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それからはいつも通りのボイトレに明け暮れる日々。
翌日に早速、顔を出したユキは僕と灰坂の真剣さを目の当たりにして物凄く驚いていて、帰り際に「本当は毎日でも来たいけど邪魔になっちゃいそうだから、あんまり来るのはやめておくね」と言ってから、まだ来ていない。
ユキのこういう所がすごい。
気の使い方って言うか、そういう所がすごく大人だと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そういえば」
ボイトレ再開三日目の昼休憩。
灰坂がお弁当をつつきながら、おもむろに切り出す。
「あの時。私も踏み込んでいいって言ってたよね?」
「うん」
僕は相も変わらず、ソーメンを啜りながら答える。
「じゃあ一つ聞いていい?」
「どうぞ」
「ホタルのお父さんって面白くて良い人だよね。凄く優しくてしっかりした人だよね?」
僕は箸を止める。こうして毎日僕の家に来て、日が暮れるまでボイトレをしている以上、当然、灰坂は父さんとも顔を合わせるようになった。
父さんはユキの時みたいに変な勘違いこそしなかったけれど、何故だか手厚く灰坂をもてなした。柄にも無く良く話しかける姿は見ていて溜め息ものだったけれど、今になって灰坂がこう言うって事は、父さんと話している時のあの笑顔は本物だったと言う事だ。
意外な事実。それにしても、良い人っていうのは置いといて、面白いっていうのは僕にはさっぱりわからないんだけど。
「……でね。突っ込んだ事聞くよ? だとしたらホタルのお母さんってもしかして……」
灰坂はそれ以上言わずに箸を止めたまま伺うように僕を見た。
僕も箸を止めたまま、ドクドクと大きく脈打つ心臓の音が体中に響いていく。
「いや、ごめん……やっぱり何でもない」
灰坂はお弁当のご飯を口に入れて「気にしないで」と変に崩れた笑顔を見せた。
僕は箸を置いて深呼吸する。体中に音を響かせている心臓を落ち着かせる。
灰坂はしっかり約束を守った。だから僕も約束を守らなきゃいけない。じゃないと計画がダメになるとかではなく、友達として灰坂に嘘をつくわけにはいかない。
しっかり話そう。話さなきゃ。
もう一度深呼吸。
よし……よし。大丈夫。
「……灰坂。その……あまり気にせず、軽い気持ちで聞いてくれると助かるんだけど」
灰坂は箸を置いて姿勢を正し、僕に頷いた。
「まぁ……その……灰坂の言う通り、僕の母さんは、僕が小学校六年生の時に……事故で亡くなってるんだ」
僕ではなく、目の前の灰坂が唇をギュッと噛み締める。
「そんな顔しないでよ。もう大丈夫だから。そりゃ直ぐ気づくよね母親がいない事ぐらい。それで父さんも悪い人には見えないし、騙される様にも見えない。だからもしかして離婚じゃ無くて? って考えたんでしょ?」
「……ごめん」
「謝る事無いよ。灰坂も全部話してくれたじゃん。 だから僕もごまかさずにちゃんと話したいんだ。もう僕らは友達なんだからさ」
灰坂はしっかりと頷いて、僕と目を合わせた。全部聞く。全部受け止める。そんな気持ちが伝わってくる眼差しだった。
きっと灰坂も気づかないフリして過ごすのが嫌だったんだろう。真面目だからしっかり僕を受け止めてようやく友達になれると思ってくれたんだろう。
でも、僕にとってはその気持ちだけで良かった。それだけでもう十分友達だった。
だからこれは灰坂に対する誠意だ。友情に対する僕からの精一杯の誠意だ。
僕は覚悟を決めて、灰坂に扉を開け放つ。
「原因は単純でさ……買い物帰りに信号待ちしてたら、飲酒運転の車がハンドル操作を誤って歩道に突っ込んで来たんだ。即死だったみたい。ニュースにもなったから、父さんも隠さずに全部教えてくれた。でもね、そんな事実より僕には突然母さんがいなくなってしまった現実のほうが受け入れられなくて……何て言うのかな。あの……あの感じ。今でも上手く言葉に出来ないんだけど、とにかくしばらく学校にも行けずに部屋に籠ってずっと泣いてたんだよ」
無理してちょっと軽めに話す僕は、まるで灰坂と初めて会話した時みたいだった。
未だ変に脈打っている心臓がひどくうざったらしい。
灰坂はその眼差しを変える事無く、じっと僕の目を見ている。それが少なからず支えになっていた。きっと灰坂がここで悲しい顔をしていたら、僕は泣いてしまったと思う。
「父さんもすごく悲しんだと思うんだけど、息子がそんな状態だから多分すごく無理していたんだと思う。それが当時の僕には分からなくて、父さんは気にしてないんだって勝手に思い込んでた。妻の死を悲しむより父として息子の事を気にかけてくれたっていうのにね。それに気がつけなかった僕は母さんを、父さんを、気にしない事にしたんだ。まるで関係ない事の様に思う努力をした。親友も支えてくれたし、おかげで回復したんだけど、それは解決してない問題から目を逸らしているだけで……何も乗り越えてないんだよね。その結果、父さんとは距離が出来てしまったし、僕は母さんに関連するものに近づかなくなったんだ」
僕はカラカラに渇いた喉を麦茶を流し込んで一気に潤した。
落ち着け。大丈夫。と自分に言い聞かせて、また灰坂と視線を合わせる。
「母さんはピアノの先生をやっていて、僕も習ってた。だからボイトレとか音楽的な事は全部母さんの受け売りなんだよ。考え方とかね。おかげで厳しくも楽しく音楽が出来た。けど、母さんがいなくなって僕には音楽が苦痛になった。僕にとって音楽は、母さんそのものだったからね。学校の授業なんかは何とか耐えられたけど、ピアノは一切弾けなくなった。だから、不思議なんだよ。どうして僕が今ピアノを弾けているのか、灰坂のボイトレを出来るのかが」
言わなきゃならない事を全て話して、僕はまた麦茶を飲み、深く息を吐いた。
「まぁ、こんな感じかな。何か聞きたい事があれば何でも答えるよ」
灰坂は押し黙ったまま、少し俯いた。やっぱりちょっと重すぎる話だったか。未だに解決してない話だし、仕方がない。ほんと、何でピアノが弾けるんだろう僕は。
「……あの!」
灰坂は突然顔を上げて、テーブルに身を乗り出した。
「ホタルの、お母さんにご挨拶出来ないかな?」
「え? 挨拶?」
死んでいる人にどうやって挨拶するんだろう? と一瞬、頭がこんがらがったけれど、直ぐに仏間で手を合わせたいという意味だと気づいた。
「うん。かまわないよ」
僕と灰坂は食事の途中だったけれど、そのままにして仏間へ向かった。
こういうのって作法とか行儀としてはどうなんだろうと思ったけれど、僕がいくら考えたって分かる筈も無いので、気にせず灰坂を案内した。
「あれが、母さん」
襖を開けて、仏間に飾ってある写真を指差す。
「……綺麗だね。すごく綺麗」
灰坂はそう言ってしばらく写真を見つめた後、手を合わせて頭を少し下げた。
数十秒の静寂が流れる。おかげで、蝉の鳴き声が際立った。
僕も隣で手を合わせた。
母さん。ここに来てから色んな事があって、自分でも消化しきれていない事ばっかりだけど何とかやってます。
「ホタル、ありがとう」
声に顔を上げると、灰坂がニコッと笑って僕に手を差し出した。
母さんの前で何か恥ずかしかったけれど僕はその手を取り、握手をした。
「――――母さんに挨拶って何を言ったの?」
食事を再開して、僕はまたソーメンを啜り始める。
「ん? ホタルの話を聞いててさ、何て言うか、私はホタルじゃなくてホタルとホタルのお母さんにボイトレしてもらってる気がしたの。だから、ありがとうございます。頑張りますってお礼を言いたくなったんだ」
「そっか。なるほどね」
僕はソーメンを啜る。灰坂の言葉が凄く嬉しかった。
もし、ピアノを弾ける様になったのが灰坂にボイトレをする為だとしたら。そんなスピリチュアル的な考えは好きじゃないけれど、母さんに教わった事がこうやって広がっていくのは悪くない気分だった。
「そうだ。ねぇ、私、明日お弁当作って来るよ」
灰坂は弁当箱を片付けていると、突然思いついた様に手を叩いた。
「いや、いつも作って来てるじゃん」
「違うよ。ホタルにって事。いつもソーメンしか食べてないからさ。お礼に」
別にソーメンは昼だけなんだけど。なんて言った所で、この調子じゃ灰坂は何としてもお弁当を作って来るだろう。だから人のお礼はありがたく受け取っておく事にした。
「そうだね。ありがとう。楽しみにしてるよ」
「ちなみに好き嫌いはある?」
「好き嫌いは無いね」
僕は自信を持って言った。好き嫌いが無いのは特技の一つだ。本当に無い。全く無い。みんな何かしら苦手なものがあるけれど、僕はどれも大好きだった。
「うん分かった。じゃあ楽しみにしててね」
「ありがとうございます。それじゃ、ボチボチ始めようか。先に部屋戻ってて」
灰坂は頷き、弁当箱を持って立ち上がる。僕は器を片付けて、台所へ向かった。
灰坂も最初と比べると随分、性格が変わった気がする。何も無ければきっと、クラスのみんなとも直ぐに打ち解けていたんだろう。
どうやら計画さえ上手く行けば、その後の不安を考える必要もなさそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「――――はい。どうぞ」
翌日の昼休憩。灰坂は約束通りお弁当を作って来てくれた。
テーブルの上に置かれたのは、そこまで大きくはないとは言え重箱だった。
聞くところによると、どうやら家にはこの重箱か、いつも持って来ている弁当箱以外ないらしい。
「どうぞ。開けてみて」
さぁ。と両手を差し出す灰坂は見た事も無い自信に溢れた顔をしていた。
「それじゃいきます……おー!」
蓋を開けると上段には揚げ物、煮物、卵焼き等の立派なおかず達。下段には色んなふりかけに彩られたおにぎりが並んでいた。
「これすごいね。おいしそう」
「ありがとう。じゃあ食べよっか」
「いやいやこちらこそありがとう。じゃあ、いただきます」
声を揃えて手を合わせる。まずは王道の卵焼きから箸を付けた。
「うん。おいしい!」
僕が頷くと、息を飲んで見つめていた灰坂が安堵の溜め息をついた。
「良かったぁ」
「出汁巻きなんだね。これ美味しい」
僕はそう言いながらおにぎりを頬張る。うん。これも美味しい。シャケのふりかけだ。
「灰坂。料理うまいね」
「なんか、あんまり褒められると照れる」
そう言われると、何だか僕の方が照れてしまう。だから、それ以降は変に灰坂を褒める事無く、とにかく美味しいを連呼しながら食べた。
灰坂はそれでも嬉しそうに笑って、同じ様に美味しいと連呼して食べていた。
しっかり完食して、少し休憩。美味しいから、つい食べ過ぎてしまった。
「ごめん。量多かったね」
苦笑いで謝る灰坂に、僕は「いやいや」と手を振る。
「これは仕方ないよ。美味しいからついつい食べちゃった」
麦茶を少し飲んで、お腹を擦る。心地いい満腹感だった。美味しいものでお腹が一杯になるってなんて幸せなんだろう。
「灰坂。明日はこのお礼にソーメン茹でるから弁当持って来なくていいよ」
「え? いいの? ありがとう!」
お礼がソーメンって言うのも悪い気がするけれど、灰坂が笑って喜んでくれているから良しとしよう。この家の冷蔵庫には、常に食品があまり入っていない事は内緒だ。
「ソーメンかぁ。夏って感じだよね。じゃあさ、明日は縁側で食べない?」
まるで父さんみたいな事を言いだす灰坂に僕は驚いた。
「それ、初めてここに来た時に父さんとやった事だよ」
「え? そうなの? さすがホタルのお父さんだね」
灰坂と父さん。この二人は本当に気が合うみたいだ。二人が話している時はいつも笑い声が混ざっている理由が少し分かった気がした。
帰りは珍しく、灰坂の方から送って欲しいと頼まれて、僕と灰坂は日暮れ時の中、砂利道を並んで歩いていた。
「そう言えば灰坂の家の方ってまだ言った事無いな。いつも歩きで来てるけど、ここから結構近いの?」
「うーん。二十分くらいかな?」
結構、微妙な時間だ。今日はまだ陽があるけれど、これから先、ボイトレが長引いたりしたら家に着く前に暗くなってしまい兼ねない。
「それならこれからは送っていくよ。何かあっても嫌だし」
僕が親切心で言うと、灰坂は少し顔を逸らした。
「うん。ありがとう」
何でこっちを向かずに、遠くに見える山にお礼を言うのだろうか。灰坂は仲良くなるにつれて何故か謎が増えた気がする。
そこからは特に会話も無く、ただ二人の足音が揃ったりずれたりするだけだった。
「ホタルってさ」
灰坂はようやく僕の方を向いた。
「……やっぱなんでもない」
そしてまた山の方を向いた。
「いきなりどうしたの? 何でも言ってよ」
「んーん。何でも無い!」
灰坂は急に走り出すと、僕の数メートル前に飛びだして振り返った。
「ありがとう! 私の家あそこだからここまででいいや! また明日!」
灰坂が右手で指差した田舎っぽい大きな民家は百メートル位離れた所にあった。
「うんわかった! また明日!」
僕が手を振ると、灰坂も大きく振り返す。夕日に照らされた顔は、まるで向日葵の様に晴れやかな笑顔だった。
そして重箱を持ったまま走り出す。結構足が速い。
灰坂は一気に自分の家へと消えていった――――。
「ただいまー」
僕が家に帰ると、父さんが居間から顔を出した。
「おかえり。カズ君来てるぞ」
「え? カズが?」
こんな時間に? なんで?
僕はとりあえず靴を脱いで、父さんが指差した僕の部屋の襖を開けた。
「よう! 久しぶり!」
カズは畳にあぐらをかきながら、僕に手を挙げた。
「久しぶり……ってどうしたんだよ一体」
「いやー、何だかしばらく会ってないと寂しくてさー!」
「何言ってるんだよ、全く。それより特訓はどう? 大変?」
「大変? ……うーん。大変だけど何か楽しいからやっぱ大変じゃないな!」
久しぶりに会うカズは相変わらずだった。本当に、何しに来たんだろうか。
僕は「そう」と笑って、椅子に座り、クルッとカズに向き直った。
「それで? 本当にただ会いに来ただけなの?」
カズはへへへと笑って頬を掻く。
「ユキ……元気してる?」
「何だよそれ。この前、会ったけど元気そうだったよ」
「そっか。ならまぁいいや」
「大体、直ぐ近くに住んでるんだからいつだって会いに行けるでしょ」
「いや、何ていうかさ。俺なりのケジメっていうかさ。へへへ」
「は?」
僕はカズの言っている事がさっぱり分からない。一体、何を言っているんだろうか。
そして何故、照れているんだろうか。
「ホタル。俺、祭り終わるまでユキに会わないって決めたから」
「え? 何で?」
「だから、ケジメなんだよ。指揮者なんて大役任されちゃったし。去年は何か俺のせいで散々だったしさ。まぁウケは出し物の中で一番良かったけどな。それでも今回は名誉挽回なんだ。しっかり成功させてユキに見直してもらおうと思ってな! だからそれまでユキに会わないようにしようって決めたんだ。会っちゃうとほら、遊びたくなっちゃうからさ。だから禁ユキ生活だ!」
なんか『禁欲生活』みたいに言っているけれど、まぁこれはカズなりに出した答えなんだろう。でも、カズは大事な事を忘れている。
「カズ。もう八月入ったよね」
「あぁ。だから禁ユキ生活もあと少しだ!」
「いや、あと少しどころか明後日に会う事になるんだけど」
「え? 何か約束してたっけ?」
「いや、合唱練習が始まるから……」
「……あー!」
忘れてた! と頭を抱えて、畳の上に転がるカズ。どうやら本当に考えてなかったらしい。家に会いに行かなければ会わずに済むなんて一体どういう思考回路をしているんだ。
僕らがやるのは『合唱』なのに。
とにかく、カズの『禁ユキ生活』は明後日で終わりというのは確定だ。
「もうダメだ……帰る」
「あぁ、うん。気をつけて」
じゃ。と力なく手を挙げてカズは部屋を出た。僕は部屋から顔だけ出して、それとなく聞いてみる。
「指揮の方は、どうなの?」
「うん……うん」
振り返りもせず、ただ手をプラプラ振って答えるカズに僕はやりきれなくなって一応、玄関先まで見送る事にした。
「あれ? カズ。自転車は?」
「……昨日パンクしてまだ直してない」
「じゃあ送ろうか?」
「いい……大丈夫。また明後日な」
「う、うん」
力なく手を振り、項垂れながら哀愁を背中で語るカズは、もう失恋したみたいに見えてたまらなくなった。
あんまり指揮上手くいっていないのかな。結局ユキの話をしに来ただけだったなカズ。
僕は消えそうなカズの背中にボソリと呟く。
「カズ、頑張れ」
翌日に早速、顔を出したユキは僕と灰坂の真剣さを目の当たりにして物凄く驚いていて、帰り際に「本当は毎日でも来たいけど邪魔になっちゃいそうだから、あんまり来るのはやめておくね」と言ってから、まだ来ていない。
ユキのこういう所がすごい。
気の使い方って言うか、そういう所がすごく大人だと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そういえば」
ボイトレ再開三日目の昼休憩。
灰坂がお弁当をつつきながら、おもむろに切り出す。
「あの時。私も踏み込んでいいって言ってたよね?」
「うん」
僕は相も変わらず、ソーメンを啜りながら答える。
「じゃあ一つ聞いていい?」
「どうぞ」
「ホタルのお父さんって面白くて良い人だよね。凄く優しくてしっかりした人だよね?」
僕は箸を止める。こうして毎日僕の家に来て、日が暮れるまでボイトレをしている以上、当然、灰坂は父さんとも顔を合わせるようになった。
父さんはユキの時みたいに変な勘違いこそしなかったけれど、何故だか手厚く灰坂をもてなした。柄にも無く良く話しかける姿は見ていて溜め息ものだったけれど、今になって灰坂がこう言うって事は、父さんと話している時のあの笑顔は本物だったと言う事だ。
意外な事実。それにしても、良い人っていうのは置いといて、面白いっていうのは僕にはさっぱりわからないんだけど。
「……でね。突っ込んだ事聞くよ? だとしたらホタルのお母さんってもしかして……」
灰坂はそれ以上言わずに箸を止めたまま伺うように僕を見た。
僕も箸を止めたまま、ドクドクと大きく脈打つ心臓の音が体中に響いていく。
「いや、ごめん……やっぱり何でもない」
灰坂はお弁当のご飯を口に入れて「気にしないで」と変に崩れた笑顔を見せた。
僕は箸を置いて深呼吸する。体中に音を響かせている心臓を落ち着かせる。
灰坂はしっかり約束を守った。だから僕も約束を守らなきゃいけない。じゃないと計画がダメになるとかではなく、友達として灰坂に嘘をつくわけにはいかない。
しっかり話そう。話さなきゃ。
もう一度深呼吸。
よし……よし。大丈夫。
「……灰坂。その……あまり気にせず、軽い気持ちで聞いてくれると助かるんだけど」
灰坂は箸を置いて姿勢を正し、僕に頷いた。
「まぁ……その……灰坂の言う通り、僕の母さんは、僕が小学校六年生の時に……事故で亡くなってるんだ」
僕ではなく、目の前の灰坂が唇をギュッと噛み締める。
「そんな顔しないでよ。もう大丈夫だから。そりゃ直ぐ気づくよね母親がいない事ぐらい。それで父さんも悪い人には見えないし、騙される様にも見えない。だからもしかして離婚じゃ無くて? って考えたんでしょ?」
「……ごめん」
「謝る事無いよ。灰坂も全部話してくれたじゃん。 だから僕もごまかさずにちゃんと話したいんだ。もう僕らは友達なんだからさ」
灰坂はしっかりと頷いて、僕と目を合わせた。全部聞く。全部受け止める。そんな気持ちが伝わってくる眼差しだった。
きっと灰坂も気づかないフリして過ごすのが嫌だったんだろう。真面目だからしっかり僕を受け止めてようやく友達になれると思ってくれたんだろう。
でも、僕にとってはその気持ちだけで良かった。それだけでもう十分友達だった。
だからこれは灰坂に対する誠意だ。友情に対する僕からの精一杯の誠意だ。
僕は覚悟を決めて、灰坂に扉を開け放つ。
「原因は単純でさ……買い物帰りに信号待ちしてたら、飲酒運転の車がハンドル操作を誤って歩道に突っ込んで来たんだ。即死だったみたい。ニュースにもなったから、父さんも隠さずに全部教えてくれた。でもね、そんな事実より僕には突然母さんがいなくなってしまった現実のほうが受け入れられなくて……何て言うのかな。あの……あの感じ。今でも上手く言葉に出来ないんだけど、とにかくしばらく学校にも行けずに部屋に籠ってずっと泣いてたんだよ」
無理してちょっと軽めに話す僕は、まるで灰坂と初めて会話した時みたいだった。
未だ変に脈打っている心臓がひどくうざったらしい。
灰坂はその眼差しを変える事無く、じっと僕の目を見ている。それが少なからず支えになっていた。きっと灰坂がここで悲しい顔をしていたら、僕は泣いてしまったと思う。
「父さんもすごく悲しんだと思うんだけど、息子がそんな状態だから多分すごく無理していたんだと思う。それが当時の僕には分からなくて、父さんは気にしてないんだって勝手に思い込んでた。妻の死を悲しむより父として息子の事を気にかけてくれたっていうのにね。それに気がつけなかった僕は母さんを、父さんを、気にしない事にしたんだ。まるで関係ない事の様に思う努力をした。親友も支えてくれたし、おかげで回復したんだけど、それは解決してない問題から目を逸らしているだけで……何も乗り越えてないんだよね。その結果、父さんとは距離が出来てしまったし、僕は母さんに関連するものに近づかなくなったんだ」
僕はカラカラに渇いた喉を麦茶を流し込んで一気に潤した。
落ち着け。大丈夫。と自分に言い聞かせて、また灰坂と視線を合わせる。
「母さんはピアノの先生をやっていて、僕も習ってた。だからボイトレとか音楽的な事は全部母さんの受け売りなんだよ。考え方とかね。おかげで厳しくも楽しく音楽が出来た。けど、母さんがいなくなって僕には音楽が苦痛になった。僕にとって音楽は、母さんそのものだったからね。学校の授業なんかは何とか耐えられたけど、ピアノは一切弾けなくなった。だから、不思議なんだよ。どうして僕が今ピアノを弾けているのか、灰坂のボイトレを出来るのかが」
言わなきゃならない事を全て話して、僕はまた麦茶を飲み、深く息を吐いた。
「まぁ、こんな感じかな。何か聞きたい事があれば何でも答えるよ」
灰坂は押し黙ったまま、少し俯いた。やっぱりちょっと重すぎる話だったか。未だに解決してない話だし、仕方がない。ほんと、何でピアノが弾けるんだろう僕は。
「……あの!」
灰坂は突然顔を上げて、テーブルに身を乗り出した。
「ホタルの、お母さんにご挨拶出来ないかな?」
「え? 挨拶?」
死んでいる人にどうやって挨拶するんだろう? と一瞬、頭がこんがらがったけれど、直ぐに仏間で手を合わせたいという意味だと気づいた。
「うん。かまわないよ」
僕と灰坂は食事の途中だったけれど、そのままにして仏間へ向かった。
こういうのって作法とか行儀としてはどうなんだろうと思ったけれど、僕がいくら考えたって分かる筈も無いので、気にせず灰坂を案内した。
「あれが、母さん」
襖を開けて、仏間に飾ってある写真を指差す。
「……綺麗だね。すごく綺麗」
灰坂はそう言ってしばらく写真を見つめた後、手を合わせて頭を少し下げた。
数十秒の静寂が流れる。おかげで、蝉の鳴き声が際立った。
僕も隣で手を合わせた。
母さん。ここに来てから色んな事があって、自分でも消化しきれていない事ばっかりだけど何とかやってます。
「ホタル、ありがとう」
声に顔を上げると、灰坂がニコッと笑って僕に手を差し出した。
母さんの前で何か恥ずかしかったけれど僕はその手を取り、握手をした。
「――――母さんに挨拶って何を言ったの?」
食事を再開して、僕はまたソーメンを啜り始める。
「ん? ホタルの話を聞いててさ、何て言うか、私はホタルじゃなくてホタルとホタルのお母さんにボイトレしてもらってる気がしたの。だから、ありがとうございます。頑張りますってお礼を言いたくなったんだ」
「そっか。なるほどね」
僕はソーメンを啜る。灰坂の言葉が凄く嬉しかった。
もし、ピアノを弾ける様になったのが灰坂にボイトレをする為だとしたら。そんなスピリチュアル的な考えは好きじゃないけれど、母さんに教わった事がこうやって広がっていくのは悪くない気分だった。
「そうだ。ねぇ、私、明日お弁当作って来るよ」
灰坂は弁当箱を片付けていると、突然思いついた様に手を叩いた。
「いや、いつも作って来てるじゃん」
「違うよ。ホタルにって事。いつもソーメンしか食べてないからさ。お礼に」
別にソーメンは昼だけなんだけど。なんて言った所で、この調子じゃ灰坂は何としてもお弁当を作って来るだろう。だから人のお礼はありがたく受け取っておく事にした。
「そうだね。ありがとう。楽しみにしてるよ」
「ちなみに好き嫌いはある?」
「好き嫌いは無いね」
僕は自信を持って言った。好き嫌いが無いのは特技の一つだ。本当に無い。全く無い。みんな何かしら苦手なものがあるけれど、僕はどれも大好きだった。
「うん分かった。じゃあ楽しみにしててね」
「ありがとうございます。それじゃ、ボチボチ始めようか。先に部屋戻ってて」
灰坂は頷き、弁当箱を持って立ち上がる。僕は器を片付けて、台所へ向かった。
灰坂も最初と比べると随分、性格が変わった気がする。何も無ければきっと、クラスのみんなとも直ぐに打ち解けていたんだろう。
どうやら計画さえ上手く行けば、その後の不安を考える必要もなさそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「――――はい。どうぞ」
翌日の昼休憩。灰坂は約束通りお弁当を作って来てくれた。
テーブルの上に置かれたのは、そこまで大きくはないとは言え重箱だった。
聞くところによると、どうやら家にはこの重箱か、いつも持って来ている弁当箱以外ないらしい。
「どうぞ。開けてみて」
さぁ。と両手を差し出す灰坂は見た事も無い自信に溢れた顔をしていた。
「それじゃいきます……おー!」
蓋を開けると上段には揚げ物、煮物、卵焼き等の立派なおかず達。下段には色んなふりかけに彩られたおにぎりが並んでいた。
「これすごいね。おいしそう」
「ありがとう。じゃあ食べよっか」
「いやいやこちらこそありがとう。じゃあ、いただきます」
声を揃えて手を合わせる。まずは王道の卵焼きから箸を付けた。
「うん。おいしい!」
僕が頷くと、息を飲んで見つめていた灰坂が安堵の溜め息をついた。
「良かったぁ」
「出汁巻きなんだね。これ美味しい」
僕はそう言いながらおにぎりを頬張る。うん。これも美味しい。シャケのふりかけだ。
「灰坂。料理うまいね」
「なんか、あんまり褒められると照れる」
そう言われると、何だか僕の方が照れてしまう。だから、それ以降は変に灰坂を褒める事無く、とにかく美味しいを連呼しながら食べた。
灰坂はそれでも嬉しそうに笑って、同じ様に美味しいと連呼して食べていた。
しっかり完食して、少し休憩。美味しいから、つい食べ過ぎてしまった。
「ごめん。量多かったね」
苦笑いで謝る灰坂に、僕は「いやいや」と手を振る。
「これは仕方ないよ。美味しいからついつい食べちゃった」
麦茶を少し飲んで、お腹を擦る。心地いい満腹感だった。美味しいものでお腹が一杯になるってなんて幸せなんだろう。
「灰坂。明日はこのお礼にソーメン茹でるから弁当持って来なくていいよ」
「え? いいの? ありがとう!」
お礼がソーメンって言うのも悪い気がするけれど、灰坂が笑って喜んでくれているから良しとしよう。この家の冷蔵庫には、常に食品があまり入っていない事は内緒だ。
「ソーメンかぁ。夏って感じだよね。じゃあさ、明日は縁側で食べない?」
まるで父さんみたいな事を言いだす灰坂に僕は驚いた。
「それ、初めてここに来た時に父さんとやった事だよ」
「え? そうなの? さすがホタルのお父さんだね」
灰坂と父さん。この二人は本当に気が合うみたいだ。二人が話している時はいつも笑い声が混ざっている理由が少し分かった気がした。
帰りは珍しく、灰坂の方から送って欲しいと頼まれて、僕と灰坂は日暮れ時の中、砂利道を並んで歩いていた。
「そう言えば灰坂の家の方ってまだ言った事無いな。いつも歩きで来てるけど、ここから結構近いの?」
「うーん。二十分くらいかな?」
結構、微妙な時間だ。今日はまだ陽があるけれど、これから先、ボイトレが長引いたりしたら家に着く前に暗くなってしまい兼ねない。
「それならこれからは送っていくよ。何かあっても嫌だし」
僕が親切心で言うと、灰坂は少し顔を逸らした。
「うん。ありがとう」
何でこっちを向かずに、遠くに見える山にお礼を言うのだろうか。灰坂は仲良くなるにつれて何故か謎が増えた気がする。
そこからは特に会話も無く、ただ二人の足音が揃ったりずれたりするだけだった。
「ホタルってさ」
灰坂はようやく僕の方を向いた。
「……やっぱなんでもない」
そしてまた山の方を向いた。
「いきなりどうしたの? 何でも言ってよ」
「んーん。何でも無い!」
灰坂は急に走り出すと、僕の数メートル前に飛びだして振り返った。
「ありがとう! 私の家あそこだからここまででいいや! また明日!」
灰坂が右手で指差した田舎っぽい大きな民家は百メートル位離れた所にあった。
「うんわかった! また明日!」
僕が手を振ると、灰坂も大きく振り返す。夕日に照らされた顔は、まるで向日葵の様に晴れやかな笑顔だった。
そして重箱を持ったまま走り出す。結構足が速い。
灰坂は一気に自分の家へと消えていった――――。
「ただいまー」
僕が家に帰ると、父さんが居間から顔を出した。
「おかえり。カズ君来てるぞ」
「え? カズが?」
こんな時間に? なんで?
僕はとりあえず靴を脱いで、父さんが指差した僕の部屋の襖を開けた。
「よう! 久しぶり!」
カズは畳にあぐらをかきながら、僕に手を挙げた。
「久しぶり……ってどうしたんだよ一体」
「いやー、何だかしばらく会ってないと寂しくてさー!」
「何言ってるんだよ、全く。それより特訓はどう? 大変?」
「大変? ……うーん。大変だけど何か楽しいからやっぱ大変じゃないな!」
久しぶりに会うカズは相変わらずだった。本当に、何しに来たんだろうか。
僕は「そう」と笑って、椅子に座り、クルッとカズに向き直った。
「それで? 本当にただ会いに来ただけなの?」
カズはへへへと笑って頬を掻く。
「ユキ……元気してる?」
「何だよそれ。この前、会ったけど元気そうだったよ」
「そっか。ならまぁいいや」
「大体、直ぐ近くに住んでるんだからいつだって会いに行けるでしょ」
「いや、何ていうかさ。俺なりのケジメっていうかさ。へへへ」
「は?」
僕はカズの言っている事がさっぱり分からない。一体、何を言っているんだろうか。
そして何故、照れているんだろうか。
「ホタル。俺、祭り終わるまでユキに会わないって決めたから」
「え? 何で?」
「だから、ケジメなんだよ。指揮者なんて大役任されちゃったし。去年は何か俺のせいで散々だったしさ。まぁウケは出し物の中で一番良かったけどな。それでも今回は名誉挽回なんだ。しっかり成功させてユキに見直してもらおうと思ってな! だからそれまでユキに会わないようにしようって決めたんだ。会っちゃうとほら、遊びたくなっちゃうからさ。だから禁ユキ生活だ!」
なんか『禁欲生活』みたいに言っているけれど、まぁこれはカズなりに出した答えなんだろう。でも、カズは大事な事を忘れている。
「カズ。もう八月入ったよね」
「あぁ。だから禁ユキ生活もあと少しだ!」
「いや、あと少しどころか明後日に会う事になるんだけど」
「え? 何か約束してたっけ?」
「いや、合唱練習が始まるから……」
「……あー!」
忘れてた! と頭を抱えて、畳の上に転がるカズ。どうやら本当に考えてなかったらしい。家に会いに行かなければ会わずに済むなんて一体どういう思考回路をしているんだ。
僕らがやるのは『合唱』なのに。
とにかく、カズの『禁ユキ生活』は明後日で終わりというのは確定だ。
「もうダメだ……帰る」
「あぁ、うん。気をつけて」
じゃ。と力なく手を挙げてカズは部屋を出た。僕は部屋から顔だけ出して、それとなく聞いてみる。
「指揮の方は、どうなの?」
「うん……うん」
振り返りもせず、ただ手をプラプラ振って答えるカズに僕はやりきれなくなって一応、玄関先まで見送る事にした。
「あれ? カズ。自転車は?」
「……昨日パンクしてまだ直してない」
「じゃあ送ろうか?」
「いい……大丈夫。また明後日な」
「う、うん」
力なく手を振り、項垂れながら哀愁を背中で語るカズは、もう失恋したみたいに見えてたまらなくなった。
あんまり指揮上手くいっていないのかな。結局ユキの話をしに来ただけだったなカズ。
僕は消えそうなカズの背中にボソリと呟く。
「カズ、頑張れ」
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