とりあえず、夏

浅羽ふゆ

文字の大きさ
上 下
16 / 35

16

しおりを挟む
 ひとしきり川で遊び終わって、早速バーベキューの準備に取りかかる。
「んじゃ火をおこす係と魚釣ってくる係決めようぜ!」
 山根と俺は自動的に釣り係と火をおこす係に別れるので、あとは女の子がどちらに別れるかだった。
「んじゃ男と女で別れてグーパーで決めようぜ!」
 山根は事前の打ち合わせ通りに言う。女子二人は何の疑いも無くそれに応じた。
「決まった? 聡美ちゃんグー? よっしゃ! 俺と一緒だ! んじゃ早速、火をおこしますか!」
 山根は手際よく森さんとペアを組んだ。
 そうだ。もちろん俺達はグーパーなどしていない。した「振り」だけで済ました。
 そして打合せ通り、山根が森さんにグーかパーか聞いてそれに山根が合わせるという手法を取った。簡単な作戦だが、何重にも仕掛けを張り巡らすより時にはこのような作戦の方がバレにくいのだ。
「よし! じゃあ椎名くんジャンジャン釣っちゃおう!」
 杉川さんは何気なくスッと俺の手を引いて川の方へ向かう。
 まさかの行動で俺は掴まれた腕に意識が集中してしまい、返事もままならないまま引かれる方へ歩いた。
 魚が一番多くいるスポットが、山根たちの準備をしている所から少し離れた場所にあったので、釣り場から山根達が何をして何を話しているかわからない。と言う事はこちらにも同じ事が言えるので、ここは完璧に二人だけの世界だった。
「うわー結構いるねー!」
 杉川さんは魚に気づかれないようにしているのか小声で喋りかけてくる。
「まぁこんだけいれば何匹か釣れるっしょ!」
 自分では釣りにかなりの自信を持っていたけど、そこは謙虚にいった。このギャップが後々、功を奏すのだ。今日の俺はカッコいいぞ!
 早速、竿に仕掛けを作り、釣りの準備を手早くすまして釣りにかかる。竿は二本あったが、恐らく俺一人で十分釣れてしまうから人数分釣ったら教えて楽しく釣りを楽しむ作戦を取る。
 釣り糸をたらし十分。
 二十分……
 ……三十分。
 おかしい。面白いほど釣れない。
 昔はかなり釣れたはずなのに、どれだけ時間が経ってもアタリすらない。一向に釣れる気配がない。
「釣れないねー。やっぱり釣りって難しいんだね」
 杉川さんはジッと川を眺めている。まずいまずい。
 俺は、退屈させよりは。と思い、どうせ釣れないとはわかっていながらも杉川さんに釣り方を簡単に教えて、とりあえず暇にはさせない方向にした。
 が、しかし。
「すごーい! すごい!」
 杉川さんは俺とは打って変わってバシバシ魚を釣り上げた。
「これ面白い!」
 杉川さんはどんどん魚を釣り上げる。そして釣った魚を恐がって俺に渡して針をとってもらうでもなく、ガンガン魚に触っていく。餌も気持ち悪がらずバンバン自分でつけていく。
 そして結局、一人で十匹も釣り上げた。
「釣りやった事あるの?」
「ううん。今日が初めてだよ!」
 俺の問いに彼女は笑いながら答える。あえなく崩れ去る俺のプライド。そしてプラン。
 これ以上釣られてしまったら立ち直れないと思い、ちょっと休憩しようと言って竿を置かせた。
 ちょうど真後ろに座りやすそうな大きめの石があったので、そこに腰を下ろしホッと一息ついた。
「いやー本当に釣り上手いね! マジでビックリしたよ!」
 俺は自分が釣れなかったことには触れずに杉川さんを褒めまくった。そして褒める度に心が斬りつけられた。
「ただのビギナーズラックだよー!」
 杉川さんは照れた顔をする。
「いや、でもホントにすごいよ!」
 俺が言うと杉川さんは、ありがと。とだけ言って空を見上げた。
「それにしてもすごい景色だね! まるでここだけポッカリ穴が開いてるみたい!」
 杉川さんはここがすごい気に入ったと俺に言ってくれた。
「ここの星空もヤバいよ! まるで天然のプラネタリウムみたい!」
 俺が少し大げさに言うと彼女はみるみる目を輝かせて、ホントに? と俺のシャツの袖をつまんだ。
 俺はドキッとしながらも今度は目をそらさずに彼女の方を見る。
「ホントに!」
 それを聞いて杉川さんは嬉しそうに笑った。
「なんか椎名くんとは綺麗な景色ばっか見てる気がするなぁ。夜の学校の屋上とかすごかったよね! あれは忘れられないなぁ」
 ねぇ?と問いかけられた俺は、もちろん。と相槌を打つと杉川さんも、だよね。と微笑んで話を続けた。
「今年の夏はなんかいつもより楽しいなぁ。面白い椎名くんと山根くんとも知り合えたし! なんか本当に退屈って言葉が出てこない! あの日のお疲れ会からね! 覚えてる? 初めて喋ったあのお疲れ会! 椎名くん見てても喋っててもすごい面白かったよ!」
 嬉しそうに。そして楽しそうに喋りかけてくれる杉川さんを見て、このまま時が止まってしまえばいいと俺は思っていた。
 お疲れ会の話を一通り喋り終えた杉川さんはまた空に顔を向ける。
「今年の夏はもっともっと面白い事いっぱいしようね」
 空を見ながら笑う杉川さんは綺麗だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【完結】余韻を味わう りんご飴

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
青春
キミと過ごした日々を噛み締めながら味わった祭りの後のりんご飴。 初恋を忘れられず、再会を果たした彼には彼女が出来ていた。 キミへのこの想いは何処へ行くのかな・・・ 一章 再会 二章 絡まる想い 三章 新しい経験 四章 行き着く先は ファンタジーしか書いて来なかったので、このジャンルは中々書くのが難しかったですが、少女漫画をイメージしてみました♪ 楽しんでいただけると嬉しいです♪ ※完結まで執筆済み(予約投稿) ※多視点多め。 ※ちょっと男の子へのヘイトが心配かもしれない。 ※10万文字以上を長編と思っているので、この作品は短編扱いにしています。

【R15】【第二作目連載】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。前回田中真理に自ら別れを告げたものの傷心中。そんな中樹里が「旅行に行くからナンパ除けについてきてくれ」と提案。友達のリゾートマンションで条件も良かったので快諾したが、現地で待ち受けていたのはちょっとおバカな?あやかしの存在。雅樹や樹里、結衣の前世から持ち来る縁を知る旅に‥‥‥ ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百八十センチ近くと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチ以上にJカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。一度だけ兄以外の男性に恋をしかけたことがあり、この夏、偶然再会する。 ●堀之内結衣 本作の準ヒロイン。凛とした和装美人タイプだが、情熱的で突っ走る一面を持ち合わせている。父親の浮気現場で自分を浮気相手に揶揄していたことを知り、歪んだ対抗意識を持つようになった。その対抗意識のせいで付き合いだした彼氏に最近一方的に捨てられ、自分を喪失していた時に樹里と電撃的な出会いを果たしてしまった。以後、樹里や雅樹と形を変えながら仲良くするようになる。 ※本作には未成年の飲酒・喫煙のシーンがありますが、架空の世界の中での話であり、現実世界にそれを推奨するようなものではありません。むしろ絶対にダメです。 ※また宗教観や哲学的な部分がありますが、この物語はフィクションであり、登場人物や彼らが思う団体は実架空の存在であり、実在の団体を指すものではありません。

イシュタムに会うのはまた今度

もとした 影
青春
過去に実の母親から酷い虐待を受けていた僕は、妹からも裏切られ絶望の日々を送る。 ようやく保護され、4年に及ぶ母親の虐待から解放されたが、そのあまりに長く残酷な虐待は、母親がいなくなっても僕の心に深い傷跡を残した。 里親に引き取られ、愛を知ってもその傷跡は無くならない。 里親に迷惑をかけてはいけない、過去を隠して普通の子として取り繕う日々。 次第にその黒く重たい気持ちは、自分を裏切った妹に向いていく。 あのとき、こんなに苦しい思いをするのなら、あのとき死んでしまえば良かったのではないか?今、僕がこんなにも苦しいのは妹のせいではないのか? そして六年の時を経て、僕は妹に再会する。 始めは憎しみと憎悪の気持ちで妹と触れていた僕。 やがて明かされる僕の過去。妹がおった心の傷。周囲の人からの愛、隠された真実。 それは僕の青春に残酷な現実を突きつける。 ラスト一行で待ち構える、衝撃のどんでん返し!

処理中です...