とりあえず、夏

浅羽ふゆ

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 帰り道は自転車の後ろに乗せて送ってく事にした。
 杉川さんは「いいよ! いいよ!」と断ってきたがそれでは俺の気が済まないとゴリ押して座ってもらった。大人になったとはこういう事だろうか?
「気持ちいいねー! 自転車早いね!」
 後ろに座る杉川さんの顔は見られないが、楽しそうで何よりだ。
「夏の自転車はいいよね! 乗ってると涼しいし!」
「あれ? 今日汗かいてなかった?」
「いや、だから! あれは!」
「うそうそ! 冗談!」
 杉川さんは何かいつも以上にはしゃいでいる気がした。
「明日楽しみだなー! 天然のプラネタリウム!」
「そこは自信を持ってお届けしますよ! あ、そうだ。明日は何もいらないから歩きで横山商店の前に来てって山根が言ってた。夕方の五時に集合だってさ!」
「歩き? だと遠いよね。誰かが車で送ってくれるのかな?」
「わかんないんだよなぁ。いっつも掴めない、あいつが。予想の斜め上にくるからさ」
「斜め上! まぁ、なんにせよ面白い事考えてくれてるんだね! 楽しみ!」
「うん! あ、ケツいたくない大丈夫?」
「うん! 大丈夫! 痛いのは肩かなぁ」
 キッと自転車を止めて「ごめんなさい!」と空に叫んだ。
 とてもじゃないが振り向けなかった。
 そんな俺の肩をトントンと叩くので恐る恐る振り向くと杉川さんはクスッと笑った。
「じょーだん!」
 杉川さんの伝家の宝刀。天使スマイルを見せてきた。
 俺は異常なほど顔の温度が上昇したのがわかった。それがバレないようにすぐさま前を向きペダルを漕ぎだした。
 本当にズルすぎる。
「ちょっと今日の杉川さん刺々しくない?」
 振り向かずに投げた言葉に軽く背中をつついて返す杉川さん。
「こんな感じ?」
「いや、だから、今日のテンションがいつもと違くて!」
 くすぐったがり屋の俺はフラフラになりながらもペダルを漕ぐ。
 後ろからは笑い声とつっつき攻撃。何か幸せを感じてきたのも束の間にパンと背中を叩かれる。
「なんか楽しくなっちゃった! 嬉しい言葉聞いたからかな! ありがとう!」
 杉川さんはもうつついてこなかった。その言葉に赤面しながらも、つついてくれなくなってちょっと寂しくなった自分が大分気持ち悪かったので「こちらこそ!」と返しておとなしくペダルを漕ぎ続けた。
「明日楽しみだなー!」
 後ろで聞こえる大好きな人の声に返事をする幸せを噛み締めて俺は空を見上げた。

 夏の色は何処までも遠くへ続いていた。

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