異世界探求者の色探し

西木 草成

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第2章 青の色

第57話 持ち物の色

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 以上が『無色精霊術師の聖戦』の全容である。これはレギナから聞いた物語の内容を個人的に解釈し、童話風にまとめてみたものだ。我ながらうまいと思う。

「つまりだ、精霊が見えるということは忌み嫌われることであるのと同時に禁書に触れた人間だということだ」

 レギナは深刻そうな面持ちで話すが、第一俺は禁書なるものには触れたこともないし見たこともない。そして七7つの国に分けられているということはそれは全部集めないと読めないということだろ。そんな面倒くさいものなんかいらん。

 それに、たかが童話だろ。現実にあった話ではないはずだ。

「でも、それって架空のお話ですよね? たしかに7つの国とか出てきてリアルですけど....」

 しかしレギナの表情はいまだに硬い。

「これはあくまで子供用の話だ。いろいろなところが省略されているが、これの童話は神話、すなわち聖典の話を基盤にして作られている」

 神話、聖典、聞いたことのある単語だ。これはステラ、謎の失踪を遂げた鑑定士から聞いた単語だ。

「聖典や神話をつくったのはエルフだといわれている。この世界で最も長寿な種族だ。ここまで言われてもわからないか?」

 すなわち、エルフが実際に観て聴いたものを本にしたと。地球だったら信じられない話だが、これは信憑性があるな、何せ実際に見ているのだから。

「....わかりました。でも精霊が見えるのと禁書は僕とは何ら関係はありません。それだけはわかっていただけますか?」

 反応はない、信じてはもらえてないんだろう。

「ちげぇよ」

「はぁ....消えろって言ったの聞こえなかったか?」

 サリーがまた隣に立って何かを言っている。元はといえばこいつのせいで俺にまた変な疑いがかけられているというのに。

「はぁ....それで? 何が違うって言ってるんだ?」

「後ろをさっさと向けよ、この鈍感」

 鈍感? なにいって....

 サリーに言われたとうりに後ろを振り向き、その意味を理解した。森の細い獣道の向こう側に一人の人間がこっちを見ている。いや、一人か?

「え....と、どうもこんにちは」

 出会って最初の挨拶は基本中の基本だろう。

「....こんにちは」

 返事を返してくれた。どうやら安全な人らしい。いや、待てよ。俺この世界でちゃんと挨拶返されたの初めてじゃないか?

「えっと....何か」

 用ですか? と言いかけて口が止まった。なんで木の間からぞろぞろと人が出てきて、それになんだか全員おっかない顔しているけれども....

 手には各々武器を持っている。それは欠けた剣であったり、斧だったり、ともかく物騒なものを持っているということは理解した。

 あぁ、これはあれか?

「えっと....ちょっと先を急ぐのでみなさんには道を開けていただきたいのですけど....」

「あぁ、いいぜ。テメェが荷物を全部ここに置いていったらなぁ?」

 こいつら、追剝ぎだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 追剝ぎの集団はおおよそ20数名ほど、完全に逃げる道も閉ざされ、絶賛囲まれている状況である。

 さてどうしよう。荷物置いていけって言われても、今手にあるのはパレットソード(俺限定)、レギナの武器、リーフェさんの形見、パルウスさんの形見の防具、そしてさっきオットーさんからもらった調味料とフライパン。

 よくよく考えてみれば俺の持ち物は全部もらいものばっかだな。

「どうしたんだ? ビビって腰でも抜けたんかよぉ?」

「さっさと荷物置いていけって」

 次々と周りを囲んでいる追剝ぎどもが声を荒げて催促をする。しかし置いていけって言ってもなぁ....

「すみません、今手元にあるものがあまり値打ちのないものばかりでして....今回は勘弁してもらえませんか?」

 これでも精一杯の礼儀正しい対応だ。あまり余計な刺激を与えたくない、下手したら....死人が出そうだ。

 なぜかというと、すでにレギナは俺の背後に張り付いており、さっきから武器をよこせと言わんばかりに背中を突っついているのだ。

「ハァ? その剣とか相当な業物だろぉっ! そいつとか置いてけって言ってんだよっ! 頭大丈夫かぁっ?」

 どうやら俺の腰に差しているパレットソードのことを言っているらしい。これはなんとかしないと、実力行使に出かねられない。

「こいつのことですか? これ錆び付いてて全く抜けないんですよ。護身用で見た目だけでもって思って身につけていたんですが....」

「二束三文でも売れるもんは売れんだよっ! いいからさっさとよこせっ!」

 へぇ、この追剝ぎ二束三文って言葉知ってんだ。意外に教養があるな。

 仕方なくベルトからパレットソードを外し追剝ぎに差し出す。にしても魔物の皮をそのまんまかぶったかのような服装をしている。においがひどいったらありゃしない。

 自分の手から奪い取るようにしてパレットソードをもってかれる。

「ほぉ、古いけど結構いい剣じゃねぇか。この鞘にハマってんのは宝石だろぉ? この銀だって剥がしゃ金になるぜぇ」

 なるほどそんな考え方はしたことがなかった。

「なぁ、あいつらぶっ殺していいか? 俺の神聖な精霊石があの汚い手でベタベタ触られるのはスゲーむかつくんだけど?」

 隣のサリーが目をギラギラさせながら追剝ぎたちを睨みつけている。今にも飛びかかって殺しそうな雰囲気だ。

「落ち着けって、あんまり事を荒立てたくはないんだ」

 そう、今はあまり事を荒立てないほうがいい。

「なぁ、その背後にいるのは女かぁ? なんだったらその女も置いていっていいんだゼェ?」

 あ、何言ってんだこの人。今それを言っちゃいけない一番ダメな人に向けて言ったぞこいつ。

「いや、今その人に関わらないほうが痛てててててててっっっ!」

 とうとう突っつくだけでは飽き足らず背中の肉をつねり始めた。そろそろ我慢の限界なのか? もう今すぐに剣をよこせと言わんばかりだ。

「お? その背中に背負っているのも剣かぁ? そいつもよこせよぉっ!」

 いや、ダメだこれを渡すわけにはいかない。もう背後にいるレギナさん、目だけで人を殺せるようになってしまわれておる。

「え....と、じゃあ。はい」

 背中の紐を外し、レギナの武器を追剝ぎに手渡す。すみません、レギナさん。やっぱり自分の命には変えられません。俺はレギナの剣の柄をつかみ鞘の先を追剝ぎに向けて渡す。

「なんだぁ、今回の獲物は随分と親切だなぁっ!」

 そうですね、親切か....追剝ぎに親切とか言われたら元も子もないな。

 手渡す瞬間。

 持っていた剣の柄を逆手に持ち、鞘の先で追剝ぎの鳩尾を打ち込んだ。鳩尾を突かれ後ろに転げた追剝ぎが俺を下から睨みつける。

「な....っ、テメェっ!」

「すみませんが....あんたらにやるもんは何一つないんだ、ここには」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 背負っている時点で気づいてはいたが、この剣はかなり重い。普段軽すぎるパレットソードを使っていた所為か余計に重く感じる。彼女はこんな剣で抜刀術を行ったのかと思うと、その技量の高さにただただ感服する。

 さて、目の前には先ほど鳩尾を突いてそのまま頭を剣の腹で殴り気絶させた追剝ぎAが寝っ転がっている。先ほどまでおとなしく剣だのを見せていた人間が急に自分の仲間を襲って気絶させたという事実に、他の追剝ぎは頭が追いついていないようだ。

 なら都合がいい。

 前方に追剝ぎBと追剝ぎCが突っ立っている。すかさず、鞘に収めた状態のレギナの剣を両手で持ち横一閃に薙ぎはらう。身体強化術を使ってぶん殴った結果、二人とも物凄い音を立てて森の奥へと吹っ飛んで行った。

 あれは....骨折れてるな....お気の毒さま。

 少なからずこれでしばらく戻ってくることはないだろう。

 合計三人が吹っ飛ばされた時点でようやく追剝ぎと愉快な仲間たちは状況を理解したらしい。今自分たちが襲われているという事実に。

「や、野郎っ! ぶっ殺してやるっ!」

 残りがそれぞれ武器を持って馬鹿正直に真正面から突っ込んでくる。そして後ろからも数名が武器を持ってやってくる。

 状況は少し悪い。何せここは一本道だ、それに両側か挟まれた状態で周り森の木々、人数だってサリーを除けば2人で戦わなくてはならないし、彼女は武器を持っていない。

 つまりは、正面、後ろの襲撃に備えながらレギナを守らなくてはならないと。

 打開策はあるにはある。だがこれを使っていいものなのか....

「レギナさんっ!」

「....なんだ? 人の剣を勝手に使う凶悪犯」

 とうとう誘拐犯から凶悪犯に格上げですか。ものすごく機嫌が悪い、そんなの見て分かるし原因だってわかる。自分だって勝手に自分のものを使われたら嫌だし、それが思い入れのあるものならばよりそう思うだろう。

「あなたを信用します」

 レギナの剣の特性。それは1つの剣から2つに分裂して双剣になるということ。つまりはだ、この剣を二つに分解し、片方をレギナに渡せばいい。それで彼女を守らないで安心して目の前の敵に集中できる。

 剣を鞘から抜き、分解を試みる。確かに柄には一本の線が入っており、そこから分裂するのだろう。だがどうやって分解するのか、今更彼女に聞くわけにもいかないだろうし....

 ならばだ。

 あの時の状況、すなわちこの剣が分解できると判明した時と同じ状況になればわかるのではないだろうか?

 確か....

「オウらっ!」

 追剝ぎDがまっすぐ正面に剣で斬り込んでくる。俺はそれをレギナの剣で受け止めた、その時だ。

 カチ。

「あぁ、そういう」

 剣のつばにあたる部分に左手の親指と人差し指で挟みそのままスライドさせる。すると両刃の剣ではあるが、真ん中から分解することに成功した。要するに分解させる条件は剣で防御をした時に剣の中にある留め金が外れて分解する仕組みか。

 左手、右手に二つに分かれたレギナの剣がそれぞれ収まる。突如剣が増えたことに追剝ぎDは目を丸くして驚いていた。多分俺もあの時こんな表情をしていたのだろう。

「な、え?」

 左手に持った剣で追剝ぎDの足、脇腹、頭と次々剣の峯で殴ってゆき気絶させた。

「レギナさんっ!」

 俺は右手に持った剣の片方をレギナに向けて放り投げる。それを彼女は不機嫌そうな表情で受け取ると、後ろを向いて追剝ぎたちと向きなおる。

「後で覚えてろ、イマイシキ ショウ」

「....はい」

 開戦。

 
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