きみにふれたい

広茂実理

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儚さの12月

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 目の覚めるような夜空が広がっていた。こんな日は空気がほどよく冷たくて、吸い込むと肺をいっぱいに支配するのがわかる。そして、すーっとする心地よさに目が細められるのだ。
 ……すべて、記憶の中のことだけれど。
 生きていた頃の体感が蘇る――私の好きな感覚だ。
「案外、いろいろ覚えていたんだ……」
 何もかも忘れていたと思っていた。名前と、病気と、学生だったこと。それ以外は空っぽだと、そう思っていた。
 何もかも、気付かなかっただけ。
 知りたいことが知れなかっただけ。
 わかりたかったことが、わからなかっただけ。
 理解しようとして、できなかっただけ。
 閉じこもっただけ。
 それでも――
「私はたった一つ。何かを――」
 そう。何かをしたくて。
「そのために、ここにいる」
 ここにいることを選んだのは、私だ。
 その理由をただ思い出せなくて。
 もう少しで掴めそうで。
 でも、そうしたら変わってしまうのだろうか。
 ここから出たがった私が、ここにいることを決めた私を思い出したら。
 そうしたら、どうなってしまうのだろうか。
 それでも、私は――
「知りたい……」
 それが、とても大事な想いだったのだと、そう思うから。胸を締め付けてくるこの気持ちが、私にとって大切なものなのだと教えてくれている。
 だってこれは不思議なほどに、不快なものではないから。
「いつになれば届くのかな……」
 伸ばした手は簡単に届きそうなのに、一向に触れない。
 遥か彼方で一番光る星を掴んでみる。握って、そうして開いてみたところで、そこには何もないと知っている。それなのに、どうしてだろうか。そっと大事に開いて見てしまうのは。
「あれ?」
 そこには、何もなかった。
「痛……」
 なかったけれど、何かが見えた。
 刹那の頭痛が見せたそれは、記憶の映像――とある欠片だった。
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