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ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)
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「彼が、ノア。お前の婚約者だよ」
そう言って幼いアーロン──────この国の第二王子殿下であるアーロン・ブスケに国王であるゲルトが紹介したのは、ミューバリ公爵家ノア・ヴィヨン。
シャンパンゴールドの髪の毛と紫の目を持つ、可愛らしい少年だった。
ノアはよく分かっていない様子のまま、父ランベールの手をギュッと握ってアーロンを“ぽんやり”見つめている。
「彼は、この国始まって以来のものをあの身に受けている。お前が守り助けてやりなさい」
「どう言う事ですか?」
「そのうち分かるだろう。でもね、それとは関係なく、婚約者には誠意を持っていなければらないよ。いいかい?お前も彼も、お互いに初対面で婚約者なんて言われても、『なんのことだろう?』と思っているだろうね。だからこそ、真摯に付き合い、お互いを知り、愛を育まなければならない」
「できますか?」
不安そうなアーロンに国王であり父でもあるゲルトは、小さなアーロンの頭を撫でて
「もしどうしても出来ないのであれば、円満に解消しよう。けれども、それが出来るのは相手と寄り添おうとしたからこそ、そして真摯に付き合っていたからこそであると忘れてはいけないよ」
アーロンはノアと目があって、にっこりと笑う。
それは自分を鼓舞するようなものであった。
ノアはそんな笑顔を見て、やっぱり何も分からない様子だけれどアーロンにニッコリと微笑んでみせた。
出会った時は何も知らない二人だったし、どちらかといえば遊び相手のような、そんな仲であった。
机を並べて勉強をしたり、二人でダンスのレッスンを受けたりもしたけれど、それでもでもやはりまだ遊び相手の気持ちが強かった。
けれども少しずつ成長をしている中でまずアーロンが、ノアが男の自分の婚約者になった理由の一つを知りその気持ちを変えていったのである。
──────ノアが、ぼくの子供を産む?
寝耳に水の言葉に、彼に王子教育を施している教師が頷いた。
「この国では加護や祝福があるのは、王子殿下もご存じでいらっしゃいますね?」
「はい」
年長者で教育者であるこの男に、アーロンは彼なりに敬意を払い接している。
少し年上の兄はどこか“偉そう”にしているらしいが、アーロンは兄のその様子に対し「どうしてだろう?先生なのに」と思っていた。
「光の精霊が愛してくれる事──────つまり祝福を得ている事。闇の精霊から大なり小なり加護をもらっている事。この二つの要素があれば同性同士でも子をなす事が出来るのです」
「……ノアは、そうなんですか?」
この教育者はノアの教育者でもあるので、だからなのかどこか誇らしげに
「ええ。ノア様は光の精霊から祝福を得ていて、かつ光と闇の精霊から加護を受けているようですから、問題はありません。普通は夫婦ふたりで条件を満たす事でそうしている場合が多いのですが、ノア様はお一人で条件を満たしておりますから」
「男なのに……だいじょうぶなんですか?女性でも出産は命懸けと聞きます」
心配そうな顔で詰め寄ってくるアーロンに、教育係の男は少し困った様子で言った。
「それは、陛下や王妃殿下からお聞きするのがいいでしょう」
素直にそれを実行したアーロンは、ノアだからこそ、いや男であるからこその危険と負担に幼いながら愕然としたのだ。
──────そんなにも大変なことを、ぼくはノアにさせるんだ。
瞬間、自分との婚約を解消して貰えばノアはもっと普通の生活が叶うのではないか、と思ったけれどアーロンは小さく何度も首を振ってそれを追い出した。
誰かを妻に迎えても、誰かを婿に迎えても、その相手が自分ではないと思うとアーロンの心がキュッと痛む。
それは婚約者だからと大切にしていた気持ちがいつの間にか、彼の中でノアが好きという気持ちに変化したのだと幼いアーロンが気がついた瞬間であった。
それからアーロンは、ノアに自分の気持ちを伝えるようにした。
幼くても、自分の中に見つけた感情をしまうよりも伝えるほうが大切であるのだと、両親が言った事を彼は信じているから。
国王である父、王妃である母、二人がアーロンにそう教えてくれた。仲の良い二人が言うのだ、間違いないと彼は行動に移した。
相手を思う気持ちを伝える事は悪い事でも恥ずかしい事でもない。黙っていて伝わる気持ちなんてひとつもない。だからちゃんと伝えなければならないと。
両親を尊敬する幼い素直な第二王子は、それをそのまま実行したまで。
そして言えば言うほどノアは恥ずかしそうにする事が増えて、そしてその後のはにかんだ顔にアーロンの心は温かく、そして幸せになれた。
相手の笑顔で自分がこんなにも幸せになれる。その感動はアーロンに深く刻まれる事になった。
しかし自分の気持ちを自覚し、大きくしていく中でアーロンは何度も思った。
好きな子を危険に晒すかもしれないと言う不安、そしてノアがもし死んでしまったらどうしようと言う恐怖。
ノアとの子が欲しいけど、ノアが危険になるならいらない。でも、産んでもらわないといけない。 という葛藤。
婚約を白紙に、解消に持っていけばノアにとって一番いいのではないかと悩んでは、そんな事は出来ないと言う気持ちが心を乱す。
その気持ちで思わずアーロンは言った。
勉強の合間に隠れ鬼で遊んでいた時、大きな木の後ろに隠れたノアを見つけたその時に。
「ノア、ごめんね」
突然言われたノアは一瞬分からなかったようだけれど、ノアは笑った。
「アーロンさまが好きだから、いいよ」
この瞬間、アーロンは決めたのだ。
自分は大好きなノアをずっと守って、ずっとずっと愛していくのだと。そしてこうやってキラキラした笑顔で、いつまでも好きだと言ってもらえる人になろうとも。
見つけたアーロンと見つかったノアは、手を繋いで教師の待つ部屋に戻る。
どこか関係が変わったと分かる様子の二人に、城内の使用人たちまでどこか優しい顔をしていた。
二人についていた従者が部屋の扉を開けようとした瞬間、アーロンははたと思い出した顔でノアに聞く。
「そういえば、ぼく、初めてノアに好きって言われた!」
「あれ?ぼく、初めて言ったの?ぼく、アーロンさまが好きって言ってた気がするのに……」
不思議そうな顔のノアは「あ!」と声を上げた。
「エルには言ってたからだ!だからぼく、アーロンさまにも言っていると思ってた。エルには、『アーロンさまが優しくしてくれてまもってくれて、好きになっちゃった』って、話してたんだ」
この瞬間、幼いアーロンはまだ見ぬエルランドをライバルとした。
自分よりも先に自分への好意を聞いた相手を、許せないと思ったのだ。
これがハミギャ国第二王子殿下であるアーロン、初めての『嫉妬』である。
そう言って幼いアーロン──────この国の第二王子殿下であるアーロン・ブスケに国王であるゲルトが紹介したのは、ミューバリ公爵家ノア・ヴィヨン。
シャンパンゴールドの髪の毛と紫の目を持つ、可愛らしい少年だった。
ノアはよく分かっていない様子のまま、父ランベールの手をギュッと握ってアーロンを“ぽんやり”見つめている。
「彼は、この国始まって以来のものをあの身に受けている。お前が守り助けてやりなさい」
「どう言う事ですか?」
「そのうち分かるだろう。でもね、それとは関係なく、婚約者には誠意を持っていなければらないよ。いいかい?お前も彼も、お互いに初対面で婚約者なんて言われても、『なんのことだろう?』と思っているだろうね。だからこそ、真摯に付き合い、お互いを知り、愛を育まなければならない」
「できますか?」
不安そうなアーロンに国王であり父でもあるゲルトは、小さなアーロンの頭を撫でて
「もしどうしても出来ないのであれば、円満に解消しよう。けれども、それが出来るのは相手と寄り添おうとしたからこそ、そして真摯に付き合っていたからこそであると忘れてはいけないよ」
アーロンはノアと目があって、にっこりと笑う。
それは自分を鼓舞するようなものであった。
ノアはそんな笑顔を見て、やっぱり何も分からない様子だけれどアーロンにニッコリと微笑んでみせた。
出会った時は何も知らない二人だったし、どちらかといえば遊び相手のような、そんな仲であった。
机を並べて勉強をしたり、二人でダンスのレッスンを受けたりもしたけれど、それでもでもやはりまだ遊び相手の気持ちが強かった。
けれども少しずつ成長をしている中でまずアーロンが、ノアが男の自分の婚約者になった理由の一つを知りその気持ちを変えていったのである。
──────ノアが、ぼくの子供を産む?
寝耳に水の言葉に、彼に王子教育を施している教師が頷いた。
「この国では加護や祝福があるのは、王子殿下もご存じでいらっしゃいますね?」
「はい」
年長者で教育者であるこの男に、アーロンは彼なりに敬意を払い接している。
少し年上の兄はどこか“偉そう”にしているらしいが、アーロンは兄のその様子に対し「どうしてだろう?先生なのに」と思っていた。
「光の精霊が愛してくれる事──────つまり祝福を得ている事。闇の精霊から大なり小なり加護をもらっている事。この二つの要素があれば同性同士でも子をなす事が出来るのです」
「……ノアは、そうなんですか?」
この教育者はノアの教育者でもあるので、だからなのかどこか誇らしげに
「ええ。ノア様は光の精霊から祝福を得ていて、かつ光と闇の精霊から加護を受けているようですから、問題はありません。普通は夫婦ふたりで条件を満たす事でそうしている場合が多いのですが、ノア様はお一人で条件を満たしておりますから」
「男なのに……だいじょうぶなんですか?女性でも出産は命懸けと聞きます」
心配そうな顔で詰め寄ってくるアーロンに、教育係の男は少し困った様子で言った。
「それは、陛下や王妃殿下からお聞きするのがいいでしょう」
素直にそれを実行したアーロンは、ノアだからこそ、いや男であるからこその危険と負担に幼いながら愕然としたのだ。
──────そんなにも大変なことを、ぼくはノアにさせるんだ。
瞬間、自分との婚約を解消して貰えばノアはもっと普通の生活が叶うのではないか、と思ったけれどアーロンは小さく何度も首を振ってそれを追い出した。
誰かを妻に迎えても、誰かを婿に迎えても、その相手が自分ではないと思うとアーロンの心がキュッと痛む。
それは婚約者だからと大切にしていた気持ちがいつの間にか、彼の中でノアが好きという気持ちに変化したのだと幼いアーロンが気がついた瞬間であった。
それからアーロンは、ノアに自分の気持ちを伝えるようにした。
幼くても、自分の中に見つけた感情をしまうよりも伝えるほうが大切であるのだと、両親が言った事を彼は信じているから。
国王である父、王妃である母、二人がアーロンにそう教えてくれた。仲の良い二人が言うのだ、間違いないと彼は行動に移した。
相手を思う気持ちを伝える事は悪い事でも恥ずかしい事でもない。黙っていて伝わる気持ちなんてひとつもない。だからちゃんと伝えなければならないと。
両親を尊敬する幼い素直な第二王子は、それをそのまま実行したまで。
そして言えば言うほどノアは恥ずかしそうにする事が増えて、そしてその後のはにかんだ顔にアーロンの心は温かく、そして幸せになれた。
相手の笑顔で自分がこんなにも幸せになれる。その感動はアーロンに深く刻まれる事になった。
しかし自分の気持ちを自覚し、大きくしていく中でアーロンは何度も思った。
好きな子を危険に晒すかもしれないと言う不安、そしてノアがもし死んでしまったらどうしようと言う恐怖。
ノアとの子が欲しいけど、ノアが危険になるならいらない。でも、産んでもらわないといけない。 という葛藤。
婚約を白紙に、解消に持っていけばノアにとって一番いいのではないかと悩んでは、そんな事は出来ないと言う気持ちが心を乱す。
その気持ちで思わずアーロンは言った。
勉強の合間に隠れ鬼で遊んでいた時、大きな木の後ろに隠れたノアを見つけたその時に。
「ノア、ごめんね」
突然言われたノアは一瞬分からなかったようだけれど、ノアは笑った。
「アーロンさまが好きだから、いいよ」
この瞬間、アーロンは決めたのだ。
自分は大好きなノアをずっと守って、ずっとずっと愛していくのだと。そしてこうやってキラキラした笑顔で、いつまでも好きだと言ってもらえる人になろうとも。
見つけたアーロンと見つかったノアは、手を繋いで教師の待つ部屋に戻る。
どこか関係が変わったと分かる様子の二人に、城内の使用人たちまでどこか優しい顔をしていた。
二人についていた従者が部屋の扉を開けようとした瞬間、アーロンははたと思い出した顔でノアに聞く。
「そういえば、ぼく、初めてノアに好きって言われた!」
「あれ?ぼく、初めて言ったの?ぼく、アーロンさまが好きって言ってた気がするのに……」
不思議そうな顔のノアは「あ!」と声を上げた。
「エルには言ってたからだ!だからぼく、アーロンさまにも言っていると思ってた。エルには、『アーロンさまが優しくしてくれてまもってくれて、好きになっちゃった』って、話してたんだ」
この瞬間、幼いアーロンはまだ見ぬエルランドをライバルとした。
自分よりも先に自分への好意を聞いた相手を、許せないと思ったのだ。
これがハミギャ国第二王子殿下であるアーロン、初めての『嫉妬』である。
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