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第2章 青の色
第87話 詫びの色
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「どこで気づいたんだい? お嬢さん」
「貿易船に積み込んでいい大砲の数は合わせて20までだ。しかし、ここの下にある部屋に設置されている砲門の数は明らかに20を超えている」
「ほぉ....いい目だ。身なりは冒険者してるが、一体何やってた? 軍人か?」
「『やってた』じゃない。『やっている』だ」
こちらに背を向け、レギナの方へと話しかける船長。レギナはすでにあの段階で気づいていたのか。そしてまた難なくレギナを軍人であると見抜いた、海賊というのは勘が鋭いものなのだろうか。
「お嬢さん、名前は?」
「レギナ=スペルビア、王都騎士団9番隊隊長だ」
レギナは全く隠しもせずに自分の身分をあっさりと明かす。しかし、王都騎士団という言葉に船長が反応を示す。レギナと船長が睨みあう状態が続いたが、しばらくすると船長はレギナの方へと近寄り、レギナの顔をつかむ。
「知ってるぜ? 王都騎士団。この大陸の中心にある国だからって大手を振って平和維持と称していろんな国に戦争を仕掛ける騎士団だろ?」
「海賊に言われたくない発言だな。その言葉そのまま返してやろう」
レギナはいつもと全く変わらずに海賊に縛られていても、ましてや囲まれていたとしてもその顔色を一つも変えずに食ってかかる。再び沈黙と海の波の音が船の甲板を支配する。
「....気が変わった。女に手をかけないのが俺の主義だが....テメェらで自由にしていいぞ」
その瞬間、取り囲んでいた船員の目の色が変わる。これから起こることは難なく想像できた。
「やめてくださいっ!」
思いっきり叫んでレギナに群がり始めた船員たちに向かって大声で訴えかける。しかし、全員は聞く耳を持つことはない。こうなれば....
「船長っ! 今すぐ彼らを止めてくださいっ! 僕にできることなら何でもしますからっ!」
「ん、何でも? おいっ! テメェらの中で男が趣味のやつはいるか?」
レギナに群がっていた男たちが一斉に振り向き、馬鹿にするように全員が笑い始める。ダメだ、全員聞く耳を持つ気はない。必死になって両手を縛っている麻ヒモを引きちぎろうと身体強化術をかけているものの両腕が痛くなるだけで引きちぎれそうにない。
「貴様ら、その汚いものを私に向けるつもりならやめておいたほうがいい。身のためだ」
レギナは強がっているが、絶対にすべての男性に対して抵抗できるはずがない。まずい、このままでは....っ
「やめろぉぉおっっ!」
何かが折れるような音が響き、解けた麻ヒモを投げ捨て目の前で並べられていたパレットソードを手に持ち、甲板を走り、レギナのそばを取り囲んでいる男たちの股下に滑り込む。
突然目の前に現れた俺の姿に驚き、男たちはたじろぐ。それ見過ごさず、パレットソードを鞘に収めた状態で横一閃に振るう。
「勝手にこの船に乗り込んだことに関しては謝罪します。ですが、この扱いはあまりにも不当に感じます....あなた方に詫びるにはどうしたらいいでしょうか、船長」
「どうやって抜けた」
突然、レギナの前に現れた俺の姿を船長は冷血かつ冷静に見ている。そしてその視線は俺に左手へと向かれた。
「ほぉ、自分の左手を潰したのか」
「こうするしか方法はありませんでした。お願いします、どうか人間として僕があなたにどう詫びたらいいのか、教えて下さい」
甲板の上で正座をし頭を甲板につける、いわゆる土下座だ。はっきり言うならば自分は他人の船で密航をしようとした犯罪者だ。当然自分が罰を受ける覚悟がある。しかし、レギナに関して言うならば自分が無理やり連れ込んだだけの被害者に過ぎない。当然彼女に責任はないわけで、当然彼女がこんな目に会う筋合いなんてないはずだ。
罰を受けるのは自分だけでいい。
「フン、なかなか大した男じゃないか。その男気に免じて、女はなんとかしてやる。さて、さっきなんでもするとか言ってたよな?」
下げている頭の方、足音が近づいてくる。そして声は頭上で響き、その答えに対してただ「はい」と返事をした。
「よし、わかった。おいテメェらっ! 前にこの船に乗り込んだ奴がどうするかわかるよなっ!」
船長の呼びかけに対して、船員たちが威勢よく掛け声を開ける。どうやら何やら準備をしているらしい。そしてものものしい音がし終わり、あたりがまた静寂で包まれる。
「おい、大将。顔上げな」
「はい」
言われるがまま、顔を上げる。
その瞬間。
当然目の前でにブーツのつま先が迫り来る。
「が....っ!」
避けきれずに、そのまま顔面に思いっきり蹴りを食らってしまう。その反動でレギナの縛られているマストまで転がってゆく。
「フゥ....大将。お前さんの最大の詫びだ」
俺を心ゆくまで楽しませてもらおうか。
軽く脳震盪を起こした頭でぼんやりと見た周りの風景では、暗くなった海を背景にたくさんの男が樽の上にランプを並べ、まるで一つのステージを作るかのように俺と船長を取り囲んでいた。
なるほど、つまりそういうことか。
「プラエド号船長、レベリオ=アンサム」
「....探求者、冒険者。今一色 翔」
開戦。
「貿易船に積み込んでいい大砲の数は合わせて20までだ。しかし、ここの下にある部屋に設置されている砲門の数は明らかに20を超えている」
「ほぉ....いい目だ。身なりは冒険者してるが、一体何やってた? 軍人か?」
「『やってた』じゃない。『やっている』だ」
こちらに背を向け、レギナの方へと話しかける船長。レギナはすでにあの段階で気づいていたのか。そしてまた難なくレギナを軍人であると見抜いた、海賊というのは勘が鋭いものなのだろうか。
「お嬢さん、名前は?」
「レギナ=スペルビア、王都騎士団9番隊隊長だ」
レギナは全く隠しもせずに自分の身分をあっさりと明かす。しかし、王都騎士団という言葉に船長が反応を示す。レギナと船長が睨みあう状態が続いたが、しばらくすると船長はレギナの方へと近寄り、レギナの顔をつかむ。
「知ってるぜ? 王都騎士団。この大陸の中心にある国だからって大手を振って平和維持と称していろんな国に戦争を仕掛ける騎士団だろ?」
「海賊に言われたくない発言だな。その言葉そのまま返してやろう」
レギナはいつもと全く変わらずに海賊に縛られていても、ましてや囲まれていたとしてもその顔色を一つも変えずに食ってかかる。再び沈黙と海の波の音が船の甲板を支配する。
「....気が変わった。女に手をかけないのが俺の主義だが....テメェらで自由にしていいぞ」
その瞬間、取り囲んでいた船員の目の色が変わる。これから起こることは難なく想像できた。
「やめてくださいっ!」
思いっきり叫んでレギナに群がり始めた船員たちに向かって大声で訴えかける。しかし、全員は聞く耳を持つことはない。こうなれば....
「船長っ! 今すぐ彼らを止めてくださいっ! 僕にできることなら何でもしますからっ!」
「ん、何でも? おいっ! テメェらの中で男が趣味のやつはいるか?」
レギナに群がっていた男たちが一斉に振り向き、馬鹿にするように全員が笑い始める。ダメだ、全員聞く耳を持つ気はない。必死になって両手を縛っている麻ヒモを引きちぎろうと身体強化術をかけているものの両腕が痛くなるだけで引きちぎれそうにない。
「貴様ら、その汚いものを私に向けるつもりならやめておいたほうがいい。身のためだ」
レギナは強がっているが、絶対にすべての男性に対して抵抗できるはずがない。まずい、このままでは....っ
「やめろぉぉおっっ!」
何かが折れるような音が響き、解けた麻ヒモを投げ捨て目の前で並べられていたパレットソードを手に持ち、甲板を走り、レギナのそばを取り囲んでいる男たちの股下に滑り込む。
突然目の前に現れた俺の姿に驚き、男たちはたじろぐ。それ見過ごさず、パレットソードを鞘に収めた状態で横一閃に振るう。
「勝手にこの船に乗り込んだことに関しては謝罪します。ですが、この扱いはあまりにも不当に感じます....あなた方に詫びるにはどうしたらいいでしょうか、船長」
「どうやって抜けた」
突然、レギナの前に現れた俺の姿を船長は冷血かつ冷静に見ている。そしてその視線は俺に左手へと向かれた。
「ほぉ、自分の左手を潰したのか」
「こうするしか方法はありませんでした。お願いします、どうか人間として僕があなたにどう詫びたらいいのか、教えて下さい」
甲板の上で正座をし頭を甲板につける、いわゆる土下座だ。はっきり言うならば自分は他人の船で密航をしようとした犯罪者だ。当然自分が罰を受ける覚悟がある。しかし、レギナに関して言うならば自分が無理やり連れ込んだだけの被害者に過ぎない。当然彼女に責任はないわけで、当然彼女がこんな目に会う筋合いなんてないはずだ。
罰を受けるのは自分だけでいい。
「フン、なかなか大した男じゃないか。その男気に免じて、女はなんとかしてやる。さて、さっきなんでもするとか言ってたよな?」
下げている頭の方、足音が近づいてくる。そして声は頭上で響き、その答えに対してただ「はい」と返事をした。
「よし、わかった。おいテメェらっ! 前にこの船に乗り込んだ奴がどうするかわかるよなっ!」
船長の呼びかけに対して、船員たちが威勢よく掛け声を開ける。どうやら何やら準備をしているらしい。そしてものものしい音がし終わり、あたりがまた静寂で包まれる。
「おい、大将。顔上げな」
「はい」
言われるがまま、顔を上げる。
その瞬間。
当然目の前でにブーツのつま先が迫り来る。
「が....っ!」
避けきれずに、そのまま顔面に思いっきり蹴りを食らってしまう。その反動でレギナの縛られているマストまで転がってゆく。
「フゥ....大将。お前さんの最大の詫びだ」
俺を心ゆくまで楽しませてもらおうか。
軽く脳震盪を起こした頭でぼんやりと見た周りの風景では、暗くなった海を背景にたくさんの男が樽の上にランプを並べ、まるで一つのステージを作るかのように俺と船長を取り囲んでいた。
なるほど、つまりそういうことか。
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開戦。
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