セーリオ様の祝福

あこ

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「セーリオ様」「カムヴィ様」共通の話

✿ シュピーラド婚礼の祝日を憂う従者さんたちの話。:後編

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学園の王族専用の一室で従者二人がこんな会話をしている中、『シュピーラド婚礼の祝日』にカナメを独占しているサシャといえば
「ふむ……今年はこのタイにするか」
「なんの話?」
いつもより少し早い昼休みが始まった──とはいえ、城で働く人間の昼休みはその人、部署によって違い、騎士などは当然交代で取る──ところだった。
この後、会議があるので少し早めに取り、資料を確認し会議に臨むのである。
デザイン画のを持つサシャの隣には、友人であり同僚のリンスがいる。

「『シュピーラド婚礼の祝日』のプレゼントに決まっているだろう」
「当然カナメ“様”のね」
王城であるので、様をつけるリンス。
完全なプライベートであれば頼まれているからとはいえ呼び捨てをするリンス、彼もある意味普通ではないだろう。
「ああ。母上と父上にはもう用意してあるのだが、カナメのものはなかなか決まらず難航している。もう時間もないと言うのに」
「毎年そう言ってるよね。そして毎年『シュピーラド婚礼の祝日』翌日から来年のその日のプレゼントを考えている気がするんだけどね」
「一年かけても私のカナメに似合うものを見つけるのには苦労すると言うことだ。それに何も『シュピーラド婚礼の祝日』だけしかプレゼントを送ってはいけないと言うわけでもないからな。常に何か贈るのがだろう」
「時々俺ね、サシャが貢ぎまくってる人に見えるよ」
「私のカナメだぞ?私が送らずして誰が贈ると?」
「婚約者がいるでしょうよ!」
「ハッ」
鼻で笑ったよ、この人!!
リンスの心はこの言葉を大音声で吐いているだろう。
しかし現実にしたことは、辺りに人はいないかと確認することである。
「安心しろ。誰もいない。私がそんなをするとでも?」
「貴方様が今まで鍛えてきた剣技というのは何のため?」
「カナメを守るためだが?だからこそ、気配に敏感にならねばならぬとこうだな」
「うん、ごめんね。わかってるのに聞いたのかな、俺。おかしいな……なんで聞いたんだろう、俺」
少し小憎たらしい感じで笑うサシャの隣を歩くリンスは、こうして自分に向けない顔ばかり皆が知るからこの男の評価が一向に悪くならないのだと、いや良くなる一方なのだなとこういう時にしみじみ感じる。
不敬上等の超弩級のブラコンの顔なんて、王家の人間とギャロワ侯爵家、そしてリンスくらいしか把握していない。
対外的に見せる彼の顔はの顔だ。
超弩級のブラコンとはかけ離れている。
さすがは社交界の白薔薇デボラの息子。人様に見せる顔は上手に取り繕っている。

「黙っていれば、祝日前後はモテまくりで大変なのにねえ……いや、モテてるけど、恐ろしいほど冷たい沈黙で声をかけられないタイプだったな」

ギャロワ侯爵家という大きな家名を背負うサシャは、カナメの外面に付けられたクールビューティーなんて目じゃないほどクールだった。
言ってしまえば冷たいとも言われるそれは、人を遠ざけた。
必要であれば会話もするし、人と接し円滑に生きるように相手を使。それでも決して一線を越えさせない。
友情を育んだなんて、正しく言えるのはリンスだけではないだろうか。
確かに、カナメの婚約に際して長い時間をかけ彼は人と協力をし成し遂げたことはあるけれど、それでも彼が友人だと言いこんな姿を見せるのはリンスだけである。
「何で俺?」
思わず呟いてしまうほどだ。
そのつぶやきを拾ったサシャは
「それは、リンスが信じられないほどに普通であるからだろうな。私はそう、常に思っている。だからこそ、お前が友人なんだよ」
「普通って……」
怪訝そうな顔をするリンスにサシャは立ち止まる。
ここは王城の一角だ。
父と共に登城した幼い頃もあれば、カナメとともに登城したことも数えきれない。
いくらこの国きっての家とはいえ、これは稀有なことだ。
今日も美しく整えられた木々を横目にサシャは
「皆──────、私が知る限り、皆は、私の後ろを気にしてやまない。それを気にしている時期はとうにすぎた。だけれども、気にしなくていい関係というのは、やはり私も心地がいいんだ。リンスはいつだって、私個人を利用していただろう?」
「言葉を選んで!途中までは最高にいい感じだったのに!利用ってそこね、他の言葉にしようよ!!」
「はは。でも、それが私はとても気持ちがいいんだ。だから、友人としてなくてはならない相手だと思うのだろう?」
見えない苦労を考えるリンスは、そんな言葉も要らなければ態度を望んでもいないサシャを思い
「じゃあ、今日も利用させてサシャ!資料の確認手伝って。量ありすぎ、不安になりすぎ、心配で頭弾けそうだ」
「友人の頭が木っ端微塵になるのは困るな……手伝おう」
「いや、木っ端微塵とは言ってないんですけど……?」
「そうだ。ついでにカナメのプレゼントの相談に乗ってほしい。タイのデザインを50まで絞り込んだんだが」
「え……冗談?」

リンスがこの日より三日間──それ以上になるとオーダーメイドで頼むには時間がなくなるからだ──、本当にタイのデザイン50のうちから選ぶ作業を手伝わされる羽目になる。
デザインの豊富さとセンスの良さに感動したリンスも、この50うちの一つから選び、可愛い後輩へ送ったとかなんとか。
さて、今年の『シュピーラド婚礼の祝日』も婚約者と共に過ごせないことが確実のマチアス殿下といえば──────


「カナメ、今年も同じだと思っている」
夕食を終えたマチアスとカナメは、マチアスの部屋にいる。
二人でテーブルを挟んで向かいに座っていた。
当然二人の従者も同じ部屋で、マチアスとカナメに出す茶の準備をしている。
「毎年同じだろう。今年は特に、先に渡しておきたいと思って」
「ん?」
従者二人は何も知らないようで、顔を見合わせ目で会話をした。
(何をでしょうか?)
(さあ?)
内容はこんなところだろう。
「嫌な予感は当たると思っている」
「ん?」
「先日の復讐があると見越して」
「え?誰に復讐されるの!?王子殿下だよ!!?どんな不敬働く気なの、相手!というか、アル、黙ってやられていいの?」
「甘んじて受ける……それが一番平和だと思った」
「え、どんな相手……怖くて聞きたくないからいいけど、命も尊厳も守れるならいいと思う……一応王子殿下だからそこは本当大切にしてね」
「ああ」
二人の従者は小さく頷いた。
マチアスに復讐するのはサシャだ。そう気がついた。

この二人が学園最後の年に寮に入ったのはサシャがそれを進めたから。
その際サシャは「ただし、週末は我が家に、、帰ってくるように」といい含め、を即潰しにかかり、何も考えていないカナメはそれを了承。こうして週末デートは完全に消えたのだ。
しかし不器用だからと二人きりにならない限りは常に友人として最低限の付き合いを徹底してきたマチアスは、こうして堂々と婚約者として発表したのだからという思いもあって先日少し謀ったのだ。
週末サシャが登城するように、謀ったのだ。
それはもう内に怒りの炎を燃え上がらせたサシャ。しかしすぐにそれを実行しなかった。
その時マチアスは思ったのだ。
あ、これはきっと『シュピーラド婚礼の祝日』前後も潰しにかかるぞ。と。
そうしてその通りになると徐々に感じ始めたマチアスは、先に『シュピーラド婚礼の祝日』のプレゼントをカナメに渡すことにしたのだ。
いつから復讐──カナメに決して会わせない──が始まるか分からないからこその今である。

全く恐ろしい男だ。この超弩級のブラコンは。
弟の婚約者を……いや、王族をなんだと思っているのだろうか。

「これを」
そう言ってパッと取り出したのはあの時、カナメが婚約式で手にしていた国花シャングラス。
材質は蛍鉱石けいこうせきという希少な水晶──精霊がこれに魔力を込めると光る、不思議な水晶だ──で、薄く水色に色づいた、これはきっとその中でも特に透明度の高いものだ。
これほどの透明度で、手のひらサイズの花を作るために必要とする蛍鉱石。カナメは頭に金額を思い浮かべ、目眩を起こした。
「驚かしてすまない……いや、今年のプレゼントはこれにしようと早い段階で決めていたから……まさかカナメにあんながおきるとは、そのわざとではないんだ」
「今年の『シュピーラド婚礼の祝日』にシャングラスが溢れている理由を思い出して目眩を起こしたんじゃなくて、金額を想像しただけです!」
「ああ、そっちか。一応これでも俺は王子で。しかしカナメも一応名家の次男だからその動く金額でどうのというのは」
「そんなの生まれとかより人の性格ですけど!」
「……すまない」
美しい黄金の葉と茎、そして透明度の高い大きな蛍鉱石をいくつも使って作られたのだろう一枚一枚花びらを組み合わせ作られた花。
手でそっと黄金の茎を握ったカナメは、香りまで溢れそうだと思う。それほど実によくできていた。
実物を幾度も見たことがあるからこそ、カナメは分かる。これは本当に限りなく本物に近い出来であると。
「カナメには精霊たちがいるだろう?頼まなくてもそれを光り輝かせてくれるだろうと思い、思い切って依頼を出したんだ」
「は!?王子殿下直々に依頼!?何に?」
「色々とあって凄腕のハンターの連絡先を知っていてな。で頼んだんだ」
「……交換条件で頼む王族がいますか?」
「ここに。いや、何も困るようなものではない。彼の探し物をもし、俺が見つけたらそれを贈るというだけだ。王族に、カナメに恥じるような条件ではない」
「そう」
随分前からこれを作ろうと決めたのだろうな、とカナメは思う。
こんなにもすごい蛍鉱石を探させるなんて、ハンターの能力も素晴らしいが時間だってひどくかかっただろうから。

「俺の全ての思いを込めたつもりだ」

真面目にそう言って真っ直ぐに見つめてくるマチアスにカナメは恥ずかしそうに笑って、「一生大切にするね」と言って立ち上がりテーブルに手をつき身を乗り出すと、自称不器用な王子様にキスを送った。
二人が二人きりで『シュピーラド婚礼の祝日』を過ごせる日が来るのか、それは全く見通しが立っていないけれど
(祝日ではなくとも、もうそばにいてくれれば、俺はいつだって思いを伝えることができるのだから)
サシャに一生邪魔されてもいいか、なんてマチアスは思う。

だってサシャの一番、もしかしたら命よりも大切なカナメをやっと婚約者として人に見せびらかすことができるのだから。
それくらいは、甘んじて受けようかなんて、人並み以上に独占欲があるであろうマチアスは思ったのである。







2024年、フライングのバレンタイデー小説でございました。
今回はどちらの設定でもいいように書いたので、あれこれ説明を挟むようなところもあり長くなってしまいました…無念。
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この連載の「マチアスが王太子になったら」という、もしもの話『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』を連載中です。
もしもの話にもお付き合いいただけたら嬉しいです。

こちらの作品と同一世界の話一覧。

■ トリベール国
『セーリオ様の祝福』
セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り
bounty
■ ハミギャ国
運命なんて要らない
■ ピエニ国
シュピーラドの恋情

どの作品も独立しています。また、作品によって時代が異なる場合があります。
仮に他の作品のキャラが出張しても、元の作品がわからなくても問題がないように書いています。
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