とりあえず、夏

浅羽ふゆ

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 家に着く頃にはすっかり日も暮れていて、家族はとっくに夕飯を食べていた。

 俺はササッと風呂に入って食卓につく。
「ねぇ。今日山根くんと一緒に自転車でどこに行ってたの?」
 不意に妹が質問してくる。まさか、あの叫び狂いながらアホ丸出しで自転車を走らせている姿を見られていたわけではあるまいな。俺は恐る恐る聞いてみる。
「いや、ちょっと川のほうにね。どこで見たの?」
「海沿い。ほら、横山商店の方」
 箸を止めずに答える妹。俺はほっと胸を撫で下ろす。
「ホント仲良いよね山根君と」
「そうか? まぁそうか」
 話はそこで終わった。今度からは気をつけよう。俺は心にそう誓った。
 夕飯を食べおわり部屋に戻るとメールが一通来ていた。
 杉川さんからだった。
「キャンプの日程なんだけど、日曜で大丈夫かな? 山根くんは大丈夫みたいなんだけど、椎名くんはどう?」
 という文面だった。俺はすぐに「もちろん大丈夫です!」と送り、携帯を充電器に繋げて、窓を開ける。
 杉川さんとした夏の解放感の話を思い出す。
 なんだか同じような事を考えていたってだけで秘密を共有している気分になり、胸がドキドキした。
 俺は間違いなく最高の夏休みを過ごしている。夏休み前なら考えられない展開だ。
 夏は日が長いけど代わりに時間が経つのが早い。やりたい事がいっぱいあって追いつかない。でも頭に浮かんだ事全部やりたい。そんな気分だ。
 窓を開けて、明日は何しようかと一人でニヤニヤしている自分が急に恥ずかしくな。俗にいう我に返るってやつだ。そっと窓を閉める。そして寝ることにした。

 ―ーーーその日はすごくいい夢を見た。内容は覚えてないが確かに俺は笑っていた。

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