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汗をダラダラ流しながら防波堤に着くと少し先から杉川さんが来るのが見えた。遠くから、おーい! と手を振ると杉川さんもこっちに気づいて手を振り返してくれたので、俺は杉川さんの元へ急いだ。
「ごめんね! 待った!?」
汗をダラダラ流しながら迫ってきた俺に杉川さんは呆気にとられながらもクスッと笑った。
「待った? ってどう見ても椎名君の方が先に着いてるのに!」
杉川さんはハンカチを渡してくれた。
俺は自分でとぼけた事を言っていると気づき恥ずかしくなる。
「い、いやいや! 自分にハンカチなんて必要ないっす! 申し訳ないんでしまってくださいっす!」
と言っているのに、俺の手は杉川さんのハンカチを受け取り汗を拭いた。
もうパニックだった。
杉川さんは訳の分からない俺の行動に我慢しきれなくなったのかお腹を抑えて笑い始めた。
「どういう事? どうしたの椎名君!?」
拭いても拭いても吹き出して来る汗。この状況を作り出した自分を呪った。真面目にいこうと思ったのに……。
しばらくして落ち着きを取り戻すと杉川さんから口を開いた。
「昨日の事も会ったから、内心ちょっとビクビクしてたんだけど流石椎名君だね! そんなの吹っ飛んじゃった!」
変わらぬ笑顔で話してくれる杉川さんに俺は泣きそうになりながらもグッとこらえ、そして物凄いスピードで頭を下げた。
「ごめん! 俺、昨日は本当に自分に一杯一杯になっちゃって、なんかもう頭ん中ごちゃごちゃになっちゃって、何にも喋れなくなっちゃって……せっかく勇気を出して話してくれたのに何にも答えられなくて……俺、最低だった! もう見損なっちゃったかもしれないけど……これだけは伝えさせてくれ! 話してくれてありがとう! 俺、ずっと忘れないから。今年の夏の事。それに、これで終わりじゃないから! だから今度は……いつかは今年の夏以上の思い出みんなで作ろう! 杉川さんが言ってくれた事そのまま返すよ。俺も杉川さんと出会えて最高の思い出ができたよ! ありがとう! 本当にありがとう!」
最後に目を見てしっかり謝ろうと顔を上げると杉川さんは泣いていた。
俺は焦って「ごめん!」を何度も繰り返す。
「違うの!」
俺の言葉を遮って杉川さんは涙を拭い、顔を上げて今度はゆっくりと言う。
「違うの」
杉川さんは真っ直ぐな瞳で俺と目を合わせる。
「嬉しいっていうか、ホッとしたの。あの日、怒らせちゃったと思ったから……何でもっと早く言わないんだって。だから今日も絶交されちゃうんじゃないかってちょっと恐くて。ごめんね。ホントはもっと早く言えたのに言えなかった。椎名君達を信じれていればもっと早く言えた筈なのに……黙っていてごめんなさい。みんなでいるのが楽しくて、ずっと続けばって思うとどうしても言えなかった。少しでも長く続けたい毎日が崩れちゃう気がして。無くなっちゃう気がして! どうしても言えなかったの! 本当に本当にごめんなさい!」
深々と頭を下げる杉川さん。地面にポタポタと涙が落ちる。
俺は深呼吸して杉川さんの肩を掴む。
「そんなことない。信じてくれたから話してくれたんだろ? 誰よりも早く俺たちに」
もう一度深呼吸。
「顔を上げて!」
「はっはい!」
大きな声にビクッとしながら杉川さんは顔を上げる。目には大粒の涙がたまっては流れていた。
「昨日のお詫びをさせてくれ。まだ夏休みは終わってないよ。最後の思い出が昨日じゃ寂しいから最後に行きたい所、やりたいことはないかな? 何でも良い。今年の夏最後の思い出を最高の思い出をみんなで作らせてくれ。絶対に叶えてみせるから。遠慮なく言ってくれ!」
杉川さんは泣き止むのに必死なのか言葉を詰まらせていた。俺はそれ以上何も言わず、杉川さんが口を開くのをじっと待つ。
少し息を整えて杉川さんは俺の目をまた見つめ直した。
「何でもいい?」
「もちろん」
「星が見たい」
「星?」
「前に椎名君が言ってた天然のプラネタリウム。あれが見たい。バーベキューの時に話してくれた星空をみんなで見たい!」
「よし! 見よう! 絶対に最高の思い出にしてみせるから!」
「うん!」
杉川さんは涙を拭いて笑った。ようやく笑ってくれたとホッとすると杉川さんの肩をずっと掴んでいる自分に気づく
「あ、あ~! あーあーあ~」
全くごまかしになっていない奇声を上げて手を離す。杉川さんは笑っている。
ごまかせたか? と思いそのまま流れを変えずに携帯を取り出し山根にかけた。
「あ、もしもし山根? あのさ、明日みんなで星見ないか? あのバーベキューしたとこで。四人で」
電話先で山根が笑う。
(え? 急にどうしたんだよ? 珍しいなお前から遊びの提案なんて。大人になったね~)
「い、いや深い意味はないから! みんなで最後の夏の思い出作りたくてさ」
(ハハっ! だから大人になったなって言ったんだよ! 良いよ! 行こうよ! あ、聡美ちゃんさ椎名が最後に夏の思い出みんなで作りたいってうるさくてさ。明日みんなで星見ようぜって言ってるんだけど)
大人の意味も解らなかったが、隣に森さんがいる状況も良くわからなかった。もう付き合っているのだろうか? 話が早くて助かるが。
「おい! 賛成だってよ! そしたら明日十七時に横山商店前集合な! 杉川さんに何もいらないから歩きでこいって言っておいて! じゃーな。後でメールする」
思考の波に俺がさらわれている間に山根は詳細をパパッと決めて勝手に電話を切った。
相変わらず話が早い。
「あ、なんかみんなオーケーみたい。あ! ごめん! 杉川さんは明日大丈夫!?」
自分が情けなくなる。まずはそこだろうと。
やっちまった! と直ぐに頭を下げる俺に杉川さんは、もちろん! と返してくれた。
「ありがとう!」
顔を上げるとやっぱり笑っていた。
今度は俺も笑っていた。
「ごめんね! 待った!?」
汗をダラダラ流しながら迫ってきた俺に杉川さんは呆気にとられながらもクスッと笑った。
「待った? ってどう見ても椎名君の方が先に着いてるのに!」
杉川さんはハンカチを渡してくれた。
俺は自分でとぼけた事を言っていると気づき恥ずかしくなる。
「い、いやいや! 自分にハンカチなんて必要ないっす! 申し訳ないんでしまってくださいっす!」
と言っているのに、俺の手は杉川さんのハンカチを受け取り汗を拭いた。
もうパニックだった。
杉川さんは訳の分からない俺の行動に我慢しきれなくなったのかお腹を抑えて笑い始めた。
「どういう事? どうしたの椎名君!?」
拭いても拭いても吹き出して来る汗。この状況を作り出した自分を呪った。真面目にいこうと思ったのに……。
しばらくして落ち着きを取り戻すと杉川さんから口を開いた。
「昨日の事も会ったから、内心ちょっとビクビクしてたんだけど流石椎名君だね! そんなの吹っ飛んじゃった!」
変わらぬ笑顔で話してくれる杉川さんに俺は泣きそうになりながらもグッとこらえ、そして物凄いスピードで頭を下げた。
「ごめん! 俺、昨日は本当に自分に一杯一杯になっちゃって、なんかもう頭ん中ごちゃごちゃになっちゃって、何にも喋れなくなっちゃって……せっかく勇気を出して話してくれたのに何にも答えられなくて……俺、最低だった! もう見損なっちゃったかもしれないけど……これだけは伝えさせてくれ! 話してくれてありがとう! 俺、ずっと忘れないから。今年の夏の事。それに、これで終わりじゃないから! だから今度は……いつかは今年の夏以上の思い出みんなで作ろう! 杉川さんが言ってくれた事そのまま返すよ。俺も杉川さんと出会えて最高の思い出ができたよ! ありがとう! 本当にありがとう!」
最後に目を見てしっかり謝ろうと顔を上げると杉川さんは泣いていた。
俺は焦って「ごめん!」を何度も繰り返す。
「違うの!」
俺の言葉を遮って杉川さんは涙を拭い、顔を上げて今度はゆっくりと言う。
「違うの」
杉川さんは真っ直ぐな瞳で俺と目を合わせる。
「嬉しいっていうか、ホッとしたの。あの日、怒らせちゃったと思ったから……何でもっと早く言わないんだって。だから今日も絶交されちゃうんじゃないかってちょっと恐くて。ごめんね。ホントはもっと早く言えたのに言えなかった。椎名君達を信じれていればもっと早く言えた筈なのに……黙っていてごめんなさい。みんなでいるのが楽しくて、ずっと続けばって思うとどうしても言えなかった。少しでも長く続けたい毎日が崩れちゃう気がして。無くなっちゃう気がして! どうしても言えなかったの! 本当に本当にごめんなさい!」
深々と頭を下げる杉川さん。地面にポタポタと涙が落ちる。
俺は深呼吸して杉川さんの肩を掴む。
「そんなことない。信じてくれたから話してくれたんだろ? 誰よりも早く俺たちに」
もう一度深呼吸。
「顔を上げて!」
「はっはい!」
大きな声にビクッとしながら杉川さんは顔を上げる。目には大粒の涙がたまっては流れていた。
「昨日のお詫びをさせてくれ。まだ夏休みは終わってないよ。最後の思い出が昨日じゃ寂しいから最後に行きたい所、やりたいことはないかな? 何でも良い。今年の夏最後の思い出を最高の思い出をみんなで作らせてくれ。絶対に叶えてみせるから。遠慮なく言ってくれ!」
杉川さんは泣き止むのに必死なのか言葉を詰まらせていた。俺はそれ以上何も言わず、杉川さんが口を開くのをじっと待つ。
少し息を整えて杉川さんは俺の目をまた見つめ直した。
「何でもいい?」
「もちろん」
「星が見たい」
「星?」
「前に椎名君が言ってた天然のプラネタリウム。あれが見たい。バーベキューの時に話してくれた星空をみんなで見たい!」
「よし! 見よう! 絶対に最高の思い出にしてみせるから!」
「うん!」
杉川さんは涙を拭いて笑った。ようやく笑ってくれたとホッとすると杉川さんの肩をずっと掴んでいる自分に気づく
「あ、あ~! あーあーあ~」
全くごまかしになっていない奇声を上げて手を離す。杉川さんは笑っている。
ごまかせたか? と思いそのまま流れを変えずに携帯を取り出し山根にかけた。
「あ、もしもし山根? あのさ、明日みんなで星見ないか? あのバーベキューしたとこで。四人で」
電話先で山根が笑う。
(え? 急にどうしたんだよ? 珍しいなお前から遊びの提案なんて。大人になったね~)
「い、いや深い意味はないから! みんなで最後の夏の思い出作りたくてさ」
(ハハっ! だから大人になったなって言ったんだよ! 良いよ! 行こうよ! あ、聡美ちゃんさ椎名が最後に夏の思い出みんなで作りたいってうるさくてさ。明日みんなで星見ようぜって言ってるんだけど)
大人の意味も解らなかったが、隣に森さんがいる状況も良くわからなかった。もう付き合っているのだろうか? 話が早くて助かるが。
「おい! 賛成だってよ! そしたら明日十七時に横山商店前集合な! 杉川さんに何もいらないから歩きでこいって言っておいて! じゃーな。後でメールする」
思考の波に俺がさらわれている間に山根は詳細をパパッと決めて勝手に電話を切った。
相変わらず話が早い。
「あ、なんかみんなオーケーみたい。あ! ごめん! 杉川さんは明日大丈夫!?」
自分が情けなくなる。まずはそこだろうと。
やっちまった! と直ぐに頭を下げる俺に杉川さんは、もちろん! と返してくれた。
「ありがとう!」
顔を上げるとやっぱり笑っていた。
今度は俺も笑っていた。
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