異世界探求者の色探し

西木 草成

文字の大きさ
上 下
48 / 155
第1章 赤の色

第47話 救済の色

しおりを挟む

「教えてくれ、どうしたら俺の命は助かる」

「どういう風の吹き回しだ小僧? さっきまで死にたい死にたい言ってたくせに」

 現在、俺は地下牢で、壁に寄りかかっているサリーに向かって土下座をして頼み込んでいる。理由は簡単だ。

 俺は生きなくてはならない。

「ほぉ、まぁどういう心境か知らんが、お前が生きる気になったんだったら別にどうだっていい」

「教えてくれるのか?」

 あぁ、と言って土下座をしている俺の前にあぐらで座る。その姿はどこか喜んでいる感じにも見えた。

「まずだ、ここから出ろ」

「だろうな」

 急にシリアスな顔から当然なことを言われてもしょうがない。

 聞きたいのは方法だ。

「そして出たら、青の精霊を探せ」

「青の精霊?」

 確かに、サリーという赤の精霊がいるのならば、青の精霊もいたっておかしくはないはずだ。しかし今回どんな関係が・・・

「火には水、赤には青というように、完全に治るわけじゃないが寿命は延びるだろうさ」

「それで、青の精霊とやらを見つけたらどうすんだ?」

「単純だ、お前のクソ剣でその青の精霊を取り込めばいい」

「取り込むって・・・どうやって?」

 俺の質問に対して、サリーは自分の耳を俺に見せる。

「見ろ」

「いや、見てる」

 見ると、耳には若干大きいが炎をかたどったアクセサリーがくっついている。そしてそのアクセサリーには不自然な穴が空いているのだ。まるでそこには元々何かがはまっていたかのような感じで。

「ここには元々、俺の精霊石がはまっていた。精霊石ってのはいわば精霊の本体みたいなもんだ。それがあのお前のクソ剣の鞘にくっついてた石っころだ」

 あの汚い石っころが何だかいつの間にかルビーのような宝石になっていたが、なるほどあれが精霊石というものなのか。となるとあの鑑定師の言っていたことはあながち間違っていなかったということか。

「俺くらいのレベルの精霊なら大抵の場合持ってるはずだ。当然青の精霊も持っているだろうさ」

「つまり、その青の精霊から精霊石を渡してもらい、それをあの剣の鞘にはめればいいと?」

「つまりはそういうことだ」

 ここで生じている問題は二つある。一つはここからどうやって出るか。二つは仮に出られたとしてどうやって青の精霊とやらを探すのか。

「そうだな、だったらお前。あの女隊長口説いて出してもらえよ」

「ふざけるな。できても、できなくてもやるか」

 本気でどうする。このままでは俺はリーフェさんにもらった命を確実に殺してしまう。そうならない手があるのか・・・

「おい、また客だぞ」

「ん? 今度は一体誰が・・・」

 地下牢の中でぐるぐると回りながら考えを巡らせていると、サリーが突如俺に声をかける。

 しばらく耳をすますと、奥の方から靴で石畳を歩く音が聞こえてくる。どうやら面会者ではないらしい。この感じだと軍人か?

「・・・独り言か? 地下牢は退屈だろう」

「え・・・と、どちら様ですか?」

 目の前に立っていたのは金髪と整ったシャープな顔立ちの軍人。どこかで見覚えがあると言ったら、見覚えがある。

「もしかして・・・アランさんですか?」

「そう、分隊長のアラン=アルクスだ。覚えてたか」

「自分に何か用ですか?」

 何をしに来たんだ、この人は。しかも分隊長といえば隊長の次の次に偉い人間ではなかったのか? そんな人間がなぜ、罪人扱いされている人間の前に来るんだ。

「お前に情報をやろう」

「情報?」

「そう、情報だ」

 その受け答えをしている、アランの表情は松明の明かりに照らされてニタリと笑っているようにも見える。どうも読めない人だ。

「まず、お前は二日後に処刑される」

「え・・・処刑?」

 唐突に言い渡された、その情報。話によれば今回の件については証拠不十分であるとして、すなわち、俺があの街を火の海にしたという証拠とそれを否定する証拠が足りないという理由らしい。

 だが、それではつじつま合わせに自分が犯人にされているようなものだ。

「ということだ」

「そんな情報を俺に教えてどうするんですか。まさかこの二日間何かに祈れと?」

 そして、こんなことを教えるアランはただの感じの悪いやつ以外何者でもない。本当にただの感じの悪いやつだったらの話だが。

「何かに祈りたいんだったらそうしたらいい。だが期限は二日ある。その間にできることを探せ、ちなみに処刑は中央の広場で大々的に行われるようだ」

 期限は二日って・・・できること・・・

「・・・わかりました。見返りは何ですか?」

「察しがいいな」

 これほどの情報はない、それを知っててのことだろう。ならば見返りを求められてもしょうがない。

「隊長を、さらえ」

「・・・は? それって、レギナさんを?」

「ということだ、これでこの話は終わりだ」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 そのまま振り向き、戻ろうとするアランを引き止める。これだけははっきりさせておきたいところがある。これが分からなければ何のために行動をするのかが分からない。

「あなたにとって、この行動のメリットは何ですかっ」

 いらぬ情報を俺に教え、ましてやレギナをさらえって、何を考えているんだ、あの人は。メリットなんてあるはずがない。

「・・・お前が知る必要はない。言っておくが、俺は全力だからな」

 たったそれだけを言い残し、再び松明の明かりがポツポツと照らす廊下へと戻っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「主文。被告冒険者、イマイシキ ショウ。貴様をイニティウムで行った数々の暴虐非道の行いを罰するため、ここに斬首を言い渡す」

 二日後の昼下がり、天気は曇り。俺は今断頭台の前に跪いている。

 ふと周りを見渡せば、多くの人が俺の処刑に立ち会っている。貴族のような服を着た人、奥の席ではレギナの他に多くの軍人が傍聴席に座っている。そして、台の下の方ではイニティウムの生き残りの冒険者、およびメルトさんが声を荒げて抗議をしている。そしてそれに同調し、避難したイニティウムの街の人も抗議をしていた。

「ショウさんっ! 戻ろうって約束したじゃないですかっ! そんな判決は横暴ですっ! やり直してくださいっ!」

「そうだっ! ショウは俺たちを守るために戦ったんだっ! 何も知らねぇ奴らに言われる筋合いはねぇっ! とっとと王都に帰れぇっ!」

 全員が一丸となって俺の処刑に対して抗議をしている。

 だが、そんな声も届くはずがなかった。

「罪人に罰を、神の前に頭を垂れなさい」

 頭が押さえつけられ、切り株のような台に首を乗せられる。ひんやりとしたその台で、今まで何十人の人間が首を切られてきたのだろうと思った。

 視界は完全にふさがれた。その背後から人の気配がする。おそらく俺の首を跳ね飛ばすことになる人間だろう。

「神の導きがあらんことを」

 全員の息が止まる、先ほどまで抗議をしていた人たちの声も黙る。時間が止まったように感じた。そして一人の少女の悲鳴がこだました時。

『レディっ!』

 肉と骨が絶たれる音の代わりに聞こえてきたのは、金属と金属のぶつかる音。

「き、きさまっ」

「へぇ・・・やっぱ処刑人ってこんなおっかないお面かぶってるんだ。それは趣味か?」

「なぜ、魔力抑制手錠が」

「さぁ、とりあえず寝ろよ」

 仰向けになった状態で処刑人の膝を蹴り、倒れこんだところを思いっきり剣の柄でのどを突く。

 軽く息を吐き、生きていることを実感する。足の鎖を身体強化術で無理やり引きちぎり、立ち上がると高台の下にいる誰もが唖然とした表情で俺のことを見ていた。

 最初に反応したのは一番近くにいた神父なのかよくわからない服を着た偉そうな人間だった。

「ざ、罪人が剣を持っているぞっ! 王都騎士団っ! 何をしているっ! 取り押さえんかっ!」

「うるさいですよっと」

 剣を鞘に収めたまま、その神父もどきの鳩尾をついて高台から突き落とす。幸いにも高さはそれほどなかったため、下にいた人間がクッションになったようだ。

「警備っ! 民衆を避難っ! 機動部隊は高台、および高台にいるイマイシキ ショウを取り囲めっ!」

 傍聴席からレギナの命令が飛び、あっという間に高台の周りから民衆が消えその周りを弓兵やら剣を持った兵士が取り囲むことになった。

「さぁて、どうやって逃げるか・・・」

 パレットソードを抜きながら、俺は頬を引きつらせ、その様子を上から眺めていた

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...