とりあえず、夏

浅羽ふゆ

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 しばらく休んでいると、山根と森さんもやってきた。

「どうよ調子は! こっちは息が合いすぎてもう準備終わっちまったよ!」
 なぁ! と肩を組んだ山根の腕を振りほどいて森さんは魚籠の中を覗く。
「魚いっぱいいるね!」
「いっぱい釣れちゃった! 食べきれるかな?」
 杉川さんは笑いながら嬉しそうに答えているが、その魚は全て杉川さんが釣ったものだとは俺の口からは言えない。
 山根は、よし! と膝を叩く。
「もう食うか!」
 それだけ言って俺に魚の準備を任せて戻っていく。森さんも魚を殺すという行為がどうも苦手らしく杉川さんにごめんねと両手を合わせて戻った。
 またもや二人きりになってしまった。これは千載一遇のチャンス。
 俺は汚名返上とばかりに魚の準備に勤しむ事を決意し、まな板や包丁をテキパキ準備して杉川さんの見ている側で手際良く捌いた。
「すごいなぁ」
 あまりにも手際よくやっているもんだから杉川さんがそう呟いてしまうのも無理は無い。でも一応謙遜。
「いやいや! 杉川さんが釣ってくれたおかげですよ!」
「だからただのビギナーズラックだって! でも、椎名君ってこうゆうのも得意なんだね! アウトドア派なんだ!」
 横から俺の顔を見る杉川さんに「いや、杉川さん派です」などとジョークを飛ばせるはずもなく、いやぁ。それほどでもぉ。とクレヨンしんちゃんのような言葉しか出てこなかった。
 杉川さんはクスッと笑う。
「アウトドア派の陰陽師かぁ」
「いや、だからあれは!」
「ごめんごめん! 冗談!」
 杉川さんは両手を振って、手伝うね。と魚を一匹とった。
 俺は杉川さんに目の前で捌いて、やり方を教える。
 杉川さんは真剣に俺の手元を見て言葉に頷きながら魚を捌き始めた。丁寧に。真剣に。
 その姿を見てやっぱりこの子は良い子なんだなと思う。そりゃみんな惚れるよなと考えたらまた溜め息が出た。ダメだダメだ。
 まぁ今はそんな事考えずに楽しむか! と切り替えて一緒に準備にとりかかる。
 魚の下拵えも終えて山根と森さんの所へ戻ると、二人はもう待ちきれなかったのか皿や箸などのセッティングも完璧で、俺達が来た瞬間に野菜を焼き始めた。
 俺は人数分のラムネを川から取ってきて速やかに渡し、叫高らかに叫ぶ。
「乾杯!」
 みんなも声を合わせて「乾杯!」とラムネをぶつけ合った。
「か~っ! 生き返るなぁ!」
 山根は一気に飲み干して新しいラムネをダッシュで取りに行った。その後ろ姿にみんな笑っていたが、実際は俺もほぼ飲み干していたことは言うまでもない。
 焼けた野菜や肉、そして魚などを食べながらみんなで談笑。使い古した話題も色あせる事無く何度だって話せた。何度だって笑えた。
 この場所に四人きり。実際、最高のロケーションだった。
 俺自身、今までの夏より楽しく過ごせている気がするし、何よりこの四人のバランスは最高だ。このまま山根と森さんが結婚して、俺と杉川さんが結婚して大人になってもこうやって集まれたらって思う。いや、願う。
「あっ! 魚おいしー!」
 豪快に魚をパクつく森さん。笑いながら、おいしいね! と言って食べる杉川さんが、何かを思い出した様に、そう言えば。と話し始める。
「高一の時に初めてのイベントが近くのキャンプ場でバーベキューだったの覚えてる? なんかあの時すごい本格的に料理してて先生に怒られた班がいたんだって!」
 杉川さんは笑いながら、何を作ってたと思う? と聞いてくる。
「えー! 本格的ってどういうこと?」
 森さんは逆に問いかける。
 俺と山根は嫌な汗をかいた。
 しかし、早々に痺れを切らして山根が口を開く。
「ハヤシライスとペペロンチーノ……」
「正解!」
 杉川さんが山根を指差す。
「嘘! そんなの普通バーベキューで作る?」
 森さん笑った。
 俺と山根は苦笑い。杉川さんは山根に、よくわかったね? と聞く。
 山根はハハッと笑う。
「だってそれ俺達だもん……」
「山根君と椎名君だったのー!?」
「やっぱり二人って面白いね!」
 何故か喜んでいる二人を見て、思い出してしまった。あの日の出来事を。
 詳しく教えて! とせがまれるので俺も魚を食べながら口を開いた。

 そう言えば久しぶりに出たなこの話。などと思いながら二人に話し始めた。

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