運命なんて要らない

あこ

文字の大きさ
上 下
17 / 44
ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)

01

しおりを挟む
「彼が、ノア。お前の婚約者だよ」
そう言って幼いアーロン──────この国の第二王子殿下である・ブスケに国王であるゲルトが紹介したのは、ミューバリ公爵家・ヴィヨン。
シャンパンゴールドの髪の毛と紫の目を持つ、可愛らしい少年だった。
ノアはよく分かっていない様子のまま、父ランベールの手をギュッと握ってアーロンを“ぽんやり”見つめている。
「彼は、この国始まって以来のものをあの身に受けている。お前が守り助けてやりなさい」
「どう言う事ですか?」
「そのうち分かるだろう。でもね、それとは関係なく、婚約者には誠意を持っていなければらないよ。いいかい?お前も彼も、お互いに初対面で婚約者なんて言われても、『なんのことだろう?』と思っているだろうね。だからこそ、真摯に付き合い、お互いを知り、愛を育まなければならない」
「できますか?」
不安そうなアーロンに国王であり父でもあるゲルトは、小さなアーロンの頭を撫でて
「もしどうしても出来ないのであれば、円満に解消しよう。けれども、それが出来るのは相手と、そしてであると忘れてはいけないよ」
アーロンはノアと目があって、にっこりと笑う。
それは自分を鼓舞するようなものであった。
ノアはそんな笑顔を見て、やっぱり何も分からない様子だけれどアーロンにニッコリと微笑んでみせた。



出会った時は何も知らない二人だったし、どちらかといえば遊び相手のような、そんな仲であった。
机を並べて勉強をしたり、二人でダンスのレッスンを受けたりもしたけれど、それでもでもやはりまだ遊び相手の気持ちが強かった。
けれども少しずつ成長をしている中でまずアーロンが、ノアが男の自分の婚約者になった理由の一つを知りその気持ちを変えていったのである。

──────ノアが、ぼくの子供を産む?

寝耳に水の言葉に、彼に王子教育を施している教師が頷いた。
「この国では加護や祝福があるのは、王子殿下もご存じでいらっしゃいますね?」
「はい」
年長者で教育者であるこの男に、アーロンは彼なりに敬意を払い接している。
少し年上の兄はどこか“偉そう”にしているらしいが、アーロンは兄のその様子に対し「どうしてだろう?先生なのに」と思っていた。
「光の精霊が愛してくれる事──────つまり祝福を得ている事。闇の精霊から大なり小なり加護をもらっている事。この二つの要素があれば同性同士でも子をなす事が出来るのです」
「……ノアは、なんですか?」
この教育者はノアの教育者でもあるので、だからなのかどこか誇らしげに
「ええ。ノア様は光の精霊から祝福を得ていて、かつ光と闇の精霊から加護を受けているようですから、問題はありません。普通は夫婦ふたりで条件を満たす事でそうしている場合が多いのですが、ノア様はお一人で条件を満たしておりますから」
「男なのに……なんですか?女性でも出産は命懸けと聞きます」
心配そうな顔で詰め寄ってくるアーロンに、教育係の男は少し困った様子で言った。
「それは、陛下や王妃殿下からお聞きするのがいいでしょう」
素直にそれを実行したアーロンは、ノアだからこそ、いや男であるからこその危険と負担に幼いながら愕然としたのだ。
──────そんなにも大変なことを、ぼくはノアにさせるんだ。
瞬間、自分との婚約を解消して貰えばノアはもっとが叶うのではないか、と思ったけれどアーロンは小さく何度も首を振ってそれを追い出した。
誰かを妻に迎えても、誰かを婿に迎えても、その相手が自分ではないと思うとアーロンの心がキュッと痛む。
それは婚約者だからと大切にしていた気持ちがいつの間にか、彼の中でノアが好きという気持ちに変化したのだと幼いアーロンが気がついた瞬間であった。

それからアーロンは、ノアに自分の気持ちを伝えるようにした。
幼くても、自分の中に見つけた感情をしまうよりも伝えるほうが大切であるのだと、両親が言った事を彼は信じているから。
国王である父、王妃である母、二人がアーロンにそう教えてくれた。仲の良い二人が言うのだ、間違いないと彼は行動に移した。
相手を思う気持ちを伝える事は悪い事でも恥ずかしい事でもない。黙っていて伝わる気持ちなんてひとつもない。だからちゃんと伝えなければならないと。
両親を尊敬する幼い素直な第二王子は、それをそのまま実行したまで。
そして言えば言うほどノアは恥ずかしそうにする事が増えて、そしてその後のはにかんだ顔にアーロンの心は温かく、そして幸せになれた。
相手の笑顔で自分がこんなにも幸せになれる。その感動はアーロンに深く刻まれる事になった。

しかし自分の気持ちを自覚し、大きくしていく中でアーロンは何度も思った。
好きな子を危険に晒すかもしれないと言う不安、そしてノアがもし死んでしまったらどうしようと言う恐怖。  
ノアとの子が欲しいけど、ノアが危険になるならいらない。でも、産んでもらわないといけない。 という葛藤。
婚約を白紙に、解消に持っていけばノアにとって一番いいのではないかと悩んでは、そんな事は出来ないと言う気持ちが心を乱す。
その気持ちで思わずアーロンは言った。
勉強の合間に隠れ鬼で遊んでいた時、大きな木の後ろに隠れたノアを見つけたその時に。
「ノア、ごめんね」
突然言われたノアは一瞬分からなかったようだけれど、ノアは笑った。
「アーロンさまが好きだから、いいよ」
この瞬間、アーロンは決めたのだ。
自分は大好きなノアをずっと守って、ずっとずっと愛していくのだと。そしてこうやってキラキラした笑顔で、いつまでも好きだと言ってもらえる人になろうとも。
見つけたアーロンと見つかったノアは、手を繋いで教師の待つ部屋に戻る。
どこか関係が変わったと分かる様子の二人に、城内の使用人たちまでどこか優しい顔をしていた。
二人についていた従者が部屋の扉を開けようとした瞬間、アーロンははたと思い出した顔でノアに聞く。
「そういえば、ぼく、ノアに好きって言われた!」
「あれ?ぼく、初めて言ったの?ぼく、アーロンさまが好きってのに……」
不思議そうな顔のノアは「あ!」と声を上げた。

には言ってたからだ!だからぼく、アーロンさまにも言っていると思ってた。エル、『アーロンさまが優しくしてくれてまもってくれて、好きになっちゃった』って、話してたんだ」

この瞬間、幼いアーロンはまだ見ぬランドをライバルとした。
自分よりも先に自分への好意を聞いた相手を、許せないと思ったのだ。
これがハミギャ国第二王子殿下であるアーロン、初めての『嫉妬』である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の死ぬ前に

ゆるり
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

恋人が本命の相手と結婚するので自殺したら、いつの間にか異世界にいました。

いちの瀬
BL
「 結婚するんだ。」 残されたのは、その言葉といつの間にか握らせられていた手切れ金の紙だけだった。

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。 見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。 暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!? 山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕! 18禁要素がある話は※で表します。

人違いの婚約破棄って・・バカなのか?

相沢京
BL
婚約披露パーティーで始まった婚約破棄。だけど、相手が違うことに気付いていない。 ドヤ顔で叫んでるのは第一王子そして隣にいるのは男爵令嬢。 婚約破棄されているのはオレの姉で公爵令嬢だ。 そしてオレは、王子の正真正銘の婚約者だったりするのだが・・ 何で姉上が婚約破棄されてんだ? あ、ヤバい!姉上がキレそうだ・・ 鬼姫と呼ばれている姉上にケンカを売るなんて正気の沙汰だとは思えない。 ある意味、尊敬するよ王子・・ その後、ひと悶着あって陛下が来られたのはいいんだけど・・ 「えっ!何それ・・・話が違うっ!」 災難はオレに降りかかってくるのだった・・・ ***************************** 誤字報告ありがとうございます。 BL要素は少なめです。最初は全然ないです。それでもよろしかったらどうぞお楽しみください。(^^♪ ***************************** ただ今、番外編進行中です。幸せだった二人の間に親善大使でやってきた王女が・・・ 番外編、完結しました。 只今、アリアの観察日記を更新中。アリアのアランの溺愛ぶりが・・ 番外編2、隣国のクソ公爵が子供たちを巻き込んでクーデターをもくろみます。 **************************** 第8回BL大賞で、奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様ありがとうございました(≧▽≦)

処理中です...