上 下
74 / 89

74

しおりを挟む
「いたいた! あいつ等だ! よくもウチのボスを!」



 人相の悪い奴から、無駄にガタイの良い奴まで、悪役バラエティに富んだ集団がゾロゾロと中に入ってくる。いやいや、あの男やっぱりなんかそーいう系の奴だったのかよ! あんな汚ねー奴がボスってお前らどんな職業してんだよ!?



「よう。やってくれたなぁ……あぁ!!」



「うるさっ!!」



 出たよ。呟き加減に言ったと思ったら急に声張り上げる奴。思わず耳ふさいだけど、全然間に合わなかったし。



「しらなーい。勘違いじゃなーい?」



 いや、エミル! それは厳しいぞ! 余裕でパフェ食ってる場合かよ!

 ユナも! アリアスも! なんでそんな平然としてられるんだ!



 厄介事に巻き込まれてんだぞ俺ら!



「勘違いねぇ……なわけねぇだろうがぁあ!!」



 ドガーン! とテーブルが拳でたたき割られる。

 おかげでエミルとユナが食べていたパフェも、アリアスのコーヒーも床でぐちゃぐちゃになってしまった。

 3人の目つきが変わる。

 気づいたか。そう、これほどの力を出せるって事は十中八九「肉体強化魔法」を使っている。

 奴らか、協力者の中に魔導士がいるぞ! めんどくせー!



「パフェ食ってる途中でしょーがー!」



 って、エミルさん別の事で目つき変わってたー!



 っつーか、どっかで聞いたことあるようなセリフはやめて! 北の方の国のセリフを吐かれると心が懐かしさでいっぱいになっちゃうんだよ僕!



 とか、冗談言ってる場合じゃない! あー!



「死ねー!」



 なんという直接的な発言。そして右ストレートも同時に発動。

 ショートステッキを握りしめた手で放たれた渾身のソレは見事に男の顔面を捉え、そのまま壁に吹き飛ばした。

 え、エミルさん……肉体強化魔法最大にしてません?



「こいつらやりやがった! 全員でかかれ!」



 そばに居た男が言うと、いきなり後方からファイアボールが放たれる。まさか魔導士ここに居たのか!



「っつーか、店の中だぞ!」



 咄嗟にナレッジを取りだして、その火球をエスタードの漆黒オーラで包み込む。



「クレイ!」



「ハイでーッス!!」



 ポンっと飛び出たクレイにその漆黒のオーラを触らせ、異空間へと飛ばす。

 あっぶねー! あと少しタイミング遅かったら店内がメチャクチャになってたぞ!



「エミル! ユナ! アリアス! とにかく外に出るぞ!」



 このままここで戦う訳にいかない。店の従業員も客も巻き込めるわけがなかった。

 俺たちはすぐ横の窓から飛び出し、街道へと出る。しかし、



「追え! あっちに行ったぞ!」



 当たり前のように追手は諦めてくれない。

 だったらこっちにはクレイがいるんだよ!



「クレイ! エミル達をいったん避難させてくれ!」



「おまかせでーッス!」



 でス! でス! でーッス! とリズミカルに3人へとタッチし異空間へと逃がす。

 なんか3人とも何かを言っていたようだが(エミルはハッキリと「あいつ等殴らせろ!」と叫んでいた)、気にせずいったん退いてもらう。



「で、どーするでスか?」



 走りながら小首を傾げるクレイに俺は「こーすんだよ!」と叫ぶと、彼女の腰を抱えてエスタードのオーラを地面に噴射した。



「おー! 空飛んでるでーッス!」



「そーなんでーッス! ってまた口調が移っちまった……。こーすりゃ、奴らも追ってこれまい。わざわざ相手にする必要はねーからな」



 そのまま遠くに見えた時計台まで飛んで、その上に降り立った。

 クレイを下ろし、街を見下ろす。



「3人は重いから異空間に逃がしたんでスか?」



「んぐっ!」



 せっかく人がシリアスモードで戦況を確認していたのに、このクレイちゃんはどうしてこうも図星をついてくるのかな?



「……言うなよ」



「……言いまスん!」



「どっちだよ!」



 俺のツッコミにクレイはケラケラと笑う。こいつマジでいつも楽しそうだな。

 まぁいい。と俺はまた街の様子を伺う。

 俺が漆黒のオーラで飛んだのはすでに目撃されているだろうから、ここまで追って来るのは明白。

 しかし、割と距離を取ったので時間は稼げたであろう。



「さーて、どこで迎え撃ちますかねぇ」



 そうでス。相手にする必要はないが、この場合はちゃんと叩いておかないとキリがないので戦うしかないのでス!

 と言っても、ここいらじゃどこで戦っても市街戦になってしまう。

 ともすれば。



「どー考えても港で戦うっきゃねーよなぁ……」



 あまり気乗りはしないが、船から遠ざかった所で戦えば人は勿論、建物もそこまで傷つけずにすみそうだ。面倒事は増えそうだが……。



 奴らの本拠地に向かえば全員嬉々として迎え入れてくれるだろう。

 袋のネズミとも知らずに! とか思っちゃったりしてな。

 ふん。窮鼠猫を噛むという言葉を知らんのか君たちは。って、俺たちはネズミじゃなくて泣く子も黙る冒険者パーティーだぞ! 噛みつくだけじゃすまさねーからな!



「んじゃ! 敵の本拠地まるごと叩いちゃいますかね!」



「でーッス!」



 俺はクレイを抱えてまた空を飛んだ。

 きっと街の人たちはこの漆黒のオーラの筋が飛行機雲みたいに見えてるんだろうなぁ。





 この世界に飛行機ないけど!!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...