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 俺はエスタードを高々と掲げて、漆黒のオーラを最大限まで放出する。



「見てろよルカ。俺がこれの使い方を教えてやるから……って、おい!」



 俺が言い切る前にルカはさらにスピードを上げて営業野郎に切りかかる。



「おーっと! そーはいきませんよっと!」



 しかし、奴はそれをしっかりと読んでいて、軽々と体さばきで躱した。

 しっかし、レベルたけーな。あいつら。

 ルカの速さも、そしてそれすらも越えていく営業野郎も大したもんだ。



 ま、俺はそれよりも早いサイコパスを知ってるけどね!



 エスタードから放出されるオーラはどんどん空間に広がっていく。

 それでもまだ足りない。この広い空間を覆いつくさなければ意味がない。



「うーん。そしたらルカにはもうちょい頑張っててもらおうかなぁ」



 性格に似合わず、素直に斬りかかっているルカと営業野郎を眺めながら、独りごちる。



 オーラはあと少しで空間一杯を塗りつぶすくらいまで広げられる。

 もともとここの光源は俺の光魔法だけだったから、壁いっぱいの黒は薄暗さに紛れていた。



 そして俺はそれを進めながら観察を続けた。



 ルカはとうとうエスタードだけでは無理と判断したのか、片手でファイアボールを放つ。

 やはり魔法の素質がずば抜けているんだろう。その火球は今まで見たどれよりも速く威力も大きく見えた。が、しかし。



「うおーっと! あっぶねー!」



 その火球も営業野郎は素手で握り潰す。



「セーフ! 今のは危なかったっすよー!」



 笑いながら斬撃を交わす営業野郎。



 ……これは、まずいな。



「あのバカ……状況把握は全然じゃねーか」



 ルカは俺の見たところ、まだまだ本気を出していない。

 恐らく、エスタードの可能性を広げるのにいい相手だとでも思っているのだろう。

 この戦いで剣と魔法を混ぜ合わせた戦法をなんとなくでも作ってしまおうとしているのかもしれない。



 しかし、それではダメだ。



「ほい、来た。さってと……」



 俺はエスタードを振り下ろし、グッと腰を下げる。

 ジリと地面を踏んで、――――――――蹴り上げた!





「うわわ! あっぶねー!」



 ルカの斬撃の隙間を縫うように俺は剣を逆袈裟に走らせる。

 しかし、それも営業野郎に皮一枚で交わされてしまった。

 

 ルカが俺を横目に見る。 



「じゃまするな」



「バーカ。助けてやったんだよ」



 ほらな。と営業野郎の右腕を指す。



「……それくらいは知っていた。むしろ誘っていたんだが」



 ルカはつまらなそうにつぶやいた。



 俺たちの視線の先、営業野郎の手はいつのまにか人間のそれではなく、禍々しい魔物の手になっていた。

 

「攻撃を誘ってカウンター。なるほどね。しかし、奴はそれすらも誘っているとしたら?」



「――――!?」



 俺の言葉にルカは察しがついたようだ。流石天才、話が早い。



「お前は強すぎるのが問題だな。たとえ想定外の事が起こっても相手を倒せるとでも思ってんだろ?」



「……」



 ルカは一言も発さず、頷きもしない。しかし、俺は続けた。



「相手を倒しても自分が死んだら意味ねーんだよ。ったくよー、俺が割って入んなきゃお前は確実に死んでたぞ。あいつもろともな!」



 俺がエスタードで指すと営業野郎は額に手を当てて高笑いした。



「かーっはっはっは!! いやー、すっげぇわ! まさかバレてたとはねぇ!」



「観察してりゃ嫌でも分かるさ。お前が『自爆』を画策してたことぐらい」



 俺が言うと、営業野郎の切れたスーツの下半分がベロンと垂れ下がる。



「……くそ」



 ルカは初めて悔しそうな顔を見せた。

 営業野郎の身体に書かれた魔方陣を見て、その威力を悟ったのだろう。



「お前はまんまと誘われてたんだよ。その自信も実力も全部ひっくるめて利用されていたんだ。つまり、こと人心掌握においては全ての面でお前よりあいつが一枚上手だったってわけだ」



 俺はそのまま説明を続ける。



 ――――奴の狙いは「自爆」だ。



 そう、そもそもアイツはここで死ぬつもりだったんだ。俺たちを道連れにして。

 ルカはエスタードを試していた。営業野郎の実力は最初の一撃で測れていたのだろう。それは俺も同じだった。強くはあったが、まったくもって倒せないレベルではない。



 しかし、それすらも奴の術中。



 奴は全てのバランスを整えて、ルカは知らず知らずのうちにその沼にはまっていた。



 そして、――――まんまと「自分以外の魔法」を発動しようとしたんだ。



「スイッチはここなんだろ?」



 俺が自分の足元をエスタードの切っ先で叩くと、ぼんやりと魔方陣が浮かび上がる。



「巧妙に隠していやがったが、こんなにデケーもんを用意してたとはな。お前の社長ってのは相当な魔法の使い手だな」



 そう。こいつがあらかじめ仕組んでいた、いや、社長によって仕込まれていたのは営業野郎からは想像もつかないような威力の魔法が眠っていた。



 俺が割って入らなければ、ルカと営業野郎が立っていたであろう場所。

 恐らく起動スイッチは営業野郎の魔方陣とこの地面の魔方陣が重なる事。

 流石のルカもこんな爆発魔法を真下から食らえば粉々になっていたに違いない。



「攻撃しなかったのもルカの判断を上手く操るための判断だ。ルカの何でも対処できるって自信も利用してたんだろう? 語るに落ちていたのも、もしかしたら罠だったのかもしれねー。俺たちの気持ちにどんな作用をもたらしたのかはわからねーが、一つ言えるのは」



 俺はルカに向く。



「詐欺師を甘くみんじゃねーってこった」



 そう。分かっていても騙されてしまう。俺なら大丈夫と思っている奴ほど騙されてしまう。

 それが、詐欺だ。

 

 ルカは目を閉じて唇を強く結ぶ。

 いくら天才といえど、まだ若い。もしかしたらこいつはエスタードを手に入れて浮かれていたのかもしれない。そして、その扱い方を間近で見られて楽しかったのかもしれない。

 でも、それは誰にだってある気持ちだ。恥ずべき事じゃない。



 だからそんな悔しそうな顔をするな。自分に悲観するな。



 いいんだよ、天才くん。なんたって、俺がいるんだからな。



 俺は、そんな心の声を乗せてルカの肩を優しく叩いた。



 ルカが顔を上げる。俺は視線を交わし頷くと、一歩前に出た。



「ではでは最強の戦い方ってのを教えてやろーじゃないか、天才君!!」



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