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第2章 青の色
第83話 汚れの色
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昨日の晴天に比べ、この日は曇り空だった。街はあいかわらずの活気にあふれていて、曇り空と元気な街並みがあまりにもミスマッチだと思った。
「にしても....張り紙....」
「どこもかしこもあんたの顔だらけね。気味が悪いわ」
隣で歩いているのはウィーネだ。レギナは昨晩泊まった家の家事を手伝うとかで残って行った。逃げるようなことはないだろうが、少なからずこれから自分がやろうとしていることを彼女に手伝わせたくないというのが本音だ。
そして街を見ると、掲示板らしき場所から店の壁に至るまで、昨日無かった俺の指名手配の張り紙がずらりと並んでいる。今は髪の色も変わり、顔にまで呪いの刺青が回っていることからよく見ないかぎり、手配書に描かれている人間と同一人物であることはバレないだろうが、問題はそのそばに描かれているレギナの似顔絵だ。
「へぇ~、あんたの顔よりもだいぶうまく描かれてるじゃない。なんだかあんたのは適当って感じ?」
「まぁ、それで助かってはいますけどね。でもこれは....」
問題なのはレギナの似顔絵が同時に掲載されていることだ。レギナは服装以外変わっている場所はない。となると、確実に彼女は張り紙を見た人間ならば一発で同一人物であるということがバレてしまう。
そしてそのそばにいる俺も当然のごとく疑われるだろう。
「早くこの街から出ないと....」
「その前に船を見つけなきゃね」
ウィーネの言う通りだ、まず船を見つけなくては。港へと着くと、そこでは昨日来た時と同じように、船で船員が積荷を下ろしたり積み込んだりをしている。
さて、どうやって聞き込もうか....
とりあえず、作業をしている船員には近づかないほうがいいだろう。そうなったら、そうだ。あそこで暇そうにしている作業員に聞けばいいじゃないか。何も船員だけが知っている情報とは限らないだろう。
「どうもこんにちは~、大きい船ですね~。リュイからの船ですか?」
「あ? 兄ちゃん、何だ? 観光か?」
やばい、この暇そうにしている作業員、めっちゃ怖い。
「あ、はいそうなんですよ~。貿易船なんですか?」
「....あぁ、国が戦争するって必要な物資の積み込みと武器の輸出だ」
戦争....そういえばガルシアさんとそんな話をした覚えがある。となるとあの積み込まれているものは戦争の道具というわけか。なかなかに嫌な時代だ。
「大変ですね~、いつ出発なんですか?」
「今日中だ、海が時化ねぇうちにだな。なんだ、見送りでもするのか?」
「いえ、そういうことでは....」
今日中、海が時化ないうちに....かなり早くないか?
まずい、急いでレギナに言わないと。
「すみません、忙しいのに」
「あぁ、気をつけて観光しろよ」
若干駆け足気味で、ユーラスの家へと向かう。今日中に、海が時化る前に。となると出発は正午あたりか、今はちょうど時間的に10:30くらい。かなり急なことになってしまったが仕方があるまい。
人通りの多い街の中を進む。いくら容姿が変わっているからといってもあまり見られたらまずい。若干うつむき加減で歩く。度々ぶつかった人に睨まれたりするがあまり気にしないようにしていた。
「この人物を見なかったか?」
「ん? この男は見なかったけど、このねぇちゃんなら見たことがあるぞ」
ふとそんな会話が耳に入ってきた。思わず、顔を少し上げて前を見ると、憲兵らしき人物が昨日アミラを買った店の親父の前で何かを聞いている。そして、その憲兵が手に持っているのは、俺とレギナの似顔絵が描かれた手配書だ。
すでに捜索が始まっている。
まずい、かなりまずい。
「何? どこで見た」
「昨日俺の店でアミアを2匹くらい買ってったか、ごつい刺青入れたにぃちゃんと一緒にいたぞ?」
体の毛穴という毛穴から冷や汗が吹き出るのがわかる。しかも最悪なことにこの道は一本道で、憲兵のいる出店の前を通らないとレギナのいる家にはたどり着けない。
必死に背中を丸めて地面を見ながら出店の前を通り過ぎてゆく。そうだ、ちょうど人もたくさん通っているし、バレるはずがない。
頼む、気づかないでくれ....っ
「ん....そこで歩いてるの....あのにぃちゃんじゃないか?」
バレた....っ!
憲兵が反応するよりも早く、一目散に全身に魔力をフルパワーで流しながら疾走する。後ろの方で制止するようにと言われるがそんなことに耳を傾ける必要はない。
「ちょっとっ! あんた走るの早いっ!」
声のする方を向くと、後方でウィーネがサーフィンでもするかのようにして地面を滑っている。走らない分そっちのほうが絶対楽に決まっているだろう。
「ウィーネさんっ! 何か妨害とかできないんですかっ!?」
「はぁ? 何でそんなことしなきゃいけないのよっ!」
そんなことをしなきゃいけない、と言っていることはできないわけではないんだな。
「精霊石を探せるのは俺だけですよ」
「....あぁっもうっ! わかったわよっ!」
後方では憲兵の人間が手に武器を迫っている。人混みをかき分けて逃げている俺に対し、憲兵は職種から通りの人に道を譲られて追ってきているため、その距離はだんだんと狭まってゆく。
しかし、その憲兵の間を、その人ごみの中を誰からも視認することのできないウィーネが入り込んで行き、出店に置かれている魚用の水槽にそれぞれ軽く触れてゆく。
その様子を見ながら走って行ったため前方がおろそかになっていた。すでに先回りしていた数人の憲兵が道をふさいでいる。避けられそうにもない。
「ウィーネ....っ!」
「呼び捨てに....するなっ!」
ウィーネ怒号が街に響く、その瞬間。
自分が走っていた地面が急に歪み始める。いや、正確には走っていた地面に水が流れており、それが自分の足を包んでいるのだ。
「うぉ....っ!」
「流れに乗ってっ!」
見れば前方に水の流れが見える。まるで川みたいだが、それは憲兵の方へと流れず、物理法則を無視し、建物の壁を登って流れているのである。
流れに乗ってって、まさか....
「....っ! 一か八か....っ!」
憲兵が前から近づいてくるその刹那、必死に足を動かし、水の流れている壁へとその足をかける。すると、抵抗がなくまるで階段に足をかけたみたいに壁が足にかかり、そして壁と平行に体が傾く。
「っ!」
壁に足がかかった瞬間、今まで使ったことのない筋肉が身体を必死に起こそうとしている、それでも足は必死に動かしているのだから現在、俺が行っているのはいわゆる壁走りというものである。
「な....っ!? 逃すかっ!」
目の前で起こっている現象に目もくれず、憲兵達は必死になって壁走りをしている俺を追いかけようとする。
しかし。
「待ちなさいっ!」
再びウィーネの怒号が響く。
その瞬間、憲兵の動きが止まる。理由は先ほどまで俺の足元に流れていた水が憲兵達の足にからみつき、その動きを封じている。
「な、なんだこれはっ!」
「魔術か....っ!」
憲兵達が後ろで何やら叫んでいるが、気にすることはない。
とにかく活路は開いた。問題はレギナだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
静かな時間だ。
もし自分にも違う人生があったのなら、このような生活を送れたのだろうか。
「洗い終わったぞ、エリ」
「そしたら、そうねぇ。そこのカゴに入っている洗濯物を外に干してもらおうかしら」
「わかった」
エリの指さした方にはカゴに詰まっている洗濯物の類が置いてある。食器を洗った手をタオルで拭き、洗濯籠を持つ。
「ごめんなさいね、こんなことを頼んでしまって」
「いや、いいんだ。私がやりたかったことだから」
洗濯籠を持って外へと出る。しかし、腰には『スペルビア』を下げた状態でだ。いつどこで『掲示を受けし者の会』からの襲撃を受けるかわからない。もし襲撃があったとしたなら、この家族を守れるのは私しかいない。そして、そこまで考えて思った。結局のところ、自分に安寧の暮らしなどは望めないのだと。
自分がどれだけ、多くのものを救うために、多くのものを奪ってきたのだろう。逃げることは許されない、自分で選んだ道だ。この世界に生きる者のため、そのためならば自分はどんなに汚れた人間でも構わない。
この平穏を守るために、私は戦わなくてはならないのだ。
洗濯物の一つ一つにシワが残らないように丁寧に伸ばしながら干してゆく。部隊の人間の衣食住は自分も含め当番制だったことから、このようなことは慣れている。
「にしてもガレアの奴....いつになったら私を見つけるのだ....」
戻れたら、絶対に訓練量を倍にしようと考えている。あんな戦闘において素人であるイマイシキ ショウにあっさりと逃げられた上に、ましてや隊長を誘拐されるなど言語道断だ。
しかし、あの男と剣を交わして行く上にわかったことがある。それは彼が沢山の人間と接し、その中で学んだことがすべて剣の形となって出ているということだ。
迷い、悲しみ、辛さ、喜び、慈悲。彼自身人を殺さないとは言っていたが、あれの剣は確かに人は殺せない、だがそれ以上に自分を殺すことになりかねない。迷いがあれば剣も自分の体も正直に答える。
だが、それがあの男の優しさなのだろう。
「....ん?」
何やら遠くの方で騒がしい音が聞こえる。街の方からだ。
籠の中の洗濯物をすべて干し終え、街の方を見るため目をほそめる。すると見えてきたのは全力で走ってくる男の姿。
「ショウ....?」
だんだんと距離が近くなってくるにつれて、近づいてくる男の正体がわかった。間違いない、あの男だ。
「レギナさんっ!」
「....どうした」
どうやら何かが起こったようだ。全身で息をし、完全に疲れ切った様子だ。見れば身体強化術を使ってまで走ってきた感じである。
「ハァ....ハァ....今すぐ、この街から出ます....っ!」
「....は?」
「にしても....張り紙....」
「どこもかしこもあんたの顔だらけね。気味が悪いわ」
隣で歩いているのはウィーネだ。レギナは昨晩泊まった家の家事を手伝うとかで残って行った。逃げるようなことはないだろうが、少なからずこれから自分がやろうとしていることを彼女に手伝わせたくないというのが本音だ。
そして街を見ると、掲示板らしき場所から店の壁に至るまで、昨日無かった俺の指名手配の張り紙がずらりと並んでいる。今は髪の色も変わり、顔にまで呪いの刺青が回っていることからよく見ないかぎり、手配書に描かれている人間と同一人物であることはバレないだろうが、問題はそのそばに描かれているレギナの似顔絵だ。
「へぇ~、あんたの顔よりもだいぶうまく描かれてるじゃない。なんだかあんたのは適当って感じ?」
「まぁ、それで助かってはいますけどね。でもこれは....」
問題なのはレギナの似顔絵が同時に掲載されていることだ。レギナは服装以外変わっている場所はない。となると、確実に彼女は張り紙を見た人間ならば一発で同一人物であるということがバレてしまう。
そしてそのそばにいる俺も当然のごとく疑われるだろう。
「早くこの街から出ないと....」
「その前に船を見つけなきゃね」
ウィーネの言う通りだ、まず船を見つけなくては。港へと着くと、そこでは昨日来た時と同じように、船で船員が積荷を下ろしたり積み込んだりをしている。
さて、どうやって聞き込もうか....
とりあえず、作業をしている船員には近づかないほうがいいだろう。そうなったら、そうだ。あそこで暇そうにしている作業員に聞けばいいじゃないか。何も船員だけが知っている情報とは限らないだろう。
「どうもこんにちは~、大きい船ですね~。リュイからの船ですか?」
「あ? 兄ちゃん、何だ? 観光か?」
やばい、この暇そうにしている作業員、めっちゃ怖い。
「あ、はいそうなんですよ~。貿易船なんですか?」
「....あぁ、国が戦争するって必要な物資の積み込みと武器の輸出だ」
戦争....そういえばガルシアさんとそんな話をした覚えがある。となるとあの積み込まれているものは戦争の道具というわけか。なかなかに嫌な時代だ。
「大変ですね~、いつ出発なんですか?」
「今日中だ、海が時化ねぇうちにだな。なんだ、見送りでもするのか?」
「いえ、そういうことでは....」
今日中、海が時化ないうちに....かなり早くないか?
まずい、急いでレギナに言わないと。
「すみません、忙しいのに」
「あぁ、気をつけて観光しろよ」
若干駆け足気味で、ユーラスの家へと向かう。今日中に、海が時化る前に。となると出発は正午あたりか、今はちょうど時間的に10:30くらい。かなり急なことになってしまったが仕方があるまい。
人通りの多い街の中を進む。いくら容姿が変わっているからといってもあまり見られたらまずい。若干うつむき加減で歩く。度々ぶつかった人に睨まれたりするがあまり気にしないようにしていた。
「この人物を見なかったか?」
「ん? この男は見なかったけど、このねぇちゃんなら見たことがあるぞ」
ふとそんな会話が耳に入ってきた。思わず、顔を少し上げて前を見ると、憲兵らしき人物が昨日アミラを買った店の親父の前で何かを聞いている。そして、その憲兵が手に持っているのは、俺とレギナの似顔絵が描かれた手配書だ。
すでに捜索が始まっている。
まずい、かなりまずい。
「何? どこで見た」
「昨日俺の店でアミアを2匹くらい買ってったか、ごつい刺青入れたにぃちゃんと一緒にいたぞ?」
体の毛穴という毛穴から冷や汗が吹き出るのがわかる。しかも最悪なことにこの道は一本道で、憲兵のいる出店の前を通らないとレギナのいる家にはたどり着けない。
必死に背中を丸めて地面を見ながら出店の前を通り過ぎてゆく。そうだ、ちょうど人もたくさん通っているし、バレるはずがない。
頼む、気づかないでくれ....っ
「ん....そこで歩いてるの....あのにぃちゃんじゃないか?」
バレた....っ!
憲兵が反応するよりも早く、一目散に全身に魔力をフルパワーで流しながら疾走する。後ろの方で制止するようにと言われるがそんなことに耳を傾ける必要はない。
「ちょっとっ! あんた走るの早いっ!」
声のする方を向くと、後方でウィーネがサーフィンでもするかのようにして地面を滑っている。走らない分そっちのほうが絶対楽に決まっているだろう。
「ウィーネさんっ! 何か妨害とかできないんですかっ!?」
「はぁ? 何でそんなことしなきゃいけないのよっ!」
そんなことをしなきゃいけない、と言っていることはできないわけではないんだな。
「精霊石を探せるのは俺だけですよ」
「....あぁっもうっ! わかったわよっ!」
後方では憲兵の人間が手に武器を迫っている。人混みをかき分けて逃げている俺に対し、憲兵は職種から通りの人に道を譲られて追ってきているため、その距離はだんだんと狭まってゆく。
しかし、その憲兵の間を、その人ごみの中を誰からも視認することのできないウィーネが入り込んで行き、出店に置かれている魚用の水槽にそれぞれ軽く触れてゆく。
その様子を見ながら走って行ったため前方がおろそかになっていた。すでに先回りしていた数人の憲兵が道をふさいでいる。避けられそうにもない。
「ウィーネ....っ!」
「呼び捨てに....するなっ!」
ウィーネ怒号が街に響く、その瞬間。
自分が走っていた地面が急に歪み始める。いや、正確には走っていた地面に水が流れており、それが自分の足を包んでいるのだ。
「うぉ....っ!」
「流れに乗ってっ!」
見れば前方に水の流れが見える。まるで川みたいだが、それは憲兵の方へと流れず、物理法則を無視し、建物の壁を登って流れているのである。
流れに乗ってって、まさか....
「....っ! 一か八か....っ!」
憲兵が前から近づいてくるその刹那、必死に足を動かし、水の流れている壁へとその足をかける。すると、抵抗がなくまるで階段に足をかけたみたいに壁が足にかかり、そして壁と平行に体が傾く。
「っ!」
壁に足がかかった瞬間、今まで使ったことのない筋肉が身体を必死に起こそうとしている、それでも足は必死に動かしているのだから現在、俺が行っているのはいわゆる壁走りというものである。
「な....っ!? 逃すかっ!」
目の前で起こっている現象に目もくれず、憲兵達は必死になって壁走りをしている俺を追いかけようとする。
しかし。
「待ちなさいっ!」
再びウィーネの怒号が響く。
その瞬間、憲兵の動きが止まる。理由は先ほどまで俺の足元に流れていた水が憲兵達の足にからみつき、その動きを封じている。
「な、なんだこれはっ!」
「魔術か....っ!」
憲兵達が後ろで何やら叫んでいるが、気にすることはない。
とにかく活路は開いた。問題はレギナだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
静かな時間だ。
もし自分にも違う人生があったのなら、このような生活を送れたのだろうか。
「洗い終わったぞ、エリ」
「そしたら、そうねぇ。そこのカゴに入っている洗濯物を外に干してもらおうかしら」
「わかった」
エリの指さした方にはカゴに詰まっている洗濯物の類が置いてある。食器を洗った手をタオルで拭き、洗濯籠を持つ。
「ごめんなさいね、こんなことを頼んでしまって」
「いや、いいんだ。私がやりたかったことだから」
洗濯籠を持って外へと出る。しかし、腰には『スペルビア』を下げた状態でだ。いつどこで『掲示を受けし者の会』からの襲撃を受けるかわからない。もし襲撃があったとしたなら、この家族を守れるのは私しかいない。そして、そこまで考えて思った。結局のところ、自分に安寧の暮らしなどは望めないのだと。
自分がどれだけ、多くのものを救うために、多くのものを奪ってきたのだろう。逃げることは許されない、自分で選んだ道だ。この世界に生きる者のため、そのためならば自分はどんなに汚れた人間でも構わない。
この平穏を守るために、私は戦わなくてはならないのだ。
洗濯物の一つ一つにシワが残らないように丁寧に伸ばしながら干してゆく。部隊の人間の衣食住は自分も含め当番制だったことから、このようなことは慣れている。
「にしてもガレアの奴....いつになったら私を見つけるのだ....」
戻れたら、絶対に訓練量を倍にしようと考えている。あんな戦闘において素人であるイマイシキ ショウにあっさりと逃げられた上に、ましてや隊長を誘拐されるなど言語道断だ。
しかし、あの男と剣を交わして行く上にわかったことがある。それは彼が沢山の人間と接し、その中で学んだことがすべて剣の形となって出ているということだ。
迷い、悲しみ、辛さ、喜び、慈悲。彼自身人を殺さないとは言っていたが、あれの剣は確かに人は殺せない、だがそれ以上に自分を殺すことになりかねない。迷いがあれば剣も自分の体も正直に答える。
だが、それがあの男の優しさなのだろう。
「....ん?」
何やら遠くの方で騒がしい音が聞こえる。街の方からだ。
籠の中の洗濯物をすべて干し終え、街の方を見るため目をほそめる。すると見えてきたのは全力で走ってくる男の姿。
「ショウ....?」
だんだんと距離が近くなってくるにつれて、近づいてくる男の正体がわかった。間違いない、あの男だ。
「レギナさんっ!」
「....どうした」
どうやら何かが起こったようだ。全身で息をし、完全に疲れ切った様子だ。見れば身体強化術を使ってまで走ってきた感じである。
「ハァ....ハァ....今すぐ、この街から出ます....っ!」
「....は?」
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