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第3章 緑の色
第106話 囚人の色
しおりを挟む『今一色流 剣術 鉄砲百合』
前転し、遠心力を最大限にかけて放たれた面打ちはオークの脳天を粉々に打ち壊す。そして続けざまに後方でナイフを構えていたゴブリンに横一閃、真っ二つにする。血に濡れたパレットソードを振って、血を払う。
さて、ここに来るまでに何匹くらいのオークとゴブリンに手をかけたかわからない。ふと辺りを見ると、上の階のように煉瓦造りで作られた監獄ではないというのがはっきりわかるくらいにゴツゴツとした岩肌が見えている。どう見ても牢獄というようには見えない。それよりか、洞窟といった表現が近い。
「なんなんだここ....」
パレットソードを鞘に収め、ここまで来た経緯を思い出していた。
上官と思わしき人部とすれ違ってからというもの、地下へと続く階段はそれほど多くの人とすれ違うことなく降りることができた。しかし、5分にも及ぶ、長い時間階段を降りつづけ、徐々に周りの景色が変わる頃にはすでに人もおらず、そして元に戻る道まですらわからなくなってしまい、気づけば魔物に囲まれていたという始末だった。
「さて....」
手に持った羊皮紙の図面はすでに役には立ちそうにない。明らかに自分が身に感じている情報量の方が羊皮紙の情報量を上回っている。地下に関しての情報が少ないのは予想通りだが、今この現状見て予想できることはだ、
ここは迷宮と呼ばれる場所なのではないだろうか?
地球にいた頃は、そんな迷宮と呼べるような建物があるわけでもない。せいぜいアミューズメントパークの迷路くらいだ。しかし、この感じは友人に借りて未だ返していないライトノベルに出てくる主人公の迷い込む迷宮という場所にそっくりなのだ。他人の作った世界観ではあるが、実際にそんな場所が存在するというのに驚きだ。
さて、今ここに二つの問題が発生している。
まず一つ目の問題は、どうやって原書の作者を探すかだ。少なからず、この広がっている空間の中は上の階で広がっている監獄よりもはるかに広い。そして、度々出てくるオークやゴブリンの類だが、戦うのに支障はない。だが、確実に体力に支障をきたしている。もし、これから先まだまだ出てくるようであるのならば、迅速な行動をとれるか、はっきり言って自信がない。
そして、二つ目の問題は帰り道だ。もし、普通に地上に出るだけならば、この施設を脱出するための作戦は用意してあったのだが、まずはこの地下迷宮となっている場所から脱出するのに手間がかかりそうだ。
パレットソードの探索能力を使おうとも思ったのだが、対象のイメージが明確でないとこちらが痛い目にあう。原書の作者なんて実際にあったことはないし、人物像も出てくるわけもない。
「詰んだな....」
そう呟いた時、背後に気配を感じる。
とっさに振り返ると、三匹のゴブリンが手に武器を持ってまとめて襲いかかってきた。
「ちっ....!」
とっさにパレットソードに手をかける。
深呼吸
『今一色流 抜刀術 円月斬<地>』
横一閃、横に綺麗に並んでいたゴブリンの首が綺麗に胴体と首が離れて地面へ、どチャリと落ちる。さて、倒す分には問題ないのだが、こっちの体力が持たない。
「ハァ....ん?」
ゴブリンの死体をまたぎ、先ほど抜刀術を放った壁の方へと歩み寄る。よく見ると、岩肌に傷が付いており、先ほどの抜刀術の余波でついたものだと考えられた。
名案が浮かんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「その、聖典の作者とかいう奴の資料はないのか?」
「おや、随分とスペルビア殿は其奴に興味を持たれるのですなぁ」
「何、単なる興味だ。これでも騎士団の端くれだ、信仰もある」
その信仰には裏切られたわけだが。
そう思い、すっかり冷めた紅茶を一気に飲み干す。目の前で監獄長がファイルの中を漁っており、どうやらその原書の作者の資料を取り出して見せてくれるようだ。
「オォ、ありましたありました。こちらですな」
「では、少し拝見を....」
監獄長から資料を受け取り、それに目を通す。しかし、渡された紙はあまりにも古く、何度か書き直された箇所が多い。見た目から判断して大体20年くらいは使われているような紙だ。
「この人物は何年ここに入っているんだ?」
「ちょうど今年で50年になります。いやはや、私が生まれる随分前から入られているようでなぁ」
「....」
資料をから目を外し、監獄長を軽く睨むが、再び資料に目を落とす。
<エレン=カルディア 女 エルフ>
<年齢、当時自称2147歳。森にて、反逆グループのリーダーとして捕縛する。この人物の指揮する反逆グループによる被害は兵力、軍事力ともに大きな損失を招き、この建物の施設にも何度かの侵入した経歴あり。捕縛した時の状況は王都による騎士団導入によって反逆グループの大半を殲滅。その際、降伏という形での捕縛となった。捕縛後、主要な情報に関しては尋問、拷問を繰り返し行うものの、確かな情報は得られず。
※追記
・82回目の尋問、自身を聖典の作者と名乗る。その内容に関しては明確なものであるが、基礎となる聖典の内容を超越しており、精神異常の可能性を疑う。
※追記2
・奇行が見られる。壁や、地面に不可思議な文字、図形を並べ呪文のような文句を朝昼晩と繰り返し唱えているのを看守や投獄された囚人からの情報により発覚。投獄エリアを、地下へと移すことを検討、決断した。
※追記3
・289回目の尋問、尋問官が質問内容と返答に対しての異常を発見する。魔術師による診断の結果、記憶に障害がではじめたことが発覚。エルフは長命であり、その姿が20代から一切変化をしないことは有名な話だが、体の機能に関しては人間と同様衰える。その結果によるものだと判明。そしてこれ以上の利用価値はないものと判断し、最終地下牢獄に投獄をすることを検討、決断した。
※追記4
・彼女の書いた図形や文章を王都に報告。即刻死刑にせよとの報告あり、実行に移そうとするものの、最終地下牢獄への侵入は困難と判断。結果、地下全体を大量の油で満たし、焼却を行うことを検討、決断した。>
「....」
「如何ですかな? まぁ、そのエルフはどうせ死刑になるのですからな、どうせ得られる情報などご覧のとおりございませんでしょう」
「....この、死刑というのはいつ行うのだ?」
監獄の地下に油を撒いて焼却を行う、そんな大規模な処刑など聞いたことがない。ましてやそんなことを王都が容認するとは、一体何を見てそんなことを言っているのだ。
全てにおいて疑問だ、そこまでして隠しておきたいものは確証があるわけでもないのに。いや、そもそもこの王都の慌て様がすでにそれが本物だということを確証している、いや、だとしたら王都自信がその真実を知っていながら隠そうとしていた。そう考えざるをえない。
「どうかされましたか? スペルビア殿」
「いや....少しな....」
若干顔に出ていたらしい、監獄長のむかつく心配顔がイラつく。
だが、一つ。今、この状況はかなり危うい。
特に、今地下に入り込んでいるであろう。イマイシキ ショウの身が危ない。特に心配などはしていない。むしろそのまま焼かれて死ねばいいとすら思っているが、だが、なんだろうか。
この胸のざわめきは....
「そうそう、そういえば今日はあなた以外に客人を読んでおりましてな。ちょっと、お呼びなさい」
おそらく、扉の向こう側で待機をさせているメイドに指示を出したのだろう。扉に向けて大声で言った後監獄長は、再び菓子を口に運んでいる。
「ちなみに、誰を呼んだのだ?」
「あぁ、そうですね。呼んだと言いますか、今日処刑を行うといったら王都が使いをよこしましてな。確かなんと言いましたか....そう」
『啓示を受けし者の会』という者らしいですぞ。
背筋が凍るというのを、この時生まれて初めて味わった。
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