運命なんて要らない

あこ

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ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)

06

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離宮での“告白”から、ますます「ノア大好き!」になったアーロンと、アーロンほど愛してるとか好きとか言わないが同じ様にアーロンを愛しているノアは、ますます良い関係の婚約者として過ごしていた。
アンジェリカ曰く
──────二人の場合は婚約者というよりも、相思相愛の恋人っていう表現の方がお似合いで可愛らしくて良いと思うわ。
らしいのだけれど、二人はアンジェリカが言う『相思相愛』の部分は嬉しいと思えど、『婚約者』という言葉の方が『恋人』よりも好ましいと思っていた。
この二人の婚約は、“王家と公爵家との間で”だと知らしめる言葉である婚約者。
他の誰もこの婚約に文句は言えないし、そして邪魔も出来ない。
誰にも邪魔されずに一緒にいる事が出来るという立場を、二人は周りが思う以上に愛していたのだ。
最初がどうであれ、育んだものが大切である。そう二人は思い大切にしていた。



「ノア、すごく似合ってるよ!」
「アーロン様もとっても似合ってます」

城で互いを褒め合う。
二人は先日届いたばかりの、あとひと月もすれば入学する制服を身に纏っている。
学園は毎年『辺境の雪が溶けてすぐに王都に向かって学園に到着するだろう日』を予測しそれに合わせて入学式を行う様にしており、王都では新緑が目に入る様になる七彩月ななさいのつきの頭というのがほぼ毎年の事だ。
では、雪に閉じ込められる前に王都に出て来れば良いと王家が言い出しその様にしていたらしいのだが、全ての貴族がそれを可能にする様ながあるとは限らない。
なので今の国になってこの学園を作った際、この様に定められた。
タウンハウスがなく、同居させてくれる親族が王都にいない場合なども考え、彼らを受け入れるための寮も作った。
未来ある子供たちのために、と初代が必死になって推し進めたという。

ともかく、その入学を前に王城に制服が届いたのだ。
──────

ランベールはそれはもう納得いかなかったのだが、セキュリティの観点からそうなったのだという。
全く、彼は全く納得していない。だってアンジェリカは──仲が悪かったとしても──
「アーロン王子殿下殿がノアの制服姿を見たかったんでしょうねぇ」とにこやかに笑って国王ゲルトに文句を言ったというので、なのだろう。

この制服は他の決まりと同様に初代国王が、やれ爵位でドレスがどうだとか、平民だからなんだとか、そういうを考えて定めたものだ。
爵位で変わる事もない皆同じデザインの制服は、それでも実は爵位の差で多少生地が違ったりもする。そういうところは爵位にかかるプライドなのだろう。それまで咎めようとは初代国王も、そしてそれ以降の人間も思わなかった。
貴族とは、なのである。
なのでアーロンとノアが着用する制服の生地はさすが王家、らしいものとなっていた。

学園は王立。基本的に貴族が通う学園だが、優秀な平民も多く入学する。
貴族だけの学園よりも成績が求められ、それは学園生ならば誰でも同じだ。
平民なんかと共に勉強したくない、という身分至上主義のものは私立トロツ学院という貴族が入学資格を持つ学院に入る。
しかし先も言った様に王立の学園は親の爵位よりも成績を優先するので、こちらに入学し卒業した方がは守られるのだが、は今も私立トロツ学院へ通った。
ちなみに、アーロンとノアが通う学園は王立バシリス学園という名前である。

さて、私立トロツ学院は服装は自由なのだが、王立バシリス学園といえば先の通り制服着用だ。
男子の白いシャツと襟、クラバットは小さく控えめのもの。クリーム色のウエストコートに紺色のコート。パンタロンは焦茶。靴は自由。
これ以外に魔法科であるノアは、黒に近い赤のフード付きのローブも制服として指定されている。このローブは魔法科の生徒が着用出来るものだが、常に着用が義務付けられているわけではなく必要な時だけ着用すれば良い物である。だがしかし、魔法科に入学する生徒のほとんどが「魔法大好き!」であるためほとんどの生徒が常に着用しているし、魔法科に憧れる生徒にとってはほしいアイテムの一つでもあった。
また魔法科の場合はこのマントに魔法や精霊魔法に関する装飾品を付ける事も出来、生徒によっては魔石のブローチをつけたりもする。
この『魔法や精霊魔法に関する装飾品』であればローブにつけても構わない、というのを魔法科の生徒は小さなおしゃれも楽しんでいるとか。これがおしゃれ目的の装飾品であれば即刻取り上げられるのだが、さすが魔法科、そのあたりは抜かりはなく卒業時にはローブがになっている生徒もいるとか、なんとか。
この『魔法や精霊魔法に関する装飾品』以外でも三年次に魔法科は細分化され、精霊科と魔術科、そして両方を深く学ぶ魔法科最難関コースの精霊魔法学科と別れる際、科によって勲章の様な形のバッジを付ける。
魔法科以外では騎士科の生徒も在校中の学園外学習──騎士やハンターなどに混ざり簡単な魔獣間引きや救助活動などをする──の成績などでバッジを受け取る事もあり、彼らはそれを制服のコートにつけた。
また、女子の制服は貴族息女としては異例かもしれないが、男子生徒のパンタロンを腰のあたりで膨らんでいる形のスカートに、そして襟と白いクラバットをレースとフリルのつけ襟に変えただけである。
女子生徒が騎士科に所属する場合も他の女子生徒と同じ制服だが、実技授業の際は男子の騎士科生徒と同じ服装──騎士となる訓練なのでそれ相応の服──に着替えた。

また全ての科は男女ともに入学が出来る。
つまり騎士科へ入学する女子がいたり、今のところいないが淑女科に男子が入学しても良いと言う事だ。
ただ騎士科に女子が入学するのは本当に大変な事で、心無い事を言われる事もあるが、良識のある生徒や同じく騎士科の生徒には尊敬の対象にもなった。
騎士科は名の通り、騎士になるための科。女子だ男子だなんて関係なく授業のカリキュラムが組まれ、男子生徒もする事だってある。
どうしても体力や筋力で男子に差をつけられる事が多い女子にとって、男子さえついていけないとリタイアする騎士科に入るのは大変な事なのだ。

そんな騎士科に前代未聞の人物が入学した年があった。
この国のエレオノーレ・ギーツェンだ。

当時の彼女は王子妃教育を最短で終了させ──優秀だと言われているアンジェリカも、これには全く敵わなかった──王妃教育を好成績で進めている才女、なおかつ入学前に完璧な淑女と言われて淑女のための教育はもう必要がない。そういう状態でここまで頑張っているのだからと「入学のをあげる事は出来る。試験を受ける認めよう」とこれまでのがんばりに対してのという形で念願である騎士科への入学試験を受けた。
許可を得たエレオノーレは「試験に受かれば騎士科に入って良いのか」の問い、それに「応」と応じた王家。
どうせ入学出来ないだろうなと王家判断しての許可だったが、そんな王家を嘲笑うかの様に試験を受けたエレオノーレはを果たし、その上彼女は三年次騎士科が細分化される際に強者。
彼女は幼い頃からずっと、本気で魔法騎士を目指し、諦めずに自分を鍛えていたのである。
その本気さを本当の意味で知るのは、当時婚約者であった国王ゲルトと幼馴染ランベールにシャルロットノアの両親であるミューバリ公爵夫妻だった。
慣例通り領政科に入学せざるを得ないゲルトの代わりに、ランベールは自主的に急遽騎士科──ランベールは「エレオノーレがしでかすに違いない。きっと、何かをしでかす」とだった──に、ランベールの代わりにシャルロットが領政科に入学する事態にも発展したが、ランベールはゲルトの学友として既に必要な多くの事を学んでいたし、シャルロットも勉強が好きな方でよく勉強しエレオノーレと共に完璧な淑女と言われていたので領政科入学に問題もなく、でエレオノーレは軍事騎士科の次席──主席はランベールが“気合と根性”で取った──として卒業したのだ。本当に前代未聞である。
こんな王妃は2度とと言われているが、王家は「2度と」と思っているとか。
けれども彼女のおかげで騎士を目指す女子が増え、エレオノーレは今も女性騎士憧れの人物だ。

──────学園の事が長くなったが、話を戻そう。

ローブも羽織ったノアは、嬉しそうにローブの裾を握っている。
ノアにとってもこのローブは憧れなのだ。
けれど一瞬、この笑顔がふと陰った。
アーロンはそれを見つけて
「どうかした?」
聞けばノアは少しだけ困った様な顔で
「誰のせいでもないけど、マリーはやっぱり領政科に行かなきゃだめかなあって思っただけ。マリーも好きだから、魔法……というか精霊。マリーは精霊が大好きでしょ?きっと学びたいだろうなって思って」
ミューバリ公爵家をノアが継ぐのであればノアが領政科だったかもしれないけれど、今その役目はマリアンヌが担う事になっている。
自分と同じ様に精霊が好きな妹はきっと魔法科に行きたかったのではないかと、そう思う兄であるノアは、自分だけが好きな科へ入学する事に罪悪感があるのだ。
「マリーはノアにそんな気持ちになってほしくてミューバリ公爵家を継ぐと宣言をしたわけじゃないよ。だからノアがあんまりにもなると、マリーこそ罪悪感が生まれちゃうよ」
「わかっているんだけど……」
「じゃあ、マリーが聖霊について聞いた時に、なんでも答えられるほど勉強して詳しくなったらどうかな?」
ノアがローブをキツく握る手の上にアーロンが手を重ねる。
「一緒に、たくさん、楽しく勉強しよう。ノアと僕ならそれが出来るよ」
「うん」
マリアンヌには自分が魔法を教えよう、誰よりも楽しく詳しく。
そう決めたノアは学園生活に思いを馳せる。

しかし、マリアンヌは魔法科に入学する事が叶った。
なぜなら、が領政科を、しかも各科の波いる優秀者を抑えて学園全体での主席成績を収め卒業を果たしただからであるのだが──────それはまだ後の事。
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