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「えー! 家でこんな豪華な食事が出来るのー!?」



 声を上げたのはエミル。そして、そんな声を引きだしたのがアリアスだった。



「こここ、これは……すごい……です」



 長テーブルに置かれた料理の数々に目を輝かせるユナは可愛らしい。

 そうだよ。こういうものに目を輝かせてくれ。



「まぁね。今日は報酬も多かったし特別って事で」



 さ、いただきましょう。とワインのグラスをアリアスが手にすると、俺たちは一斉にグラスを天高く掲げた。



「「「「かんぱーい!」」」」



 合わさる声と同時にエミルが早速ワインを飲み干す。それにお酒を注ぐユナを横目に俺はアリアス手製の料理に手を伸ばした。

 しかし、アリアスお嬢様はすごい。

 こんな豪華な料理もあっという間に作ってしまうんだから。

 こりゃ、お嫁さんにするのはアリアスちゃんですかね!



「んまーい!」



 エミルが骨付きどりを豪快に齧って雄たけびを上げる。

「おおげさよエミル」

 とは言うもののアリアスは嬉しそうにグラスに口をつけた。



 アンデッドの大群討伐のクエストをまさかの一日で達成した俺たちはギルドの連中に大層驚かれた。

しかし、それよりも「って事は今日もあれか?」という目を向けられていたのは言うまでもない。

そりゃそうだ。こういう時はいつだって俺たちはギルドで豪遊して気分が良くなったエミルが奢りだすという流れになっていたのだから。



ただ、残念。

 俺たちには既に「家」があるのだよ。



「じゃあ、夕食の準備してるから換金は任せるわ」



 廃墟の町からギルドへ向かう道中、アリアスは当然のようにそう言って家へと帰っていった。

 残された俺とエミル、ユナはさっさとギルドへ向かい換金を済ませ、そそくさと後にする。

 受付のおねーさんも「え? 飲んでかないの?」といった顔をしていたが、飲んでいかないんです。



 何故なら家で夕食を準備している「管理人」がいますから!



 あのお嬢様が作る料理だ。さぞかし豪勢な事だろう。

 キッチンもデカかったし、それこそ調理には力入ってますという気概に溢れている造りだった。

 とすれば、俺たちは酒をしこたま買って帰るだけ。

 

家の食材全部食い尽くしてやるんだから!!



という気持ちで帰ったらこれだ。

まさか、ここまで本格的だとは思わなかった。

量も質もトップレベル。華麗だアリアス。



「ここここ、これも! ……おいしい、です!」



 ユナもネガティブモードに落ち込まず、嬉々として頬張る。

 楽しい食事、楽しい宴、決して邪魔の入らない場所でこんな楽しい事できるなんて!



「しあわせだなぁ」



 思わず、口にしてしまう。



 酒が進む進む。



 いやー、こりゃ良いメンバー揃えられたかもしれないぞ?



「なんたって俺たち、つえーからなぁ!」



「そのとーり! 特級魔導士なめんなー!」



「ぶぶぶ、武道家もななな……めんなー!」



「あー、剣士なめんなー……」



 ん? あれ?



 みんなで声を上げていたはずが、なんかアリアスの様子がおかしい。



「アリアスさん? どうなされました?」



 いつのまにかテーブルに突っ伏してるアリアスに俺は話しかける。



「あぁん? ……楽しいじゃない。なによこれ」



 眉間にしわを寄せたかと思うと、にやけるアリアス。やばい、これ酔っぱらってる。



「だいたいアンタらはさー、基礎がなってないのよ基礎が!」



 ドン! とテーブルにワインボトルをたたきつけて俺らを一睨み。

 やばい、クダ巻くタイプか!?



「でも、さいこっ!」



 んふ! と笑うとワインボトルを一気にあおった。



「ちょちょちょ! ちょーっとアリアスさん! ストップ! ストーップ!」



 慌てて止める俺にアリアスは見事に酔っぱらった赤ら顔で笑う。



「なによ、こんなおいしいお酒もひさしびゅりにゃにょよ~もっちょにょませにゃさ~い」



「いやいや、飲み過ぎだから! お前ちょっと部屋で休め! 後が怖い!」



 俺はさっさとアリアスを抱えてリビングを後にする。



 去りぎわにふり返ると、口いっぱいに食べものを頬張ったエミルと、あれやこれやと皿に手を伸ばしていたユナが「あとはまかせた」と手をあげていた。



「……ったく。こういう役目はいつも俺だよなぁ……ストッパーっていうかツッコミっていうかさぁ。もうちょっとパーティーの立ち位置考えないとなぁ」



 言いながら部屋の扉を開け、アリアスをベッドに寝かす。

 いつのまにかスヤスヤと寝息をたてているアリアスの顔を窓から差す月光が照らした。

「うーん、やっぱり綺麗だ」

 月ではなく、アリアスが、だ。なので、決してアイラブユーではない。

「んん……もう」

「ほえっ!」

 その白く照らされた美しさに見とれて油断した。



 俺は……アリアスに抱きしめられ、ベッドに倒れる。



 やばいやばいやばいやばいやばい……。



 心臓の鼓動が鼓膜に響く。

 やばい、なにこれ、どーなってんの?



「ほらほら~おっぱいだぞ~」



「!!!???」



 頭を抱きしめられながらアリアスの胸元に顔を埋めさせられる俺。



 やややや、やわらかい!!



 え? っていうかノーブラだったんすかアリアス先輩!!





 あ、やば……理性が。



 ラッキースケベ? なのかこれは。



 アリアスは寝ぼけているのか酔っぱらっているのかからかっているのか。

 分からないが、俺は分からないままギュッとアリアスを抱きしめた。



「……ん」



 もれる吐息。







 …………。







 ……酒臭い。あと、にんにく臭い。





 おかげで俺は一瞬で我に返った。



「そーいや、にんにく効いてる料理多かったな……スタミナ、使ったもんな……」



 フッと笑って、アリアスの手をはがす。

 ゆっくりと体を離し、俺はまたアリアスの寝顔に見入った。



「もう、寝てら」



 スースーと寝息をたてるアリアス。

 さっきのは何だったのか。

 まぁ、きっと覚えてないんだろうな。



「にんにく、臭いな……」



 だが、おかげで助かった。

これで俺まであのにんにく料理をたらふく食っていたら、今頃……。



「さーて、戻りますか!」



 なんて考えすぎず、俺はアリアスの部屋を後にする。

 あれ、美味そうだったから俺も食おう。

 まだ、残ってると良いけど。





 ともあれさっきの出来事は秘密だな!!
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