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第2章 青の色
第98話 行方不明の色
しおりを挟む「ラァアアアアアアアッッッッ!」
「うるせぇデブだな? まぁ、飯はウメェけどさ」
こちらを振り返りながらそう答えているサリーの姿がだんだんと変わってゆく。現在、右手を突き出しているサリーだが、その突き出している方向から飛んでくる砲撃の雨を焼失させている。
いや、喰らっている。
そしてサリーの白く不健康そうな肌と白髪が、徐々に元の赤みを増し、髪の色は暴虐的な赤色へと戻ってゆく。
「フゥ~、まだまだ喰い足りねぇがこんなもんだろ。これで自由に動ける」
「お前....」
「さて、もう一踏ん張りだクソガキ。そのクソ剣にさっさと手をかけろ」
いつものサリーの命令口調。思わずパレットソードを鞘に収め持ち手を回転させようとしたところで、
手が止まった。
「....いやだ」
「あぁ? なんだって?」
「断るっ! お前の力には頼らないっ!」
パレットソードを甲板に置き、鞘を盾へと展開させる。そして、軋む体を起き上がらせて向かうのはサリーの障壁の向こう側。
あいつを殴るのは、俺だ。
「ほぉ....そんじゃ、お手並み拝見だ、クソガキ」
サリーが突き出した右腕を下す。その瞬間に、凄まじい砲撃の嵐が盾に襲いかかる。
「ララララララララララララララァァァアイッッッッッッ!」
「ぐ....っあ!」
盾を持つ左手がきしむほどの衝撃。先ほど打たれて貫通した肩から血が滴り落ちる。
だが、あの時の。
あの時の痛みに比べたら。
こんなものっ!
「くっ....そぉっ!」
「お、おいっ! もっと魔石を持ってこないかっ!」
目の前のデブ船長は兵器の補充を部下に任せ、こちらの盾にずっと砲撃を続けている。俺はといえば、盾で前方を防ぎながら。その爆音に耐えながら。必死に一歩、一歩と進んで行く。
ふと足元に何かが当たった。
下を向いた瞬間、戦慄が走る。
そこには、先ほどまで戦っていたバッキオの
打たれてズタズタになった体。
「貴様....っ! 潰すっ!」
自分の仲間を、ましてや、守ってくれた仲間を。
許せない。
次の瞬間、激しい痛みが右腕に襲い掛かる。あの時と全く同じだ。
おもわず、左手の盾を構えながら甲板に膝をついて右腕をついてしまう。早くなる呼吸を抑えながら必死に歯で右腕の袖をまくり上げる。
右腕に現れた刺青が真っ赤に光りながらうねっている。それはまるで本当に燃えている炎のように煌々と輝いている。
「く....そっ、こんな時に....っ!」
「い、今だっ! 全員殺せっ!」
攻撃の手が緩み、船長室から続々と人が出てくる。全員が手に剣を持ち完全に取り込まれる状態になってしまった。
そして、ほかの船員たちも砲撃の余波か傷ついて動けない状態になっているところを取り押さえられ、首に剣を当てられている。
ふるおろされる寸前。
「やめ....」
「殺せっ!」
やめろぉっ!
右手を甲板に殴るつけた瞬間、突然自分を中心に炎が吹き上がる。
右手に握られたパレットソードを横に振るうと、その描かれた剣の軌跡に沿って炎が出現する。
それに巻き込まれる寸前で敵の船員は一歩引いて避けたが、この能力は確実に『炎下統一』によるもの。しかし、炎を吹きあげているのは原型の姿をとどめているパレットソード、
そして、俺の右腕からだった。
「なんだよ....これ....」
「ば、化け物....っ」
強烈な熱さが全身を焼き尽くすように覆い始める。視界が真っ赤に染まり、取り囲んでいる船員の持っている色が見え隠れする。
その中の一人がこちらに突っ込んでくるのを視認する。
「し....っ!」
「来るなっ!」
その船員に向けて、一太刀振るう。パレットソードから吹き出た炎は激しい音を立てて一瞬でその船員の体を包み込んだ。
「ひ....あっ!」
「嘘だろ....」
目の前で炎に包まれながら海へと落ちていった船員。
あれは、本当に自分が。
「何をやってるっ! さっさと殺せっ!」
船長室の方から怒号が響き渡り、我に返った船員たちは剣を片手にそれぞれ襲いかかる。
だめだ....今は....っ!
「やめ、やめてくれっ!」
「死ね、化け物っ!」
再び剣を振るうが、その度に炎が甲板の上で巻き上がり、その都度船員たちを巻き込んでしまう。
悲鳴と海に飛び込む船員たちの音が、この船の上を満たし始める。
自分は、一体....何を....
「ちっ、役立たず共がぁっ!」
「っ!」
船長室で再び金属音がする。次の瞬間、再び同じように凄まじい砲撃の雨が襲いかかる。
まずい、盾を展開させようにも絶対間に合わない。
このままでは、後ろの船員にも....っ
思わず突き出した左手。
全身蜂の巣にされるのを覚悟で目を瞑る。
しかし、
銃声は聞こえるはずなのに、いつまでたっても体に銃弾が届く気配がない。
ふと、薄眼を開けて目の前の状況を確認する。
「なんで....」
そこには、サリーと同じ障壁が存在し、飛んでくる弾を焼失させている。
そして、撃たれる度に湧き上がってくる感情。
これは怒りか。
「死ねぇっ! なんで死なねぇんだ、化け物ぉっ!」
「....」
奇声をあげながら船長室から一歩も出ずに、戦っている仲間のことを気にすることなく銃弾を撒き散らしている。
外れた数発は船へと当たりそこが火種となって炎を上げ始めた。
こんな状態になっても、まだ撃ち続けるのか。
傷ついたレベリオは他の船員がどうやら運び出そうとしている姿が見える。だが、先ほどまで戦っていたバッキオは誰に助けられることなく、数発銃弾を浴びてそこから血を流している。
誰も助けようとしない。
こんな理不尽が許されるのか。誰からも助けられない。ただ生かされるだけだった、そんな人生があっていいのか。
こんなところで人生を終わらせていいのか、誰も守ろうとはしないのか?
許せない。
許せない。
何が許せない。
それを壊す奴が許せない。
人が必死に守ろうとするものを壊そうとする奴が許せない。
どうすればいい?
わかってるくせに。
「く、くるな....っ!」
「なぁ....今どんな気分だ? 守る責任のある奴らを危険にさらして、ましてやそいつらを手にかけようとするだなんて」
船長室の奥、そこまで彼を追い詰めて問いただす。
何、別に改心させようとかそういう話をしているのではない。
ちなみに入口置かれた、あのおぞましい兵器は真っ二つに破壊した。
「し、知るかっ! 船員はまた新しいのを使えばいいっ、あいつらは消耗品だっ!」
「....そうか」
死ね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ボートに乗り込んで数分、あまりにも遅い。
目の前の船では何やら騒がしいが、私が行く必要もない。王都騎士団である私が海賊行為などもってのほかだ。
「と言いつつ、何人倒してるんですか姉御....」
「正当防衛だ、私の酔い止め薬の入ったボートを襲おうとしたのだから十分な理由だろう。それと、姉御と言うのはやめろ。」
「へい、姉御っ!」
こいつ....と思いながら『スペルビア』を鞘に収める。それにしても、3分で戻ってくると豪語していたイマイシキ ショウだが、全くもって戻ってくる気配がない。そして、相手の船の上ではどうやら煙が上がっているようにも見える。
「そろそろ行くか....」
「へ? 姉御、戦いに行くんですかい?」
「アホ、あいつが戻ってこないと出発できないからだ」
意地でも連れ戻しに....
そう思ったその時だ。
船と船をつないでいるロープから船員たちが戻ってくる。中には抱えられて戻ってくる者や血だらけの姿の者もいた。そして見た様子だと敵が入り込んでくることはない。どうやら勝ちだったようだ。
そして最後に船員に抱えられておりてきたのはレベリオ=アンサムだ。どうやら左胸を何かで貫かれたらしく、ひどく出血している。
甲板に降ろされ、治療を受けている彼の元へと駆け寄る。
「イマイシキ ショウはどうした? 見たところ戻っていないようだが」
この男は、甲板に連れ込まれた仲間の船員を見送った後すぐに相手の船に乗り込み参戦したのだ。軍人の指揮官ならば失格だ。
「さっさと返答しろ。私は出て行きたいんだ」
「大....将は....火....」
「火?」
イマイシキ ショウと言って火と言ったら、その関係性は簡単に切れるものではない。もし、その言葉が本当だとするのならば、またあの男は精霊の力を。
そう思った瞬間。
相手側の船の船尾に当たる部分が大きな爆発を起こす。まるで火薬に火をつつけたかのような巨大な爆発だ。爆ぜ飛んだ残骸がこちらの船にも飛んでくるなか、甲板に木材が当たる固い音のなかに、何かがスッと降り立つような音が聞こえた。
「レギナさん、お待たせしてすみませんでした」
突如、背後からイマイシキ ショウの声が聞こえ、思わず驚き振り返る。
全く気配を感じなかった。
「遅くなってすみません。行きますか」
「....わかった、だが一つ答えろ」
あの船の船長を、一体どうした。
その瞬間、彼の動きが一瞬止まる。
それと同時に、彼の髪の毛の色がより一層赤く染まる。
その姿に他の船員は怯えているようだが、しっかりとその姿を目に焼き付ける。
「殺しました。あの人間は死んで当然です」
「....」
殺した。
そうなのではないかと疑ってはいたが。まさか本当に....
だが、自分もしていることだ。実際にこの船に乗り込んできた船員を何人か手にかけた。しかし、なんなんだろうか、この....矛盾とも言い難い、何かは....
「行きましょう。時間がありません」
「....あぁ、だがもう一つ答えろ」
貴様、一体誰だ?
「....さぁ....誰なんでしょうね」
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