路を進む。すでに周りの壁は崩れ、天井も落ち、人が通れる状況ではないというのがわかる。

「もう少しだ、出口が見えてきたぞっ!」

「ハァ.....ハァ.....」

 片足だけでも動かす努力をしているが、目の前に見えてきたのは外の光だった。そうだ、まだ間に合う。

 あの時とは違う。

「あり....が.....」

「礼は生きてここから出たら....っ!」

 出口の一歩手前、突如体が重力に伴って崩れ落ちる。地面に放り出された体を軋む体で起き上がらせた。

 いったい何が....

「....くっ」

「レ....ギナ....さんっ」

 隣を見ると、先ほどまで自分を運んでいたレギナが自分と同じくして地面にうつ伏せとなって倒れている。だが、自分と違う状況が一つだけあった。

 自分の左手に液体のようなものが湿ったものが触れる。

 そして、その液体の流れている方向に顔を向けると、そこには頭から血を流し倒れているレギナの姿が目に入った。そばに落ちている大きな石を見て想定するに、頭に当たって気絶したということか。

 次の瞬間

 目の前にあった出口の光が大きな音を立てて閉ざされた。

 脱出不可能。

「く.....そぉっっ!」

 全身の痛み、それ以上に目の前の状況に悔しさがこぼれ出た。こんなところで止まってしまった自分に対してだ。

 こんなはずじゃなかった。

 崩れゆく遺跡の中で考えていた、どこを間違えていたのかを。

 いや、そもそもこんな遺跡に彼女を連れてくるんじゃなかった。自分の問題を巻き込ませてしまった。そして、自分が考えた作戦でこんなことになった。

 いや、自分の命が大事だから、急いだから、焦ったからこうなったのか。

 全部、自分のせいだ。

「レギナさん....っ、レギナさん....っ!」

 何度も呼びかけるがレギナは全く動く気配がない。そばに落ちた石をもう一度見返すと、あんな大きさの石が頭に当たってタダで済むわけがない。おそらく、脳に何か重大なダメージが起きている可能性が高い。

 下手をすれば命に関わる。

 早く、早くここから逃げ出さなくては。

 すでに体全身を覆っていた痛みはだいぶ引いてきた。揺れている遺跡の中で彼女を抱えながら出口を探そうとするも周りが暗い上に瓦礫まみれで移動もままならない。

「パレットソードが使えれば.....っ」

 腰に下げているパレットソードを抜こうとするも、全くもって抜ける気配がない。しかし、どちらにせよ彼女を抱えたままで二人とも脱出ということ自体が難しい。

 次の瞬間。

 激しい音がすぐそばで響き、思わず彼女を抱えたまま地面へと転がる。

「ギャァアアアアッッッ!」

 突如襲い掛かる下半身の痛み。重いものに潰される、両足の骨が軋み、関節が外れる勢いで強い圧迫感と圧力を感じる。仰向けになった状態で後ろを向くと、下半身の主に腰から先に岩でできた壁が倒れ、それの下敷きになっているのがわかった。

 痛みで、思考が鈍る。

 なんとか体をそこから抜こうと力を込めるが身体強化術もまともに使えない。しかし、感覚でわかるのは確実に両足は逝ってしまったということだろうか。

「くっ....っ! あぁっっ!」

 考えようとするが、全身の痛みが思考を阻害する。どうやって逃げるか、どうやってこの状況を回避するか、全く浮かんでこない。

 目の前で全く動かず、先ほどまで自分を引きずってまで脱出させようとした人がいるのにもかかわらずだ。

 また守れないのか。

 痛みに負けて、自分に負けて、また守れないのか。

 いや、違う。今度は、絶対に助ける。

 自分も、彼女もだ。

「....っはっ! アァアアアッッッ!」

 全身に魔力を流し、体を持ち上げ、下半身にかかった岩を全力でおしのける。そして、足に乗っかった岩はやがてぐらつき、再び大きな音を立てて自分の体の上からどかした。

 これである程度動くことができる。

 パレットソードを腰から外し、それを杖代わりに匍匐前進で体を引きずりながらレギナの元へと駆け寄る。

「レギナさんっ! レギナさんっ! 聞こえますかっ!?」

 レギナの顔に耳を当てるが、かすかに息をしている。胸に手を当てても確かにその鼓動を感じることはできる。しかし、この状態はまずい。

 どうする、彼女を抱え逃げる出口はない。それに、自分は両足を負傷して使い物にならない。外にいるサリーたちに助けを求めることもできない。このままいけば二人ともレギナの言っていた通りここが墓場になる。

 それはごめんだ。

 すると、杖にしていたパレットソードがバランスを崩し、そのまま自分の体ごと倒れてしまう。そのまま地面へと倒れてしまったわけだが、自分の手から何かがこぼれ落ちた。

「これって....」

 音のした方へ顔を向けると、そこには暗闇の中、青く光る精霊石が落ちていた。それを手に取ると、わずかに温かい。

 またバカなことを考えていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やめてっ! その人は何も悪くないっ!」

「黙れっ、この使役されて寄生することでしか生きられない、なりそこないがっ!」

「ダメっ! 私たちは何もしてないじゃないっ! どうして....どうして人間ってこんなに勝手なのっ!」

「くっ! 全員、封印の儀式を急げっ!」

「いや....っ、いや....っ」

 もう、何も守れないのは

 いや....っ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ここかな....?」

 パレットソードの鞘を精霊石の光で照らしながら、それぞれの穴を見つめる。サリーの赤い精霊石は六角形をしていて、シルの緑色の精霊石は四角い形をしている。そして、ウィーネの青い精霊石はトランプのダイヤの形をしていて、確かに、パレットソードには当てはまる穴の形が確かにあった。

 そこに、そっと嵌めた。

 次の瞬間、青の精霊石の輝きが一瞬だけ増し、パレットソードの鞘に電子基板のようにして青い筋が流れ消えた。おそらく、うまく嵌ったのだろう。

「....頼むぞ....」

 パレットソードの柄の部分を捻る。まずは、赤い精霊石が光り、そして次にその下にある青い精霊石が光った。

「ウィーネさんっ! 聞こえますかっ!」

(ちょっとっ! 大丈夫っ! なんかものすごい勢いで遺跡が崩れたわよっ!)

 次の瞬間、頭が割れる勢いで大声で応答してきたのは間違い無くウィーネの声だった。この状況は、初めてサリーと対話した時と似ている。

「こっちはまだ生きてます。精霊石は無事に回収できたんですが、ここから出られなくなってしまいまして」

(そんなの言われなくてもわかるわよっ! でも....まだここに入ることができないし....)

 ウィーネの様子から考えて、おそらくこの遺跡本体が破壊されたとしても、あの入り口にある鳥居をなんとかしなければ中に入れないというわけか。

「ウィーネさん、時間がありません。俺の言うことを落ち着いて聞いてください」

(何よっ! さっさと言ってっ!)

 深く息を吸い込み、はっきりと大声で話した。

「俺と、今すぐ契約してくださいっ!」

(....ハァっ!? 何言ってるのよっ! まだ契約の代償も聞いてないにできるわけないでしょっ! ねぇ、あんたひょっとしてバカ? バカでしょっ!)

 まぁ、予想通りの反応だ。

 しかし、こっちにも返しはある。

「ウィーネさん、言いましたよね? 精霊石を見つけたら、俺と契約してくれるって」

(ウッ....それは....)

「この通り、契約の条件は満たしました。あなたには契約の義務がある」

(そ、それと、これとは....また....っ!)

 再び、息を深く吸い込む。

「青の精霊ウンディーネ。契約の条件は満たした、今後は俺の言うことに従い、俺に力を貸せ、違えることは許さない」

(....偉そうなこと言うんじゃないわよっ! あぁっ! わかったっ!)

 すると、鞘に嵌った青の魔石に輝き始め、暗い空間を青い光一色で染め始める。すると、先ほどまでビクともしなかったパレットソードが徐々にその箍が外れたかのようにして徐々に抜けるようになる。

(其の契約者よ。その力を持って何を為す)

「自身を救うため、守るため」

(其の契約者よ。守るためには命を惜しむか)

「命は惜しい。だが自分も、周りの人間も俺は守りたい」

(其の契約者よ。守ったその結果が、たとえ正しくなかったとしても。そこに悔いはあるか)

「....自分が一番わかってるのでは?」

(っ! いいとこだったのにっ! わかった、あなたを契約者として、私の力を貸すわっ! その剣をさっさと引き抜きなさいっ!)

 パレットソードの剣身が見える、そして白い刃には青い筋が数多に流れ徐々にその形状を変えてゆく。

 ふと足元が濡れていると思ったら、それは徐々に足に絡みつき先ほど潰されてダメになったはずの下半身が修復されてゆくの感じる。

(私の力を使うのなら命をかけてでも守りなさいっ! あんたも、守った人も命を落とそうものならば許さないんだからっ!)

「はいっ!」

 完全に引き抜いたパレットソードは輝きを増し、そして絡みついていく水と共にその形状を変えていった。

『魔槍 アクアトゥーテラー』

 青い筋を幾重にも走らせ、パレットソードは白く、まっすぐな一本の槍へと姿を変えた。
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