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アローナからの手紙を見てから、三日後。
正式に宮廷魔導士団からの依頼を受けて、俺たちは最近発見されたダンジョンの地図を片手に街を出発した。
「いやー、お上の依頼となると移動手段も用意してくれるとはなー!」
「わわわ、わたし! 馬車ははは初めて乗りました!」
馬車についてる小さな窓からユナは外を眺めていた。このはしゃぎっぷりは稀に見るな。常にこういうもんで感動する子になってくれたら良いのに。
でも、ダンジョン着いたら魔物ぶっ殺して笑うんだろうなぁ。
「ユナー。馬車ごときではしゃいじゃってんのー? こんなの当たり前だから! 宮廷魔導士団だったらもっと護衛とかいーっぱいついて来るんだから!」
エミルは豪語するが、それってもしかして馬車一つしか用意されてない俺らが冷遇されてるって言ってるようなもんなんじゃ……?
「まぁ、良いじゃない。座ってるだけで距離を稼げるんだから。乗り心地も悪くないし」
アリアスは御者の背中に振り返る。
俺たちの乗る馬車の御者は初老の男性だった。礼節をわきまえ、いかにもな執事風の男だったが、やはりこういうタイプの人間が信用出来る。
馬の扱いは一級品で、路面もしっかりと見えているのだろう。揺れが全然ひどくない。
舗装されていない道路だとは思えないほどの快適さだった。
「けけけ、ケイタさん! ほら! ややや、山です!! やや、山!」
ユナが手招くので、俺も窓から外を覗く。って顔近っ!!
窓が小さいから、ほっぺたがくっつきそうなほど接近してしまっている俺たち。
っつーか、ユナ。良い匂いすんな。なんだこれ。すっげー良い匂い。
「ユナって何か香水つけてる?」
俺が言うと、ユナがバッと振り向く。あぶねっ! キスするとこだった!
「ななな、なんで、しししし知っててててて!!」
「おーちつけ! なんか良い匂いするからそーなのかなって思っただけだ」
「はははははい! あああ、あの……ああ、ありがと……ござます」
ユナは最終的にカタコトになりながら耳まで真っ赤にした。
え? なにこの反応。抱きしめたいんだけど。
「っつーかさー。私もアリアスも香水ぐらいつけてんだけどー?」
「へ?」
俺がふり返ると、エミルがふくれっ面でこちらを睨んでいた。
「良い匂いなら私からもしてるんですけどー?」
「そうか?」
「そーだよ!」
激高。即答で激高するエミル。ごめん、気づかなかったわ。
「いや、でもさ。お前らそんなに香り強くないのつけてんじゃねーか?」
「まー、そうね。マナー程度だからね」
エミルが顔を向けるとアリアスも髪を耳にかけながら頷いた。なにその所作。すっげーいい!
「だろ? 今までユナからも別にそれを感じなかったからさ。って事は今日は強めにしたのか?」
みんなの視線が一斉に向くとユナはあたふたしながら両手と首をブンブン振った。
「ちちち、ちがいます! ちがうんです! そそそそ、その……こないだ、この旅用に……買い物ででで出かけたじゃない……ですか?」
どうやらみんなで必要なアイテムやらなにやらを買い出しに行った時の事を言っているようだ。
「そそそ、その時に……、なんか……好きなかかか香りするの……見つけて……なんとなく……」
「買って、今日おろしたてという訳か」
コクンと頷く。ユナ、え? なにそれめっちゃ可愛いーじゃん!!
そういう女の子っぽいとこ伸ばしてこーよ! そーだよ! 魔物撲殺してる場合じゃない!
お前はこういうものに楽しみを覚えるべきなんだ!
「そーかそーか! 確かに良い匂いだよ! 良い買い物したなユナ! お前に合ってると思うぞ!」
「はははは、はいぃ……」
恥ずかしそうにうつむくユナに俺はうんうんと頷いて、窓の外を見やった。
遥か先まで続く草原の向こうに緑の稜線が見える。
この緑のグラデーションの上には晴天の青がこれまた視界の先まで広がっていた。
うーん、晴れやかだ。
こりゃ、良い旅になりそうだな。って……。
これ、フラグじゃないよな……?
正式に宮廷魔導士団からの依頼を受けて、俺たちは最近発見されたダンジョンの地図を片手に街を出発した。
「いやー、お上の依頼となると移動手段も用意してくれるとはなー!」
「わわわ、わたし! 馬車ははは初めて乗りました!」
馬車についてる小さな窓からユナは外を眺めていた。このはしゃぎっぷりは稀に見るな。常にこういうもんで感動する子になってくれたら良いのに。
でも、ダンジョン着いたら魔物ぶっ殺して笑うんだろうなぁ。
「ユナー。馬車ごときではしゃいじゃってんのー? こんなの当たり前だから! 宮廷魔導士団だったらもっと護衛とかいーっぱいついて来るんだから!」
エミルは豪語するが、それってもしかして馬車一つしか用意されてない俺らが冷遇されてるって言ってるようなもんなんじゃ……?
「まぁ、良いじゃない。座ってるだけで距離を稼げるんだから。乗り心地も悪くないし」
アリアスは御者の背中に振り返る。
俺たちの乗る馬車の御者は初老の男性だった。礼節をわきまえ、いかにもな執事風の男だったが、やはりこういうタイプの人間が信用出来る。
馬の扱いは一級品で、路面もしっかりと見えているのだろう。揺れが全然ひどくない。
舗装されていない道路だとは思えないほどの快適さだった。
「けけけ、ケイタさん! ほら! ややや、山です!! やや、山!」
ユナが手招くので、俺も窓から外を覗く。って顔近っ!!
窓が小さいから、ほっぺたがくっつきそうなほど接近してしまっている俺たち。
っつーか、ユナ。良い匂いすんな。なんだこれ。すっげー良い匂い。
「ユナって何か香水つけてる?」
俺が言うと、ユナがバッと振り向く。あぶねっ! キスするとこだった!
「ななな、なんで、しししし知っててててて!!」
「おーちつけ! なんか良い匂いするからそーなのかなって思っただけだ」
「はははははい! あああ、あの……ああ、ありがと……ござます」
ユナは最終的にカタコトになりながら耳まで真っ赤にした。
え? なにこの反応。抱きしめたいんだけど。
「っつーかさー。私もアリアスも香水ぐらいつけてんだけどー?」
「へ?」
俺がふり返ると、エミルがふくれっ面でこちらを睨んでいた。
「良い匂いなら私からもしてるんですけどー?」
「そうか?」
「そーだよ!」
激高。即答で激高するエミル。ごめん、気づかなかったわ。
「いや、でもさ。お前らそんなに香り強くないのつけてんじゃねーか?」
「まー、そうね。マナー程度だからね」
エミルが顔を向けるとアリアスも髪を耳にかけながら頷いた。なにその所作。すっげーいい!
「だろ? 今までユナからも別にそれを感じなかったからさ。って事は今日は強めにしたのか?」
みんなの視線が一斉に向くとユナはあたふたしながら両手と首をブンブン振った。
「ちちち、ちがいます! ちがうんです! そそそそ、その……こないだ、この旅用に……買い物ででで出かけたじゃない……ですか?」
どうやらみんなで必要なアイテムやらなにやらを買い出しに行った時の事を言っているようだ。
「そそそ、その時に……、なんか……好きなかかか香りするの……見つけて……なんとなく……」
「買って、今日おろしたてという訳か」
コクンと頷く。ユナ、え? なにそれめっちゃ可愛いーじゃん!!
そういう女の子っぽいとこ伸ばしてこーよ! そーだよ! 魔物撲殺してる場合じゃない!
お前はこういうものに楽しみを覚えるべきなんだ!
「そーかそーか! 確かに良い匂いだよ! 良い買い物したなユナ! お前に合ってると思うぞ!」
「はははは、はいぃ……」
恥ずかしそうにうつむくユナに俺はうんうんと頷いて、窓の外を見やった。
遥か先まで続く草原の向こうに緑の稜線が見える。
この緑のグラデーションの上には晴天の青がこれまた視界の先まで広がっていた。
うーん、晴れやかだ。
こりゃ、良い旅になりそうだな。って……。
これ、フラグじゃないよな……?
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