29 / 35
29
しおりを挟む
帰り道は自転車の後ろに乗せて送ってく事にした。
杉川さんは「いいよ! いいよ!」と断ってきたがそれでは俺の気が済まないとゴリ押して座ってもらった。大人になったとはこういう事だろうか?
「気持ちいいねー! 自転車早いね!」
後ろに座る杉川さんの顔は見られないが、楽しそうで何よりだ。
「夏の自転車はいいよね! 乗ってると涼しいし!」
「あれ? 今日汗かいてなかった?」
「いや、だから! あれは!」
「うそうそ! 冗談!」
杉川さんは何かいつも以上にはしゃいでいる気がした。
「明日楽しみだなー! 天然のプラネタリウム!」
「そこは自信を持ってお届けしますよ! あ、そうだ。明日は何もいらないから歩きで横山商店の前に来てって山根が言ってた。夕方の五時に集合だってさ!」
「歩き? だと遠いよね。誰かが車で送ってくれるのかな?」
「わかんないんだよなぁ。いっつも掴めない、あいつが。予想の斜め上にくるからさ」
「斜め上! まぁ、なんにせよ面白い事考えてくれてるんだね! 楽しみ!」
「うん! あ、ケツいたくない大丈夫?」
「うん! 大丈夫! 痛いのは肩かなぁ」
キッと自転車を止めて「ごめんなさい!」と空に叫んだ。
とてもじゃないが振り向けなかった。
そんな俺の肩をトントンと叩くので恐る恐る振り向くと杉川さんはクスッと笑った。
「じょーだん!」
杉川さんの伝家の宝刀。天使スマイルを見せてきた。
俺は異常なほど顔の温度が上昇したのがわかった。それがバレないようにすぐさま前を向きペダルを漕ぎだした。
本当にズルすぎる。
「ちょっと今日の杉川さん刺々しくない?」
振り向かずに投げた言葉に軽く背中をつついて返す杉川さん。
「こんな感じ?」
「いや、だから、今日のテンションがいつもと違くて!」
くすぐったがり屋の俺はフラフラになりながらもペダルを漕ぐ。
後ろからは笑い声とつっつき攻撃。何か幸せを感じてきたのも束の間にパンと背中を叩かれる。
「なんか楽しくなっちゃった! 嬉しい言葉聞いたからかな! ありがとう!」
杉川さんはもうつついてこなかった。その言葉に赤面しながらも、つついてくれなくなってちょっと寂しくなった自分が大分気持ち悪かったので「こちらこそ!」と返しておとなしくペダルを漕ぎ続けた。
「明日楽しみだなー!」
後ろで聞こえる大好きな人の声に返事をする幸せを噛み締めて俺は空を見上げた。
夏の色は何処までも遠くへ続いていた。
杉川さんは「いいよ! いいよ!」と断ってきたがそれでは俺の気が済まないとゴリ押して座ってもらった。大人になったとはこういう事だろうか?
「気持ちいいねー! 自転車早いね!」
後ろに座る杉川さんの顔は見られないが、楽しそうで何よりだ。
「夏の自転車はいいよね! 乗ってると涼しいし!」
「あれ? 今日汗かいてなかった?」
「いや、だから! あれは!」
「うそうそ! 冗談!」
杉川さんは何かいつも以上にはしゃいでいる気がした。
「明日楽しみだなー! 天然のプラネタリウム!」
「そこは自信を持ってお届けしますよ! あ、そうだ。明日は何もいらないから歩きで横山商店の前に来てって山根が言ってた。夕方の五時に集合だってさ!」
「歩き? だと遠いよね。誰かが車で送ってくれるのかな?」
「わかんないんだよなぁ。いっつも掴めない、あいつが。予想の斜め上にくるからさ」
「斜め上! まぁ、なんにせよ面白い事考えてくれてるんだね! 楽しみ!」
「うん! あ、ケツいたくない大丈夫?」
「うん! 大丈夫! 痛いのは肩かなぁ」
キッと自転車を止めて「ごめんなさい!」と空に叫んだ。
とてもじゃないが振り向けなかった。
そんな俺の肩をトントンと叩くので恐る恐る振り向くと杉川さんはクスッと笑った。
「じょーだん!」
杉川さんの伝家の宝刀。天使スマイルを見せてきた。
俺は異常なほど顔の温度が上昇したのがわかった。それがバレないようにすぐさま前を向きペダルを漕ぎだした。
本当にズルすぎる。
「ちょっと今日の杉川さん刺々しくない?」
振り向かずに投げた言葉に軽く背中をつついて返す杉川さん。
「こんな感じ?」
「いや、だから、今日のテンションがいつもと違くて!」
くすぐったがり屋の俺はフラフラになりながらもペダルを漕ぐ。
後ろからは笑い声とつっつき攻撃。何か幸せを感じてきたのも束の間にパンと背中を叩かれる。
「なんか楽しくなっちゃった! 嬉しい言葉聞いたからかな! ありがとう!」
杉川さんはもうつついてこなかった。その言葉に赤面しながらも、つついてくれなくなってちょっと寂しくなった自分が大分気持ち悪かったので「こちらこそ!」と返しておとなしくペダルを漕ぎ続けた。
「明日楽しみだなー!」
後ろで聞こえる大好きな人の声に返事をする幸せを噛み締めて俺は空を見上げた。
夏の色は何処までも遠くへ続いていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる