26 / 35
26
しおりを挟む
しっかりと手を繋いで向かった先は学校だった。
杉川さんは、え? と困惑したが俺は、まぁまぁ! とはぐらかして裏門から入る。
山根から受け取った鍵を使って音楽室に入った。七不思議以来のこの部屋があの時とは違って感じるのはきっと杉川さんとの思い出があるからだろう。
音楽室に出る。薄暮れの教室にポツンとピアノが存在している。やはり前の夜とは違った表情で。
俺はピアノの蓋を開けて杉川さんに、何か聞かせてくれない? とお願いした。
杉川さんは、弾いて大丈夫? と言っていたが、祭りの音でわからないよきっと。と伝えると、それもそうだね! と椅子に座った。
「リクエストは?」
ちょっと嬉しそうにと聞く杉川さん。
「運命! と言いたいとこだけど好きなのを弾いてよ」
と言ったら、好きなのかぁと悩んだ後、じゃあ思い出の曲を。と弾きだしたのは懐かしいイントロだった。
「旅立ちの日に」だ。
中学の卒業式で歌った思い出が甦ってくる。
ちょっと恥ずかしそうに口ずさみながら時折こっちを見て笑う杉川さんは何よりもキレイだった。
弾き終わった後、拍手する俺に頭を下げて、卒業式で弾いた思い出の曲なんだ。と笑う。
「俺も卒業式思い出した! 素晴らしかったわ。ブラボー!」
それを聞いて俺が拍手を強めると杉川さんは照れくさそうに微笑んだ。
そのまま俺達は階段をのぼって屋上に向かった。鍵を開けて屋上へと出ると暮れかけの空が広がる。
「思い出の場所だ」
笑う杉川さんに笑顔で返す。
杉川さんはまた手すりに肘をかけて町を見下ろす。そして手招いた。
「キレイだよ」
呼ばれた俺も隣に立って町を見下ろす。
祭りの音が町に響いている。
俺は携帯で時刻を確かめる。
「もうすぐだ」
聞こえない様に呟いて、あらかじめ買っておいた焼きそばを渡した。
「ありがとう!」
笑う杉川さんが両手で受け取った瞬間。
「ヒュー~、ドン!」
一発目の花火が上がった。
「すごーい! キレ~!」
喜ぶ杉川さんを待たずして二発目、三発目も上がる。
「なかなかの穴場スポットでしょ?」
「凄い光景だよ! 凄い!」
広がる光景に杉川さんは感動しているようだ。俺は告白するなら今しかない! と、杉川さんを見ると杉川さんも俺を見ていてビックリした。
「あのね。言わなきゃいけないことがあるんだ……」
杉川さんは俺から目を逸らさずに言った。
「私、転校するんだ……」
「え?」
俺は杉川さんの言葉を理解できていなかった。それでも杉川さんは目を離さずに話し続ける。
「今日。て言うかさっき、聡美にも言ったんだけど。十一月だから文化祭終わった後くらいになるかな。たぶん今頃山根君も聡美に聞いてると思うけど」
俺は言葉が出ない。杉川さんから目が離せない。
「でも、だからこそ椎名君達と知り合えて良かった。おかげで最高の思い出ができたよ。ありがとう。でも……逆にもっとこの町を離れたくなくなっちゃったかな。なんてね!」
杉川さんは無理矢理笑って話し続けた。目は今にも泣きそうに歪んでいるのに口角はいつも以上に上がっていて必死に作っている笑顔はギリギリで保っているような儚さだった。
俺は杉川さんの言葉がほとんど聞こえていなかった。その顔が崩れてしまいそうで目が離せなくて、そして目の前の現実を受け止めたくなくて。
それでも断片的に耳が拾ってしまう。脳がそれを俺に伝えてしまう。
親の都合で転校すること。転校先は遠いこと。そんな事より目の前でどんどん悲しい顔に変わる杉川さんにかける言葉を必死に探していた。でも何も見つからなかった。頭が働かない。
言葉が出ない。言葉が無い。
「キレイだね」
杉川さんはまた花火を見て言った。
俺はまだ何も言えない。
気付けばいつの間にか花火は終わっていた。
「焼きそば冷めちゃったね……」
杉川さんが呟く声が震えていた。
杉川さんは泣いていたのかもしれない。
ただ俺は向き直った景色、目の前の星空をジッと見ていた。どれだけ待っても、もう花火は上がらない。
でも、今まで見た星空の中で一番キレイな気がした。
涙は出なかったが、きっと俺は泣いていたんだろう。
一口も手を着けていない冷めた焼きそばが夏の終わりを告げていた————。
杉川さんは、え? と困惑したが俺は、まぁまぁ! とはぐらかして裏門から入る。
山根から受け取った鍵を使って音楽室に入った。七不思議以来のこの部屋があの時とは違って感じるのはきっと杉川さんとの思い出があるからだろう。
音楽室に出る。薄暮れの教室にポツンとピアノが存在している。やはり前の夜とは違った表情で。
俺はピアノの蓋を開けて杉川さんに、何か聞かせてくれない? とお願いした。
杉川さんは、弾いて大丈夫? と言っていたが、祭りの音でわからないよきっと。と伝えると、それもそうだね! と椅子に座った。
「リクエストは?」
ちょっと嬉しそうにと聞く杉川さん。
「運命! と言いたいとこだけど好きなのを弾いてよ」
と言ったら、好きなのかぁと悩んだ後、じゃあ思い出の曲を。と弾きだしたのは懐かしいイントロだった。
「旅立ちの日に」だ。
中学の卒業式で歌った思い出が甦ってくる。
ちょっと恥ずかしそうに口ずさみながら時折こっちを見て笑う杉川さんは何よりもキレイだった。
弾き終わった後、拍手する俺に頭を下げて、卒業式で弾いた思い出の曲なんだ。と笑う。
「俺も卒業式思い出した! 素晴らしかったわ。ブラボー!」
それを聞いて俺が拍手を強めると杉川さんは照れくさそうに微笑んだ。
そのまま俺達は階段をのぼって屋上に向かった。鍵を開けて屋上へと出ると暮れかけの空が広がる。
「思い出の場所だ」
笑う杉川さんに笑顔で返す。
杉川さんはまた手すりに肘をかけて町を見下ろす。そして手招いた。
「キレイだよ」
呼ばれた俺も隣に立って町を見下ろす。
祭りの音が町に響いている。
俺は携帯で時刻を確かめる。
「もうすぐだ」
聞こえない様に呟いて、あらかじめ買っておいた焼きそばを渡した。
「ありがとう!」
笑う杉川さんが両手で受け取った瞬間。
「ヒュー~、ドン!」
一発目の花火が上がった。
「すごーい! キレ~!」
喜ぶ杉川さんを待たずして二発目、三発目も上がる。
「なかなかの穴場スポットでしょ?」
「凄い光景だよ! 凄い!」
広がる光景に杉川さんは感動しているようだ。俺は告白するなら今しかない! と、杉川さんを見ると杉川さんも俺を見ていてビックリした。
「あのね。言わなきゃいけないことがあるんだ……」
杉川さんは俺から目を逸らさずに言った。
「私、転校するんだ……」
「え?」
俺は杉川さんの言葉を理解できていなかった。それでも杉川さんは目を離さずに話し続ける。
「今日。て言うかさっき、聡美にも言ったんだけど。十一月だから文化祭終わった後くらいになるかな。たぶん今頃山根君も聡美に聞いてると思うけど」
俺は言葉が出ない。杉川さんから目が離せない。
「でも、だからこそ椎名君達と知り合えて良かった。おかげで最高の思い出ができたよ。ありがとう。でも……逆にもっとこの町を離れたくなくなっちゃったかな。なんてね!」
杉川さんは無理矢理笑って話し続けた。目は今にも泣きそうに歪んでいるのに口角はいつも以上に上がっていて必死に作っている笑顔はギリギリで保っているような儚さだった。
俺は杉川さんの言葉がほとんど聞こえていなかった。その顔が崩れてしまいそうで目が離せなくて、そして目の前の現実を受け止めたくなくて。
それでも断片的に耳が拾ってしまう。脳がそれを俺に伝えてしまう。
親の都合で転校すること。転校先は遠いこと。そんな事より目の前でどんどん悲しい顔に変わる杉川さんにかける言葉を必死に探していた。でも何も見つからなかった。頭が働かない。
言葉が出ない。言葉が無い。
「キレイだね」
杉川さんはまた花火を見て言った。
俺はまだ何も言えない。
気付けばいつの間にか花火は終わっていた。
「焼きそば冷めちゃったね……」
杉川さんが呟く声が震えていた。
杉川さんは泣いていたのかもしれない。
ただ俺は向き直った景色、目の前の星空をジッと見ていた。どれだけ待っても、もう花火は上がらない。
でも、今まで見た星空の中で一番キレイな気がした。
涙は出なかったが、きっと俺は泣いていたんだろう。
一口も手を着けていない冷めた焼きそばが夏の終わりを告げていた————。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
君と命の呼吸
碧野葉菜
青春
ほっこりじんわり大賞にて、奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪
肺に重大な疾患を抱える高校二年生の吉川陽波(ひなみ)は、療養のため自然溢れる空気の美しい島を訪れる。 過保護なほど陽波の側から離れないいとこの理人と医師の姉、涼風に見守られながら生活する中、陽波は一つ年下で漁師の貝塚海斗(うみと)に出会う。 海に憧れを持つ陽波は、自身の病を隠し、海斗に泳ぎを教えてほしいとお願いするが——。 普通の女の子が普通の男の子に恋をし、上手に息ができるようになる、そんなお話。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる