とりあえず、夏

浅羽ふゆ

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「なぁこれバランス悪くない?」

 キャンプ当日。
 俺と山根は山根の家で荷物をどうにか自転車に積もうと頭を捻っていた。
「っていうか無理じゃね? こんなちっちゃな荷台にキャンプ用品なんか積めねーよ!」
 山根はアーッと叫んで座り込んだ。俺達は完全に大事な事を忘れていた。足は自転車なのだ。テントなんて持っていける筈が無い。山根の家にキャンプ用品揃っているから安心だね。なんて呑気に話していた頃の自分をぶっ飛ばしたくなった。
 時間もない。
 決断の時が迫る。
「キャンプは中止にしよう」
 俺はハッキリ山根に告げた。
「んじゃ今日どうするよ?」
 山根もキャンプは無理だと考えたらしく、俺の言葉に解決策を問う。
「バーベキューをしよう。もう本当に必要最小限の道具だけ持って。それならギリギリ積める筈だ」
 我ながら無難な案。しかし自転車で行くにはそれしかない。泊まりと言う言葉に色んな期待を寄せていた山根を説得して素早く荷物の選定に入る。
 魚は俺が釣って捌けばいい。あとは飯盒や鍋、炭や網など最低必要となるものを持っていく。
 食材と包丁等の細かい調理器具は杉川さん達に頼んであるから大丈夫だ。折りたたみの椅子は小さいのを四人分。釣り用具は二人分に減らして、何とか積めた。
 急がないと。待ち合わせの時間はもうすぐそこに迫っていた。

 待ち合わせ場所の横山商店の前に行くと、当たり前だが二人は既に着いていた。俺と山根は着くなり直ぐに土下座をした。
「ごめん! 遅れました!」
「遅ーい! 罰としてラムネ奢りね~!」
 森さんと杉川さんは笑っていた。怒らせていない事にホッとする。
 俺と山根は、よろこんで! とすかさずラムネを買って二人に渡した。
 自分たちの分も買って4人で少し談笑していると、店の中から店主の横山さんがタバコを吸いながら出てきた。
「お! なんだおまえら珍しいな二人以上でいるなんて!」
 意地悪そうにニヤニヤしながら横山さんはタバコを吸っている。暇なので俺達をからかいに来たのだ。
「いやいや! そんな事ないっすよ?」
 山根が笑って返すと横山さんはタバコを灰皿にポイッと捨てて鼻で笑った。
「嘘つけ。お前らいつも夏になると、ここでラムネ買って二人で海眺めてるじゃねーか! 他に行くところねーのか!」
 横山さんは嫌な捨て台詞を吐いて中に戻っていった。俺と山根は何も言えない。
 杉川さんと森さんは笑いを堪えている。
「いや、違くて……」
 俺が弁解しようとするのを遮る様に二人は笑いだした。
「やっぱりいつも二人でいるんだね!」
 森さんは仲良いのは良いことだと笑う。俺と山根は恥ずかしさに耐えられず自転車に飛び乗った。
「よし! 行こうぜ!」
「わ! 待ってよ!」
 ラムネを慌てて一気に飲み干し、女子二人も自転車に跨がる。
 向かう先には大きな山と、入道雲。ペダルをギュッと踏み込む。

 太陽は俺達の真上にいた。

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