上 下
86 / 89

86

しおりを挟む
「……つっても真異正教会のアジトって何でこんなにあんだよ……」



 馬車の上で地図を広げる。ポイントが付けられてる赤い丸は、一番遠くでザイバラの国内まで伸びていた。



「いやー、暗部組織って結構そういうの多いんすよ。ねぇ? エミルさん」



 俺の隣でクロウが揚々と口を開く。気を取り直したのはいいんだけど、いつものコイツはそれはそれでなんかムカつくな。



「暗部組織ねー。いくつか潰したけどさー、根絶って結構手間なんだよね。壊滅に追い込むのは出来てもどっかに絶対残党が出ちゃうんだもん」



 エミルはめんどくさそうに言う。なるほど、根絶を免れるためという理由もあるのか。



「でも、目星はついてるんだろ?」



「はい。こことここ。どちらかにユナさんは居ると思われます。もうちょい人数入れば二手に分かれて同時襲撃も出来たんですけど……」



「この人数じゃ無理ね。二度戦闘しただけでもわかるわ。四人でもギリギリ勝てるかわからない場所に二人で攻めるなんて自殺行為よ」



 アリアスは冷静に分析する。まぁ、確かにそうだろうな。でも、俺たちの目的は真異正教会の根絶でもなければ勝利する事でもない。



 ――――――――ただ、ユナを助けられればいい。



 それだったらやりようがある。



 ……待ってろよユナ!!





 ――――――――。





「到着しました」



 クロウが先んじて馬車を降りる。

 今、俺たちの目の前にあるのは異端審問会跡にも似た古い教会だった。でも、あそこよりは随分とこじんまりしていて、なんとなく隠れ家のような匂いを感じる。



「さぁ、行きましょう」



 なんか、こうやって先導するのはクロウのキャラっぽくないよな。と思いながら先導を任せる。

 ツタの絡まった教会の扉をゆっくりと開くときしんだ音がやけに耳に残った。



「一見、ただの教会。だな」



 中を見まわす。木製ベンチが左右均等に連なって、その先には十字架。まぁ、ありきたりな作りだがそれでこそ伝統を感じる。

 しかし、俺たちが目指しているのはここの地下だ。



「ちょっと待っててくださいね」



 クロウが手を合わせて、何か呪文をつぶやきながら目をつむる。



「おい、何やってんだアイツ?」



「いーから黙って見てろっつーの」



 小声で突っぱねられる。なんだかエミルまでクロウを信頼しちゃってる感じ。なんかムカつく。

 アリアスは……まぁ、何も気に留めている様子もない。



「顕現せよ!」



 !? なになに? 急に大声出して両手を横に伸ばしたけど! 聞こえてたのかな? 俺の声。

 

 と思っていたら、不意に近くで魔法陣が浮かび上がる。

 俺は咄嗟にナレッジを出して身構えたが、エミルはそれを制止した。



「大丈夫よ。奴らが来るわけじゃ無い。見てみなさいほら」



 エミルが顎で室内を指す。そこには至る所に描かれた魔法陣が淡い光を放っていた。



「なんだよこれ!」



「へへへ。自分の得意分野っす! 僕、トラップ魔法とか魔法系の仕掛けを見つけるの得意なんすよ」



 ちょっと照れ笑いして頭を掻く。コイツ、スゲーけど、なんか褒めたくならないのは何故だろう。



「そーいうわけ。クロウは変な魔法ばっか得意なのよ。これもコイツの特殊魔法よ。相手の魔法を発動ギリギリの所まで操作できんの。おもしろいのは発動まで持って行けないところ」



 ね? 変な魔法でしょ? とエミルは肩をすくめる。クロウは「それほどでも……」と照れていた。なぜ照れる。

 しかし、そういう事か。

 クロウは今、魔法陣を発動ギリギリまで持って行ってこうして顕現させているわけだな。俺たちが持って行った何もない所から突然現れる魔法陣の話を元にクロウは既に自分の戦い方を考えていたんだ。



「腐っても宮廷魔導士団。ってところか」



「いや、腐ってないっすよ!? 自分全然現役バリバリの幹部候補ですよ!?」



 ルカ君には越されちゃいましたけど……。とクロウは肩を落とした。

 ふーん、俺がシルフィスだったらルカよりクロウを先に幹部にするけどな!



 ――――――――アイツの方がムカつくし!!



 ともあれ、こうして魔法陣が浮かび上がったので俺はひとつずつアナリティクスを使って内容を調べていく。



「おー、これは召喚魔法か。めんどくさい低級の魔物がわんさか出るぞ? んで、こっちは。なるほど幻惑魔法ね。ったく、トラップだらけだな」



「へぇ……すごいっすねケイタさん。それ」



「いや、お前の今使ってる魔法の方がすげーから。発動は出来なくても、発動を抑えられるって結構万能じゃん?」



「いやぁ! それほどでも!」



「でも術者には負けるから、相手次第じゃ速攻で再発動させられちゃうけどねー」



 エミルが口をはさむとクロウは「しー! しー!」と人さし指を立てる。いやいや、仲間にそれ秘密にされても困るんだけどな。



「ふふっ……」



「ん? どした?」



 不意に漏れ出た笑い声に振り向くと、アリアスが口元を押さえて微笑んでいた。



「なんだかクロウ君って面白いわね。シルフィス様があなたを側に置いておくのもわかる気がするわ」



「えー? アリアスそれおかしいってー。うざいだけだよー?」



「いやいやいや! 何言ってんすかエミルさん! 僕はこんなにもエミルさんに尽くしているのに!」



「だからそれがうざいんだってーの!」



「ひいぃ!」



 飛びのくクロウにアリアスはもう笑いをこらえられず、声に出して笑ってしまった。



「あははっ! 良いコンビかもねエミルとクロウ君は」



 おっかしい! と息をととのえながら言うアリアスさん。そして互いに見合うエミルとクロウ。さらにそのまま蹴りを入れられてクロウが「うぐ!」と声を漏らすとアリアスは慈愛に満ちた表情で見つめていた。



 ……何これ?



 なんかクロウのポイント上がってる理由がわからないんですけど?

 なになに? 母性本能くすぐる系ってやつ? クロウが?

 マジかよ。すげームカつくやつじゃん。



 ――――――――っつーか、全部の魔法陣解析終わりましたけど!?



 あんたらが俺を置いてけぼりにしてる時間に地下につながる空間魔法陣見つけましたけど?



 もう窓作ったんで地下に行けますけど!?





 とは、声に出さず俺は極めて冷静にみんなを促した。



「そろそろいいか? 行くぞ」



 ふーっとため息混じりに言ってやった。すると、アリアスも「え、えぇ」と気を取り直して俺に続く。

 そうそう。気を引き締めてもらわないとね。決してクロウなんかに気を許しちゃダメだアリアス。

 君みたいな女性はクロウみたいなしょーもない男性にしばしば惹かれる傾向があるが、ここに俺がいることを忘れてはいけないよ?



 っつーか、アリアスはクロウなんかにゃもったいない!!



 エミル! てめーはとっとと来い! 引っぱたくぞ!



 そして、クロウよ……地下に行ったら覚えてろよ?



 シルフィス以上に、こき使って使ってやるんだから!!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...