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「おーい! 準備は良いか!!??」



 廃墟と化した町の入り口から叫ぶと、左、右、そして俺の前方へと立つ奴らが一斉に振り向いた。



「いーから! とっととやってよ!」



 俺の前方にいるエミルが迫ってくるデッドナイトの群れにちょっと焦りだす。





「こここ! こっちはいつでももも! おっけーでぇす!」



 ユナはもう興奮気味だ。もうすぐ、もうすぐでこの手に生物を殴る感触が来る! って感じに。



「あなた本当に大丈夫なんでしょうね!?」



 アリアスは剣を構えてはいるものの、まだ疑わし気な目を向けてくる。





 まぁ、無理もない。





 ――――そう。流石のエミルでも聖魔法を広範囲に放つ力はなかった。



 この世界では聖魔法ってかなり特殊な存在で、そもそも魔導士には扱えるものではない。

 聖魔法は賢者という聖魔法だけに特化した職種の人間でなければ使えない代物だった。



 しかし、エミルは特級魔導士。腐っても魔導士としても最高ランクなので聖魔法も使えるのだが、それはかなりの魔力を消費しながら威力もそこまで、というレベルの低いもの。

 単体に対してだったら効果はあるが、広範囲に広げると威力が薄くなるため恐らく二体を同時に攻撃できない。





 ――――――――そこで、俺の魔法だ!!





「よし! やるぞ!」



 俺はナレッジを開き、手を前方に伸ばす。



「神々の理を宿した風、青葉を象るその道筋を我に向けよ。芽吹く生命は泡沫の波間を憐憫にする。さぁ今こそ我が示すモノに喝采を! ホーリーブレス!」



 俺が意味の分からない呪文を唱えると、後ろから突風が吹く。



 それはエミル、ユナ、アリアスに向かって三分割し、やがて金色に輝きだした。



「わわわ! わたしの手が金ぴかに! あああ足も!」



 金色の風はそれぞれの武器にまとわりつく。

 エミルのショートステッキに、ユナの手に、そしてアリアスの細剣に。



「へー! ほんとにこれで私たちの攻撃全部が聖魔法化したの!?」



 エミルがショートステッキをぶんぶん回す。



 俺はナレッジを開いたまま、空いてる手でサムズアップした。



「オッケー! じゃあやってみますか! 手始めにファイアボール!」



 エミルは振り向きざまに初歩の炎魔法をデッドナイトに撃つ。

 するとその火球は見事にデッドナイト一体に命中し、ターゲットはうめき声を上げながら、その身を燃やし、朽ち果てていった。



「おー! いけんじゃん! すげー! ケイタのホーリーブレスとかいう魔法すげー!」



 エミルはそのデッドナイトが消滅し、復活しないのを確認するとそのままデッドナイトの群れに嬉々としてダッシュした。



「けけけケイタさん! すごい! すごいです! すごいですぅー! こんな! こんなぁ! こんな感触だったんですねぇ……! デッドナイトを殺す! ……感触、感触ってぇ!!」



 ユナはデッドナイトの真っ黒い返り血を浴びながら撲殺を始めていた。

 やはり彼女は怖い。



「まさか、ほんとに出来るなんてね。攻撃の聖魔法化――――――――」



 アリアスが言いながら一閃。



 すると横一文字にデッドナイトの列が真っ二つに裂かれた。



「……華麗すぎるだろ」



 さすが金の冒険者。ただの一斬りがとんでもない技に見えてしまう。



 そのまま三人はそれぞれの技を生かした攻撃方法でデッドナイトの群れへと突っ込んでいった。



「うーん。さすがだ。こいつらマジで強いんだなぁ」



 俺はナレッジを消してその場に胡坐をかいた。

 ここからの眺めは壮観だ。

 行く道をふさぐように広がるデッドナイトの群れがどんどん消滅していく。

 とんでもない数だから、まだ時間はかかりそうだが、こりゃ俺の出番はないな。



「いやー、楽ちん楽ちん!」



 俺は携帯していた干し肉をかじりながらゆっくりと三人の技を眺めていた。



 攻撃の聖魔法化。まさしく俺のホーリーブレスはその効果の魔法だった。

 もちろん威力はその攻撃自体に左右されるが、見てのとおりユナの撲殺もアリアスの剣もしっかりと聖魔法の効果が付与されている。

 やつらが強いからなせる業だな。



「こりゃ、これからの戦い方が見えてきたかもなぁ。俺はなるべく楽に安全な形で金を稼げる。あいつら強いし。性格に難ありだけど、扱い方さえ覚えちまえばこっちのもんだろ」



 エミルは範囲魔法でデッドナイトを攻撃する。ぽっかりと群れに穴が出来た。



「まかせなさい!」



 その空間に飛び込んだアリアスが回転切りを放つとその円はさらに広がる。



「えーい! デッドナイトめぇー!」



 その丸い空間に風穴を開けた撲殺暴走列車はそのまま斜めに走り抜け、群れへとまた突っ込む。



 なんか、連携取れてきてるな。ユナは別として。

 まぁ特級魔導士と金の冒険者と銀の冒険者だしな。



 俺はペーペーなんで離れていさせてもらいますよ! 危ないですからね!



 と、俺は安全地帯で高みの見物をしながら、笑顔で首をかしげる。





 はて?



 なんか、忘れてなかったっけ?

 
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