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第1章 赤の色
第35話 蹂躙の色
しおりを挟む「俺も初めて見たが・・・」
「なかなか・・・」
とてもいい。
俺とガルシア、そしてリーフェを知る多くの冒険者が受付嬢としてではなく、冒険者としてでのリーフェの姿に食いついていた。
「うぅ・・・メルちゃん。隠れさせて」
「先輩そんな格好するからですよ・・・ほらほら、見世物じゃないんですから皆さん仕事してきてください」
自分より身長の低いメルトの後ろに縮こまるようにして顔を真っ赤にしたリーフェが隠れ、その姿に呆れながらも人払いをしたメルトだが、俺はリーフェさんと同じだからここに残らないといけないからな。
ここに残らないといけないからな。
「ショウさん・・・あんまり見ないで・・・」
「恥ずかしいんでしたら、なんでこんな服装なんですか? 見てくださいと言ってるようなものですよ」
「これが一番動きやすい格好で・・・洗濯とか楽ですし・・・」
洗濯か・・・あんまり想像はしたくない。
時刻はそろそろ夕方に差し掛かる。今回は5部隊に分けられて作戦が行われる。まずA部隊は魔力の色が濃いグループに分けられ、魔物の大群に大掛かりな魔術を使ったり、陣と呼ばれるものでトラップを作動させる後方支援の部隊だ。そしてB部隊は正面からの斬り込み部隊、これはガルシアが指揮をとる。そしてC部隊は正面から斬り込むB部隊と連動して、森の中に潜み魔物の大群を後ろから斬り込む奇襲部隊。そしてD部隊は街中に漏れでた魔物なんかを処理する機動部隊。そしてZ部隊は主にギルドの防衛を行うが同時にD部隊の支援にもあたる遊撃部隊、これらに俺とリーフェが含まれる。メルトはギルドで待機して、けが人の治療や物資の供給などを行う。
「そんじゃ、行ってくるわ」
「気をつけてください」
「あぁ、終わったら一杯付き合ってくださいね」
そう言って、ガルシアはリーフェに見送られ魔物の大群がぶつかる予定の場所へと向かった。しかし、本当に千もの魔物を相手にこの村を守れるのか・・・正直言ってかなり自信はない。
「大丈夫ですよ、ショウさん。おそらくA部隊の魔法工作で大群の三分の一くらいは削れると思いますし、残りはB、Cでなんとかできます。仮に街に入り込んだ魔物はD部隊でなんとかできるでしょう。それに皆さんベテランですし、けが人は出ても死者は出ないと思いますよ」
「だったらいいんですが・・・」
もしも仮にだ、この前のような知能を持った魔物、そんな奴が紛れ込んでいたりしたら、それはかなり苦戦するのではないだろうか? 本当に死人が出るのはごめんだ。何ぶん平和な日本で生まれ育った身として争いごとはできるだけ避けたいのが性分である。
「それに、王都騎士団もこちらに向かってきている頃ですから。おそらく今夜中に終わりますよ」
「はぁ・・・」
千を超える魔物・・・不安だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そんじゃ、A部隊の皆さんは手筈通りに。C部隊ももう隠れちゃって」
それぞれの部隊が配置場所に向かったのを見送って、遠くの地平線で沈みかけている太陽を眺め、そろそろ気を引き締めなくてはと思った。B部隊ははっきり言って一番危険の多い部隊だ、正面から斬りこむのそうだが他の部隊にも気を使わなくてはならない難しい立ち位置にもある。それに
「やっこさんが何引き連れてるのかがわからねぇのが一番いてぇんだよな・・・」
ゴブリンの小型な魔物から、オークみたいな大型の魔物、そして昨日の空飛ぶガルーダ、小さなものから大きなものまで魔物には種類がある。どうせ人のこと襲ったり森を荒らしたりするしか能のない連中なんだからさっさと絶滅しちまえばいいものを、というのが冒険者の本音だというのは全員共通だろう。しかしそうなったら俺たちは失業だ。
「よし、全員手筈はわかってるな? 俺が火の玉上げるからそれを合図にまずA部隊が魔法を掃射、ある程度攻撃が緩んだら俺たちで斬りに行くぞ」
「「「了解っ!」」」
B部隊は総勢100数名、はっきり言って千の魔物を相手にするにはあまりにも人数が足りないが、全員そこそこの手練れだし、今回は俺特製の魔法陣が貼ってあるからなんとかなるだろう。
ふと、目の前に広がる平原の遠くの方を見据えてそれぞれの部隊の動きを眺めていると自分の鼻に何か冷たいものが当たる感触がした。
「・・・夕立が降るのか」
全く、戦い前に雨が降るなんて不吉な話だ。と思いながら、それぞれが配置につくのを確認し、こちらもそれぞれ武器の点検を促す。
「しっかり準備しとけよ、あとお前らは魔力あんま使うんじゃねぇぞ。おい、A部隊」
「「「はいっ!」」」
「一人緑色使いをよこしてくれ」
少しして、A部隊から線の細そうな一人の青年が現れた。確か名前はエリシェだったか。
「エリシェでよかったか?」
「はい、そうです」
「ちっとばっかし遠くを見てもらっていいか?」
「えぇ、お安い御用です」
昨日のリーフェ同様、地面に陣を書きその中心へと立つ。基本的に魔力の色が濃いやつは陣を使わなくても魔力は発動するんだが、やっぱり使ったほうが疲れないし、楽だからここでの彼の判断は正しいと言えるだろう。
『其は風 遠方を覗かんとす 緑の名において 我に新たなる土地を目に トゥブラート』
ほう、なかなかいい腕をしている。無駄に魔力が流れることなく陣をなぞるように色濃く出ているし、緑の魔術らしくとても穏やかな空気に溢れてるな。
「・・・確かに・・・多くの魔物が向かっては来ています・・・が」
「が?」
「なにやら・・・その大群の後ろに・・・」
「見えないのか?」
「えぇ・・・なんだか黒い靄がかかったようでして」
黒い靄ね・・・不安だ。
そして陽は沈み、あたりが闇に包まれる頃。平原の置かれた松明の明かりに日を灯し始めようと考え、軽い詠唱で平原に置かれた無数の松明に明かりを灯す。
「・・・見えてきたな、A部隊っ!」
松明の明かりで遠くの方で土けむりをあげて近づいてくる大群が見えてくる。あの様子だと大型の魔物もだいぶ混じっているな。
「魔法詠唱開始っ!」
『『『・・・・!』』』
前衛に出たA部隊には約50人くらいの魔術師が魔法詠唱を行っている。全員の詠唱が終わるとそれぞれ爆発系の魔法や地形を変える魔法がそれぞれ放たれ、遠くの方で着弾し向かってくる大群を地面を揺らし、空気を震わせる大音量で蹴散らして行くのが見えた。
そろそろ、C部隊のいるポイントを通過するな。
「よぉし、じゃんじゃん撃ちまくれっ! 地形をリフォームする勢いでじゃんじゃん撃ちまくれっ!」
「「「おうっ!」」」
にしてもなんで、ここの村には男の冒険者しかいないのだろうか・・・リーフェとまではいかなくともちょっとは可愛らしい冒険者がいてもいいはずなのに・・・
さて、だいぶ削れてきただろうか。半分までとはいかなくとも少からず雑魚はだいぶ削れたはずだ。魔物の焼けこげる匂いが辺りを包み始め、もはや松明などを使わなくともあたりが魔法による炎で明るくなってきた頃だ。
「よしっ! A部隊っ! あとは下がってていいぞ。俺の出番だ」
A部隊の魔法の連射が止まり、しばらく辺り一帯が静かになる。だがあれだけの砲撃を受けながら、未だに向かってくる魔物は数多い。
「さぁて、俺のとっておきを喰らわしてやるから覚悟しろよ有象無象どもっ!」
ここらの平原に何百としかけた俺特製の魔法陣の威力を発揮する時が来たようだ。誰に言ってるのかと言われると困るが・・・まぁカッコつけだ。
『其は爆炎 終焉の時は来たれり 紅の名において いざ地獄の入り口を開けんと欲す・・・』
しかけておいた魔法陣が魔力の高まりとともに地面が赤く輝き出しているのが見える。どうやら発動はうまくいっているらしい。さぁ、覚悟しろよ。
『我らを殺意持って来たれりし害悪よ 跪け 祈れ その渦にのまれ罪をも燃え散らせたもう 我が眷属 共に咆哮せよっ! モーンストルムドラコッ!』
詠唱を終えると、魔法陣の一つが眩い赤い閃光と共に空高く巨木のような炎の柱が平原に出現する。そしてそれはうねりながら違う魔法陣へ、また違う魔法陣へとまるで生き物のように移動し始め多くの魔物を巻き込みながら辺り一帯を焼く尽くして行く。
「・・・自分で作った魔法陣だけど・・・威力えげつないな・・・」
目の前で次々と蹂躙されてゆく魔物たちを見て、予想をはるかに上回る威力に自分自身が一番驚いているが、それ以上にA部隊の人間がこちらを向いて、果たして自分たちの存在は必要だったか?という目で見られているのが一番辛い。
「・・・ガルシアさん」
「・・・はい? ・・・何でしょうかエリシェさん?」
「俺たち必要でした?」
「・・・スンマセン」
自分だって、あんなこっぱずかしい魔法の詠唱したんだから許してはもらえないのだろうか? まぁ・・・お詫びにこの魔法を後で全員に教えてやるか。
「と、とにかくB部隊突撃っ!」
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