33 / 47
儚さの12月
2
しおりを挟む
目の覚めるような夜空が広がっていた。こんな日は空気がほどよく冷たくて、吸い込むと肺をいっぱいに支配するのがわかる。そして、すーっとする心地よさに目が細められるのだ。
……すべて、記憶の中のことだけれど。
生きていた頃の体感が蘇る――私の好きな感覚だ。
「案外、いろいろ覚えていたんだ……」
何もかも忘れていたと思っていた。名前と、病気と、学生だったこと。それ以外は空っぽだと、そう思っていた。
何もかも、気付かなかっただけ。
知りたいことが知れなかっただけ。
わかりたかったことが、わからなかっただけ。
理解しようとして、できなかっただけ。
閉じこもっただけ。
それでも――
「私はたった一つ。何かを――」
そう。何かをしたくて。
「そのために、ここにいる」
ここにいることを選んだのは、私だ。
その理由をただ思い出せなくて。
もう少しで掴めそうで。
でも、そうしたら変わってしまうのだろうか。
ここから出たがった私が、ここにいることを決めた私を思い出したら。
そうしたら、どうなってしまうのだろうか。
それでも、私は――
「知りたい……」
それが、とても大事な想いだったのだと、そう思うから。胸を締め付けてくるこの気持ちが、私にとって大切なものなのだと教えてくれている。
だってこれは不思議なほどに、不快なものではないから。
「いつになれば届くのかな……」
伸ばした手は簡単に届きそうなのに、一向に触れない。
遥か彼方で一番光る星を掴んでみる。握って、そうして開いてみたところで、そこには何もないと知っている。それなのに、どうしてだろうか。そっと大事に開いて見てしまうのは。
「あれ?」
そこには、何もなかった。
「痛……」
なかったけれど、何かが見えた。
刹那の頭痛が見せたそれは、記憶の映像――とある欠片だった。
……すべて、記憶の中のことだけれど。
生きていた頃の体感が蘇る――私の好きな感覚だ。
「案外、いろいろ覚えていたんだ……」
何もかも忘れていたと思っていた。名前と、病気と、学生だったこと。それ以外は空っぽだと、そう思っていた。
何もかも、気付かなかっただけ。
知りたいことが知れなかっただけ。
わかりたかったことが、わからなかっただけ。
理解しようとして、できなかっただけ。
閉じこもっただけ。
それでも――
「私はたった一つ。何かを――」
そう。何かをしたくて。
「そのために、ここにいる」
ここにいることを選んだのは、私だ。
その理由をただ思い出せなくて。
もう少しで掴めそうで。
でも、そうしたら変わってしまうのだろうか。
ここから出たがった私が、ここにいることを決めた私を思い出したら。
そうしたら、どうなってしまうのだろうか。
それでも、私は――
「知りたい……」
それが、とても大事な想いだったのだと、そう思うから。胸を締め付けてくるこの気持ちが、私にとって大切なものなのだと教えてくれている。
だってこれは不思議なほどに、不快なものではないから。
「いつになれば届くのかな……」
伸ばした手は簡単に届きそうなのに、一向に触れない。
遥か彼方で一番光る星を掴んでみる。握って、そうして開いてみたところで、そこには何もないと知っている。それなのに、どうしてだろうか。そっと大事に開いて見てしまうのは。
「あれ?」
そこには、何もなかった。
「痛……」
なかったけれど、何かが見えた。
刹那の頭痛が見せたそれは、記憶の映像――とある欠片だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
紅井すぐりと桑野はぐみ
桜樹璃音
青春
「私が死なないように、見張って」
「アンタの全部は、俺のものだって言わなかったっけ」
これは歪愛じゃない――……純愛、だ。
死にたがり少女と恋愛依存少年の歪な愛のお話。
見上げた青に永遠を誓う~王子様はその瞳に甘く残酷な秘密を宿す~
結城ひなた
青春
高校のクラスメートの亜美と怜は、とある事情で恋人のふりをすることになる。
過去のとある経験がトラウマとなり人に対して壁を作ってしまう亜美だったが、真っ直ぐで夢に向かってひたむきに頑張る怜の姿を見て、徐々に惹かれ心を開いていく。
そして、紆余曲折を経てふたりは本当の恋人同士になる。だが、ふたりで出かけた先で交通事故に遭ってしまい、目を覚ますとなにか違和感があって……。
二重どんでん返しありの甘く切ない青春タイムリープストーリー。
【完結】天上デンシロック
海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより
『天まで吹き抜けろ、俺たちの青春デンシロック!』
成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!
しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!
ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。
---
※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。
---
もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。実直だが未熟な響介と、博識だがトラウマを持つ律。そして彼らの間で揺れ動くもう一人の“友人”──孤独だった少年達が、音楽を通じて絆を結び、成長していく物語です。
表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。pixivでは作者( https://www.pixiv.net/users/59166272 )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。
---
5/26追記:青春カテゴリ最高4位、ありがとうございました!今後スピンオフやサブキャラクターを掘り下げる番外編も予定してるので、よろしくお願いします!
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
ひょっとしてHEAVEN !?
シェリンカ
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞受賞】
三年つきあった彼氏に、ある日突然ふられた
おかげで唯一の取り柄(?)だった成績がガタ落ち……
たいして面白味もない中途半端なこの進学校で、私の居場所っていったいどこだろう
手をさし伸べてくれたのは――学園一のイケメン王子だった!
「今すぐ俺と一緒に来て」って……どういうこと!?
恋と友情と青春の学園生徒会物語――開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる