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「触れると爆発か……」



 部屋中に浮かんでいる光球を見渡す。

 さっきのエミルが放ったファイアボールは結構な衝撃だったからな。

 それらを踏まえて威力を計るならば、まぁファイアボールよりかは威力が落ちると考えて良いだろう。

 それよりも問題は



「っつーか、これじゃ動けなくない?」



 エミルの言う通り。数が異常だ。しかもアルミラが移動すると自動的に避けていたようだし、いや、マルレが操作してるのか? 違うな。それじゃ光球が俺らを襲ってくるはずだ。



「あはははは! 悩んでるねー! 良いよ良いよ! 何か方法が見つかるまで待ってあげるよ!」



 アルミラは闇の剣をこちらに向けて笑う。その純粋な狂気に満ちている目は、なんかどこかで見た事があるような……?



「わわわ……わたし、行きます!!」



 あ、ユナだ。サイコパスモードのユナの目に似てんだアイツの目。



「ユナが? どーやって?」



 エミルが真っすぐアルミラたちを指さす。その線上にはおびただしい数の光球が行く手を阻んでいる。

 でも、ユナはブンブンと首をふった。



「きょきょ、きょきょうとっぱ! です!」



 ……ん?



「あわわ! きょ、強行突破、でで、です!」



 ユナは顔を真っ赤にして言い直す。まぁ、しかしそれくらいしかないかもしれない。

 あの闇の剣がメルトブレイク並みの威力を備えているのであれば、力で勝負は不利だ。

 ならば、ユナのスピードにかけるしかない。

 せめてアリアスが剣を持ってたら、他に方法があったのかも知れんが。

 なんて、考えてたらアリアスに「なによ?」とにらまれた。すんません。



「でも、オーラバリアでダメージは防げても衝撃がスピードを減少しちまうからなぁ」



 言いつつもユナにオーラバリアをかけ直す。上書きしても意味ないのだが、願掛けだ。

 ただ、これでもしもアルミラも真っ向から攻撃してきたら、どうなる?



 光球が道をあけるアルミラと光球の衝撃を受けながらのユナはどっちが早い?



 ……悩みどころだ。



 かわいい子には旅をさせろと言うが、これ間違ったらユナが殺されかねないんだよなぁ。

 触れてダメならクレイの異空間魔法も使えないし。……いや、待てよ?



「エスタードのオーラで包んじまえばいけるか?」



 そうだ。あの荒くれどもと喫茶店でやりあった時。俺はファイアボールをクレイに触れさせるためにエスタードのオーラで包んだが、あの光球の威力ならオーラだけで衝撃もなんとか出来るかも!!



「よっしゃ! これいけっかも!」



 俄然出てくるやる気。作戦が思いつくと、テンションも上がりますねぇ!



「なーにを思いついたんだか」



 あきれたように言うエミルに「まー見てろって」と笑う。



「こーすんだよ! ってアレ……?」



 エスタードオーラが近くの光球に伸びると、光球はスッと避けるように移動した。



 待てよ。これって……そうか!



「気づいちゃったようだねぇー!!」



 俺のヒラメキを察したアルミラが突然こっちに飛び出した!



「このやろ! 待つんじゃなかったのかよ! ユナ!」



 俺はユナと視線を交わす。



「俺が道をあける! お前は何も考えず全力でアルミラをたたけ!!」



「あーははー! できるかなぁ?! そんな言葉信じられるかなぁ?」



 アルミラは俺の言葉を笑い飛ばしながら剣を振りかぶった。

 刹那、ユナの姿が消える。



「アビリティトランスファー!」



 俺が唱えると、エスタードも手から消えた。



 そこからは瞬きも許されないほどの刹那の出来事だった。



 エスタードを手にしたユナの身体を漆黒のオーラが纏い、光球は彼女の進む道跡を残すかのように避け始め、そのまま目にも止まらぬ速さで真っ向から剣を振りかぶったアルミラのみぞおちをアッパーで吹き飛ばした。



「ぐはぁああ!!」



 まるでリフレクションをかけられたかのように進行方向をそのまま反転してアルミラは壁に身体をたたきつけられる。

 その始点に立つアッパーのモーションで止まったユナの足元からはなんか煙が出ていた。

 サンダル、切れてないのかあれで?



 いや、それよりまだだ!



「ユナ! そこから動くな!」



 俺は再びエスタードを自分の手に戻す。すると、ユナの道筋にまた光球が集まってきた。

 そう。全てはしゃべりすぎのアルミナの言葉にヒントが隠されていたんだ。



「そうは行くかよ!」



 アルミラにかけよろうとするマルレに漆黒の斬撃を飛ばす。

 すると、さっきのユナのように光球が道を避け、斬撃は真っすぐ狙ったところに飛んだ。



「っきゃ!!」



 すぐ目の前に走った斬撃にマルレは足を止めると、こちらに向く。



「おそい!」



 だが、その隙に俺は真っすぐ最短距離で間合いを詰めていた。



 そう、光魔法と闇魔法は同時に発動できない。

 ならば、闇魔法をかけてしまえば光魔法の干渉は受けないと考えられる。

 アルミラは自身の身体に闇魔法で肉体強化でもしていたんだろう。だから、光球はアルミラから離れるようになった。

 しかし俺のエスタードも属性は闇だ。

 ならば効果は同じと思っていい。

 

 ただ、ユナのガチンコのスピードにオーラのスピードが間に合わない可能性があったから、もうこの際ということでユナにエスタードを持たせたのだ。



 はい、完璧すぎるシナリオ。ごちそうさんです!



「相手が悪かったな! お二人さん! ――――――――!!??」



 俺がエスタードを振りかぶった瞬間にマルレの目つきが変わる。

 ちがう。こいつの本性はこっちだ!

 ぼんやりとしていた目つきが狂気にゆがみ、口端から舌を出して俺に杖を向けた。



「お・そ・い♡」



 ――――――――光魔法。それは人間の反応速度を超えた光速の魔法でもあった。



「うぐぁああ!」



 気づいた時には俺の左肩に風穴が開いていた。

 一瞬の光が、一本走っただけだった。

 たった、それだけで俺の肉体の一部が消失した。



 俺は振りかぶったまま、マルレの目の前に倒れこむ。



「ケイタ!」



 離れたところからエミルの声がする。ユナも、アリアスも俺を呼んでいるが、振り返る隙間もない。



「くそったれ!」



 あわてて、身を転がす。一寸の間でそこに杖が突き刺さった。

 マルレは「っち」と舌打ちして、俺を一瞥する。

 マジかよ。容赦ねぇなコイツ。



「ヒール!!」



 即座に回復魔法で血を止める。ダメだ! 出し惜しみはしてらんねぇ!



「マジックブースト! アンプリファイドヒール!」



 回復魔法の効果を増幅、極限にまで高める。すると、失われた肉体も徐々に取り戻していった。



「おやおや? 見た事ない魔法だなぁ? な・に・そ・れ♡」



「うがっ!」



 顔面を思いっきり踏みつけられる。マルレはそのまま足裏をグリグリと押し付けてきた。



「な・に・そ・れ!」



 声に苛立ちが混じる。なんなのこの情緒不安定ちゃん。マジでサイコパスモードのユナじゃん。

 っつーか、早く回復終われよ。どんだけ致命傷だったんだよ俺。



「ははは、はなれろー!」



 突如として放たれるかわいらしい声。と同時にマルレの足が俺の顔から離れていった。



 ドゴォ! と壁がえぐられる音。間一髪でマルレはその攻撃を躱した。



「ユナ!」



「けけけ、ケイタさん! ぶぶ、無事ですか?」



 壁にめり込んだ拳を外すユナにコクコクと俺はうなずく。

 ……なんかユナさん瞳孔開いてません? ちょっとあっちのモード入っちゃってません?



「……だよ」



 え? ユナさん、すっげー声小さくないっすか? どーしちゃったの?





 と、俺の心の声を聴いたのか、一瞬こちらに目を向ける。

 その瞬間俺の背筋が凍った。

 

 その眼には今まで見た事もない狂気が入り混じっていた。



 ユナはマルレに向き直り、ダン! と足を踏み鳴らす。



「……どいつも……こいつも……どいつもこいつも……どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモ!!!!」



 やばいやばいやばい! 完全サイコパスモードだ!



「はぁあ? 何言ってるの君ぃ?」



 マルレは首をかしげる。しかし、その顔から笑みは全く消えない。

 つい、今しがた相棒をやっつけた相手を前にこの余裕。マジでコイツ何者だ?



「……どいつもこいつも……さわんじゃねぇよ! コイツは私のなんだよ!」



 えー!? ユナさん! 初めて噛まずに言えたセリフがまさかの公開告白ぅ!?



 っつーか、肩の傷ふさがってたわ。立とうっと。



「私が……こわすんだよ……こわすんだから……こわすんじゃねぇよ……こわすんだよぉ!!」



 ちょ、ちょっとユナさん? なんかすっげー聞きたくない言葉聞こえちゃってんですけど。

 え? なんかさっきから全く噛んでないんだけど、マジでどうしたの?



「イ・ミ・わ・か・ん・な・い♡」



 それでもマルレは余裕しゃくしゃくで笑ってる。なんだよこの狂気のぶつかり合い。

 エミルとアリアスはお決まりの我関せずモードだしよ! ほら、ケイタなんとかしなさいよじゃねーよ!



 と、俺が頭を抱える間にユナはマルレに飛び掛かった。



「だったら教えてあげるから。私がまずあんたをこわしてあげるからぁ!!」



 もー、どっちが悪もんかわかんねー! やっべーぞこれ!



 ユナは光球を素手で握り潰しながらとんでもないスピードでジグザグにマルレへと飛ぶ。

 しかし、マルレは杖の先をユナに向けて笑うだけだった。



「やばい! ユナ! ダメだ!」



 と、叫んだ瞬間に光の線が空間に走る。



 が……。



「……よけた? ――――まさか!」



 マルレは初めて表情を崩す。

 光の線が走った瞬間、ユナはすでにその直線状に居らず、目にも映らぬ速さでマルレの懐に立った。



「こわす、こわすこわすこわすこわすこわすこわすこわすこわす!!!」



「は、はやい!! こんなことって!!」



 連続で繰り出される拳をよけきれず、マルレはとうとうユナの正拳を被弾する。

 が、数発当たったところで光が一瞬目をくらますと、いつの間にかマルレはアルミラの側に降り立っていた。



「まさか、こんな素材があったなんてね……アルミラ。行きましょう早く報告したいことが増えたわ」



 マルレが言うと、アルミラは二カッと笑って跳び起きた。



「あの野郎! 死んだふりしてやがったのか!」



 俺の言葉にアルミラは肩をすくめる。あの攻撃を受けて、全然ダメージを受けてないってどんだけ肉体強化してんだよ。



 しかし、そんな二人をなおも追撃しようとするユナ。

 でもその攻撃はマルレによって阻まれた。



「今日はおーしまい♡ また今度ね♡」



 パチンと指を鳴らすと、部屋中の光球が一斉に光を強める。



「ユナ! 止まれ!」



 俺はオーラバリアの上からエスタードのオーラをかぶせる。

 エミル、アリアスはいいが、ユナは止まってくれないとそれが間に合わない。



「あはー! じゃあねーん!」



 アルミラが手を振ると、光球は一斉に爆発した――――――――。



 エスタードのオーラに包まれた俺たちは、その衝撃が収まると、全ての防御魔法を解く。

 当たり前だが、すでにもうあの二人の姿はここになく、部屋には何も残されていなかった。



「あの爆発で証拠も吹き飛ばしたか……くそったれ」



 あの爆発でもくずれないこの部屋は、もはや廃墟ではない。

 なんらかの魔法効果が施されている。



「マジで、何者だあいつら……」



 さっきまで二人が立っていた場所をにらむ。

 

 ……マジで何がどーなってやがる!!



 



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