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第3章 緑の色
第110話 すれ違いの色
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飛んできた火矢の数は合計で36本。そのうち確実に井戸に入るのが32本ほど、それらを両手で持った剣を振るいながら払ってゆく。
「打て打てっ! ちゃんと当てないか貴様らぁっ!」
井戸を中心とした防衛戦。そして足場には崩れた小屋の壁の残骸、そして下敷きになった兵士たち、特に気にするほどの問題ではないが、胸が痛い。
「他の奴らも松明に火をつけていかないかっ! 急げっ!」
監獄長の声が響き、見回りの兵士と思われる人間が手に松明を持って近づいてくる。弓矢を払いながら、地上での防衛戦が追加された。
そして。
「こっちにも気をかけていただけないと困りますねぇ」
「チッ....」
とっさに体を後ろへとそらし、飛んできたその気配を躱す。次の瞬間、背後に立っていた木の表面が、激しい音をたたて抉れる。弓矢の軌道が変化したのを見なければ気づくことはできなかっただろう。
そして、地上を松明を持って近づいてくる兵士を体術で倒していきながら剣で弓矢をさばいてゆく。そして飛んでくる見えない魔術に気を使いながら細かく体を動かしてゆく。
ちょっとのミスが命取りになる。
足元に落ちてきた火矢を切断。
すると、地面に落ちた矢尻が地面に広がっていた油に引火する。
「....っ!」
炎はまっすぐ井戸の入り口へと向かっている。
とっさに右手に持っていた剣を投げ、炎の通り道を分断する。残った左手の剣を使って矢を打ち落としてゆく。そして背後から迫ってくる兵士に回し蹴りを食らわせ、その後ろにいた兵士もろとも吹っ飛ばす。
だが次の瞬間、頬を鋭い何かが掠め顔を横にそらすと、右手を前に突き出しているローレンの姿が見える。その表情は涼しげ、というよりも嗜虐的な笑みを浮かべており、それはまともな人間のする表情ではないと思った。
先ほど投げた剣を再び右手に持ち帰るようにして拾い上げ、飛んでくる弓矢の雨をなぎ払ってゆく。
「腐っても王都騎士団というわけか....っ! おいっ! 高台にもっと人を増やせっ! 一斉射撃だっ!」
「くそ....」
弓兵の並んでいる高台を除くと、確かに先ほどの倍の人数を導入しているようで確実に人数が増えている。30人ほどだったら防ぎきれる部分があるが、これ以上増やされた挙句、地面からの攻撃を防ぐのにはやはり
手を抜くわけにはいかないか。
剣を握る両手に力を込める。
一斉に飛んでくる火矢を目の前にし、両手に持った剣の柄を合わせる。
そして、再び一つの剣に戻った『スペルビア』だが、その姿は普通の剣ではない。一つの柄の両側に刃がついた、いわゆる双頭剣へと姿を変える。
「あまり見られたくないんだが、仕方があるまい」
双頭剣は、その動きが制限される分。細かい立ち回り、防御性に優れる。ゆえに、井戸を上から、地上から守るに最も適した武器とも言える。
柄の部分を手の上で回転させ、火矢を弾いてゆく。地面で近づいてくる兵を体術で、そして剣の峯で打ち付けて気絶させてゆく。
「これで終わりか? 今度はそっちへ行くぞ」
「ヒィっ!」
監獄長に睨みを効かせると、その場で尻餅をついて怖気付いている。なんというか、本当にいろいろなところが抜けている。こんな人間がよくその立場まで上り詰めたものだ。きっと親のコネでも使ったのだろう。
だが、睨みを利かせても全く動じずに澄まし顔でこちらを見ているのはやはり、ローレンだ。
「武器を変えましたが。しかし、無駄だと思いますよ?」
「魔術師にはわからないだろうな。その腰に下げているレイピアは飾りか?」
「剣技では貴方に勝てない。そちらも奥の手を出してきたようですね」
ローレンが指差しているのは自分の持っている姿を変えた剣だ。そしてこうやって話している間にも火矢は飛んでくる。そして、こちらに向けられて放たれた火矢を顔の横で左手で掴み地面へと放る。
「これが奥の手だと思っているのなら負けを認めたほうが賢明だ。魔術師」
「まぁ、私も貴方にはまだ、」
色々見せていませんからね。
次の瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの空気の動きを感じる。
一瞬の風。
吹き抜けた瞬間に、思わず体の全神経を使って襲いかかってくる、その何かを躱して行く。そして、体にかすめていったその何かは自分の肌を切り裂き、装備に傷をつけ、そして
周りにいた兵士もろとも傷つけてゆく。
「やはり....イィ....簡単に殺せない....いいですよ....貴方ぁっっ!」
「....仲間までっ!」
地面に膝をつき、ローレンの顔を見るが、そこには狂気とも思える歪んだ、醜い表情を浮かべた、まるで全ての人間は自分のために殺しても構わない。
戦場でよく見た下衆の顔によく似ていた。
だが、そんなことを考えるのもつかの間。かろうじて生き残っていた兵士の一人が松明を井戸の中に放り込もうとしているのが視界の端に映る。
「しまっ....!」
足に力を込め、その兵士の元へと駆ける。
あと5歩
あと4歩
あと3歩
降り注ぐ火矢を払いつつ徐々に近づく、そして
あと2歩。
そこまで来た時、背後から風が吹いた。
あと1歩。
目の前で、松明を持った兵士の腕が静かに切断された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何よ....あれっ!」
「とにかく離脱します....っ! つかまってくださいっ!」
髪にしがみついているウィーネに向かって叫び、ミノタウルスの足をくぐり抜けて逃げて行く。背後から迫ってくるもの。
それは圧倒的な熱量と光。
足元に撒かれた油に火が引火したのだ。
そして、その火から逃れようと魔物が一斉に出口へと向かっている。
まずい、あれはまずい。あんなものに飲まれたら数秒も持たない。早く出口に向かわなくては....っ!
出口まではおおよそ身体強化術をフルで使って走って1分掛かるか掛からないか。全力で走っているその背後ではミノタウルスも含め多くの魔物がこちらに向かって走っており、逃げ遅れたゴブリンやオークは炎に飲まれのたうちまわっているのが見える。
絶対に逃げ切る。
「どけぇっ!」
前方で道を塞ぐようにしている、もう何の魔物かわからないが道を阻んでいるそいつらに剣を振るい、その進路を開く。
そして、目の前に迫っている一つの壁。ここを突破すれば出口にたどり着くことができる。
背中に背負っている彼女を前で抱っこする形で抱え、頭を守るようにして左手を添える。そして、右手でパレットソードを構え、引きしぼる。
『今一色流 剣術 翡翠』
壁に叩きつけた剣は、激しい音を立てて倒壊する。だが、『紅葉壱点』と比べ、その破壊した壁の破片は綺麗に崩れてはくれない。
「やべ....っ」
破片が頭上に迫る。あんなもの当たったら怪我では済まない。
ダメだ、自分は背中に人も背負っているんだ、それにレギナだって....
守らなきゃダメなんだ....っ
そう思った時だ。
当たるかと思ったその瞬間、頭上に薄く、青い膜のようなものがかかる。それが破片を弾き、自分に当たるのを防いだのだ。
「え....?」
「止まらないでっ! 行ってっ!」
突然のことに若干意識を飛ばしていたが、目の前をかすめ飛んだ斧をにハッとなり、出口へと駆けてゆく。
そして、自分が逃げ切れると思ったのだろうか、道連れにしようと魔物が手に持った武器を次々と放ってくる。それらを弾き、躱し。そして入ってきた出口へとたどり着く。
「早く、閉めて閉めてっ!」
「ぐ.....っらっ!」
鉄製の扉を思いっきり閉め、地下の洞窟との空間を遮断する。
次の瞬間、鉄製の扉をこじ開けようとする音、そして響く断末魔のような鳴き声、そして扉の奥から響くのはまるで焼却炉のようなゴーッという鼓膜を揺らすような低い音だった。
「ハァ.....もう限界....」
「ハァ.....ハァ.....ありがとうございました。さっきは....」
「....私は何もしてないわ」
「え?」
でも、あれは確かにウィーネの魔術の気配がした。かといって自分は無色で魔術が使えないはず。あれは一体....
「一時的だけど....私と魔力がリンクしたみたい。だから、本来精霊石がこの剣に収まったときに使える能力がちょっとだけど使えたのかも....」
「....わかりました。どちらにせよ、ありがとうございます」
「変な人....別にいいわよ」
再びウィーネが肩に登り、自分は先ほどまで自分が降っていた階段を見る。
何のために火を放ったのか。
そんなことは決まっている。彼女を処刑するためだ。
世界の理から外れたものを書いたもの。そしてそれを拒もうとし、排除をするもの。
どちらが正しいのか僕にはわからない。だが、それを他人の命を奪ってまで排除をしようとしていることを俺は許せない。
そして、ここにいる人たちは皆、正しいと思ってしたことが、間違っていることを正そうとして閉じ込められている人たちだ。
自由なんて崇高な言葉はわからないが、彼らを束縛する理由もない。
そう思っていた。
「今、みなさんを出しますから」
斬鉄。
牢に閉じ込められた人たちの鍵を壊して回ってゆく。
何が起こったのかわからない囚人は、目の前で起こった現象を理解することができない。だが、自分が出られるとわかった瞬間、その扉としての意味がなくなった壁を押し開けて出てくる。
不思議と見回りの兵士たちは見なかった。
そうして、地下から地上へと、背後には大量の自由を失い、それでもと足掻く人たちの列が生まれていた。
そして、自分が閉じ込められていた階、壁に下げられているのは没収された自分の持ち物だ。パルウスさんの防具。そして、リーフェさんの形見の髪を腕へと結ぶ。
「大丈夫です....僕は生きますから」
たとえ、他人の命を踏みにじろうとも。
脱出、開始。
「打て打てっ! ちゃんと当てないか貴様らぁっ!」
井戸を中心とした防衛戦。そして足場には崩れた小屋の壁の残骸、そして下敷きになった兵士たち、特に気にするほどの問題ではないが、胸が痛い。
「他の奴らも松明に火をつけていかないかっ! 急げっ!」
監獄長の声が響き、見回りの兵士と思われる人間が手に松明を持って近づいてくる。弓矢を払いながら、地上での防衛戦が追加された。
そして。
「こっちにも気をかけていただけないと困りますねぇ」
「チッ....」
とっさに体を後ろへとそらし、飛んできたその気配を躱す。次の瞬間、背後に立っていた木の表面が、激しい音をたたて抉れる。弓矢の軌道が変化したのを見なければ気づくことはできなかっただろう。
そして、地上を松明を持って近づいてくる兵士を体術で倒していきながら剣で弓矢をさばいてゆく。そして飛んでくる見えない魔術に気を使いながら細かく体を動かしてゆく。
ちょっとのミスが命取りになる。
足元に落ちてきた火矢を切断。
すると、地面に落ちた矢尻が地面に広がっていた油に引火する。
「....っ!」
炎はまっすぐ井戸の入り口へと向かっている。
とっさに右手に持っていた剣を投げ、炎の通り道を分断する。残った左手の剣を使って矢を打ち落としてゆく。そして背後から迫ってくる兵士に回し蹴りを食らわせ、その後ろにいた兵士もろとも吹っ飛ばす。
だが次の瞬間、頬を鋭い何かが掠め顔を横にそらすと、右手を前に突き出しているローレンの姿が見える。その表情は涼しげ、というよりも嗜虐的な笑みを浮かべており、それはまともな人間のする表情ではないと思った。
先ほど投げた剣を再び右手に持ち帰るようにして拾い上げ、飛んでくる弓矢の雨をなぎ払ってゆく。
「腐っても王都騎士団というわけか....っ! おいっ! 高台にもっと人を増やせっ! 一斉射撃だっ!」
「くそ....」
弓兵の並んでいる高台を除くと、確かに先ほどの倍の人数を導入しているようで確実に人数が増えている。30人ほどだったら防ぎきれる部分があるが、これ以上増やされた挙句、地面からの攻撃を防ぐのにはやはり
手を抜くわけにはいかないか。
剣を握る両手に力を込める。
一斉に飛んでくる火矢を目の前にし、両手に持った剣の柄を合わせる。
そして、再び一つの剣に戻った『スペルビア』だが、その姿は普通の剣ではない。一つの柄の両側に刃がついた、いわゆる双頭剣へと姿を変える。
「あまり見られたくないんだが、仕方があるまい」
双頭剣は、その動きが制限される分。細かい立ち回り、防御性に優れる。ゆえに、井戸を上から、地上から守るに最も適した武器とも言える。
柄の部分を手の上で回転させ、火矢を弾いてゆく。地面で近づいてくる兵を体術で、そして剣の峯で打ち付けて気絶させてゆく。
「これで終わりか? 今度はそっちへ行くぞ」
「ヒィっ!」
監獄長に睨みを効かせると、その場で尻餅をついて怖気付いている。なんというか、本当にいろいろなところが抜けている。こんな人間がよくその立場まで上り詰めたものだ。きっと親のコネでも使ったのだろう。
だが、睨みを利かせても全く動じずに澄まし顔でこちらを見ているのはやはり、ローレンだ。
「武器を変えましたが。しかし、無駄だと思いますよ?」
「魔術師にはわからないだろうな。その腰に下げているレイピアは飾りか?」
「剣技では貴方に勝てない。そちらも奥の手を出してきたようですね」
ローレンが指差しているのは自分の持っている姿を変えた剣だ。そしてこうやって話している間にも火矢は飛んでくる。そして、こちらに向けられて放たれた火矢を顔の横で左手で掴み地面へと放る。
「これが奥の手だと思っているのなら負けを認めたほうが賢明だ。魔術師」
「まぁ、私も貴方にはまだ、」
色々見せていませんからね。
次の瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの空気の動きを感じる。
一瞬の風。
吹き抜けた瞬間に、思わず体の全神経を使って襲いかかってくる、その何かを躱して行く。そして、体にかすめていったその何かは自分の肌を切り裂き、装備に傷をつけ、そして
周りにいた兵士もろとも傷つけてゆく。
「やはり....イィ....簡単に殺せない....いいですよ....貴方ぁっっ!」
「....仲間までっ!」
地面に膝をつき、ローレンの顔を見るが、そこには狂気とも思える歪んだ、醜い表情を浮かべた、まるで全ての人間は自分のために殺しても構わない。
戦場でよく見た下衆の顔によく似ていた。
だが、そんなことを考えるのもつかの間。かろうじて生き残っていた兵士の一人が松明を井戸の中に放り込もうとしているのが視界の端に映る。
「しまっ....!」
足に力を込め、その兵士の元へと駆ける。
あと5歩
あと4歩
あと3歩
降り注ぐ火矢を払いつつ徐々に近づく、そして
あと2歩。
そこまで来た時、背後から風が吹いた。
あと1歩。
目の前で、松明を持った兵士の腕が静かに切断された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何よ....あれっ!」
「とにかく離脱します....っ! つかまってくださいっ!」
髪にしがみついているウィーネに向かって叫び、ミノタウルスの足をくぐり抜けて逃げて行く。背後から迫ってくるもの。
それは圧倒的な熱量と光。
足元に撒かれた油に火が引火したのだ。
そして、その火から逃れようと魔物が一斉に出口へと向かっている。
まずい、あれはまずい。あんなものに飲まれたら数秒も持たない。早く出口に向かわなくては....っ!
出口まではおおよそ身体強化術をフルで使って走って1分掛かるか掛からないか。全力で走っているその背後ではミノタウルスも含め多くの魔物がこちらに向かって走っており、逃げ遅れたゴブリンやオークは炎に飲まれのたうちまわっているのが見える。
絶対に逃げ切る。
「どけぇっ!」
前方で道を塞ぐようにしている、もう何の魔物かわからないが道を阻んでいるそいつらに剣を振るい、その進路を開く。
そして、目の前に迫っている一つの壁。ここを突破すれば出口にたどり着くことができる。
背中に背負っている彼女を前で抱っこする形で抱え、頭を守るようにして左手を添える。そして、右手でパレットソードを構え、引きしぼる。
『今一色流 剣術 翡翠』
壁に叩きつけた剣は、激しい音を立てて倒壊する。だが、『紅葉壱点』と比べ、その破壊した壁の破片は綺麗に崩れてはくれない。
「やべ....っ」
破片が頭上に迫る。あんなもの当たったら怪我では済まない。
ダメだ、自分は背中に人も背負っているんだ、それにレギナだって....
守らなきゃダメなんだ....っ
そう思った時だ。
当たるかと思ったその瞬間、頭上に薄く、青い膜のようなものがかかる。それが破片を弾き、自分に当たるのを防いだのだ。
「え....?」
「止まらないでっ! 行ってっ!」
突然のことに若干意識を飛ばしていたが、目の前をかすめ飛んだ斧をにハッとなり、出口へと駆けてゆく。
そして、自分が逃げ切れると思ったのだろうか、道連れにしようと魔物が手に持った武器を次々と放ってくる。それらを弾き、躱し。そして入ってきた出口へとたどり着く。
「早く、閉めて閉めてっ!」
「ぐ.....っらっ!」
鉄製の扉を思いっきり閉め、地下の洞窟との空間を遮断する。
次の瞬間、鉄製の扉をこじ開けようとする音、そして響く断末魔のような鳴き声、そして扉の奥から響くのはまるで焼却炉のようなゴーッという鼓膜を揺らすような低い音だった。
「ハァ.....もう限界....」
「ハァ.....ハァ.....ありがとうございました。さっきは....」
「....私は何もしてないわ」
「え?」
でも、あれは確かにウィーネの魔術の気配がした。かといって自分は無色で魔術が使えないはず。あれは一体....
「一時的だけど....私と魔力がリンクしたみたい。だから、本来精霊石がこの剣に収まったときに使える能力がちょっとだけど使えたのかも....」
「....わかりました。どちらにせよ、ありがとうございます」
「変な人....別にいいわよ」
再びウィーネが肩に登り、自分は先ほどまで自分が降っていた階段を見る。
何のために火を放ったのか。
そんなことは決まっている。彼女を処刑するためだ。
世界の理から外れたものを書いたもの。そしてそれを拒もうとし、排除をするもの。
どちらが正しいのか僕にはわからない。だが、それを他人の命を奪ってまで排除をしようとしていることを俺は許せない。
そして、ここにいる人たちは皆、正しいと思ってしたことが、間違っていることを正そうとして閉じ込められている人たちだ。
自由なんて崇高な言葉はわからないが、彼らを束縛する理由もない。
そう思っていた。
「今、みなさんを出しますから」
斬鉄。
牢に閉じ込められた人たちの鍵を壊して回ってゆく。
何が起こったのかわからない囚人は、目の前で起こった現象を理解することができない。だが、自分が出られるとわかった瞬間、その扉としての意味がなくなった壁を押し開けて出てくる。
不思議と見回りの兵士たちは見なかった。
そうして、地下から地上へと、背後には大量の自由を失い、それでもと足掻く人たちの列が生まれていた。
そして、自分が閉じ込められていた階、壁に下げられているのは没収された自分の持ち物だ。パルウスさんの防具。そして、リーフェさんの形見の髪を腕へと結ぶ。
「大丈夫です....僕は生きますから」
たとえ、他人の命を踏みにじろうとも。
脱出、開始。
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