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しっかりと手を繋いで向かった先は学校だった。
杉川さんは、え? と困惑したが俺は、まぁまぁ! とはぐらかして裏門から入る。
山根から受け取った鍵を使って音楽室に入った。七不思議以来のこの部屋があの時とは違って感じるのはきっと杉川さんとの思い出があるからだろう。
音楽室に出る。薄暮れの教室にポツンとピアノが存在している。やはり前の夜とは違った表情で。
俺はピアノの蓋を開けて杉川さんに、何か聞かせてくれない? とお願いした。
杉川さんは、弾いて大丈夫? と言っていたが、祭りの音でわからないよきっと。と伝えると、それもそうだね! と椅子に座った。
「リクエストは?」
ちょっと嬉しそうにと聞く杉川さん。
「運命! と言いたいとこだけど好きなのを弾いてよ」
と言ったら、好きなのかぁと悩んだ後、じゃあ思い出の曲を。と弾きだしたのは懐かしいイントロだった。
「旅立ちの日に」だ。
中学の卒業式で歌った思い出が甦ってくる。
ちょっと恥ずかしそうに口ずさみながら時折こっちを見て笑う杉川さんは何よりもキレイだった。
弾き終わった後、拍手する俺に頭を下げて、卒業式で弾いた思い出の曲なんだ。と笑う。
「俺も卒業式思い出した! 素晴らしかったわ。ブラボー!」
それを聞いて俺が拍手を強めると杉川さんは照れくさそうに微笑んだ。
そのまま俺達は階段をのぼって屋上に向かった。鍵を開けて屋上へと出ると暮れかけの空が広がる。
「思い出の場所だ」
笑う杉川さんに笑顔で返す。
杉川さんはまた手すりに肘をかけて町を見下ろす。そして手招いた。
「キレイだよ」
呼ばれた俺も隣に立って町を見下ろす。
祭りの音が町に響いている。
俺は携帯で時刻を確かめる。
「もうすぐだ」
聞こえない様に呟いて、あらかじめ買っておいた焼きそばを渡した。
「ありがとう!」
笑う杉川さんが両手で受け取った瞬間。
「ヒュー~、ドン!」
一発目の花火が上がった。
「すごーい! キレ~!」
喜ぶ杉川さんを待たずして二発目、三発目も上がる。
「なかなかの穴場スポットでしょ?」
「凄い光景だよ! 凄い!」
広がる光景に杉川さんは感動しているようだ。俺は告白するなら今しかない! と、杉川さんを見ると杉川さんも俺を見ていてビックリした。
「あのね。言わなきゃいけないことがあるんだ……」
杉川さんは俺から目を逸らさずに言った。
「私、転校するんだ……」
「え?」
俺は杉川さんの言葉を理解できていなかった。それでも杉川さんは目を離さずに話し続ける。
「今日。て言うかさっき、聡美にも言ったんだけど。十一月だから文化祭終わった後くらいになるかな。たぶん今頃山根君も聡美に聞いてると思うけど」
俺は言葉が出ない。杉川さんから目が離せない。
「でも、だからこそ椎名君達と知り合えて良かった。おかげで最高の思い出ができたよ。ありがとう。でも……逆にもっとこの町を離れたくなくなっちゃったかな。なんてね!」
杉川さんは無理矢理笑って話し続けた。目は今にも泣きそうに歪んでいるのに口角はいつも以上に上がっていて必死に作っている笑顔はギリギリで保っているような儚さだった。
俺は杉川さんの言葉がほとんど聞こえていなかった。その顔が崩れてしまいそうで目が離せなくて、そして目の前の現実を受け止めたくなくて。
それでも断片的に耳が拾ってしまう。脳がそれを俺に伝えてしまう。
親の都合で転校すること。転校先は遠いこと。そんな事より目の前でどんどん悲しい顔に変わる杉川さんにかける言葉を必死に探していた。でも何も見つからなかった。頭が働かない。
言葉が出ない。言葉が無い。
「キレイだね」
杉川さんはまた花火を見て言った。
俺はまだ何も言えない。
気付けばいつの間にか花火は終わっていた。
「焼きそば冷めちゃったね……」
杉川さんが呟く声が震えていた。
杉川さんは泣いていたのかもしれない。
ただ俺は向き直った景色、目の前の星空をジッと見ていた。どれだけ待っても、もう花火は上がらない。
でも、今まで見た星空の中で一番キレイな気がした。
涙は出なかったが、きっと俺は泣いていたんだろう。
一口も手を着けていない冷めた焼きそばが夏の終わりを告げていた————。
杉川さんは、え? と困惑したが俺は、まぁまぁ! とはぐらかして裏門から入る。
山根から受け取った鍵を使って音楽室に入った。七不思議以来のこの部屋があの時とは違って感じるのはきっと杉川さんとの思い出があるからだろう。
音楽室に出る。薄暮れの教室にポツンとピアノが存在している。やはり前の夜とは違った表情で。
俺はピアノの蓋を開けて杉川さんに、何か聞かせてくれない? とお願いした。
杉川さんは、弾いて大丈夫? と言っていたが、祭りの音でわからないよきっと。と伝えると、それもそうだね! と椅子に座った。
「リクエストは?」
ちょっと嬉しそうにと聞く杉川さん。
「運命! と言いたいとこだけど好きなのを弾いてよ」
と言ったら、好きなのかぁと悩んだ後、じゃあ思い出の曲を。と弾きだしたのは懐かしいイントロだった。
「旅立ちの日に」だ。
中学の卒業式で歌った思い出が甦ってくる。
ちょっと恥ずかしそうに口ずさみながら時折こっちを見て笑う杉川さんは何よりもキレイだった。
弾き終わった後、拍手する俺に頭を下げて、卒業式で弾いた思い出の曲なんだ。と笑う。
「俺も卒業式思い出した! 素晴らしかったわ。ブラボー!」
それを聞いて俺が拍手を強めると杉川さんは照れくさそうに微笑んだ。
そのまま俺達は階段をのぼって屋上に向かった。鍵を開けて屋上へと出ると暮れかけの空が広がる。
「思い出の場所だ」
笑う杉川さんに笑顔で返す。
杉川さんはまた手すりに肘をかけて町を見下ろす。そして手招いた。
「キレイだよ」
呼ばれた俺も隣に立って町を見下ろす。
祭りの音が町に響いている。
俺は携帯で時刻を確かめる。
「もうすぐだ」
聞こえない様に呟いて、あらかじめ買っておいた焼きそばを渡した。
「ありがとう!」
笑う杉川さんが両手で受け取った瞬間。
「ヒュー~、ドン!」
一発目の花火が上がった。
「すごーい! キレ~!」
喜ぶ杉川さんを待たずして二発目、三発目も上がる。
「なかなかの穴場スポットでしょ?」
「凄い光景だよ! 凄い!」
広がる光景に杉川さんは感動しているようだ。俺は告白するなら今しかない! と、杉川さんを見ると杉川さんも俺を見ていてビックリした。
「あのね。言わなきゃいけないことがあるんだ……」
杉川さんは俺から目を逸らさずに言った。
「私、転校するんだ……」
「え?」
俺は杉川さんの言葉を理解できていなかった。それでも杉川さんは目を離さずに話し続ける。
「今日。て言うかさっき、聡美にも言ったんだけど。十一月だから文化祭終わった後くらいになるかな。たぶん今頃山根君も聡美に聞いてると思うけど」
俺は言葉が出ない。杉川さんから目が離せない。
「でも、だからこそ椎名君達と知り合えて良かった。おかげで最高の思い出ができたよ。ありがとう。でも……逆にもっとこの町を離れたくなくなっちゃったかな。なんてね!」
杉川さんは無理矢理笑って話し続けた。目は今にも泣きそうに歪んでいるのに口角はいつも以上に上がっていて必死に作っている笑顔はギリギリで保っているような儚さだった。
俺は杉川さんの言葉がほとんど聞こえていなかった。その顔が崩れてしまいそうで目が離せなくて、そして目の前の現実を受け止めたくなくて。
それでも断片的に耳が拾ってしまう。脳がそれを俺に伝えてしまう。
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言葉が出ない。言葉が無い。
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俺はまだ何も言えない。
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「焼きそば冷めちゃったね……」
杉川さんが呟く声が震えていた。
杉川さんは泣いていたのかもしれない。
ただ俺は向き直った景色、目の前の星空をジッと見ていた。どれだけ待っても、もう花火は上がらない。
でも、今まで見た星空の中で一番キレイな気がした。
涙は出なかったが、きっと俺は泣いていたんだろう。
一口も手を着けていない冷めた焼きそばが夏の終わりを告げていた————。
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