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「ではではぁ~よーい……始めーッス!!」



 クレイの開始宣言と同時に飛び出したのはアリアスだった。流石の彼女です。料理の腕は一級品、胸の感触もスタイルも一級品の彼女はとってもプライドが高いので今回の戦いも負けられないのでしょう!

 もしかしたら未来の旦那さんの為に張り切っている可能性もありますねぇ~!



「負けないッスよ~!!」



 おーっと! ここでやはりクレイも飛び出したー! この戦いの言い出しっぺである以上、恐らく彼女もまた料理の腕には覚えがあると見受けられます!



 あ、ご挨拶遅れました。わたくし今回の試合の実況及び解説をやらせて頂きます。ケイタと申します!



 って……。



「てめーらはもうちっとやる気だせやぁ!!」



 俺の怒号が飛んだ先はもちろん奴らである。



「はー?」



「ごごご、ごめんな、さいいい……」



 エミル&ユナ! 漫才コンビにもなり得そうにないゴロの悪さだが、二人の動かざること山の如し感は揃いも揃って一級品である。



「エミル! ユナ! お前らはこれが戦いだって分かってねーのか? いいか? 勝負なんだ! 戦え! 勝負ってのはなぁ、戦わなきゃ負けるんだよ!」



 だから愛情込めて未来の旦那さんのケイタさんに手料理をつくりたもれ!



 と、調子に乗った部分は心の中で叫んでおく。



「誰が旦那よ。ったく」



 ひぃい! やっぱり心読まれてます? 読まれてらっしゃいますか?



「たたた、戦うって言いましても……料理は……」



 ユナは包丁を両手で持って何故か微動だにしない。なんだろう。なんか、アイツの持ち方って彼氏の浮気に気づいたヤンデレにしか見えない。



「けけけ……ケイタさん……わわわ、わたしのりょりょりょ料理……たたた、食べたいでででですかぁ?」



 こえーよ。率直に怖ぇ。なんだよその聞き方。なに包丁両手で握りしめて切っ先をこっちに向けてんだよ。そんなん向けられて「食いたくない」とか言えるかよ。



「食べたいよ。俺はお前の料理が食べたい」



 そりゃそう言うしかねーよな。



「……は、はいぃ」



 しかし、それを聞いたユナは少しだけ微笑んで頷くと、ようやく食材を取りに歩きだしたのである。しかしながら包丁は手放さないんだなお前。



「はー、だりー。何作れっつーのよ」



 頭の後ろで手を組んでいつもの足を放り投げスタイルで歩くエミル。今日のパンツは何故かピンクだった。いやいや、お前。ユナが動いたから仕方なく自分も動いた感満載じゃねーか。なんだそれ? 仲間が居れば怖くないが、一人になるとちょっと恐くなるタイプか? ダセーな! ほんっとダセーよ!



 まるで俺みたいじゃねーか!!



 と、自虐はここまでにして、ようやく4人とも調理に入った様子を見てホッと一安心。

 まぁ、食えないようなもんさえ作らなければいいのだ。

 ユナもあー見えて、一般常識くらいは備わっている。ただ、ちょっと心の底から溢れる狂気を時々抑えきれなくなるだけなのだ。

 だから、見てみろ。ほら、ユナは不器用ながらも「えい! えい!」と芋を一生懸命に切ってるじゃないか。乱切りっつーのか? あれは。すごく形も大きさもイビツだけど、乱切りっつーんだよな? あれ。



「えーと……えーと」



 手際よくマルチタスクに調理を進めるアリアスの横だからか、ユナの手際の悪さはより一層増して見えてしまう。

 あたふた、あたふたと、いちいち迷いながら動くため、戦闘の時のアイツと比べてひどく無駄が多かった。が、なんだろうこの気持ち。この気持ちはなんだろう。



 と、春に歌いたくなるような歌詞さながらの気持ちが湧いてくる。



 新婚の旦那の為に一生懸命料理を作る新妻。

 旦那さんに美味しいって言ってもらいたくて不慣れな料理に挑戦する新妻。



 そう。今のユナはなんか俺の理想とする新妻像そのものだったのだ。



 そんで、夜はめちゃくちゃに抱きたい。そんな気分になってくる。夜も頑張ってくれそうな気がする。



 が、一方。



「めんどくせぇー。何でもいいよねー?」



 まだ食材をダラダラと眺めているエミルは既に倦怠期すらも超えた熟練夫婦のソレである。

 慣れに慣れてマンネリと化したルーティーンでしかない晩飯の支度に最早、何の希望もなくただ腹を満たせてやりゃ黙んべ。といった具合のふてぶてしさが迸っていた。



 どーせ、何食っても同じなんでしょ? という飽きが彼女の行動を気だるげにするのだ。



 そう。こうならないためにもリアクションは常に磨いておきたいものである。



 こうなってしまったら関係を取り戻すには夜しかない。夜を頑張るのである。



 なので、エミルもめちゃめちゃに抱く。それが良い。



「ケイタ。けっこうお腹空いてるの?」



「え?」



 夜の妄想がユナとエミルと俺の乱痴気に変わっていった所でアリアスの声にかき消される。



「あー、まぁ減ってるよけっこう」



「そう。ならちょっとおかず増やそうかしら」



 アリアスはホント平常心でこういう事を聞いてくる。出来た女である。

 おかずを増やすなんてワード、こういったテンションで言われるとマジでグッと来るのな。

 興味無さそうに見えて実はメチャメチャ俺の事に興味ある的な?

 気にしていないフリして実は食べた感想楽しみにまってる的な?



 うん。アリアスもめちゃめちゃに抱こう。嬉しそうに抱かれる彼女が目に浮かぶ。



 よーっし! ケイタ! 夜の妄想モード張り切っていっきまーッス!!



 って、なんかクレイの口ぐせ移ってるな俺。マジかんべんス。



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