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「コンコン」
ノックの音で目が覚める。
なんだ夢か。と思いたいのだが、昨日の事はしっかりと脳に刻まれていて目覚ましの日にちもしっかりと日を刻んでいるものだから、この受け入れきれない気持ちだけが昨日のままな感じが何とも気持ち悪い。俺はあれからどうやって帰ったかも良く覚えてないくらいなのに。
「兄ちゃん? 起きてる?」
返事もしてないのに妹は勝手にドアを開け、顔だけ覗かせた。
「いや、今起きたとこ。何?」
気分が暗くて、関係のない妹にまで少し素っ気なくなってしまう自分が増々気分を暗くする。
妹は顔を出したまま「う~ん」としばらく悩んでいたが、俯いた顔を上げると「入るね」と勝手に入ってきた。
「昨日、どうしたの?」
椅子に座るなりこのぶっ込み。全く、この妹はいつだって遠慮がない。
「いや、う~ん」
俺が躱し方を悩みながら上体を起こしベッドに座ると、妹椅子をユラユラ揺らしながら俺を見る。
返答無しと見なしたのか、俺の返事を待たずして妹は続けた。
「せっかくのお祭りなのに顔面蒼白で帰ってきてさ。私もお母さんも話しかけてるのに全部上の空! お母さんはほっときなさいって言ってたけど……私はほっとかないから。兄ちゃん昨日変だったよね? 何があったの?」
腕組みをして椅子に座る姿は少し母親に似たオーラを感じながら「さぁ、言ってごらん」と言わんばかりの顔で真っ直ぐ俺を見る。
丁度いい言い訳が思い当たらず、逃げ場なしと悟った俺は少しオブラートに包みながら友達の事だと常套句を使って説明した。
「~って事を相談されてさ。何だか、どうアドバイスしていいか解んなくてね。ってかそんなのどうしようもないじゃない? まいっちゃったよ。本当に」
「それであんなに暗かったの?」
「まぁね。俺だって友達の事で力になれなきゃ流石にへこむよ?」
「ふ~ん。でも、その友達格好悪いね」
「は? 何がだよ」
自分の事じゃないと言っている側から妹の言葉にムッとしてしまい、内心「しまった!」と思ったが昨日の今日であの最悪な出来事を受け入れられないでいる自分を格好悪いなんて言われては黙っていられなかった。受け入れられる程簡単な気持ちじゃない。それを否定されているようで腹が立った。
「何がも何も。だってその人、好きな人がその人に対して言いづらい話をせっかく決心して話してくれたのに好きな人を励ますどころか自分の事しか考えなかったんでしょ?」
「え?」
「好きな人はきっとすごく話しづらかったと思うよ? 恐かったと思うよ? それでも伝えなきゃって頑張ったんでしょ? 沢山の思い出をくれたその人に誰よりもありがとうって伝えたくて泣きたいのは自分なのに笑顔で頑張ったんでしょ?」
「それは……」
「裏切ったんだよ」
「いや、裏切るだなんて。そこまで……」
「裏切ったの! 好きな人がきっと受け止めてくれると話した決心を裏切ったんだよ! 信じてくれた自分自身を自分で裏切ったんだよ! ホント格好悪い! 前からそんなんだったっけ? そんな兄ちゃん大っ嫌い! ダサ過ぎ! 死んじゃえ!」
吐けるだけの暴言を吐きながら妹は出て行った。
強めに閉められたドアを見つめる視界はどんどん歪んでいく。
気づけば大量の涙が頬を伝っていた。
妹の言う通りだった。信じてくれたのに、俺は最悪な形で裏切った。誰よりも大事なはずの杉川さんを一番に考えられず自分の事しか考えてなかった。
杉川さんはどんな気持ちだったんだろう? 誰よりも寂しいのは自分の筈なのに、悲しい話を笑顔で伝えた時の気持ちはどんなだったろう?
俺を信じてくれた杉川さんを俺は信じられなかったのか?
何でだ? 信じた通りの人だったじゃないか。想像した通りの人だったじゃないか。少なくとも杉川さんは俺を裏切らなかった。それどころか想像を超えて増々好きになったじゃないか。俺のくだらない話に付き合ってくれた。話していて楽しいって言ってくれた。いつだって笑顔を向けてくれた。いつも真っ直ぐ向き合ってくれた。
杉川さんは頑張って伝えてくれたのに、俺はまだ何1つも伝えてない。
俺の気持ちを伝えてない。
「言わなきゃ……」
俺は携帯を手に取った。ボタンを押す手は震えている。
「トゥルルルルル」
「も、もしもし?」
驚く程直ぐに出てくれたものの、やはりというか、杉川さんの声は少し暗く感じる。俺はまた胸が痛んだ。
「あっもしもし杉川さん? あのさ、その……今から会えないかな?」
「え? どっどうしたの急に」
「少しで良いんだ。 時間はとらせないから、あの図書館に行く時に会った防波堤で話せないかな」
「う、うん。大丈夫だよ。い、今から行けば……良いかな?」
「ありがとう! うん! 俺も今から行くから! ありがとう!」
電話を切った勢いでそのまま着替えた。あんな事があったのにこうやって普通に接してくれる。頑張って明るく振る舞おうとしている。何でこんな簡単な事が見えなくなっていたんだろう。
急がなきゃ。距離的に近い杉川さんを待たしかねない。もう待たせたくない。
まだ信じてくれてるなら俺はもう裏切らない。
信じてくれてなくても裏切らない!
階段をダッシュで駆け下りる。一階に降りて居間に目をやると、携帯をいじりながらグダグダしてる妹がいたので、ありがとう! 行ってくる! と声をかける。妹はちょっと笑って軽く手を振った。
自転車に跨がり、目一杯力を込めてペダルを漕ぐ。風を追い越すスピードで俺は海岸線を駆け抜けた。
ノックの音で目が覚める。
なんだ夢か。と思いたいのだが、昨日の事はしっかりと脳に刻まれていて目覚ましの日にちもしっかりと日を刻んでいるものだから、この受け入れきれない気持ちだけが昨日のままな感じが何とも気持ち悪い。俺はあれからどうやって帰ったかも良く覚えてないくらいなのに。
「兄ちゃん? 起きてる?」
返事もしてないのに妹は勝手にドアを開け、顔だけ覗かせた。
「いや、今起きたとこ。何?」
気分が暗くて、関係のない妹にまで少し素っ気なくなってしまう自分が増々気分を暗くする。
妹は顔を出したまま「う~ん」としばらく悩んでいたが、俯いた顔を上げると「入るね」と勝手に入ってきた。
「昨日、どうしたの?」
椅子に座るなりこのぶっ込み。全く、この妹はいつだって遠慮がない。
「いや、う~ん」
俺が躱し方を悩みながら上体を起こしベッドに座ると、妹椅子をユラユラ揺らしながら俺を見る。
返答無しと見なしたのか、俺の返事を待たずして妹は続けた。
「せっかくのお祭りなのに顔面蒼白で帰ってきてさ。私もお母さんも話しかけてるのに全部上の空! お母さんはほっときなさいって言ってたけど……私はほっとかないから。兄ちゃん昨日変だったよね? 何があったの?」
腕組みをして椅子に座る姿は少し母親に似たオーラを感じながら「さぁ、言ってごらん」と言わんばかりの顔で真っ直ぐ俺を見る。
丁度いい言い訳が思い当たらず、逃げ場なしと悟った俺は少しオブラートに包みながら友達の事だと常套句を使って説明した。
「~って事を相談されてさ。何だか、どうアドバイスしていいか解んなくてね。ってかそんなのどうしようもないじゃない? まいっちゃったよ。本当に」
「それであんなに暗かったの?」
「まぁね。俺だって友達の事で力になれなきゃ流石にへこむよ?」
「ふ~ん。でも、その友達格好悪いね」
「は? 何がだよ」
自分の事じゃないと言っている側から妹の言葉にムッとしてしまい、内心「しまった!」と思ったが昨日の今日であの最悪な出来事を受け入れられないでいる自分を格好悪いなんて言われては黙っていられなかった。受け入れられる程簡単な気持ちじゃない。それを否定されているようで腹が立った。
「何がも何も。だってその人、好きな人がその人に対して言いづらい話をせっかく決心して話してくれたのに好きな人を励ますどころか自分の事しか考えなかったんでしょ?」
「え?」
「好きな人はきっとすごく話しづらかったと思うよ? 恐かったと思うよ? それでも伝えなきゃって頑張ったんでしょ? 沢山の思い出をくれたその人に誰よりもありがとうって伝えたくて泣きたいのは自分なのに笑顔で頑張ったんでしょ?」
「それは……」
「裏切ったんだよ」
「いや、裏切るだなんて。そこまで……」
「裏切ったの! 好きな人がきっと受け止めてくれると話した決心を裏切ったんだよ! 信じてくれた自分自身を自分で裏切ったんだよ! ホント格好悪い! 前からそんなんだったっけ? そんな兄ちゃん大っ嫌い! ダサ過ぎ! 死んじゃえ!」
吐けるだけの暴言を吐きながら妹は出て行った。
強めに閉められたドアを見つめる視界はどんどん歪んでいく。
気づけば大量の涙が頬を伝っていた。
妹の言う通りだった。信じてくれたのに、俺は最悪な形で裏切った。誰よりも大事なはずの杉川さんを一番に考えられず自分の事しか考えてなかった。
杉川さんはどんな気持ちだったんだろう? 誰よりも寂しいのは自分の筈なのに、悲しい話を笑顔で伝えた時の気持ちはどんなだったろう?
俺を信じてくれた杉川さんを俺は信じられなかったのか?
何でだ? 信じた通りの人だったじゃないか。想像した通りの人だったじゃないか。少なくとも杉川さんは俺を裏切らなかった。それどころか想像を超えて増々好きになったじゃないか。俺のくだらない話に付き合ってくれた。話していて楽しいって言ってくれた。いつだって笑顔を向けてくれた。いつも真っ直ぐ向き合ってくれた。
杉川さんは頑張って伝えてくれたのに、俺はまだ何1つも伝えてない。
俺の気持ちを伝えてない。
「言わなきゃ……」
俺は携帯を手に取った。ボタンを押す手は震えている。
「トゥルルルルル」
「も、もしもし?」
驚く程直ぐに出てくれたものの、やはりというか、杉川さんの声は少し暗く感じる。俺はまた胸が痛んだ。
「あっもしもし杉川さん? あのさ、その……今から会えないかな?」
「え? どっどうしたの急に」
「少しで良いんだ。 時間はとらせないから、あの図書館に行く時に会った防波堤で話せないかな」
「う、うん。大丈夫だよ。い、今から行けば……良いかな?」
「ありがとう! うん! 俺も今から行くから! ありがとう!」
電話を切った勢いでそのまま着替えた。あんな事があったのにこうやって普通に接してくれる。頑張って明るく振る舞おうとしている。何でこんな簡単な事が見えなくなっていたんだろう。
急がなきゃ。距離的に近い杉川さんを待たしかねない。もう待たせたくない。
まだ信じてくれてるなら俺はもう裏切らない。
信じてくれてなくても裏切らない!
階段をダッシュで駆け下りる。一階に降りて居間に目をやると、携帯をいじりながらグダグダしてる妹がいたので、ありがとう! 行ってくる! と声をかける。妹はちょっと笑って軽く手を振った。
自転車に跨がり、目一杯力を込めてペダルを漕ぐ。風を追い越すスピードで俺は海岸線を駆け抜けた。
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