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第1章 赤の色
第47話 救済の色
しおりを挟む「教えてくれ、どうしたら俺の命は助かる」
「どういう風の吹き回しだ小僧? さっきまで死にたい死にたい言ってたくせに」
現在、俺は地下牢で、壁に寄りかかっているサリーに向かって土下座をして頼み込んでいる。理由は簡単だ。
俺は生きなくてはならない。
「ほぉ、まぁどういう心境か知らんが、お前が生きる気になったんだったら別にどうだっていい」
「教えてくれるのか?」
あぁ、と言って土下座をしている俺の前にあぐらで座る。その姿はどこか喜んでいる感じにも見えた。
「まずだ、ここから出ろ」
「だろうな」
急にシリアスな顔から当然なことを言われてもしょうがない。
聞きたいのは方法だ。
「そして出たら、青の精霊を探せ」
「青の精霊?」
確かに、サリーという赤の精霊がいるのならば、青の精霊もいたっておかしくはないはずだ。しかし今回どんな関係が・・・
「火には水、赤には青というように、完全に治るわけじゃないが寿命は延びるだろうさ」
「それで、青の精霊とやらを見つけたらどうすんだ?」
「単純だ、お前のクソ剣でその青の精霊を取り込めばいい」
「取り込むって・・・どうやって?」
俺の質問に対して、サリーは自分の耳を俺に見せる。
「見ろ」
「いや、見てる」
見ると、耳には若干大きいが炎をかたどったアクセサリーがくっついている。そしてそのアクセサリーには不自然な穴が空いているのだ。まるでそこには元々何かがはまっていたかのような感じで。
「ここには元々、俺の精霊石がはまっていた。精霊石ってのはいわば精霊の本体みたいなもんだ。それがあのお前のクソ剣の鞘にくっついてた石っころだ」
あの汚い石っころが何だかいつの間にかルビーのような宝石になっていたが、なるほどあれが精霊石というものなのか。となるとあの鑑定師の言っていたことはあながち間違っていなかったということか。
「俺くらいのレベルの精霊なら大抵の場合持ってるはずだ。当然青の精霊も持っているだろうさ」
「つまり、その青の精霊から精霊石を渡してもらい、それをあの剣の鞘にはめればいいと?」
「つまりはそういうことだ」
ここで生じている問題は二つある。一つはここからどうやって出るか。二つは仮に出られたとしてどうやって青の精霊とやらを探すのか。
「そうだな、だったらお前。あの女隊長口説いて出してもらえよ」
「ふざけるな。できても、できなくてもやるか」
本気でどうする。このままでは俺はリーフェさんにもらった命を確実に殺してしまう。そうならない手があるのか・・・
「おい、また客だぞ」
「ん? 今度は一体誰が・・・」
地下牢の中でぐるぐると回りながら考えを巡らせていると、サリーが突如俺に声をかける。
しばらく耳をすますと、奥の方から靴で石畳を歩く音が聞こえてくる。どうやら面会者ではないらしい。この感じだと軍人か?
「・・・独り言か? 地下牢は退屈だろう」
「え・・・と、どちら様ですか?」
目の前に立っていたのは金髪と整ったシャープな顔立ちの軍人。どこかで見覚えがあると言ったら、見覚えがある。
「もしかして・・・アランさんですか?」
「そう、分隊長のアラン=アルクスだ。覚えてたか」
「自分に何か用ですか?」
何をしに来たんだ、この人は。しかも分隊長といえば隊長の次の次に偉い人間ではなかったのか? そんな人間がなぜ、罪人扱いされている人間の前に来るんだ。
「お前に情報をやろう」
「情報?」
「そう、情報だ」
その受け答えをしている、アランの表情は松明の明かりに照らされてニタリと笑っているようにも見える。どうも読めない人だ。
「まず、お前は二日後に処刑される」
「え・・・処刑?」
唐突に言い渡された、その情報。話によれば今回の件については証拠不十分であるとして、すなわち、俺があの街を火の海にしたという証拠とそれを否定する証拠が足りないという理由らしい。
だが、それではつじつま合わせに自分が犯人にされているようなものだ。
「ということだ」
「そんな情報を俺に教えてどうするんですか。まさかこの二日間何かに祈れと?」
そして、こんなことを教えるアランはただの感じの悪いやつ以外何者でもない。本当にただの感じの悪いやつだったらの話だが。
「何かに祈りたいんだったらそうしたらいい。だが期限は二日ある。その間にできることを探せ、ちなみに処刑は中央の広場で大々的に行われるようだ」
期限は二日って・・・できること・・・
「・・・わかりました。見返りは何ですか?」
「察しがいいな」
これほどの情報はない、それを知っててのことだろう。ならば見返りを求められてもしょうがない。
「隊長を、さらえ」
「・・・は? それって、レギナさんを?」
「ということだ、これでこの話は終わりだ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
そのまま振り向き、戻ろうとするアランを引き止める。これだけははっきりさせておきたいところがある。これが分からなければ何のために行動をするのかが分からない。
「あなたにとって、この行動のメリットは何ですかっ」
いらぬ情報を俺に教え、ましてやレギナをさらえって、何を考えているんだ、あの人は。メリットなんてあるはずがない。
「・・・お前が知る必要はない。言っておくが、俺は全力だからな」
たったそれだけを言い残し、再び松明の明かりがポツポツと照らす廊下へと戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「主文。被告冒険者、イマイシキ ショウ。貴様をイニティウムで行った数々の暴虐非道の行いを罰するため、ここに斬首を言い渡す」
二日後の昼下がり、天気は曇り。俺は今断頭台の前に跪いている。
ふと周りを見渡せば、多くの人が俺の処刑に立ち会っている。貴族のような服を着た人、奥の席ではレギナの他に多くの軍人が傍聴席に座っている。そして、台の下の方ではイニティウムの生き残りの冒険者、およびメルトさんが声を荒げて抗議をしている。そしてそれに同調し、避難したイニティウムの街の人も抗議をしていた。
「ショウさんっ! 戻ろうって約束したじゃないですかっ! そんな判決は横暴ですっ! やり直してくださいっ!」
「そうだっ! ショウは俺たちを守るために戦ったんだっ! 何も知らねぇ奴らに言われる筋合いはねぇっ! とっとと王都に帰れぇっ!」
全員が一丸となって俺の処刑に対して抗議をしている。
だが、そんな声も届くはずがなかった。
「罪人に罰を、神の前に頭を垂れなさい」
頭が押さえつけられ、切り株のような台に首を乗せられる。ひんやりとしたその台で、今まで何十人の人間が首を切られてきたのだろうと思った。
視界は完全にふさがれた。その背後から人の気配がする。おそらく俺の首を跳ね飛ばすことになる人間だろう。
「神の導きがあらんことを」
全員の息が止まる、先ほどまで抗議をしていた人たちの声も黙る。時間が止まったように感じた。そして一人の少女の悲鳴がこだました時。
『レディっ!』
肉と骨が絶たれる音の代わりに聞こえてきたのは、金属と金属のぶつかる音。
「き、きさまっ」
「へぇ・・・やっぱ処刑人ってこんなおっかないお面かぶってるんだ。それは趣味か?」
「なぜ、魔力抑制手錠が」
「さぁ、とりあえず寝ろよ」
仰向けになった状態で処刑人の膝を蹴り、倒れこんだところを思いっきり剣の柄でのどを突く。
軽く息を吐き、生きていることを実感する。足の鎖を身体強化術で無理やり引きちぎり、立ち上がると高台の下にいる誰もが唖然とした表情で俺のことを見ていた。
最初に反応したのは一番近くにいた神父なのかよくわからない服を着た偉そうな人間だった。
「ざ、罪人が剣を持っているぞっ! 王都騎士団っ! 何をしているっ! 取り押さえんかっ!」
「うるさいですよっと」
剣を鞘に収めたまま、その神父もどきの鳩尾をついて高台から突き落とす。幸いにも高さはそれほどなかったため、下にいた人間がクッションになったようだ。
「警備っ! 民衆を避難っ! 機動部隊は高台、および高台にいるイマイシキ ショウを取り囲めっ!」
傍聴席からレギナの命令が飛び、あっという間に高台の周りから民衆が消えその周りを弓兵やら剣を持った兵士が取り囲むことになった。
「さぁて、どうやって逃げるか・・・」
パレットソードを抜きながら、俺は頬を引きつらせ、その様子を上から眺めていた
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