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「ここらで、いいか」
森の中心部。鬱蒼と生い茂る木々が俺たちを外界から包み隠してくれている。
しかし、念には念を入れたい。
「シルフィス。暗幕かけてくれるか?」
「お安い御用だよ」
シルフィスが手を振り上げると、頭上に薄靄が現れ、やがてドーム状に俺たちを囲った。
「これでOK。侵入者が来たらすぐにわかる」
「お見事。んじゃ、まぁ始めるか」
俺がナレッジを取り出すと、シルフィスは興味深げに見つめてきた。まぁ、こいつからしたら今から俺が見せるもの以上に気になるものかもしれないが、まぁきっとこれを見たらビックリするさ。
「ちょっと待っててくれ。精神統一が必要なんだ」
目をつむり、俺は自身の心の闇を探る。
誰しもが持っているこの深淵を俺は膨らませる作業に没頭した。
そして、ゆっくりと目を開けると俺はシルフィスに向かって手のひらを向ける。
「まぁこんなことしなくたって相手を思い浮かべるだけでどこでも出来るんだけどな。覚悟しとけよ。なんの能力も持たない人間がこれを放てたんだからな」
死ね。と心の中で強く思い、手を握る。
「!? これは!?」
すると、シルフィスの右手の指先が黒く腐り果てていった。
そのどす黒い腐食はしかし、アカーシャのものよりだいぶ小規模で、また進行も遅々として進まなかった。
「訂正。俺じゃこの程度が限界だ。悪意が足りねぇ。アカーシャの悪意はもっとすごかった。つまり術者が悪もんなら悪もんであるほど、術の威力は高まる」
そう。俺がシルフィスに放ったのはアナリティクスで解析した例の呪術だった。
「なるほど……指先だけでこの痛みか……これは、正に呪いだねぇ」
流石は宮廷魔導士団団長の男。そんじょそこらの痛みじゃ取り乱さないか。
まぁ、こんだけ待ってみても全然進行しないし、もういいだろ。
「じゃあ解呪するぞ。これにも精神統一が必要だからちょっと待っててくれ……」
またもや俺は自分の心の悪意を探す。
解呪には一度、使ってしまった闇では足りず、さらにその倍の悪意が必要なので俺はそれをかき集め膨らませるのに随分と時間がかかってしまった。
その間、およそ2時間!!
なんと、まぁずいぶんと心根の優しい俺なんでしょう!
全然悪意がないじゃない! 俺! 正義の味方はやっぱりちがうねぇ!
などと、言ってくれる人もおらず俺は集めた悪意が消えぬうちにさっさと解呪をほどこした。
「……すまん。ずいぶんと手間取っちまった」
俺がフーッと一息つくと、シルフィスは元通りになった手を眺めながらグーパーした。
「元通りに戻るんだねぇ」
「あぁ。しかし、失った命までは戻らねぇ」
「まぁ、そうだろうねぇ」
それで? とシルフィスは俺に向く。
「本題はここからなんだろう?」
ご名答。流石は団長さん。
そう。俺が伝えたかったのは呪術のヤバさだけじゃない。
ここからさらに俺は事の経緯を説明していった。
黒幕はハッキリしていないが、アカーシャに接触を図ったのはザイバラの者。
つまり敵国になりえる存在からの使者だ。
なぜ、アカーシャなんかにこんな知恵を与えたのか。
奴の記憶では都合のいいことを言っていたが、おそらく虚偽にちがいない。
故に今、考えられるのはザイバラからこの国の貴族たち、または国民全員に呪術が広がる可能性がある事。
そして、それらに対抗できる術を持つ者は、どこかにいる祈祷師か俺以外にいない事。
つまり宮廷魔導士団でも対処できない事だ。
「……これの意味する事がわかるか?」
俺の問いにシルフィスが「ふむ」と頷いた。
「この国が潰される可能性がすぐそこまで来ている、かな」
その答えに「そういうこと」と俺は腕を組む。
「なので、俺はお前だけに対処法を伝授しようと思う。いいか、今から伝える魔法はかなり危険な代物だ。だから、絶対に誰にも伝えるな。そして、ここぞって時に使え。正直、お前にだって教えたくねーんだが、誰にも教えないわけにもいかねーしな」
はぁ、とため息をつく。
ほんと。マジでもったいねーよ。でもなー、これであの国が終わるなんてのも嫌だしなぁ。
ギルドや他の冒険者連中も荒くれだが、良い奴らばっかだし。
あんだけ生活しちゃ情も移っちまうよ。ったく。
「おぉ。それは光栄だねぇ。僕は君のお眼鏡にかなったのかい?」
「まぁ、そーいうこった。宮廷魔導士団のトップであるお前なら真っ先に情報が来るはずだからな。呪術には対処スピードが物を言う。もし、アカーシャ以上の悪人が呪術に手を出した時はきっとあの村以上の死者が出るだろうから」
「ふむ。なんだか、君を宮廷魔導士団にスカウトしたくなってきたよ」
「はっ! まっぴらごめんだね!」
俺は「べ」と舌を出す。そんでナレッジのページをめくった。
さて、今から伝授してやろうと思った矢先にシルフィスから待ったが入る。
「僕だけじゃなく、せめてルカやアローナ、クロウにも伝えてはダメかい?」
まぁ、そう考えるのは妥当だろうな。
しかし、俺は首をふった。
「ダメだ。信用してないわけじゃねーが、まだ気がかりがある」
そう。アカーシャの記憶が消されていた部分。あれが、ずっと気がかりだ。
そして、腐っても貴族。しかも敵対しかけている国の貴族に謁見する事が果たして可能なのだろうか?
憶測にすぎないが、やはり懸念はある。慎重にいきたい。
もし、これでシルフィスが裏切者だったらそれこそ壊滅的だが、それならそれでいい。
これは、予防線でもあり、また罠でもあるんだからな。
もしこれで魔法が出まわったら犯人はシルフィスしかいない。
単純なマーキングだが、効果はわかりやすいからな。
「んじゃ、始めるぞ」
俺はシルフィスの胸に手を当てる。
なんだか、これだけ見てると愛し合ってるみたいだが、目をそらしていよう。
こうして、俺はシルフィスに呪術に対抗する魔法を伝えていった。
アカーシャにこの魔法を使ったのは全部こうする為だったのだよ!
と、心の中で叫びながら。
森の中心部。鬱蒼と生い茂る木々が俺たちを外界から包み隠してくれている。
しかし、念には念を入れたい。
「シルフィス。暗幕かけてくれるか?」
「お安い御用だよ」
シルフィスが手を振り上げると、頭上に薄靄が現れ、やがてドーム状に俺たちを囲った。
「これでOK。侵入者が来たらすぐにわかる」
「お見事。んじゃ、まぁ始めるか」
俺がナレッジを取り出すと、シルフィスは興味深げに見つめてきた。まぁ、こいつからしたら今から俺が見せるもの以上に気になるものかもしれないが、まぁきっとこれを見たらビックリするさ。
「ちょっと待っててくれ。精神統一が必要なんだ」
目をつむり、俺は自身の心の闇を探る。
誰しもが持っているこの深淵を俺は膨らませる作業に没頭した。
そして、ゆっくりと目を開けると俺はシルフィスに向かって手のひらを向ける。
「まぁこんなことしなくたって相手を思い浮かべるだけでどこでも出来るんだけどな。覚悟しとけよ。なんの能力も持たない人間がこれを放てたんだからな」
死ね。と心の中で強く思い、手を握る。
「!? これは!?」
すると、シルフィスの右手の指先が黒く腐り果てていった。
そのどす黒い腐食はしかし、アカーシャのものよりだいぶ小規模で、また進行も遅々として進まなかった。
「訂正。俺じゃこの程度が限界だ。悪意が足りねぇ。アカーシャの悪意はもっとすごかった。つまり術者が悪もんなら悪もんであるほど、術の威力は高まる」
そう。俺がシルフィスに放ったのはアナリティクスで解析した例の呪術だった。
「なるほど……指先だけでこの痛みか……これは、正に呪いだねぇ」
流石は宮廷魔導士団団長の男。そんじょそこらの痛みじゃ取り乱さないか。
まぁ、こんだけ待ってみても全然進行しないし、もういいだろ。
「じゃあ解呪するぞ。これにも精神統一が必要だからちょっと待っててくれ……」
またもや俺は自分の心の悪意を探す。
解呪には一度、使ってしまった闇では足りず、さらにその倍の悪意が必要なので俺はそれをかき集め膨らませるのに随分と時間がかかってしまった。
その間、およそ2時間!!
なんと、まぁずいぶんと心根の優しい俺なんでしょう!
全然悪意がないじゃない! 俺! 正義の味方はやっぱりちがうねぇ!
などと、言ってくれる人もおらず俺は集めた悪意が消えぬうちにさっさと解呪をほどこした。
「……すまん。ずいぶんと手間取っちまった」
俺がフーッと一息つくと、シルフィスは元通りになった手を眺めながらグーパーした。
「元通りに戻るんだねぇ」
「あぁ。しかし、失った命までは戻らねぇ」
「まぁ、そうだろうねぇ」
それで? とシルフィスは俺に向く。
「本題はここからなんだろう?」
ご名答。流石は団長さん。
そう。俺が伝えたかったのは呪術のヤバさだけじゃない。
ここからさらに俺は事の経緯を説明していった。
黒幕はハッキリしていないが、アカーシャに接触を図ったのはザイバラの者。
つまり敵国になりえる存在からの使者だ。
なぜ、アカーシャなんかにこんな知恵を与えたのか。
奴の記憶では都合のいいことを言っていたが、おそらく虚偽にちがいない。
故に今、考えられるのはザイバラからこの国の貴族たち、または国民全員に呪術が広がる可能性がある事。
そして、それらに対抗できる術を持つ者は、どこかにいる祈祷師か俺以外にいない事。
つまり宮廷魔導士団でも対処できない事だ。
「……これの意味する事がわかるか?」
俺の問いにシルフィスが「ふむ」と頷いた。
「この国が潰される可能性がすぐそこまで来ている、かな」
その答えに「そういうこと」と俺は腕を組む。
「なので、俺はお前だけに対処法を伝授しようと思う。いいか、今から伝える魔法はかなり危険な代物だ。だから、絶対に誰にも伝えるな。そして、ここぞって時に使え。正直、お前にだって教えたくねーんだが、誰にも教えないわけにもいかねーしな」
はぁ、とため息をつく。
ほんと。マジでもったいねーよ。でもなー、これであの国が終わるなんてのも嫌だしなぁ。
ギルドや他の冒険者連中も荒くれだが、良い奴らばっかだし。
あんだけ生活しちゃ情も移っちまうよ。ったく。
「おぉ。それは光栄だねぇ。僕は君のお眼鏡にかなったのかい?」
「まぁ、そーいうこった。宮廷魔導士団のトップであるお前なら真っ先に情報が来るはずだからな。呪術には対処スピードが物を言う。もし、アカーシャ以上の悪人が呪術に手を出した時はきっとあの村以上の死者が出るだろうから」
「ふむ。なんだか、君を宮廷魔導士団にスカウトしたくなってきたよ」
「はっ! まっぴらごめんだね!」
俺は「べ」と舌を出す。そんでナレッジのページをめくった。
さて、今から伝授してやろうと思った矢先にシルフィスから待ったが入る。
「僕だけじゃなく、せめてルカやアローナ、クロウにも伝えてはダメかい?」
まぁ、そう考えるのは妥当だろうな。
しかし、俺は首をふった。
「ダメだ。信用してないわけじゃねーが、まだ気がかりがある」
そう。アカーシャの記憶が消されていた部分。あれが、ずっと気がかりだ。
そして、腐っても貴族。しかも敵対しかけている国の貴族に謁見する事が果たして可能なのだろうか?
憶測にすぎないが、やはり懸念はある。慎重にいきたい。
もし、これでシルフィスが裏切者だったらそれこそ壊滅的だが、それならそれでいい。
これは、予防線でもあり、また罠でもあるんだからな。
もしこれで魔法が出まわったら犯人はシルフィスしかいない。
単純なマーキングだが、効果はわかりやすいからな。
「んじゃ、始めるぞ」
俺はシルフィスの胸に手を当てる。
なんだか、これだけ見てると愛し合ってるみたいだが、目をそらしていよう。
こうして、俺はシルフィスに呪術に対抗する魔法を伝えていった。
アカーシャにこの魔法を使ったのは全部こうする為だったのだよ!
と、心の中で叫びながら。
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