異世界探求者の色探し

西木 草成

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第2章 青の色

第89話 出来損ないの色

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 正面からのまっすぐな攻撃。左手の籠手を失ってもその手には魔力で作られた電流が流れ、あれに触れればあそこで転がっているイマイシキ ショウと同じ結果を生むことになることだろう。

 正面の攻撃を、体を反らせながら交わす。そこでこの男の先ほどのパターンを考えれば体当たりの攻撃に入った。しかし、ここでの動きを考えるとおそらくパターン通りにはいかない。

「ッラ!」

「....っ」

 そこからやってきたのは、横に入った自分に向けられたレベリオの回し蹴りだ。思わずイマイシキ ショウの使っていた剣の腹で受け止めるが、剣と回し蹴りを放った足が接触するとその瞬間体を駆け巡る衝撃を感じた。

 すかさず剣を収め、レベリオから数歩間合いを取る。

「何も両手しか魔力を通せねぇわけじゃねぇ」

「海賊という人間はどこまでも手癖が悪いと思っていたが、足癖まで悪いとは思わなかった」

「ほざけっ!」

 再び、正面からの攻撃。

 右のフック、続いての左からのアッパー。そこから息もつかずに、飛び上がり空中で両足を交互に蹴り出す二連撃。そこまでの攻撃の一連を見切り剣で捌きながらもバックステップでかわしていたため、船の端まで追い詰められる。

「さぁて、女に手をかけるのは俺の趣味じゃねぇんだが。テメェは別だ。ここで死ね」

「レベリオ=アンサム。私からも一ついいだろうか」

 追い詰められているのは私、そしてトドメを刺そうといるのは彼だ。こんな状況でなければ聞き出すことはできないだろう。

「貴様、海賊に落ちる前に軍部にいた人間だろう」

「....やっぱ軍人てのは嫌いだ。どうしてわかった」

 どうやら読み正しかったらしい。

「この戦闘方法といい、貴様の使うその武術は軍隊様式のものだ。魔術を使うところはオリジナルらしいがな」

「そうか....元海軍隊所属っ! レベリオ=アンサムっ! 軍部にいると反吐が出そうなので逃亡しましたっ!」

 右腕を額の所にやり礼をする彼の行為は、軍人がよく上官に対して行う敬礼と同じだった。

「逃亡兵か。それで、どうやったら海賊なんぞに落ちぶれた」

「さぁ、それ聞く前にテメェには死んでもらおうがな」

 レベリオは右手の指先を私の方に向ける。

『雷鳴よ 貫けっ!』
 
 次の瞬間、指先から黄色の閃光が走る。そしてその閃光は眼の前まで迫る。おそらく当たった瞬間、貫通して即死。ならばだ。

「!?」

「遊びはここまでだ。レベリオ=アンサム」

 魔法を斬る。
 
 当たる寸前、剣をその閃光に向かって古い。その光をまるでものを斬るのと同様に剣で撃ち落としてゆく。驚愕の表情を浮かべているレベリオは再びこちらに向けて同じ魔術を放とうとするが、同じことは二度させない。

 身体強化術で一気に間合いを詰め、まずはその邪魔な右腕を斬り落とそう。

「手癖の悪い海賊の右腕なんぞ、あっても不愉快だ」

「くそっ....!」

 とっさの出来事にレベリオは右腕の籠手使い剣を捌く。しかし、その衝撃で右手の籠手は壊れ、左腕と同様。バラバラと音を立てて甲板の上で破片と変わる。

 しかし、籠手が破壊されたにもかかわらずレベリオは再び軍隊様式の武術で対抗してくる。しかし、軍隊様式の武術を使ってくるとわかっているのなら、自分にも軍隊様式の武術の心得はある。攻撃を読むのは容易い。

 回し蹴りからのかかと落とし、これを剣で受け止めるがどうも感触から察するに足にも何かが仕込んである。そして魔術は未だに発動しており、激しい電流が彼の体全身に流れているのがわかる。

「黙って私の話を聞くか、もしくはその邪魔な手足を斬り落とされて私の話を聞くか。選べ」

「だったらテメェは殴られたショックで死ぬか、その脳みそを貫かれて死ぬか選びやがれっ!」

 再び正面からの攻撃。拳か、足か。もしくは....

『貫けっ!』

 突き出した拳から出てきたのは再び黄色の閃光。しかし、ここで剣を使って交わせば追撃としてくる拳がもろに私の頭に直撃する。そうすれば確実に気を失い海の藻屑となって消えるだろう。

 かといって躱せば、後ろで転がっているイマイシキ ショウに当たる可能性がある。こんなところでこの男に死んでもらうわけにはいかない。

 選択肢は2つか。

 否

 足元にある剣、戦闘の際足元に落ちた私の愛剣の『スペルビア』を足にかけ、それをそのまま飛んでくる閃光にぶつけ防ぐ。そしてそのまま、突き出された拳は鞘から出された『スペルビア』をそのまま振るい右手をそのまま斬り裂く。

「グアッ!」

「まずは一本だ。次はその左腕をもらうぞ」

 左手にはイマイシキ ショウの使っている剣、羽のように軽く使いづらいことこの上ない。そして右手には自分の愛剣が握られている。実質、普段よく使う二剣流に変わらない。

「話を聞く気になったか?」

「殺すっ!」

 面倒くさいことこの上ないが、この話は彼なしでは進めることはできない。死ぬギリギリまで斬り刻むとしよう。

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「もう一度言おう、話を聞く気はないか?」

「.....断る....っ!」

 レベリオは片膝をつき、甲板の上で激しく息をしている。それもそのはずだ。両腕は切り傷が何本も走り、両足に仕込まれていた鉄板はボロボロになっており、防御するどころかむしろ戦闘の妨げになっている。

 こちらも何度か電撃をくらい、その度に頭がかすむような思いをしたが、個人的に船酔いの方がよりもマシだというのが本音だ。

「なぜ、あの時の戦闘でイマイシキ ショウを殺さなかった。少なからず、あの時の貴様は手を抜いていただろう。なぜだ」

「ハァ....ここにいる船員は、全員あそこで転がっているような奴らばっかだ」

 レベリオの見ている方を見ると、そこには船員に囲まれて、治療を受けているイマイシキ ショウの姿がある。船員たちの顔はどこか先ほどとは違い心配そうな顔をしている。

「逃げてきたもの、諦めたもの、死のうと思ったもの。ここにいるのは俺みたいな出来損ないばかりのやつらだ。出来損ない同士が集まってこの船に乗って....ハァ....生きてんだよ」

「だから?」

 話の意図が見えない。するとレベリオは立ち上がり、その傷だらけの両腕を突き出し、再び向き直る。

「でもなぁ、あいつがテメェのために左腕を潰してまで助けにいくだなんてのを見てたらよ、なんだか殺すにも殺せなくてなぁ....」

「....」

 左手を潰してまで、そこまでして助けたい理由はなんだったのだろう。ここ2週間近くの間、自分の身を危険にさらしてまで私と一緒に行動を共にしようとする理由は一体なんだろうか。

 わからない。本当にわからない。

「出来損ないだ、ここにいるのは。あんたらみたいに、何か硬い意思があるわけでもねぇ。信じる何かがあるわけでもねぇ」

 ここにあるのは、ただどんなことでして生きたいという意思と、自分とここにいる仲間を信じるという信念しかねぇ。

 全身に流れる電流の量と速さが加速する。おそらくこの一撃に渾身かつ最後なのだろう。イマイシキ ショウの使っていた剣を甲板に置き、スペルビアを正面に向ける。受けて立とうではないか。

 貴様の言う、出来損ないの力を見せてもらう。

『雷撃よ 黄の名において 穿たん グロブスっ!』

 突き出た拳のままに、電流がまとわり、そのまま前に突き出すのと同時に爆音が鳴り響き、まっすぐ拳の形を維持した電撃の塊が二つ飛んでくる。

 まず一つはそのまま向かってくる電撃をレベリオの方に駆けながら、スペルビアで破壊する。その衝撃を利用しスペルビアを分解、二剣流に持ち直し、次に来た二つ目を分解したもう片方の剣で斬りあげて破壊する。

 次の瞬間、右の肩に鈍い痛みが広がる。正面を見るとレベリオの手には銃が握られており、銃口からは白い煙が上っている。しかし、怪我をしているせいか狙いが定まっていない。二つ目を外し、三つ目は左の方に命中する。

 そして。

「最後の警告だ、私の話を聞く気はあるか?」

「....言ってみろ」

 レベリオの首には二本の剣がハサミのようにして、今まさに切りかかろうと言わんばかりに抜けられている。これは本当に最後の警告だ、その気になればこの男を殺して他の奴に話せばいい。

「この船での滞在を許可すること。この船をリュイに向かわせること。そして私とあそこで転がっているあの男の身柄を保証すること。あと酔い止めの薬があったら優先的に分けること。以上だ」

 首を横に振らせはしない。振った瞬間に首の横に流れている血管を斬ることになる。

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 目が覚める。いや、これは目を覚めさせられたというのに近い。まず、目が覚めると雑巾を渡された。どうやら床を拭けということらしい。言われるがままに床を雑巾で拭き、周りのゴミを片受ける。

 あれ、確か昨日は....

 昨日の戦慄の瞬間が頭によぎり、さっきまで雑巾がけをしていた両腕を見ると正常に動いている。確かにあのとき、自分の腕はへし折られて。

「おい、さっさと手を動かせ新人」

「へ、僕?」

「お前以外誰がいるんだ、しっかりしろ」

 ふと顔を上げると、目の前には昨日、俺の顔を散々殴った張本人が仁王立ちしていた。

 自分のいるところは昨日戦った海賊船の甲板。どうやら、自分は知らない間に海賊になっていたらしい。

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