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第3章 緑の色
第118話 振り返らない色
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早朝の霧のかかった森の中で、何かを打ち付ける音が響いている。それは住居を構えている木の上ではなく、地面の方から聞こえて来る。
「....っ」
「ハァ....っ」
二本の木剣を持った人物と、それに対して一本の木剣で戦っている二人の姿だった。打ち合いは互角と言っていい。切りつけてくる木剣の動きを読み取り、体を交わし生まれた虚無の空間に向けてすかさず攻撃を行う。しかし、木剣を二本持っている方が防御においては一枚上だった。
防がれた剣をすぐさま放すと、今後は上半身を半回転させて放たれた拳が飛んでくる。しかし、その動きを読んでいたのか、顔を後ろに反らせ、その拳を交わすとその勢いで、左手で防いだ剣を地面に突き刺しそれを軸にバク転を行う。そこから放たれた足技は、見事に相手の顎に直撃した。
「い....っ!」
「正面を見ろ、常に相手を見るんだ」
蹴りを出した相手がアドバイスを送る。とっさに蹴られた男は正面を向きなおるが、目の前には二本の木剣が首を狙うかのようにしてクロスさせたまま迫っている。
『今一色流 抜刀術 星天回』
腰に木剣を置いた男はそのまままっすぐ、正面に向けて疾い面を繰り出す。そして放たれた抜刀術は、現在クロスさせたまま近づいてくる二本の木剣のちょうど交差している部分に当たった。打ち下ろされた二本の木剣は首を狙うことはなくなった。
しかし
打ち下ろされたにもかかわらず、相手の向かってくるスピードに変わりはなかっ。
「え?」
「フンッ!」
突如、鬱蒼とした森の中に派手な音が響き渡った。それはまるで、石と石をものすごい速度でぶつけたかのような、普段森では聞くことのない音だった。
そしてその音が聞こえた直後、地面には頭を押さえてのたうちまわっている男と、同じく頭を押させて地面に膝をついている者がいた。
「つ....っ、頭突きって.....」
「く....っ、私と同じくらいの石頭とは予想していなかった....いっ....」
今日はここまで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「二人とも、怪我が治ったからって無茶をしないでくださいっ」
「すみませんでした....」
「すまん」
現在、俺とレギナはカルディアを前に正座をさせられて、頭にできたタンコブの治療を受けていた。
まさかあそこで頭突きが出てくるとは思わなかった....
それにしても、未だに彼女の剣は攻略に至っていない。自分自身、強くなっている自覚はある。剣を見切ることもある程度慣れてきたし、防御だってある程度は慣れてきたつもりだ。少なからず、地球にいた頃に比べるとはるかにそのレベルは上がっている。
「それで、お二人は今日で出発なんですよね?」
「そう、なりますね。今までお世話になりました」
正座の状態のまま、カルディアに向けて頭を下げる。そう、彼女には世話になった。
そう、本当に....
今日はこの村を出発する日だ。行き先は遺跡、青の精霊の精霊石を封印している場所。なぜ封印されたかはわからない。だが、それがなければ自分は死ぬ。死なないために、
そう、死なないために。
「....私は別に、それほどのことは....」
「あなたがいなかったら私たちは死んでいた。もっと自分を誇っていいんだぞ、リーフェ」
「....はいっ、ありがとうございます。レギナさん」
レギナとリーフェが微笑み合いながら互いに礼を述べている。それにしてもだ、この二人はいつの間にか仲が良くなった。こうやって自然な笑みを浮かべている彼女の姿を僕は見たことがない。
自分の前では見せない表情だ。
「では、そろそろ行きましょう。最後にレースさんに挨拶をしないと」
「あぁ、そうだな」
治療が終わり、その場を立つと正座していたせいか足がしびれ、もつれた。思わず倒れそうになり、右手をつくと、激しい痛みが全身に回る。
「が....っ」
「ショウさん?」
思わず右手を押さえて倒れ込むが、すぐに痛みは引いた。心配した様子のカルディアが自分を覗き込むが問題なさそうな表情を見て安心したような表情を浮かべている。
「急に倒れるからびっくりしましたよ。大丈夫ですか? 本当に」
「えぇ....おそらく」
再び右手を使って立ち上がるが痛みは感じなかった。
気のせい....ではないな。
それから、カルディアの案内でレースの部屋を訪れた。彼は自分たちがやってくるということに気づいていたらしい。部屋にはすでに人数分のティーカップと紅茶の良い香りが満たされていた。
「出るのかな?」
「はい」
「そうか.....気をつけなさい」
「ありがとうございます」
たったそれだけの言葉だったが、十分何を言いたいのかが伝わってきた。そしてティーカップの中身を飲みきった時に、レギナと顔を見合わせて部屋を出る準備をし始めた。
「帰りはリーフェに送らせよう。すまないな、妻の様子が心配でね」
「わかりました。今までお世話になりました」
部屋の前で礼をして、部屋を離れようと思ったその時だった。
「何人もの人間が死んだ」
「....」
突如、部屋と外を仕切る簾の向こう側からレースの声が響いてきた。
「彼女を奪還しようと、送り込んだ先鋭のエルフを、私は何人も殺してしまった....君たちも、もう戻ってこないと思っていた」
「....知っていました。これが一種の死刑宣告だということは」
そう気づいていた。
原書の作者を奪還しろというのは、ある意味での死刑宣告だということを。決して帰ることは許されない。そういう、死がつきまとう依頼であるということは気づいていた。
なのになぜ、自分がその依頼を受けたのか。
それはもう、昨日答えが出てしまったのだ。
「....すまなかった」
「いいんです。もう....ここには来ませんから」
自分は何も、嫌になったからここに来ないというわけではない。
ここの集落自体が、自分にとっては毒なのだ。
エルフの住むこの集落。どうしてもあの人を想い立たせる。
「....っ」
「ショウさん? また腕が痛むんですか?」
再び、右腕に激痛が走る。
思わず地面に片膝をついてしまうほどの衝撃だった。カルディアがすかさず駆け寄って背中をさするがその刺激ですら響くほどの痛みだった。
「どうした?」
「右腕が....痛い....」
レギナが屈み込み顔を覗き込むが、激痛で目を開けることができない。そう、まるで腕を捻られ、引きちぎりそうな、そんな痛みだ。
「リーフェ、そこを退きなさい」
「はい、お父さん」
カルディアが離れ、その場所に座ったのはレースだった。
そして、すかさず押さえている右腕をつかみ、服の袖をまくる。
「....これは....」
「....」
そこに現れたのは、サリーから受けた呪いの刺青。
その刺青が赤く、かつ燃えるように、ゆらゆらと揺らめいて動いているのである。
「私の封印が解けたか....」
すかさず、レースが二本指でその刺青をなぞろうとするが、刺青に触れた瞬間その指は弾かれるようにして離れ、その指先には炎が走った。
「お父さんっ」
「大丈夫だ、それにしても。これはひどい....」
痛みは増してゆく。それと同時にどんどん刺青の炎は揺らめいてゆく。
そして、その痛みはピークを迎えた瞬間に収まった。
「ハァ....ハァ....急がないと」
死ぬ。
その一単語だけが頭にこびりついている。
呪い殺されるというのが本当は正しい。しかし、それは。もしも仮にカルディアが言っていることが正しいのであれば、僕は呪いなんかで死にたくない。
精一杯、生きるために抵抗して、足掻いて、殺されたい。
罪を償いたい。
こんな呪いなんかに、自分が殺されるわけにはいかない。
「イマイシキくん、すまないがもう君に魔術的封印はかけられない。もう残りの時間は....」
「えぇ、大丈夫です。先に青の精霊石を見つければいいだけの話ですから」
ついていた膝を起こし、前を向く。もう二度と戻らないと決めた場所だ。
後ろの方で心配そうにこちらを見つめるカルディアに背を向ける。
そう
もう二度と、自分を見失わない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
国は混乱していた。
一刻も早く成長している、あの国を止めなくてはと。
魔法をも超える、そんな兵器が使われれば、自分たちは殺されて、魔法の使えない出来損ないが世界を支配する。
全員がそう思っていた。
そして、そんな不確かなことで戦争が起きた。
戦争は、周りの国々がいたにもかかわらず互角だった。
もっと決定的な攻撃が必要だ。
周りの国々の優秀な魔術師は考えた。そして、一つの答えに行き着いた。
『違う世界の人間の力を借りよう』
と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
出発してから二日がたった。未だに時折右腕に激痛が走り、その度に足を止めることになるが着実に遺跡には近づいている。時間がないのはわかっていた。1日にだいたい4回ほど起こっていた激痛はその間隔を徐々に狭めて行き、すでにその回数は2桁を超えている。
「....っ!」
「....またか、しっかりしろ」
「すみませ....っあ!」
そのまま地面に倒れこむ自分に手を差し伸べてくれるレギナには感謝してもし足りない。そのまま引きずられるようにして、そばの木に寄りかからせる。
「ガァッ!....っ!」
「今日でもう10回は超えたぞ。それにその刺青、もう顔の半分以上を覆い尽くしてるじゃないか。貴様、本当に青の精霊石とやらで治るのか?」
「....わか....っりません....っ!」
激痛で意識が遠のく中、声を振り絞り返答する。
わからない。それは確かで明白な答えだった。
ウィーネが言っていることが正しいという確証はない。治るという確証はない。だが、それが正しくないという確証もない。『物は試し』という言葉があるがまさにそれだ。
「ハァ....ハァ....治りました....行きましょう....」
「....わかった」
レギナの表情も無機質のものから、若干心配するようなものに変わっている。これでも、心配されているのだからありがたい話だ。
そして息も絶え絶えになりながら、目的地へと到着した。
石造りの鳥居。
そしてピラミッドを模したかのような石造りの神殿のような場所。その周りには樹木が覆われており、一見したらそこに遺跡があるとは思えないだろう。しかし、この光景を自分はパレットソードで一度見ている。そして、その一度見た光景と完全に重なったことにより確証を得た。
ここに、青の精霊石がある。
「....っ」
「ハァ....っ」
二本の木剣を持った人物と、それに対して一本の木剣で戦っている二人の姿だった。打ち合いは互角と言っていい。切りつけてくる木剣の動きを読み取り、体を交わし生まれた虚無の空間に向けてすかさず攻撃を行う。しかし、木剣を二本持っている方が防御においては一枚上だった。
防がれた剣をすぐさま放すと、今後は上半身を半回転させて放たれた拳が飛んでくる。しかし、その動きを読んでいたのか、顔を後ろに反らせ、その拳を交わすとその勢いで、左手で防いだ剣を地面に突き刺しそれを軸にバク転を行う。そこから放たれた足技は、見事に相手の顎に直撃した。
「い....っ!」
「正面を見ろ、常に相手を見るんだ」
蹴りを出した相手がアドバイスを送る。とっさに蹴られた男は正面を向きなおるが、目の前には二本の木剣が首を狙うかのようにしてクロスさせたまま迫っている。
『今一色流 抜刀術 星天回』
腰に木剣を置いた男はそのまままっすぐ、正面に向けて疾い面を繰り出す。そして放たれた抜刀術は、現在クロスさせたまま近づいてくる二本の木剣のちょうど交差している部分に当たった。打ち下ろされた二本の木剣は首を狙うことはなくなった。
しかし
打ち下ろされたにもかかわらず、相手の向かってくるスピードに変わりはなかっ。
「え?」
「フンッ!」
突如、鬱蒼とした森の中に派手な音が響き渡った。それはまるで、石と石をものすごい速度でぶつけたかのような、普段森では聞くことのない音だった。
そしてその音が聞こえた直後、地面には頭を押さえてのたうちまわっている男と、同じく頭を押させて地面に膝をついている者がいた。
「つ....っ、頭突きって.....」
「く....っ、私と同じくらいの石頭とは予想していなかった....いっ....」
今日はここまで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「二人とも、怪我が治ったからって無茶をしないでくださいっ」
「すみませんでした....」
「すまん」
現在、俺とレギナはカルディアを前に正座をさせられて、頭にできたタンコブの治療を受けていた。
まさかあそこで頭突きが出てくるとは思わなかった....
それにしても、未だに彼女の剣は攻略に至っていない。自分自身、強くなっている自覚はある。剣を見切ることもある程度慣れてきたし、防御だってある程度は慣れてきたつもりだ。少なからず、地球にいた頃に比べるとはるかにそのレベルは上がっている。
「それで、お二人は今日で出発なんですよね?」
「そう、なりますね。今までお世話になりました」
正座の状態のまま、カルディアに向けて頭を下げる。そう、彼女には世話になった。
そう、本当に....
今日はこの村を出発する日だ。行き先は遺跡、青の精霊の精霊石を封印している場所。なぜ封印されたかはわからない。だが、それがなければ自分は死ぬ。死なないために、
そう、死なないために。
「....私は別に、それほどのことは....」
「あなたがいなかったら私たちは死んでいた。もっと自分を誇っていいんだぞ、リーフェ」
「....はいっ、ありがとうございます。レギナさん」
レギナとリーフェが微笑み合いながら互いに礼を述べている。それにしてもだ、この二人はいつの間にか仲が良くなった。こうやって自然な笑みを浮かべている彼女の姿を僕は見たことがない。
自分の前では見せない表情だ。
「では、そろそろ行きましょう。最後にレースさんに挨拶をしないと」
「あぁ、そうだな」
治療が終わり、その場を立つと正座していたせいか足がしびれ、もつれた。思わず倒れそうになり、右手をつくと、激しい痛みが全身に回る。
「が....っ」
「ショウさん?」
思わず右手を押さえて倒れ込むが、すぐに痛みは引いた。心配した様子のカルディアが自分を覗き込むが問題なさそうな表情を見て安心したような表情を浮かべている。
「急に倒れるからびっくりしましたよ。大丈夫ですか? 本当に」
「えぇ....おそらく」
再び右手を使って立ち上がるが痛みは感じなかった。
気のせい....ではないな。
それから、カルディアの案内でレースの部屋を訪れた。彼は自分たちがやってくるということに気づいていたらしい。部屋にはすでに人数分のティーカップと紅茶の良い香りが満たされていた。
「出るのかな?」
「はい」
「そうか.....気をつけなさい」
「ありがとうございます」
たったそれだけの言葉だったが、十分何を言いたいのかが伝わってきた。そしてティーカップの中身を飲みきった時に、レギナと顔を見合わせて部屋を出る準備をし始めた。
「帰りはリーフェに送らせよう。すまないな、妻の様子が心配でね」
「わかりました。今までお世話になりました」
部屋の前で礼をして、部屋を離れようと思ったその時だった。
「何人もの人間が死んだ」
「....」
突如、部屋と外を仕切る簾の向こう側からレースの声が響いてきた。
「彼女を奪還しようと、送り込んだ先鋭のエルフを、私は何人も殺してしまった....君たちも、もう戻ってこないと思っていた」
「....知っていました。これが一種の死刑宣告だということは」
そう気づいていた。
原書の作者を奪還しろというのは、ある意味での死刑宣告だということを。決して帰ることは許されない。そういう、死がつきまとう依頼であるということは気づいていた。
なのになぜ、自分がその依頼を受けたのか。
それはもう、昨日答えが出てしまったのだ。
「....すまなかった」
「いいんです。もう....ここには来ませんから」
自分は何も、嫌になったからここに来ないというわけではない。
ここの集落自体が、自分にとっては毒なのだ。
エルフの住むこの集落。どうしてもあの人を想い立たせる。
「....っ」
「ショウさん? また腕が痛むんですか?」
再び、右腕に激痛が走る。
思わず地面に片膝をついてしまうほどの衝撃だった。カルディアがすかさず駆け寄って背中をさするがその刺激ですら響くほどの痛みだった。
「どうした?」
「右腕が....痛い....」
レギナが屈み込み顔を覗き込むが、激痛で目を開けることができない。そう、まるで腕を捻られ、引きちぎりそうな、そんな痛みだ。
「リーフェ、そこを退きなさい」
「はい、お父さん」
カルディアが離れ、その場所に座ったのはレースだった。
そして、すかさず押さえている右腕をつかみ、服の袖をまくる。
「....これは....」
「....」
そこに現れたのは、サリーから受けた呪いの刺青。
その刺青が赤く、かつ燃えるように、ゆらゆらと揺らめいて動いているのである。
「私の封印が解けたか....」
すかさず、レースが二本指でその刺青をなぞろうとするが、刺青に触れた瞬間その指は弾かれるようにして離れ、その指先には炎が走った。
「お父さんっ」
「大丈夫だ、それにしても。これはひどい....」
痛みは増してゆく。それと同時にどんどん刺青の炎は揺らめいてゆく。
そして、その痛みはピークを迎えた瞬間に収まった。
「ハァ....ハァ....急がないと」
死ぬ。
その一単語だけが頭にこびりついている。
呪い殺されるというのが本当は正しい。しかし、それは。もしも仮にカルディアが言っていることが正しいのであれば、僕は呪いなんかで死にたくない。
精一杯、生きるために抵抗して、足掻いて、殺されたい。
罪を償いたい。
こんな呪いなんかに、自分が殺されるわけにはいかない。
「イマイシキくん、すまないがもう君に魔術的封印はかけられない。もう残りの時間は....」
「えぇ、大丈夫です。先に青の精霊石を見つければいいだけの話ですから」
ついていた膝を起こし、前を向く。もう二度と戻らないと決めた場所だ。
後ろの方で心配そうにこちらを見つめるカルディアに背を向ける。
そう
もう二度と、自分を見失わない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
国は混乱していた。
一刻も早く成長している、あの国を止めなくてはと。
魔法をも超える、そんな兵器が使われれば、自分たちは殺されて、魔法の使えない出来損ないが世界を支配する。
全員がそう思っていた。
そして、そんな不確かなことで戦争が起きた。
戦争は、周りの国々がいたにもかかわらず互角だった。
もっと決定的な攻撃が必要だ。
周りの国々の優秀な魔術師は考えた。そして、一つの答えに行き着いた。
『違う世界の人間の力を借りよう』
と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
出発してから二日がたった。未だに時折右腕に激痛が走り、その度に足を止めることになるが着実に遺跡には近づいている。時間がないのはわかっていた。1日にだいたい4回ほど起こっていた激痛はその間隔を徐々に狭めて行き、すでにその回数は2桁を超えている。
「....っ!」
「....またか、しっかりしろ」
「すみませ....っあ!」
そのまま地面に倒れこむ自分に手を差し伸べてくれるレギナには感謝してもし足りない。そのまま引きずられるようにして、そばの木に寄りかからせる。
「ガァッ!....っ!」
「今日でもう10回は超えたぞ。それにその刺青、もう顔の半分以上を覆い尽くしてるじゃないか。貴様、本当に青の精霊石とやらで治るのか?」
「....わか....っりません....っ!」
激痛で意識が遠のく中、声を振り絞り返答する。
わからない。それは確かで明白な答えだった。
ウィーネが言っていることが正しいという確証はない。治るという確証はない。だが、それが正しくないという確証もない。『物は試し』という言葉があるがまさにそれだ。
「ハァ....ハァ....治りました....行きましょう....」
「....わかった」
レギナの表情も無機質のものから、若干心配するようなものに変わっている。これでも、心配されているのだからありがたい話だ。
そして息も絶え絶えになりながら、目的地へと到着した。
石造りの鳥居。
そしてピラミッドを模したかのような石造りの神殿のような場所。その周りには樹木が覆われており、一見したらそこに遺跡があるとは思えないだろう。しかし、この光景を自分はパレットソードで一度見ている。そして、その一度見た光景と完全に重なったことにより確証を得た。
ここに、青の精霊石がある。
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