とりあえず、夏

浅羽ふゆ

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 翌日の昼休み。

 購買でメロンパンを買い、屋上で外の景色を眺めながら食べていると、コーラを飲みながら山根がやってきた。
「椎名ちゃんってさー、夏休み暇なんでしょ?」
 気持ち悪い口調で山根は飲みかけのコーラ差し出してくる。
「まぁね。何かしたいんだけど全然。何もないわ」
 受け取ると、コーラは少し汗をかいていた。一口飲んで溜め息をつきながら突き返すと山根はそれを受け取りながらニヤッと笑った。
「なんかよぉ。ここだけの話……夏休み初日に一学期お疲れ会あるらしいぜ?」
 またこういう話題だ。顔の広い山根の口からはこの手の話題が湯水の如く出てくる。俺はもうとっくの昔に聞き飽きているので、メロンパンを勝手につまむ山根に顔も向けず校庭を見ながら相槌を打つだけ。それがいつものパターンだった。
 いつもならそこで話は終わり、山根は早々に別の話題を持って来る。はずだった。
 ただ、今日の山根はしつこいくらいに同じ話を繰り返し、更にその度、ニヤニヤ笑いながら俺の表情を伺ってきた。まるで何かを企んでいるかのように。
「そっかー。やっぱり来ないかー。でも残念だなー。でもしょうがないかー」
 単語、単語を言う度にニヤニヤしながら覗き込んでくる山根は、リズミカルに俺の視界に入って来た。その顔たるや、この世で一番憎たらしい顔ナンバーワンだ。
 相手にするのも癪だったが、流石に痺れを切らして山根を睨みつける。
「何だよ? 一体何企んでんだ? ん?」
 俺が言い終わると同時に山根が俺を指差す。その指先と山根の顔を交互に見ると山根は嫌らしさ満点で囁いた。
「……お前の憧れのあの子も来るらしいけど……」
 俺はジッと睨みつけたまま山根からコーラを奪いグッと飲み干した。
「……行く」

 山根の甲高い笑い声が夏空に響く。いつの間にかセミが一匹どこかで鳴き始めていた。
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