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 俺はエスタードを両手で握りしめ、営業野郎との間合いを詰めた。



 瞬息で斬りかかったつもりだったが、営業野郎はなんなく躱す。



「ま、それも予想通りだけどね!!」



 俺がエスタードを返し、横に薙ぐと営業野郎の表情が一瞬固まった。



「マジっすか!! めんどくさっ!!」



 言いながら営業野郎は俺の剣を片手で止める。



 そして、もう片方の手で上から放たれた漆黒のオーラの剣を止めていた。



「よー。両手ふさがっちまってんじゃんか」



 俺が余裕の笑みで言うと、営業野郎の額に青筋が浮かび上がる。そうそう、そういう顔が見たかったんだよ俺は。でも、まだまだこっからだぜ!



「――――――――!!」



 真横から突き刺すように放たれるオーラの打突を後方飛びで躱した営業野郎。



「こんなの反則っしょ! めんどくせーな!!」



 四方八方から飛んでくる漆黒のオーラの斬撃。いつしか、奴は躱すこともままならず、その全てを両手で払い落とす形になっていた。

 俺もその懐に飛び込んでエスタードを走らせる。剣は弾かれても尚、二撃、三撃と連続して営業野郎に襲い掛かった。



 営業野郎はもう魔方陣の仕掛けられた場所へはたどり着けないだろう。

 俺がその道を塞いでいる。

 そして、壁中から飛んでくるオーラの斬撃に加え、俺のエスタード、そしてエスタードから尚も放たれるオーラの斬撃が営業野郎からそんな余裕すらも奪っていた。



「ルカ! 今のうちに解除頼むぜ!」



 振り向かずに叫ぶと、後方から声は返ってこなかった。

 しかし、かすかに魔法を発動させた空気を感じる。ま、無限実行って事で許してやろう。

 一応、年上の俺だけど、そういう所には寛大だ。とりあえず今はあのとんでもない魔方陣の解除を優先しないと、後々困ったことになりかねないからな。



「しっかし、予想はしてたけどはえーな!」



 俺が斬撃を弾かれながら笑う。ほんと、もう笑っちゃうくらいはえーよ。

 笑う余裕があるくらいな!!



「防御に回れば、まぁこんくらいは出来ますよ! そっちこそ早く魔力か体力のスタミナ切れてくんないっすかね!?」



「まだまだ! なんたって最強ですから!!」



 言いながらエスタードを振り続ける。既に九割がた俺の勝利は確定しているが、まぁ大事をとってな。

 

 ――――魔方陣や起動スイッチが一つとは限らないからな!



「っていうか、おいルカ! まだかよ!」



「……? とっくに終わってるが」



「な、なにぃ!?」



 早く言えよ!! おい! お前はマジで報・連・相を怠るタイプの人間だな!

 そんなん意味ありますぅ? とか言ってなめ腐った態度を取る新人にありがちなタイプだなてめーは!

 これだから一人で何でもできる天才君はよ! さっきの反省はなんだったんだよ!



 と、心の中で膨大な文句をブツクサりながら、俺は仕上げに入る。



「わりぃけど、準備は整ったわ。いかせてもらうぜ!」



「そーっすか! いければいいっすけどね!」



 っは。余裕だな。まー、確かにこのままだと一生かかっても攻撃は当たらねーだろうが。

 攻撃に大事なのは速さと強さだけじゃねーんだよ。



 って、詐欺師のお前が一番分かってるだろうに。



「おらぁ!」



 俺は声を上げ、渾身の一撃を振り上げた。



 ここ一番のスピード。オーラの斬撃のせいで、両手はふさがっている。

 

 だとすれば、この剣を払い落とすのは不可能。



 と、なれば。



「ま、そうするよな」



 営業野郎は体さばきで剣を交わし――――――――、



「よう、詐欺師。これは予想しなかったのか?」



「――――え?」



 ――――――――!!!!



 強烈な打撃音が響く。



 それは、営業野郎にでも俺にでもなくエスタードから放たれた音だった。



「そんな! オーラで攻撃の方向を!?」



「せーかい! これで終わりだ!」



 真横から放たれた漆黒のオーラは、俺の持つエスタードに当たった。

 その勢いで、剣筋の方向が横に変わる。スピードは更に増した。



「攻撃に必要なのは、速さ、強さ、そんで意外性だ」



「ぐぎゃああああああ!!!!!」



 俺の振りきったエスタードが営業野郎の腹を横一文字に切り裂く。

 どうやらギリギリで真っ二つコースは免れたようだが、完全な致命傷だ。



 そして、俺の予想が正しければ……?



 ニイィと営業野郎が歪んだ笑みを浮かべる。





 ――――――――瞬間。



 営業野郎の身体から閃光が漏れ出した。



「やっぱりな! オーラバリア!」



 俺はナレッジを取り出して、自分とルカに結界魔法を施し防御を整え、



「収縮せよ!」



 同時に空間一杯に広げていた漆黒のオーラを一気に営業野郎の身体を包み込むように集めた。







 ――――――――――――!!!!!!





 あまりの衝撃音に耳が遠くなる。

 漆黒のオーラが破裂して放射された光の衝撃は、しかし俺たちのオーラバリアを壊すまでには至らなかった。



「あっぶねー。あの魔法陣でこの威力だったら、地面のやつだったらマジで俺も死んでたかもな」



 一層広がった洞窟内の空間で、俺はオーラバリアを解く。パラパラと瓦礫が落ちてくるが、エスタードのオーラがオートガードで払ってくれていた。



「……なんだ、その魔法は?」



 ルカが初めて見た俺のオーラバリアに驚いたようだ。まぁ、もうこの世界に存在する魔法なんだけどな。



 俺はナレッジを消して、ルカに振り返る。



「結界魔法。内側からも外側からも干渉を遮る防御、もしくは捕獲用の魔法だ。まぁ、これだけだったらきっとあの衝撃で破壊されてたけどな」



「だから……オーラを緩衝材にした」



「そういうこと。流石にあの量のオーラをあそこまで収縮すればあの爆発の威力も少しは落とせるだろうからな。二段階で防御してたってわけよ」



「お前は……」



「ケイタだ。いや、ケイタさん! な」



「ケイタは……」



 話聞いてました? 敬称略すんなって意味を強調したんですけど?



「ケイタは、全部読んでいたのか?」



 ルカが表情も変えずに聞いて来る。なんか、コイツ色々と誤解うけそうなタイプに見えるな。

 もう少し愛想を覚えれば、周りの態度も変わると思うが、そんなアドバイスも聞き入れはしないだろう。

 なんたって天才ですもんね!!



「うーん、まあ大体は予想だったけどな。アイツはそもそも生き永らえようとしていなかったし、それなら奴の命が魔法の起爆スイッチになっていてもおかしくねーんじゃねーかなってさ。それに、アイツは防御も攻撃も手でしかやらなかっただろ?」



 俺の言葉にルカはうなずく。



「だから手以外の部分の防御力はそれほどでもねーんじゃねーかなってさ。アイツずっと攻撃を躱すか手で防ぐかしかしてなかったし」



「お前はいったい……どれだけの修羅場をくぐってきたんだ?」



 修羅場? んー、トラブルだったらいっぱい巻き込まれてきたけどな。

 子どもとか、あと子どもとかな!



「まぁそんなん気にすんな。これが最強の俺のやり方ってだけだよ。ルカ、お前も次はあんなヘマすんなよ? あと自信過剰はマジで嫌われるから治せ」



 わかったな。と念を押すが、ルカは首を縦に振らずうつむき加減になるだけだった。



「ま、でも中ボスであのレベルだからな。他も心配ないと思うが、一応急ごう。社長ってのがとんでもねーレベルだったら被害が出ていてもおかしくない」



 あのクロウとかいう雑魚っぽい奴とか!! やられてそー!!

 ま、サイコパスにやられてなきゃいいや。それ以外は俺、関係ないんで。





「よし! 行くぞ!」



 言下に走ると、後ろから素直に着いて来る足音。



 うーん、ただでさえ手間かかるからこういうのだけでちょっと可愛く見えるからイケメンは反則だな。



 でも、俺はだまされないからな!!

 

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