上 下
55 / 89

55

しおりを挟む
 最高の夜を終えた俺たちは、そのまま最高の朝食を終え(朝日とコーヒーのマッチング最高)再び馬車での移動を始めた。



「いやー、このまま行けば夜には向こうに着いちゃうんだろ?」



 大きく空へ伸びをしても、あの青には届きやしない。それでも、どこまでも遠くまで行ける気がしてしまうこの解放感。エミルさん、オープンカー最高っす。アリアスさん、これ選んでくれてあざっス!!



「夜には着けるわね。まぁ遅くだから何が出来るわけでもないけれど」



 エミルに渡された干し肉を華麗に齧りながらアリアスは答える。隣のロリっ子とは大違いの咀嚼だこと。エミルちゃんはもう少しおしとやかに齧りなさい。それじゃただの肉食獣ですよ。



「ふーん。じゃーさ、今日はどっかでキャンプして明日の朝到着にしないか?」



「何を言ってるのよ。馬車のチャーター時間も決まってるのよ? いきなりそんな変更……」



「できないと思うだろ?」



 アリアスにニヤリと笑った俺はそのまま御者に向く。

 彼もまた、振り返り俺と同じしたり顔で親指を立てた。



「出来ちゃうんだなー、これが!!」



 ガハハと笑う俺と御者。他に誰も居ないのだから、とかく大きな声で笑ってやった。

 天高く響く下品な声は気持ちがいいぜ。



 と、まぁ説明するとだ。



 昨日の夜の段階で俺はこの最高の夜をもう一日くらい味わいたいと感じていた。

 それは、御者も同じだったらしく(どうやらこんな風に客と一緒に過ごすのは稀らしい)、俺たちは瞬く間に意気投合。そして、その場でこの日程延長計画を企てたのだ。

 延長手続きはその場で済ませてあるので、気兼ねなく今日もキャンプを楽しめます!



「という訳だよ諸君」



 俺が説明を終えると、3人は呆れ顔ながら微笑んだ。



「まぁ、これも旅らしいのかしら?」



「そーだねー。ま、昨日も結構楽しかったしいーんじゃない?」



「わわわ、私も……いいい、良いと……おも思います……」



 うん。これで決定。キャンプアゲイン。最高の夜アゲイン!!



「よし! じゃー、後は今晩の宿のキャンセルだな!」



 俺が言うと、アリアスが「うーん」とうなる。そして御者に向いた。



「すみません。どこか近くに町はありますか? 小さい所で良いので」



「あぁ、ありますよ。小さな村ですけど、この先の少し外れに」



「では、一度そこへ向かっていただけますか?」



 アリアスが頭を下げると、御者は笑顔で「もちろんです!」と答えた。

 手綱を引き、馬が高い声で鳴いた。





 ――――――――。



 俺たちが到着したのはマジで本当に小さな村だった。



「うおー、初めて来たこんなザ・村って感じのとこ」



 木製の柵は膝丈くらいしかなく、獣除けというよりかは敷地を示している役割にしか見えない。

 点在する家屋は古びていて、人通りはほとんどない。



「さ、行きましょう」



 その入り口で馬車を降り、俺たちは御者を残して村へと足を踏み入れた。

 すると、アリアスとユナが胸元からそれぞれ金と銀のチャームがついたネックレスを表に出す。



「なにそれ?」



 アリアスの胸元を指さすと、彼女の胸がこちらへ向いた。いや、彼女がこちらへ向いた。



「こういう知らない土地に足を踏み入れる時は簡単でも身分を証明するのが基本でしょ? そうすれば村の人たちも警戒心を持たなくて済むし、私たちも変なトラブルに巻き込まれる心配もない。マナーじゃない」



 当たり前だろ、このバカ。とでも言いたげな目線はともかく、なるほど。

 俺も同じく胸元から銅のチャームを表に出し、エミルも二人に比べてさみしい胸元から銅のチャームを取りだした。

 エミルに至っては単純に銅の冒険者である事を知らせたくなかっただけみたいだ。

 まぁ、パーティー内格差は仕方ないよね……。



 ともあれ、俺たちは郵便屋を見つけて中へ入る。



 そうなのだ。



 宿のキャンセルはここで手紙を出さなくてはならないのだ。

 電話もなく、テレビもないこの世界では通信手段として手紙が主流だった。

 ただし、魔法があるのでその速度は一級品だ。



「これ、お願いします」



「はい。承りました」



 アリアスがさっとキャンセルの書面を書いて渡すと郵便屋さんは窓を開けて「ピーッ!」と口笛を吹いた。

 すると、一羽の白い鳥が窓のふちにやってくる。

 郵便屋さんはその胸元についている薄っぺらいバッグにアリアスの書面を折りたたんで入れると、鳥は羽ばたいてこちらに降り立つ。

 テーブルの上に立った鳥のバッグにアリアスがペンで宛先を書き入れると、文字と鳥の目が光る。

 そして、そのまま鳥は窓から外へと飛んでいてしまった。



「では、料金こちらになります」



「あ、はい」



 窓の外、遠くを見やっていた俺を郵便屋さんが現実に連れ戻してくれる。

 手紙一回分の料金を支払い、これでキャンセル手続きは完了。



 どう? この流れ。初めて見たときはすっげー驚いたぞ俺。

 あの鳥は魔法鳥と言って、特殊な魔法を施された郵便専用の鳥だ。

 物の大きさで、鳥の大きさも変わるので、大きな荷物をお願いする時はとんでもなく大きな鳥がやってくるらしい。いつか、見てみたいものだ。

 まぁ、そんなことなので手紙を届けるのは鳥。

 魔法で速度強化もされているのでマッハで届くみたいだ。

 ちなみに宛名はそのまま鳥の脳へと信号で送られる仕組み。

 中身を取りだしたら宛名は自動で消え、鳥はホームに戻ってくる。



「んじゃ、用も済んだし行きますか」



 金を払い終え、踵を返す。

 今日の夕食は何にしようかと4人でやんややんやと話しながら歩いていた時である。



「あの! 冒険者の方ですよね!?」



 後ろからかけられた声にふり返ると、これまたやんちゃそうな少年が立っていた。



「冒険者の方ですよね!」



 いや、だからそんな秒で同じこと聞くなよ。今、答えるっつーの。



「ちがいます」



 言いながら俺は胸元にチャームを隠す。エミルも無言でチャームを仕舞う。



「いや、もうバレてるから!」



 たまらず少年がツッコんで来たが、ユナとアリアスは仕舞う素振りも見せなかったので俺とエミルの行為は無駄に終わった。

 うーん、こういうところに差が出るよね。銅と銀、金の。



 いやいや、二人とも。これ、まともに対応しちゃダメなやつじゃーん。

 わかるじゃーん。絶対厄介なこと頼んでくるってコイツ。

 そーいう顔してんもん。わかるもん俺。

 

 だから、エミルも無視しようとしてたじゃーん。

 ほんっと、こういうところは気が合うよね俺たち。

 めんどくさいことはお断り。



 なのに、アリアスとユナは真面目だから……。



「確かに私たちは冒険者パーティーだけど。どうしたのかしら?」



「あ、あの! お願いがあるんです!」



「おおお、お願い……でで、ですか……?」



「はい! どうか! どうか姉ちゃんを助けてください!」



 助けてくれ。というワードにアリアスとユナの目つきが変わった。

 二人互いにうなずき合うと、少年に歩み寄る。



 だー! もう! これだから嫌なんだよガキは!



 こっちの事なんてお構いなしに自分中心に物事考えやがるからよ!

 こっちは楽しいキャンプが待ってんだよ! 行かせろよ! っつーかオメーが自分で助けろ!



「助けられるかはわからないけど、事情を聞かせてもらえるかしら?」



 アリアスは丁寧に言いながら少年の頭を撫でた。すると、彼の顔がパッとはじけるように笑う。



「はい! ありがとうございます!」



 あー、今日も楽しくキャンプするはずだったのにー。



 ……だったのにぃ!!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...