異世界探求者の色探し

西木 草成

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第1章 赤の色

第21話 王都騎士団の色

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「王都騎士団?」

「えぇ、この街にも回ってくるんですよ」

 例によって今日もリーフェのところで楽しく居候生活を送っているのだが、ただの居候ではない、料理人兼使用人兼居候という大変珍しいスペックを持ったこの物語の主人公である。

 さて本日の晩御飯は、以前使ったトポの実という米に似たものを野菜や細かくした肉と一緒に炒め、俺特製の異世界式トマトケチャップを一緒に絡めてゆく、それを二つの皿に盛り付けた後、空いたフライパンでおそらく地球の3倍の大きさはあるだろう、『ガッルス』という地球の鶏をまんまダチョウ並みにでかくした化け物みたいな鳥の卵を溶いて、それをフライパンの上に流す、そうしてできた半熟卵をそれぞれさっきの皿に盛りつければ、異世界式オムライスの完成である。

「それにしても、この『おむらいす』と言う料理は、中のお肉がジューシーで、上にかかってる卵もふわふわでとても美味しいですっ!」

「そこの、ケチャップを上にかけるともっと美味しいですよ?」

 テーブルの上にある、小瓶にはケチャップを詰めていて、そこからスプーンですくって食べるという方式だが、正直、チューブで文字を書く、もしくは書いてもらうというシュチュエーションが理想だが、贅沢を言ってはダメか・・・

「ムギュッ、ムギュッ!フョウファンファファフェファフェファインフェフファ?」

「いえ、僕はいいです」

 ここまでくればも慣れたものだろう、わからない読者のために訳すと『ショウさんはかけないんですか』ということなのだろう

「それで、王都騎士団って何ですか?」

「ングッ!フ~、王都騎士団は王都に本部を持つ国お抱えの軍隊の一つです」

「一つ?」

「えぇ、他にも魔法兵団という魔術師専門の部隊であったり、近衛兵団という貴族とか王族を守る専門の軍団とかいろいろありますよ」

「その王都騎士団というのは?」

「主に、国内の治安維持のために各地に派遣される、遠征専門の部隊ですね、この街にも二年に一回は来ますよ」

 それが今年ここに来るというわけか、それは少し楽しみだな。

「それが楽しいことばかりじゃないんですよ」

「どうしてですか?」

 もう心を読まれるのも慣れだ。

「王都騎士団が滞在するところの管理や、訓練場所の提供、また食料提供も全てギルドが受け持たなくちゃいけないんです」

「それは大変ですねぇ」

 現在ギルドはリーフェとメルト、それにギルド長のガルシアしかいなく、他の職員はというと皆、他のギルド支部に派遣されているということだ。

 実際問題、ギルド職員は人気職業かというとそうではなく、高い教養と主に冒険者で実戦経験がなければギルド職員にはなれず、仮になれたとしても魔物の解体や、金品や個人情報の管理などの激務が待っており、その割にはギルドの置かれている支部によって賃金が異なるため、人気というよりむしろ嫌われる職業である。

「ならば、ギルド側の依頼という形で冒険者を雇えばいいじゃないですか、僕も手伝いますよ?」

「その手もあるんですけどねぇ、もう一つの問題があるんですよ・・・」

「というと?」

「王都騎士団の皆さんって、主に貴族とかのご子息であったり、もしくはそこの使用人の方が入団なさってるので、妙にプライドが高いんですよ」

「あぁ、冒険者なんかとは一緒に行動はできないと」

 コクリとリーフェは頷く、これはあれだ、『我は、なんちゃらなんとか卿の次期当主であるぞっ!冒険者の作る飯など食えるかぁ!』とか、『フンッ、惰民ども感謝をするがいい、我ら王都騎士団のお守りにあることを!』という感じなのかな?

「でも、それは五年前の話で今年は違った部隊が来るそうですね」

「どういうことですか?」

「そこの隊長さんがどうも、平民出身のようですよ」

「へぇ~」

「そこでは、身分の差を厳格に禁止しているみたいですね」

「だったら、冒険者を雇っても平気ですね」

「まぁ、人はあまり来ないとは思いますけどね」

 そう言って、しばらく二人で喋った後に、それぞれ寝室へと向かう、扉を開け中に入ると、月明かりが中に入り込み部屋の明かりがなくてもそこそこ明るい、窓とは言ってもガラスはないが、外に広がる月明かりに照らされた草原と心地よい風を感じている。

「月自体は地球と変わらないんだよな」

 そう、二つあることを除けば月は、まんま地球と同じである、そう思っておもむろに壁に立てかけておいた剣を手に取る。

「本当にあの女は何者だったんだ・・・」

 この剣を鑑定した後、姿を消した上、自らに関する記憶を消し去った紫色の魔力の持ち主、その後、ガルシア、メルトに聞いたところ誰も知らないといい、ギルド職員の帳簿からは一部がすっぽり抜け落ちていたという。

 リーフェは何かの手違いだろうと言ったが、どう考えてもあの出来事は幻覚や、妄想の類ではないと思う、いや、確信している。

 それに彼女が去り際に言った『呑まれるな』という言葉、果たしてどういう意味なのか、それもさっぱりわからない。

「あぁっ!もうわからねぇっ!」

 とにかくこういう時は何もかもきれいさっぱり忘れて寝ちまおう、そうしよう!
 
 そして俺はベットに身を投げ出し、意識を手放す。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さて、今日は王都騎士団がこの街に来るようだが・・・どうしたらいいんだっけ?」

「はぁ~、ガルシアさんはただ普通に挨拶して部隊の隊長さんと会談した後に野営地の案内をすればいいんですよ」

「えっ、俺それだけでいいの?」

「はいっ!もうそれだけですので、余計なことはしないでくださいねっ」

 ガチャン、とギルドの扉が開く音がし、思わず後ろを振り返る、するとそこには赤を基調とした王都騎士団の制服と鉄の胸当て、左腕には肩の方から肘まで鉄の鎧が装着されており目の前の人物が左利きの剣士だということがわかる。

 そして、その右腰にぶら下げている剣はその体躯に釣り合うように長く、幅の広い剣だ、ガルシアは多分やりあったら一筋縄ではいかないということを本能で感じ取っていた、そしてその人物はギルドのカウンターにいる二人を見て。

「貴方達がここのギルドの職員か?」

「あっ、あぁ・・・そうだが?」

 ガルシアが、そう答えるとその人物は片膝をつき、彼らの前に跪いて自らの名を名乗った。

「私は王都騎士団9番隊隊長のレギナ=スペルビア、この度はイニティウムの土地に招いていただいたことを感謝する」

 そう頭を下げたのは、、どこまでも飲み込みそうな黒い髪が肩まで伸び、切れ長な目は一見穏やかではあるが、どこか鋭くスマートで、整った顔立ちの女性だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・であるからにして」

「ふあぁ~・・・」

「ほらっ、ちゃんと聞いてないと怒られるぞショウ」

 いや、わかってる、わかってはいるんだラルク、だがどうにもお偉いさんの話とか校長先生みたいな人間の話は眠くなっちまうんだよなぁ・・・

 今俺たち冒険者は王都騎士団の向かい入れの開会式をギルド前の広場に集められて行っている、今回集まったのは述べ20数名の冒険者だ、その中には俺がいつもパーティー組んでいるラルク達や他にも筋肉隆々の冒険者がいる。
  
 そして台の上にいま目の前に立っているのは、イニティウム支部の町長みたいな人で白ひげにハゲにとまるで絵に描いたような爺さんだ。

「それでは次にギルド長であるロード=ガルシア殿よりお言葉をいただきます」

「ありがとうコルン支部長、そして本日、王都騎士団を迎えるべく集まった冒険者の諸君」

 ギルドの扉から出てきたガルシアが珍しく真面目そうな顔をしている。

「とにかく、今日来た王都騎士団は遠路はるばるいろいろな地方を廻り疲れているはずである、ゆえに失礼な態度をとることは決して許されない、また彼らの持つ技術は王都が認める一級品だ、演習や訓練に参加したいと思うものは、この会が終了した後、前の用紙に名前を書いておくように、それでは健闘を祈る、以上」

 当然この場にマイクがあるはずもないがよく通る太い声だった、しかし、なんとも簡単に終わってしまった、学校とかの朝礼もこんな具合で終われば貧血で倒れる奴はいなかろうに。

「続いて、王都騎士団9番隊隊長のレギナ=スペルビア嬢よりお言葉をいただきます」

 嬢?何かの聞き間違いか?周りの冒険者達も某賭博漫画並のざわめきを起こし始めた。

 すると、奥から出てきたのはいかにもという感じの騎士団っぽい制服に身を包み、銀色に光る胸当て、左の肩から肘にかけてまでつけられた銀の鎧、そしてそれ以外が真っ赤に染まった制服。

「どうも、冒険者諸君、私がレギナ=スペルビアだ」

 声自体は女性だ、だがその口調は男性で軍人ぽい、そして容姿はどう表現したらいいのだろうか、おそらくあれはボブという髪型なのかもしれないが、肩まで伸ばした短い黒髪と鋭い目だが決して下品ではない整った顔をしている。

 とでも言えばいいのだろうか。

「この町の協力と冒険者との協力に感謝する、以上」

 もう終わっちまったよ、ガルシアよりも早かったな。

「それでは冒険者の皆さんは、先ほど指示した内容で動いてもらいます」

 そう支部長が宣言した後、それぞれ各自に動き出す、しかし、その中には誰も訓練に参加したいというものはいなかった。

「すみません、訓練参加の希望ですが」

「ん?君参加するのか?」

 そう言って振り向いたのは、先ほど前で挨拶をしたレギナ=スペルビアだ、近くで見ると身長は俺と同じ175センチくらいで、ボーイッシュなそれでもって女性だというのがよくわかった。

「えぇ、是非参加してみたいなと思って」

「そうか、名前をここに書いておいてくれ、名前は書けるか?」

「いえ、代筆お願いします」

 これも慣れだ、これでも少しは勉強してる。

「名前は?」

「今一色 翔」

「珍しい名前だな、出身は?」

「話し方が尋問みたいですね」

「フフッ、すまない職業柄癖でね」

 そう言って、紙に似た皮に名前をサラサラと書きいれるが、自分がこの世界の出身でないのにとても綺麗な筆跡だと思った。

「これでよしっ・・・、では作業終了後に私たちのテントに来てくれ、ショウ」

「えぇ、ありがとうございます」

 そう言って、またギルドの中へと入って行く、確かに悪い人ではなさそうだ、それでは作業終了後を楽しみにするか。

 と思い、他の冒険者たちの後を追った。
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